脇役になりたくないTS転生者   作:有機栽培茶

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二アールも....フレイムテイルも...デナカタヨ.....


突破口

中を舞う鮮血。

続いて響くのは水音と、金属が地面にぶつかる音。

 

 

「アサルト!」

 

「伏せろ!顔出すな!」

 

 

クロスボウなどの一般的な遠距離武器ではあり得ない破裂音。

倒れ伏した仲間は痙攣を繰り返しながら額から真っ赤な液体を垂れ流している。すでに彼が生命活動を停止していることは明白だ。

 

暗闇から射出された高速の物体は防壁として配置していた傀儡の僅かな隙間を縫って寸分違わずスコープごとアサルトの頭部を撃ち抜いた。

 

これほどの精度と威力。

 

イージスの頭に浮かんだのはあり得ないの一言だった。

 

 

「....だめね。完全に脳天を撃ち抜かれてる」

 

「馬鹿が。敵の姿も確認せず身を晒すからだ。それよりも“目印”は見えたか?」

 

「ええ、黒くて見えにくかったけど...」

 

「オーケー。サンクタで確定だな」

 

「なんでウルサスに蛍光灯がいるのよ!?」

 

「知るか」

 

 

ウルサスは戦争国家。

カジミエーシュやリターニア、炎国など。

様々な周辺諸国に喧嘩をふっかけ戦争を起こし、土地を奪い去る。

そうやってこの国は大きくなってきたし、現皇帝になってからもそれは変わらない。

 

そんな帝国での、確かにサンクタは存在する。

彼らが軍属時代にもお世話になることがあった。

雇われたばかりのサンクタの傭兵が部隊長に抜擢されたこともあった。

使用することさえできれば一般的な遠距離兵器にはるかに上回る銃はそれほどまでに価値がある。

 

しかし種族としての理由からか、同じく戦場では頼もしい戦力として重宝され、ウルサスの大英雄ボジョカスティを代表とするサルカズに比べその数は驚くほど少ない。

 

こんな中規模の都市で出会うとは思わなかった。

 

 

「銃手のサンクタがいる以上この距離で撃ち合うのは不利だ。威力からして対物じゃない。だったら傀儡どもで防ぐことはできる。奴らがこいつらを避けてアサルトを撃ち抜いたのがその証拠だ」

 

「このまま突っ込むつもり?ジャスパーがいるかも知れないのに?」

 

「ああ。目視できた数はサンクタを含めて12。傀儡共と同じ12だ。あのジジイは確認できなかった」

 

「わかった。じゃあ私は突っ込むあんたの援護と傀儡の操作ってわけね」

 

「そういうわけだ。すまんな。旨いところだけ貰っちまって」

 

「全くよ。少しは残しときなさい」

 

「できたらな」

 

武器種までは確認できなかった。

しかし傀儡どもの強度は大砲でも持ってこなければ破壊できないほど。

さながら城壁だ。

アーツにしても、こいつらを破壊できるようなアーツ使いがあのジジイ以外にいてたまるか。

にしても......

 

 

「しかし、はぁ........俺らはハズレか」

 

「舐められてるのかしらね。サンクタがいれば、あんな雑兵共だけでなんとかなるって」

 

「かもな....少しむかつく」

 

 

ガチャリと音を立て、イージスは相棒の、全身を覆うほどの盾を手に、ホークアイはアーツユニットの埋め込まれた特殊な弓を片手に立ち上がる。

 

正規軍を抜け、まともな整備もできず崩壊の一途を辿るはずだった城壁が光を灯す。民を守るための盾は、愉悦を求め、全てを押し壊すための狂気に満ち溢れでる。

かつて遥か彼方からあらゆる敵を撃ち抜き、南西戦線を守り抜いた矛が再び矢をこめる。罪人の命を奪い去ってきた弓は、更なる血を求め、ドス黒いほどの欲望を渦巻かせる。

 

 

「さて、あっさり退場してしまったアサルトくんの弔い合戦といこうか」

 

「ええ、さっさと終わらせましょう」

 

 

 

