脇役になりたくないTS転生者   作:有機栽培茶

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生存報告。
ただいま過去話を修正中。
駄文が少しでも良くなればいいなって


家族

俺は怖かった。

いや、正しくは怖くてたまらない。

あの日常を、あの幸せを。

何よりあの笑顔を否定されるのが怖くてたまらない。

 

『よく、頑張りましたね』

 

あの優しさを

 

『すごいですよレティシア』

 

あの温もりを

 

『もう、大丈夫。貴方は幸せになっても良いのです』

 

その全てを否定されることが怖くて恐ろしくてたまらないのだ。

 

この震えはウルサスの寒さからではない。

俺は知っている。一度得た物を失う恐ろしさを。

曲がりなりにも信じていた母親に売られ、全てを失ったあの寒い夜に。

俺は知っていた。信じるということの愚かさを。知っていたはずだった。

 

『姉さん.....これ....あげる』

 

『よう嬢ちゃん!今日も元気だなー!!』

 

『また無茶して....女の子なんだからもっと自分お体を大切にしなさい?』

 

『ふん...懲りもせずまたきたのか』

 

なのに、いつのまにかとったはずの距離は詰められ、固く鍵を閉めたはずの心は解かれていた。

これではいけないと気づいた時にはもう、俺にとって手放すには大きすぎる存在となっていた。

アルベルト様を中心に形作られた“家族”というものは俺にとって居心地の良すぎるものとなっていた。

 

失うのが怖い。

 

あの暖かい思い出を否定されることが何よりも恐ろしい。

 

 

「大丈夫だよレティシア。きっとアルベルトも、貴方の無事を喜ぶことはあっても責めるようなことはしないわよ。もしそうなったら私が殴ってやるんだから!」

 

「....ありがとう」

 

 

そう口にするエマの目元には確かな隈が浮かんでいた。

 

非感染者。

それは俺たちの確固たる敵で、排斥すべき罪人だ。

それを殺すのは、これまで奴らに苦しめられてきた我々に与えられた当然の権利なのだ。

 

だが、正当性と、人の倫理観は全くの別物だ。

それが正しいこと、正当な行いなのだと理解していても、心の奥底ではそれを拒絶してしまう。

 

 

理解してしまったんだ。

いや、気づかないふりをしていただけで初めからわかっていたのかもしれない。

 

感染者と非感染者。

そこに大きな違いなど存在しなかったことに。

鉱石病という不治の病を持っているか否か。それ以外は全て全く同じ”人間“だってことに。同じように笑い、愛し、涙し、悲しむことに。

 

 

当然だ。

どんな理由があろうとも、人を殺してもいい理由にはならない。

そんなことに、今更気づくなんて、遅すぎる。

 

 

ねえ、アルベルト様。

貴方は何がしたかったの?

本当に、俺たちに....私たちに自由と幸せを与えようとしてくれたの?

間違いの先に、本当にそれはあるの?

......貴方の微笑みは、“真実”だったの?

 

答えてほしい。

“はい”と、肯定してほしい。

 

 

 

木製の扉は、ひどく重かった。

 

 

 

 

 

 

彼女はそこにいた。

 

俺に背を向けて、艦橋の大窓から燃え盛る街を眺めていた。

 

声が出ない。

 

足が動かない。

 

いつもなら遠慮なく“ただいま”といい、飛びついていたはずなのに。

 

怖いんだ。

 

怖くて仕方がないんだ。

 

声を出した瞬間、全てを失ってしまう気がして。

 

 

 

「っ!」

 

 

息を吸う。

震える手首を抑え、声を出そうとした時、足が何かにぶつかってしまう。

 

気づかれた。

 

椅子が回る。

 

ゆっくりと、彼女の瞳が私を捉える。

 

 

「あ.......ぁ......」

 

 

声が出ない。

聞くんだ。

“なぜ?”

その一言が喉につっかえたように出てこない。

 

そんな私を置いて、彼女の口は開く。

 

そこから紡ぎ出される言葉が怖くて、怖くて

 

 

 

「おかえり」

 

 

 

...少しの安心感を覚えてしまう。

 

 

「....ただいま」

 

「ええ、ええ。本当に無事で良かった。死んでしまったのかと思ったんですよ?」

 

「....うん」

 

「...アインのことは残念でした。ですが、貴方だけでも生き残ってくれたことが、私は嬉しい」

 

「.....うん」

 

「よく、よく戻ってきてくれましたね」

 

「....」

 

 

....ねえ、アルベルト。

その言葉は本物なの?

その表情は本物なの?

.....その涙は、本物なの?

