準備はいいですか?
私はできてません。
「逃げろ!早くしろ!」
「くそ!どけ!さっさと進め!!」
クレアスノダール艦橋。
本来なら移動都市の稼働のため働く職員達が移動するその通路は、今や暴徒達に溢れかえり、満員電車もかくやというほど詰まりにつまっていた。
本来ここにはこれほど混雑するような人数は侵入していなかった。
いくら暴徒といえども、このような狭い通路に大人数で詰め込むなんて馬鹿な真似はしない。
防衛に必要な人数だけ配置されていたはずだった。
しかし、現にこうなってしまっている。
それ即ち何かしらの異常が起こっているということだった。
「......ケホッ」
埃いっぱいのダクトから見おろす廊下は、多くの暴徒達が鮨詰め状態となり、パニックに陥っていた。
これほどの人数がここに集まっているのはおそらく、建物外の暴徒達も艦橋へ侵入してきたからであり、そして何より、この場所に追い詰められているからである。
「嫌だ嫌だ嫌だ!」
「助けて!誰か!死にたくない!!」
次第に奥から聞こえてくる悲鳴はその音量を増してくる。
次々と声が上がり、そして消えてゆく。
「あれは......」
廊下の奥にかすかに見える黒い巨体。
「ガアァァァァァァァァァァ!!」
あの化け物だった。
「アイツやりやがったな...」
不思議と艦橋から一定の距離を保って防衛線を構築していた源石の化け物ども。奴らは一定のラインを超えてからは追いかけてこなかった。
今思えば、その時点でアレらは奴の制御下に置かれていたのだろう。
もしかしたらたった10人とそこらの少人数で突破できたのも、俺たち自身の実力や、偶然だけではなかったのかもしれない。
それが、今やそのラインを超えて人々を襲い食らっている。
人々が集まっていた廊下は、瞬時に赤く染まってゆく。
赤く、赤く、赤く.....
もう、悲鳴は聞こえなかった。
(.....これもテメェのお望み通りってか?お前は何がしたいんだ?.....まさかと思うが、“面白くするため”......それだけのためにこんな悲劇を起こしやがったのか?だとしたら、テメェは救いようのないクズだぜアルベルト...)
彼らは下の廊下を見ないようにしながら、ダクトを進む。
レティシアが実の家族のように言葉を交えていた男のそして女の虚な瞳を、覗かないようにしながら。
◆
時刻は5時56分。
未だ空は闇に飲まれ、太陽はその姿を隠したまま現れない。
しかし、確実に、終幕はすぐそばにまで迫っているのです。
この地獄の終わりが
この楽園の終わりが
この演劇の終わりが
そして
私自身の終わりが。
「やあ、また会いましたね。テキサス.....私の愛しい妹よ」
「......兄さん」
血や埃、傷をおいながらも、私の妹はそこに立っていました。
「おいおい...俺を忘れるなよ」
「ふふふ....ここは兄妹の感動の再会ですよ?空気を読んでいただきたいものです」
「はっ....わーったよ」
その美しい金色の瞳で私を見つめる彼女が愛おしくて.....そして狂わしいほどに壊したい。
ああ...やはり、貴方を壊すことで、私は真の意味で解放されるのですね。
家族という鎖から....あの狭く息苦しい鳥籠から
「....兄さん.....やっぱり、覚えていたんだな。私のこと」
「ええ、ええ。私が大切な妹のことを忘れるはずがないじゃありませんか」
「....知らないって....いった....」
「...ああ.....言いましたね。あの時の私はあまりにも不安定でした。貴方という存在を、“家族”として認めたくなかったのです.....ああ、あまりにも愚かな....いくら言い訳を考えようと、貴方が家族であることには変わりがないというのに.....」
「...........」
そんなに、悲観そうな顔をしないでいただきたい。
貴方達にとって、家族というのが“幸せ”だということは知っています。
ですが、私にとってそれは苦痛以外の何物でもない。
つまりこれは私から貴方への紛れもない愛情だというのに。
「....レティは....?」
「レティ....ああ、レティシアのことですか。アレなら、ほら。そこに」
「............あ、ああ」
「...ほぉ?まさかと思いますが、何か彼女に思い入れが?感染者の彼女に?」
「......」
「意外ですねぇ。彼女の非感染者への憎悪は相当なものだったはずですが....さすが私の妹ですね」
「兄さんは....」
......わかっていますよ。
『どうしてそんな事をしたのか』
『どうしてそんなことができたのか』
あなたが聞きたいのはそんなところでしょう?
