脇役になりたくないTS転生者   作:有機栽培茶

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うちのWはダブチはっきりわかんだね。
そろそろシリアスが入場する。

※今回めちゃ長め


正義

 

「アルマ....いや、フェイスレス。貴様は道理に背いた」

 

 

 道理...つまり正しい論理。

すなわち正義。

 

 

「悪の道に落ちた貴様を私は正義の元罰しなければならない」

 

 

 ああ、正義とはなんだろう。

人として正しい行いか?

名も知らない誰かの決めた方を守ることか?

大衆に“間違いではない”と認められることか?

それとも、自分よりも弱きものを守ることか?

 

 

「命まではとらん。だが、手足の一二本は覚悟してもらおうか」

 

 

否、否、否だ。

これはあくまで私の持論だが、私はこう考えている。

 

 正義とは、エゴだ。

例えば誰かが正義のためと犯罪者を罰したとする。

大衆からしたらそれは自分達を安心させるための正義であり。

罰した本人としては“人々のため自分は正しいことをした”と言う認識を得ることのできる正義だ。

 

 では、犯罪者として罰せられた者はどうだろう。

彼は本当に悪だったのか?それはわからない。私のように救いようのない悪だって稀に居るのだから。

 

だが、ほとんどの場合はそうではないだろう。

彼──彼女かもしれないが便宜上彼と呼ばせてもらう──はもしかしたら彼なりの正義があったのかもしれない。

 

例えば腹をすかした己の子供を生かすため。

 

例えば愛する恋人を助けるため。

 

例えば大衆に知られていない悪を明らかにするため。

 

例えば──虐げられる数多くの同胞を救うため。

 

果たしてそれは悪なのだろうか。

わからない。当たり前だ。これは前世から論じられ、未だはっきりとした正解が見つかっていない難問なのだから。

 

でも、少なくとも私は、私だけは彼を正義だと断じよう。

例えその理由が己の欲望がためだとしても。

私は彼を正義だと言い張ろう。

なぜならば、正義はエゴだからだ。

 

故に、私が罪を認め平穏という名の苦痛を受け入れたのも、チェルノボーグでゾーヤさんを助けたのも、レユニオンに協力しミーシャさん奪還に手助けしたのも、更なる刺激を、悦楽を、喜劇を求め続ける私の欲望も─────そして、かつての悲劇、クレアスノダール事変も、家族への裏切り行為も、全てがエゴであり、少なくともかつての私にとっての正義だった。

 

嗚呼、思えば私は自分勝手な人間でした。

自己を自覚したあの瞬間から、自分の好きなように、自分が奪われてきた分だけ好き勝手にやろうと誓っていました。

 

そう、あの悦楽への渇望も、自由への欲望も、それに対する罪の意識も罰も何もかも。全ては自分のため。エゴであり、正義だったのです。

 

 

「あなたに剣を向けるのは残念ですが、私にも年端も行かぬ仲間を守る、という正義がありますので、ね」

 

 

だから私は剣を抜きます。

 

 

嗚呼、ですがチェンさん。

私はあなたに問いたい。

 

あなたはその行為に正義を持っているのか。

 

だとしたらなぜ、そのような顔をしているのか。

 

私は問いたい。

 

 

 

 

話は数時間前に戻ります。

 

ここは龍門近郊に位置する採掘場です。

移動都市龍門から見事ミーシャさんを奪還した我々はここを合流地点として部隊を再編することとしたのです。

 

予定よりも被害を出しすぎた。

今回私たちがタルラさんに許可をもらい連れてきた人員の約1/4が既に亡き者となったか龍門の近衛局の手に落ちました。

いくらスカルシュレッダーさんに共感し自ら付き従っただけの寄せ集めとはいえこれは予想外。

1番の原因はやはりロドスでしょう。

事前に彼らの情報を持っていたWとスカルシュレッダーはロドスが邪魔だてをする可能性も考慮していたようですが彼らはその予想を上回る活躍をしました。

特に足止めとして置いてきた一つの重装歩兵小隊の全滅は確実でしょう。

 

ただ、一つ言いたいのは....空挺兵の落下死が予想以上に多かった...いや、そもそもそんな死因があってはならないのですが....

誰ですかあんな兵装を採用したのは...と言いたいですがウルサス正規軍でも似たような兵器が運用されていることからこの世界ではそれが普通のようです。馬鹿では?

ウルサス軍に所属していた時の悪夢──興味本位から触って見事吹き飛んだこと──がよみがえりかけた。

 

 

それよりも、今は重要なことがある。

 

 

「これがトリガーだ。弾はこうやって込めて....」

 

「うん.....」

 

「精神を集中してアーツを放つ」

 

「私にできるかな...」

 

「できるさ。必ず」

 

 

はぁ〜〜〜

仲睦まじいですね。

スカルシュレッダー君が姉であるミーシャさんに手取り足取りアーツや武装の使用方法について教えています。その内容は少々物騒ですが.....

可愛らしいミーシャさんと彼女に似た顔立ちのスカルシュレッダー君。

私は別にロリコンでもショタコンでもないのですが....