 

 

 

10/24/05:02 クレアスノダール中枢艦橋下層部

 

 

「......大丈夫だ。周囲に敵影は確認できない」

 

「よし、行くぞ」

 

 

埃の積もった地下室から錆びついた梯子を使用し外に出る。

ハッチの僅かな隙間越しにみた限り、周囲に人影は見られず、防音性に優れているのか物音ひとつ聞こえない。

 

おそらく機材などの倉庫として使われていたのだろう。

金属質のロッカーと武器庫で見られたような多くの木箱が棚に積み上げられていた。

しかし武器になりそうなものはほとんど持ち出された後のようで、そこにあったのは職員の制服と思われる服や何に使うのかもわからないパイプなど。

 

 

「使えそうなものはねーな」

 

「.............エンペラー、これは....?」

 

「......................水風船だ」

 

「え、でも....」

 

「水風船だ」

 

「テ、テキサス?お前もなんでそんな圧をかけてくるんだ?」

 

 

おそらく職員の私物だろう。

一つのロッカーの中に置かれた財布からから彼女にとっては見たこともないゴムがはみ出てきたが、それ以外に何か目ぼしいものやおかしいものは見当たらなかった。

 

 

「テキサス時間は?」

 

「5時2分だ」

 

「うまくことが進んでりゃあいつらの方はもう終わってるころか。なら俺らもきちんとやることやらなきゃな。さ、早くあいつを殴りに行くぞ」

 

「....さっきから殴る殴る言ってるが兄さんの顔に傷を作るのはだめだ。兄さんも女性なんだ。あのかっこよくて綺麗な顔に傷を作るのは許されない」

 

「この期に及んでまだいうのか!マジでお前あいつのことになると饒舌になるのな!つーか兄で女性ってなんだよ!ツッコミどころが多すぎるだろ!」

 

 

どんな時でもエンペラーのテンションは変わらない。

それはエンターテイナーとしてのプライドか。

それとも、ただの痩せ我慢だろうか。

少なくとも普段のテンションではないのは確かだろう。

そしてそれは生き別れの兄を前にしたテキサスも、己の罪と、信じてきた先導者に対する疑惑を抱え始めた目の前の少女レティシアも。

 

 

「どうした?いつ敵が来るかもわからねえ。さっさと行くぞ?」

 

 

少女はうつむき、足を止めている。

何か思案するような、決意するような。

 

 

「レティシア?」

 

 

 

 

 

 

「......ごめん」

 

 

 

 

 

 

レティシアは手に持った信号用の火薬銃の引き金に指をかけた。

火薬の破裂音が響き渡る。

 

 

 

「おい、何か音がしなかったか?」

「銃声だ!侵入者だ!」

「急げ!先導者を守れ!」

 

 

 

「な!?お、お前何をしてんだ!?ふざけてる場合じゃないぞ!」

「レティシア!?なぜ、こんなこと.......」

 

 

 

鉄の扉が勢いよく蹴り破られると同時に、赤い腕章をつけた暴徒たち、CiRF構成員が流れ込んでくる。完全に包囲されていた。逃げ場はどこにもない。

 

 

「動くな!....って...レティシア!?生きていたの!?」

 

「エマ....それにセオドア.....無事だったんだ」

 

「それはこっちのセリフだ!死んだかと思っただろ!大丈夫だったのか!?怪我は!?いったい今まで何をしていたんだ!?それにアインは!?」

 

「うん.....俺は大丈夫。アインの話は....後でするから、先ずはあの二人を頼みたい。俺はアルベルト様に報告してくる」

 

「...........非感染者か?」

 

「うん....でも、アルベルト様の大切なお客様。丁重に扱ってほしい」

 

「.....わかった」

 

 

 

「お、おいレティシア!お前ふざけんな!」

「レティ......」

 

「動くな!下手な真似はするなよ!」

 

「やめろ!彼女たちを離せ!.......テキサス、エンペラーも今は、おとなしくしていてほしい。お前たちを傷つけたくない」

 

「お前っ!ぐっ......」

 

 

