脇役になりたくないTS転生者   作:有機栽培茶

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シリアスがアップを始めました。


IF:レユニオン
過ちは繰り返される


 

乾いた空気に身を襲う寒気。

荒野は真っ白な絨毯に埋もれ、永遠と続く銀世界が広がっている。

 

なんともまあ、懐かしい景色だ。

 

 

「はぁ....」

 

 

ウルサス帝国が誇る大型移動都市チェルノボーグ。

私はそこに、仕事できていた。

 

...チェルノボーグ。

同じ移動都市であるクレアスノダールの倍に及ぶ鉄の都市は、今日も多くの人々が行き交っていた。

大声で客を呼び込む商人に、楽しそうに街を歩くカップル。

おもちゃ片手に走り回る子供に、それを追いかける親。

ありふれた...しかしそう簡単に手に入らない光景だ。

 

そこには感染者はいない。

源石に飲まれ、人の形を止めなくなった残骸も無い。

 

だが、それは感染者が差別されない...もしくは感染者が生まれることがない素晴らしい街、というわけではない。

 

なぜこの都市には感染者が見当たらないのか。

想像がつくだろうか。

 

 

......ああ、その通り。

ゴミはゴミ箱へ。

この都市から、感染者という名の可燃ゴミは既に処理済みだった。たったそれだけの簡単な話だ。

 

 

....アレから、私があの事変を起こしてからウルサスにおける感染者への対応はより強力に、より残酷なものへと変わった。

クレアスノダール事変は表向きには事故として処分されているため、アレが起こらなくとも感染者への差別はひどくなっていたかもしれない。

だが、少なからず影響を及ぼしていることは明らかだ。

 

感染者は人から家畜へ。家畜から生物ですらないゴミへと堕とされることとなった。

 

だが、それでも彼らは諦めずたちあがっていた。

誰が広めたのか、私たちCiRFと...

感染者の英雄、先導者フェイスレスの名を掲げて。

 

 

それがより悲惨な結果へと導くことにすら気づかないで。

 

 

これは私が生み出した悲劇だ。

私の罪。決して拭うことのできぬ大罪。

そして今なお続く感染者が非感染者を、非感染者が感染者を憎むという悲劇の連鎖。

故に、これは私が幕を閉じるべき物語なのだ。

 

 

 

 

 

だが、今は───

 

 

 

 

 

 

 

「ご利用ありがとうございます!ペンギン急便がお届けに参りました!」

 

 

 

 

配達が先だ。

 

目の前に立ち塞がる木製のドアがギギギと軋む音を立てながら開く。

暖かい暖気と共に現れたのは朗らかな笑みを浮かべるウルサスの女性。

つまり今回の私のお客さまだ。

 

 

「あら〜、ありがとうね〜かっこいいお兄さん〜!」

 

「お姉さんですよ」

 

 

私の前世にはこんな言葉があった。

“お客さまは神さま”

故に失礼があってはならない。

 

 

「まあ!カッコよかったからつい〜。ごめんなさいね〜」

 

「いえいえ、よく言われます」

 

 

笑顔で、愛想よく。

それでいて冷静に。

目の前の仕事に集中する。

慣れている。私の得意分野だ。

 

 

「ここにサインを」

 

「は〜い....と、よ〜し!」

 

「どうぞ。重いですよ。気をつけてください」

 

「あ〜、確かに重いわね〜。ありがとね〜こんな遠くまで重い荷物を〜...」

 

「大丈夫ですよ、こう見えて結構体力あるんです」

 

 

しかし....

 

 

「そうなの〜?」

 

 

デカイな。

 

いやいやいやいや。ダメだアルマ。集中しろ。目の前の仕事に集中....そこじゃない!!!

 

 

「??」

 

「いえ、失礼しました」

 

「あ〜!そうそう〜!丁度ホットコーヒーの準備ができたのよ〜!飲んでかな〜い?」

 

「いえ、この後も直ぐ仕事があるので...すみません」

 

「あら〜...残念ねぇ」

 

「行きたいのは山々なのですが...少し...怖い知り合いの顔が思い浮かぶので...」

 

「もしかして彼氏かしら〜?」

 

「あはは...」

 

 

奥さんは私の首元を見てニヤリと笑った。

 

何か、後ろから誰かに見られているような、そんな冷や汗が出るような感覚に襲われるのだ。

もしかしたら今も外れないこの首輪にカメラ機能でも備わっているのかも知れない。

 

 

「うんうん!ばっちりね〜!」

 

「おや、軍服ですか?」

 

「そうなのよ〜!うちの子が軍学校に合格したのよ〜!そのお祝いよ〜!」

 

「それは、おめでたいですね」

 

「怪我しないかだけ心配だけど〜、あの子の子供の頃からの夢だったから受かって良かったわ〜」

 

 

茶色の毛皮を使った立派な軍服。

ウルサス正規軍や軍警などに見られる正式な制服だ。

防寒性に優れ、それでいて丈夫。私が傭兵を始めたばかりの頃は軍属時代のものをそのまま使用していたほどに万能性に優れている。

 

ただ、少しばかり高いのが難点だが...

