炎国の移動都市、龍門。
比較的背の低く、傾斜のついた屋根を持つウルサスの都市とは全く違う、天高く立ち並ぶ摩天楼が年の光によって自ら光り輝くその街並みはまさに大都会と言えるものだ。
太陽が沈み、闇と静寂が支配するべき時間帯であろうとこの都市の住民たちは踊り、騒ぎ、笑い続ける。
前世の都心部を思い出させるような光景だった。
それは懐かしくもあり、唾棄すべき忌々しい過去を思い出させるものであり、そして...私の心身にトドメを刺すものである。
「よぉにーちゃん!よってくかい?可愛い子いるぞー!?」
「そこの可愛いおねーちゃん!いっぱいイケメンいるよ!選び放題だよ!」
「二軒目行くぞぉぉ!!二次会だぁぁぁぁぁ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおオロロロロロロロロ」
「うわきったねこいつはきやがった!!」
......道を間違えたのかもしれない。
私が目指していたのは近衛局だ。
こんな歌舞伎町のような歓楽街ではない。
さっさと書類を出してホテルを探さなければならない。
....少し、ほんのすこーしキャバクラが気になるが.....
いや仕方ないだろう?体は女だろうと思考までは変わらない。
TS小説のように心が体に引っ張られるなんてことはなかったのだ。
故に私の性的対象は変わらず女性のままだ。
.....この世界での初めては男だったが.....
今思い出しても鳥肌が立つ。
生き残るためだったとはいえ........いや、この話はやめよう。
とりあえず、まずはこの資料を近衛局に届けにいかなければならない。
内容は私の今回の活動記録と数時間前の事件についての書類と建築物の損害への謝意と賠償のための書類と賠償のための書類と.........なんでこの書類だけこんな多いんですか?
日付的にも私がいなかった間のものが一、二、三、四、五............ふざけているのだろうか。
このままだと絶対怒られる。
書類には提出期限というものがあるんだ社長。
あそこの隊長さんが怖いからって私に全投しないでほしい。
私だって怖いのだ。毎回毎回、私何もしてないのに睨まれるし。
いや、私という危険人物を警戒してのことだということはわかるのだが、怖いものは怖い。
「はぁ.....非常に憂鬱だ」
深いため息を一つ。
その時、ある気配に気づいた。
それは人々が行き交う歓楽街でまっすぐ、私に向けて足をすすめていた。
「む?アルマ?こんなところでどうしたんだ?」
「なっ!?お前は!?」
その長身で腰あたりまで伸ばされた緑色の髪を持つ鬼族の女性は、私が今最も会いたくなく、会わねばならない人物の1人だった。
彼女の名はホシグマ。
龍門近衛局特別任務隊の1人だ。
私も過去に何度か顔を合わせたことがある。
いや、何度かどころではないな。
なにせ私がこの龍門に身を置くようになり、見張りと共に行動することを強制されていた時期、その見張りが彼女であったのだから。
....あの頃は何度も酒に付き合わされたものだ。
おそらく私の本心を聞き出すため....だったのだと思いたいが.....あれは地獄だった。毎朝洗面所に向かって胃の中身を吐き出すことが日々のルーティーンになることはもうゴメンだ。
そんなこんなでこの女性、私がこの龍門で会いたくないランキング上位に食い込む人物の1人でもある。光栄だろ?
「お前も飲みにきたのか?」
「い、いや。私は書類を....」
「そうかそうか!よし!私が案内しよう!いい店を知っている!」
「え?ちょっと?え?」
いや、あの私これからあなたたちの職場にいかなければならないのですが。
え?なに?酔っていて聞こえない?
あ.................そうっすか..........はい.....................
夜は.......まだ明けない................
◆
こんばんは。
私アルベルト。
いま酒屋にいるの。
助けてください。
誰か。
誰でもいい。
リスタ、アイン、レティシア、リュドミラ...
これが私への罰だというのか?
これは、あまりにも酷すぎるのではないか?
ああ、誰か私を、この地獄から救い出してくれ......
「わりゃしはおまえをみとめにゃい!!」
「あ....はい」
コップに並々と注がれつづける酒は、溢れ出し机からこぼれ落ちたそれが私のズボンを汚そうと止まらない。
「きいてるのかきさみゃ!!」
「あ....はい」
「なりゃいい!!」
美少女と言っても過言ではない顔は、酒気に包まれ赤く染まり、酒臭い息を至近距離で吐き出し続ける。
まるで台無しである。
ああ....なぜ、私はこんなところにいるのだろう。
彼女の名前はチェン。
龍門の上級警司であり、龍門近衛局の特別督察隊隊長。
つまり目の前で楽しげにこの光景を酒のつまみにしている鬼の上官であり、私の最も会いたくない人物第一位に見事君臨するお方である。
何故あなたがここに.....?
いるのならそう言ってくれてもいいじゃないか。
そうすれば覚悟くらいできた。
そう言った気持ちを込めてホシグマを睨みつける。
「くくく、悪いな。うちの隊長が」
「悪いと思っているなら即座に私を解放していただきたい」
「ははは!それは難しいな!」
難しくないでしょうあなたの腕力なら、というツッコミは酒臭い吐息によって発することができなかった。
まずい、そろそろ限界だ。
あまり私の酒への弱さを舐めるなよ?
ああ、もうホシグマが2人に分身している。
「み、水をください」
「ほら」
「ありがとうございます。う....ぅ..............ぐびっ...............酒だこれ」
「はっはっはっはっは!!」
「笑い事じゃ───」
「こっちをむけぇ!」
「うっ........」
ああ、チェンが1、2、3.....いつの間に影分身なんか習得したんだこの隊長さんは。ついに声まで二重に聞こえてきたぞ。
「わらしはなぁ!おまえをみとめにゃい!りゃが!おまえのこうせきはじじつりゃ!」
「は....はい....」
「わりぇわりぇがてをやいていたまふぃあのかいめつ!」
「ええ....」
「ひみつりにしんにゅうしてきたてろそしきのかいめつ!」
「はい....」
「ひろまるすんぜんだったまやくのとりしまり!」
「ええ....」
「すべて!すべてきさまのこうせきりゃ!みとめたくはないがにゃ!」
「はい....」
あ、不味い。川の向こうでアイン達が手を振ってる。
お前も早くこっちこいヨォ、って手招きしてる。
「そう、わりぇわりぇはきさまにかりをつくってしまった!」
「は....い......」
「だが、わりゃしはきさまのようなあくにかりをつくりたくにゃいんだ」
「わか...りますよー.....」
う、視界が歪む。
おお、チェン、貴様多重影分身を獲得したのか....
「よって!かりはいまここでかえす!」
「........................スヤァ.........」
「さあわらしのからだをすきにすりゅがいい!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」
「隊長、アルマは女性ですよ?というかもう寝てますし」
「なに!?きしゃま!ねるな!わたしがしゃべってるだろ!おきろ!きさま................あ、あったかい........」
壁に体を預け、寝てしまったアルマにしがみつくように揺すっていたからか、眠気が連鎖反応を起こし、彼女まで睡魔に飲まれることとなった。
ホシグマという酒豪を残し、場は静寂に包まれた。
「おや、寝てしまったか..........そうだな、ふふ...いいことを思いついた」
翌日、彼女達は同じ布団で目を覚まし、アルマがチェンの見事なビンタを食らって1メートルほど吹き飛ぶことになるのだが、それはまた別の話。
チェン姉貴の太もも.....いいよね。
ホシグマさんは我がロドス最初期からの鉄壁。
....絶対この人達のキャラ違うよ...絶賛キャラ崩壊中だよ....