わかっているのですよ。
あなた達が私という人間を理解していないことくらい。
私という人間が到底理解されるような存在でないことくらい。
分かりきったことなんです────
「優しいな」
............は?
「兄さんが、何に迷って苦しんでいるのかは私にはわからない。でも、兄さんの本質は、昔のあの頃のままだって、私は知っている」
「は、はは。なにを....」
「兄さんは、レティシアをこれ以上苦しめないために、ここで死なせてあげたんだ」
「いや、いやいやいや......冗談はよしてください」
「冗談じゃない。レティから聞いた。兄さんは多くの感染者たちを救ったって」
「違います。それは利用するためで」
「それだけならなぜ死にかけの老人や子供を助けたんだ?」
...........
「なぜ、彼女たちを助けたんだ?」
「.........それは彼女たちのアーツが強力でしたので」
「違うな。彼女はあの時アーツも使えないと言っていた。兄さんに教えてもらって初めて使えたって」
..........
「....兄さんは....こんなことしたく無かったんじゃないか?本当は彼女たちのことを大切に思っていたんじゃないのか?」
...........は、
「兄さんがやったことは許されることじゃない。でも、今からでも遅くない。私と一緒に─────
は は は は は は ! !
実に愚かしい!
実に馬鹿らしい!
実に、
実に実に実に───────
「不愉快だ」
誰が、いつ、どこでそんなバカな事を言った?
私が家族を愛していたと?
私があの平穏を愛していたと?
私があんなものに幸せを感じていたと?
私が、私が、私が────
いつ、誰がそんな事を言った?
人の感情を憶測だけで決めつけないでもらいたいものだ。
「に、兄さん....!」
「これ以上の話し合いは無駄だ」
「てめっ!何を........っ!?」
「見ての通り、起爆スイッチですよ。この都市中枢に設置された爆薬を起爆しました。その破壊は中枢から各区画に伸びる可燃性のガスに連鎖し、次期にこの都市は崩壊が始まるでしょう....もちろん。制御区画に向かったあなたのお仲間さんも無事ではないでしょうね」
「お前....!」
「貴方方はおそらく、この都市が先の移動都市ノヴゴルドに特攻を仕掛けると予想したのでしょうが......大外れ。目的地はここ....すでにたどり着いているのですよ」
「一体何が.......あれは!?」
彼らが見たであろうエルド区の地図には載っていない物が一つあります。
それは“天災”の発生予想地域。
リアルタイムで変動し、そもそも移動予定ルート外の地域の情報など、彼らが知っているはずもなかったのです。
だから、そう....彼は窓の外の光景を目にしたのでしょう。
天から数々の岩石が降り注ぐ地獄のような光景を。
「天災ですよ。そう、もはや逃げ場なんてない。全員、誰一人生き残ることはできないのです!」
「自分まで死ぬつもりか...!!」
くくく......あははははははは!!!!
「さあ、さあさあさあ!!!始めましょう!最後の戦いを!この物語の終幕を!!!」
夜明けはすぐそこに。
┌──┐
│ AL │ Alberto
└──┘
攻撃方法 近接・遠距離
アルベルト、CiRF統率者、またの名を先導者フェイスレス。
悦楽を求め更なる破壊を生み出す性格破綻者。
彼の者の行動にいかなる理由があろうとも、情けをかける余地はない。
耐久 攻撃力 防御力 術耐性
S A+ C+ B