 

 

「では、そろそろ失礼します」

 

「おばさんの長話に付き合ってくれてありがとうね〜」

 

「いえいえ、またのご利用を心よりお待ちしております」

 

 

奥さんに軽く会釈し、その場を後にする。

しかし本当にいい人だった。

私は今まで感染者として、家族という幸せを憎む者としての目線でしかウルサスや世界を見てこなかったけれど、こうしてみると、もっと他の方法があったのだと。過去の私がどれほど間違ったことをしていたかということがよくわかる。

 

一人一人にそれぞれの幸せがあるのだと。

いくら自分が酷い目に会おうともそれを壊そうなどとしてはいけないのだと思い知らされる。

 

もしかしたら、あの時私が別の選択をしていたら()()()()も血を流さず、誰も悲しまずに全員で日の光を見ることができたかも知れない。

 

 

私はもう2度と間違えない。

 

 

私は罪を償うため、このような罪なき人々の幸せを壊さないため。

そして私の()()の幸せのために生きると誓おうと決め──────────

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

背後からくる強烈な熱風に体が吹き飛ばされる。

唐突な不意打ちに頭は追いつかず、いつのまにか地面一色になっていた景色に混乱するばかり。

しかし続いてくる肌の痛みと、喉の痛みに意識が覚醒する。

 

熱。

 

それも尋常じゃないほどの、体が焼けるような熱。

それが背後から襲ってきた。

 

 

咄嗟に後ろを振り向く。

 

 

 

「.........え?」

 

 

 

 

真っ赤に燃える住宅街。

柱は燃え盛り、窓ガラスは熱風で破れ、さっきまで話していた家がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。

 

 

「なに...が....」

 

 

柱の下に転がる真っ黒な()()()と、その手に握られた同じく黒焦げになった、しかしところどころに茶色の残る軍服。

 

 

脳が理解を拒んでいた。

 

 

遅れてあちこちから悲鳴や鳴き声、呻き声が聞こえる。

 

 

 

幸せに満ちた街は、一瞬にして地獄となっていた。

 

 

 

 

「あ...あ、ああ........」

 

 

 

 

続いて各所から上がる歓声。

 

ああ、私はこのこの光景を知っている。

 

何度も夢に出たあの光景。瞼に染みついて剥がれないあの光景。

 

ダメだ。これはダメだ。

 

 

「ダメ...だ...」

 

 

炎が見える。

かつての自由への渇望ではなく、ただひたすらにどす黒い非感染者への怒りが詰まった...

 

悲劇は繰り返される。

悲劇は連鎖し新たな悲劇を生み出してゆく。

それはより深く、悲しみと怒りの詰まった物へと昇華してゆく。

 

それは決してあってはならないことなのに

 

現実はどうしようもなく残酷で

 

 

「あ、ああ....!」

 

 

 

また、人が死んだ。

 

 

 

「なぜ...なぜこんなことに...」

 

 

 

わかっているだろう?

 

 

お前のせいだと。

 

 

 

「違う!こんなこと私は望んでいない!」

 

 

 

否。

 

全てお前が望んだことだ。

 

 

 

「こんな......こと......」

 

 

 

「ほぅ?まだ生き残りがいたのか....いや、貴様は...」

 

 

 

太陽が見下ろしている。

 

 

 

「まあいい」

 

 

 

炎が輝く。

 

これは私への罰なのだ。

 

全てのきっかけを生み出しておきながら、呑気に偽りの幸せを謳歌していた自分への。

 

 

 

「今、終わらせてやる」

 

 

頭ではわかっていた。

 

受け入れなけれならなないと。

 

受け入れて仕舞えば楽になると。

 

だが───

 

 

 

「あ、ああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

罪を受け入れるのでも、逆に立ち向かうのでもなく...

足は勝手に動き出していた。

 

 

「.....ふん。殺す価値もないか」

 

 

 

ただひたすらに、がむしゃらに走り続けた。

あたりから聞こえてくる歓声を、そして悲鳴を聞こえないふりをしながら恥し続けた。

死にたくないと思ってしまった。

無様に、この血に汚れた生に縋りつきたいと思ってしまった。

罰を受け入れることが恐ろしく感じてしまった。

 

なんて、無様なんだろうか。

 

 




話を追っていくごとに小者臭が増してゆくアルちゃん。
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