 

「なんで.......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぐに、終わらせるから」

 

 

 

 

 

その言葉を最後に、彼女は暴徒たちの中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

[異常感染者の行動を確認。向かってくる]

 

[総員防御陣形。スナイパーはβを合図と共に狙い撃て。ナーデルは準備開始]

 

[了解]

 

[了解8秒稼いでくれ]

 

 

今まで棒立ちしていた異形、異常感染者たちが行動を開始した。

クロスボウ持ちの男はすでに処理済み。

残りは2名。

異常感染者の後方には盾持ちの男が一人。

そしてさらに後方の長机を利用した防壁に隠れている弓持ちの女が一人。

 

 

「こそこそするな!」

 

 

盾持ちからのアーツを一人がなんの用途に使われていたのか、隅に置かれていた丸机を投げつけることにより無効化。

しかしその進行は止まらない。

アレらの攻撃は常人が耐えられるようなものではない。

D32鋼にも勝るも劣らない硬度を誇る爪から放たれる斬撃は、重装兵さえも紙切れのように切り刻む。

そして決して遅くない速度で迫る源石の異形に、しかし兵士たちは怯むことなく盾を構えた。

 

 

[接触まで3、2───

 

 

[準備完了]

 

 

その剛腕が届くか否か。

そんな瀬戸際でカチンという金属音と共に声が聞こえた。

 

 

[ナーデル──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

貫け

 

 

 

 

 

 

「な!?」

 

 

轟音と共にこだまする破壊音。

そして宙を舞う無数の黒い結晶のかけら。

捕鯨砲に酷似する小型の攻城兵器から射出された銛はその破壊力を持って城壁(異形)を貫き、そこに一つの大穴を生じさせた。

 

 

「そんな!?傀儡が破壊された!?」

「慌てるなホークアイ!2体は持ってかれたがまだ10体残っている!ただの雑兵がこいつらをどうこうできるわけがない!押し潰せ!!!」

 

 

一瞬異常感染者たちの動きが止まる。

しかしすぐに再び彼らを殲滅せんと黒い城壁は足をすすめ始める。

さすがは元軍人と言ったところだろう。

逃亡兵といえども流石の判断力だ。

確かに彼らにとって傀儡がジャスパー・ランフォードのアーツ以外によって破壊されるというのは予想外で驚くべき出来事だったのだろう。

 

だが、それまでだ。

 

1、2体を攻城兵器によって破壊されたところで残りは10体。

再装填に時間がかかる攻城兵器で対処できる距離でも数でもない。

彼らはこのまま異形たちに飲まれて死ぬのだ。

最後の悪あがきのつもりだったのだろうか。

哀れなものだ。

 

そこまで考えたイージスは表情を焦りから余裕へ変えた。

 

 

 

しかし、それは間違いだった。

 

十分だったのだ。

 

彼らには。

この僅かな隙だけで、戦況を一転させることができるという確信があったのだ。

 

 

 

[スナイパー]

 

[了解]

 

 

 

「もう何をやっても無駄なんだよ!!」

 

 

アーツは使用者の意識が途切れるか、その命自体が失われることで効果を失うものがほとんどだ。

その理由は単純。

アーツを維持するエネルギーの大元と、それを支持する司令塔がなくなるからだ。

 

では、アルベルトから操作権を特殊なアーツユニットによって託されているこの傀儡たちはどうだろう。

司令塔。

つまりそのアーツユニットを使用する術者を失ったら、アレらはいったいどうなるのだろう。

 

 

「さあ!殺せええええ!!!!」

 

 

答えは簡単だ。

 

 

 

 

 

「.......なぜ....なぜ動かない!?」

 

 

術者を殺された。

その時点で本当の、ただの傀儡へと戻る。

 

 

「ホークアイ!返事をしろ!ホークアイ」

 

 

[ターゲット。残り一名]

 

 

返事はない。

あとはもう、彼一人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ...........あー、くそ。これで、ゲームオーバーか......つまんねー....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に銃声が一発。

 

 

 

[04:56、任務完了]

 

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