でも今回にテキサスはでない。
何故だ!!!
クレアスノダールエルド区地上都市部住宅街
「ゲホッ....ゴホッ...」
視界は薄れ、足取りはおぼつかない。
血を流しすぎたようで意識も保つのがやっとの状態だ。
左半身の感覚がしないのはなぜだ?
もしかしたらもうなくなっているのかもしれない。
それか、源石に飲まれているのか。
どちらにせよ、ろくなことにはなってないだろう。
「くそ.......血で濡れてやがる.....」
折角震える右手で掴んだにも関わらず。葉巻は自身の血がべっとりと染み付き使えるような状態じゃ無かった。
ライターもまた、誰のかもわからない血の海に沈んでとても使えそうな様子じゃない。
まあ、口に何も咥えないよりはマシだろう。
「...........スティーヴ、ローレン、フェイ......誰か、いるか?」
返事はない。
聞こえる物音ひとつない。
見渡す限り死体のみ。
動くものは1人もいなかった。
当然といえば当然か。
みんなもう死んじまったんだから。
「ゴホッ....」
結局生き残りは俺だけか。
...いや、違うな。死に損ないは俺だけだ。
みんな、逝っちまった。
やれることはやった。
だけど、軍人も、民間人も、大人も子供も、男も女も....感染者も非感染者も。
みーんな一人残らず天国行きだ。
俺は地獄行きかもしれんがな。
「はっはっはっはゴホッ.....」
結局、守れなかった。
俺は自分の仕事を果たせなかった。
自分の使命を果たせなかった。
奴らは痛みを感じず、本体が無事な限り動き続けた。
そんな化け物ども、たとえアーツが使えたとしても敵うはずがなかった。
倒しても倒しても次々と新しい化け物が押し寄せてきて、命を削りながら放ったアーツにも結局限界がきて、最後にはバリケードを破壊されてこの様だ。
入ってきた奴は全員壊したが、本来の使命である民間人の保護は失敗。
.....いや、これは言い訳か。
結局、俺に力がなかったから。
俺が敵に同情心なんてものを抱いてしまったから。
みーんな皆殺しにされた。
腕を引きちぎられ、背骨を真っ二つに折られ、頭を果実のように潰された。
子供は踏み潰され、女は叩き潰され、俺の目の前で生きたまま食われた奴もいた。
ひでーよ。
この言葉は感染者へのものじゃない。
奴等も、もがき苦しみ、挙句の果てには化け物として利用された。
被害者ではないが十分可哀想な奴らだ。
だからこれは彼らを利用したアイツ。
そしてこの蛮行を許してしまった己の力不足への言葉だ。
....やれることはやった、といったな。
ありゃ嘘だ。
もうちょっと、俺ならできたんじゃないか。
英雄の名をもらった俺なら。
それか、俺と同じように英雄と呼ばれたアイツならあの大きな盾で全てを守り通せたのではないか。
そもそも、あの時俺があいつの異常さについて理解していれば...
「ギ...ギ....ネエ....サ.......イマ.......タス.....ケ.....」
「は、はは......てめーが俺の、最期か」
なあエンペラー。てめーらは今どこにいるんだ?
道半ばで化け物どもに殺されたか?
まだ希望を信じて走り続けている最中か?
それとも、もうアイツに拳を叩き込んじまってるのか?
....すまねえがこっちは無理そうだ。
せめてお前らだけでも生き残れることを願ってるぜ。
「ギ.......ギ......」
ああ......そうだな....妻と子供にさよならも言ってなかった....
今度一緒に飯食いに行くっつったあいつに謝らねえと....
ロバン青年とこの嬢ちゃんに訓練つけてやるっつー約束も果たせないままか.....
ははは.....もっとあんだろ....
軍人なら、英雄なら、最後まで諦めず、争い続けるべきだろ。
......なあボジョカスティ...やっぱ英雄の看板は、俺には重すぎるわ。
「レ......ティ...........」
拳が振り上げられる。
黒く重く殺意の込められた拳が。
は.....は は は は は!
「来いよ」
◆
“解離性同一障害”
またの名を多重人格。
一人の人間の中に全く別の性別、性格、記憶などを持つ別の人格が現れる精神疾患。
自身が“一つの自分”として形作られている感覚、つまり自己同一性が弱くなる。あるいは完全に消失してしまう解離性障害の一つです。
そして、“転生者”として再び
私がこの世界ではっきりと前世を自覚したのは今から数年前のカジミエーシュ辺境地区侵攻戦の時でした。
それまでの間、私の中に“別の私”が形作られていても不思議ではないでしょう。
しかし、似たような環境で、同じように自由を奪われ育ったにも関わらず、“私”が私を自覚する前の私........“
家族を守りたい。
何も失いたくない。
何も壊したくない。
もう一人の私は、あの鳥籠の中で生涯を終えることを許容していたのです。
全く理解ができない。
なぜ、不自由に身を委ねるのか。
なぜ、外の世界に憧れを持たないのか。
なぜ、快楽を求めようとしないのか。
なぜ、なぜ、なぜ....
考えてもわかりません。
私は私であって、以前の私ではないのですから。
以前の私はすでに
しかし、なぜでしょう。
既にその意識はなくとも、彼女という存在は完全に消えたわけではなく、その感情や趣味嗜好が私に多少なりとも影響を与えているようで、時折前世のピュアッピュアな私には絶対にありえ無かったであろう感情や、行動をしてしまっている。
あの時、クラウンスレイヤーを殺さず見逃したのも、今、レティシアを傀儡とせず、源石に覆われながらも、人としての形を保ったまま死なせたのも........
そしてこの心の底から溢れ出るような謎の感情も。
なんでしょうこれは。
悲しみ....でしょうか?罪悪感、でしょうか。
かつて同僚の家庭を崩壊させた時も感じなかった.....
以前の私ではあり得なかった感情です。
そしてそんな感情が私に“死”を選ばせようとしている。
今この瞬間も、手に持った源石剣で喉元を切り裂きたくて仕方がない。
もちろん、“私”はそんなこと一欠片も思っていません。
どうせ死ぬなら映画やアニメの悪役のような、素晴らしいフィナーレを迎えたいものです。
さてさて、これは困った。
私自身、ここでの“お遊び”は十分楽しんだつもりです。
この後は私が予定していたフィナーレを迎えて無事バッドエンドか、はたまた“主役”が私を打ち破ることでハッピーエンドを迎えるのか。
ですが、ここで生じる問題が先ほど述べたもの。
バッドエンドを迎えて私が生き残ってしまったのなら。
テキサスが私を殺せなかったのなら......
私という物語に続きが生まれてしまう。
道半ばで“自殺”という最低最悪のバットエンドを迎えてしまう可能性が浮上してしまう。
そこで、私は考えたのです。
なぜ
それは“家族”の存在ではないでしょうか。
テキサス.....妹の存在。
彼女と共に行動していた時、確かな感情の変化を感じとりました。
妹が、そんなに大切なのでしょうか。
私にとって“家族”はただの枷でしかなかったというのに。
だとしたら、私が同じような境遇に身を置きながら私にならなかった理由はそこにあるのでしょう。
でしたら壊してしまいましょう。
元々、彼女らが私を打ち倒すことができなかったのなら躊躇なくその命を奪うつもりでしたが.....改めて誓いましょう。
私は彼女を殺すと。
そうすれば、私は私として完成できる。
この止むことのない乾きも、多少は満たせることでしょう。
あ は は は は は は は!
....楽しみです。
実に楽しみだ....
早く、早く私の元へ来てください。
さあ
「テキサスさん」
早く
私を殺してください