 

私には、もうわからないよ。

 

 

「ねえ、アルベルト様」

 

「はい?」

 

 

お願いだ。

 

 

()()は......」

 

 

どうか

 

 

「貴方がやったの?」

 

 

否定してほしい。

 

 

「............ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがですねレティシア。大正解です」

 

 

 

 

 

 

何かが崩れ落ちる音がした。

 

 

 

「まさかバレてしまうとは。100点満点を差し上げましょう」

 

「ねえ....」

 

「これで二人目ですよ。しかもまさかあそこから生き延びて、さらにその原因を突き止めてしまうなんて。驚きましたよ」

 

「ねえ!」

 

 

「...なんで?なんでこんなことをしたの?みんな死んだ。アインも、仲間達も、みんな源石になっちゃった。なんで.....こんなことができるの?仲間に、家族に、なんで....」

 

 

信じられない。

違う。理解できない。

この人の心が。考えが。

なんでこの状況で笑っていられるのかさえ。

 

 

「なんで....ですか......確かに。私も考えたことがあるのです。“楽しいから”。確かにそれも理由の一つなのでしょう。ただ、それは理由の一つであって、全てではないのでしょう。だって、それだけではこんなにも容易く人を殺せるはずがない」

 

 

「...貴方は、この世界が“物語”のように感じたことはありますか?私は生まれ落ちた時からそうだった。全てがモノクロに見え、物事全てが現実味を帯びず、どこか画面越しに見ているようで、他人事のようにも感じられた。そこにあったのは空虚な私のみ。何をしても満たされず、何をしても満足できなかった。ただただ命令に従うだけの人形が、そこにはあった」

 

 

「ですが、いつだったのでしょう。父に鞭を打たれた時か、友を撃ち殺した時だったか、初恋の人を絞め殺した時か。しかし、はっきりとソレを満たす方法を、まさに天啓を得たのです」

 

 

「それは壊すこと。私を閉じ込める全てを壊し尽くすこと」

 

 

「初めは家族でした。次に部下。そして親友。私と深い関係を持つものを壊していくにつれて、次第に空っぽな私を満たし、痛みを、現実味(リアリティ)を与えてくれた。生きているという実感を与えてくれた。私は人形などではない。人間なのだと」

 

 

「枷を全て破壊した私は理解した。他人の幸せを壊すこと....つまり“死”や“絶望”は私の空いた穴を満たしてくれるものだと。私に“喜”や“楽”と言った感情を与えてくれるのだと。私に“命”を与えてくれるのだと....」

 

 

「一度灯された種火は燃え盛り、止まらない。止められない。この手はとうに血に染まりきっているというのに。常人では耐えきれないほどの罪がこの背にはのしかかっているというのに。私は止められなかったのです」

 

 

悲しそうに...しかし嬉しそうに笑う彼女は狂っていた。

正反対の感情が混ざり合ったような表情で独白を続ける。

 

 

「ああ、楽しいなあ....あは、あはははは..............レティシア、人が人を殺すために一番必要とするものはなんだと思いますか?怒り?それとも憎しみですか?いやいや、違います。そんな一個人の感情だけで殺しが行えてしまえば、平和なんて存在しない」

 

「.............」

 

「人殺しに一番必要なもの。それは“理由”です。殺しても良いという理由。殺されて当然だという理由。他人を、自分自身を納得させるだけの理由。それさえ有れば、殺しという悪行は一変。正義という名の大義名分となるのです」

 

「..........」

 

「.....ぷっ......あはははははははは!!!実に、実に簡単でした!面白いくらいに貴方達は怒りを爆発させ、ひとときの平穏さえも捨て去った!あの“掃除”も全て!何もかも私が仕組んだことだと知らずに!貴方達は随分と上手に踊ってくれましたよ!!」

 

「........」

 

「本当に.......素晴らしい演劇でした」

 

 

ああ...........殺そう。

 

そう、何もかも嘘だったんだ。

あの温もりも優しさも笑顔も何もかも。

 

さあ、引き金を引け。

 

しっかりと狙いを定めて、殺してやる。

 

この極悪人は、私が殺さないといけないんだ。

アインの仇だ。みんなの仇だ。

 

こいつだけは、この命と引き換えにしても、殺さないといけない。

 

 

.......私が!

 

 

この、手で!

 

 

 

「おや、アイン君のクロスボウですか。それで敵討ちを?」

 

「ふー....ふー.....!!」

 

「随分と粋なことをしてくれるじゃないですか」

 

 

引き金を引け。

邪悪を、この手で打つんだ。

さあ、『早く』

 

『姉さん』

 

『早く』

 

殺すんだ。

 

 

「......いいですよ。予定よりも少しばかり早い幕引きですが、それもまた良いでしょう。貴方なら、それもいい」

 

 

「さあ」

 

 

「『引き金を』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

..............できないよ

 

無理なんだ。

 

私には.....貴方を殺すなんてできない。

 

 

『....僕を、みんなを殺した元凶なのに?』

 

 

それでも.....やっぱり、できない。

 

だって......

 

 

 

「貴方も...私にとっては大切な“家族”...だったから......!」

 

 

 

手からクロスボウがことりと滑り落ちるとともにアインの声は聞こえなくなった。

もう、指の感覚がない。

下半身は熱すら感じない。

黒い結晶が、全てを飲み込んでゆく。

 

ごめん...ごめんね...こんな姉ちゃんで....

 

 

 

「ごめ.......ん................」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......家族.....ですか」

 

 

.....家族って....なんなんでしょうね

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