嗚呼、、、

 

 

「何やってるのよあんた」

 

「これが、“尊い”という感情なのでしょうか」

 

「正気に戻りなさいっ!」

 

「うっ、ぐぁぁ..!?これは、なかなか効く.....ごぼっ」

 

「え!?ちょっとあんた!?」

 

 

突如口内が血の味に満たされます。

そして口元から赤い液体がぼたぼたとこぼれ落ちるのが見えました。

 

 

「ははは、大丈夫ですよ。これはちょっとした冗談......ゴバァ!!」

 

「全然大丈夫じゃなそうじゃない!?そんな、私別にあんたを殺すつもりじゃ.....!?」

 

「ごほっ、アーツの副作用ですよ.....貴方のせいではない」

 

「そ、どうすればいいのかしら!?え、ど、どうすれば....!?」

 

「いや、普通に、医療班を呼んでくれれヴァッハぁ.....!?」

 

「きゅーきゅーしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「はいはい救急車っスよ!普通に呼んでくださいッス!うわ!やばいっスね!治療するッスよ!!」

 

「たの......みます.......」

 

 

不思議な暖かさが身を包みます。

なかなかに気持ちが良い.....というわけもなく、普通に痛いです。

タチアナさんの治療アーツというのは患者の治癒能力を大幅に上昇させ流石に欠損した腕や足は治りませんが普通では治らないような怪我でさえ修復できるものだそうです。

その代わりにアーツを受ける側に強烈な痛みを与えます。

実際めちゃくちゃ痛いです。

攻撃として使えるのではないかと思えるほど痛いです。

源石の融合の影響で鈍くなっている私の痛覚でもタンスに小指をぶつけた時の痛み以上のものを全身で感じているのです。

幸い私が痛みになれておりさらに痛覚が鈍かったから良かったものの...

 

 

「普通ここまで怪我してる人治すことないッスからね。相当痛むと思うっスよ。というかなんでこの状態で生きているのか不思議なレベルっス」

 

 

だそうだ。

つまり私が怪我しすぎなのが悪いようです。

神様がいるのなら私にこんなアーツを授けたことを恨みますよ。

もっとデメリットの少なくてメリットの大きいチートが欲しかった。

 

 

「ごめんなさいね....次からはもっと優しく殴るわ。貴方に死なれたら堪らないもの」

 

「そもそも殴らないでほしいのですがねぇ....」

 

「というか貴方がアーツを使用したのってさっきの数十秒だけでしょう?それだけでそこまで傷つくものなの?」

 

「身体強化は奥の手ですからね。それに併用して死にかけのレユニオン兵を足止めのために傀儡化したのも大きいです」

 

「ああ、この前言っていたやつね。クラウンスレイヤーからも聞いてるわ。ほんとあんた仲間なのに残酷なことするわねぇ」

 

「必要な犠牲、というやつですよ。彼らには内緒でお願いしますね」

 

「ふふん、貸し一つでいいわよ?」

 

「.........わかりました」

 

 

私にとって仲間というものははっきりと言って仕舞えば道具でしかありません。それが使えるか否かで重要度は変わりますが、明らかに彼ら....いやそもそもこの部隊自体が捨て駒のようなものです。量だけはある捨て駒。

スカルシュレッダーとW、そして私くらいしかまともな戦力がいないのですから。

 

スカルシュレッダー君曰くタルラさんはこれでうまくいくと言っていたようですが.....まさか相手の戦力を見誤った?そんな馬鹿なことがあるのでしょうか?

 

 

「少しいいか....ってどうしたんだそれ!?」

 

「気にしないでくださいスカルシュレッダー......どうしたのです?」

 

「......それは、その...」

 

「お礼を言いにきたんです」

 

「ミ、ミーシャ!?」

 

「ア...スカルシュレッダーに会わせてくれてありがとう。最初は胡散臭いお姉さんと思ってたけど....」

 

「......う.....俺からも、感謝する.....」

 

「一言余分でしたが、まあ、いいですよ」

 

 

胡散臭い...少し傷つきましたがまあいいでしょう。

子供はこのくらい無邪気な方がいいのですから。

 

 

「.....俺は、あんたのことが嫌いだ」

 

「....はぁ」

 

「あんたが、英雄って呼ばれてるアンタがクレアスノダールなんて辺境じゃなくて、チェルノボーグで革命を起こしてくれたら....アンタがもう少し早くここにきてくれたら......俺の母さんが死ぬことはなかったって、思っていた」

 

「.........」

 

「でも、少し見直した。アンタがあの近衛局の連中からミーシャを助けてくれたから、俺はこうしてミーシャと再会できた.........それは感謝する」

 

「感謝....ですか」

 

 

私にそれを受け取る資格はないと思うのですがね。

 

私は自分の手を見つめます。

相変わらず赤い。いしかしそれを見ても私の心は何も動きませんでした。普通こういう場面では殺してきたものの顔が思い浮かんだり彼らが私に向かって手を伸ばして地獄に引きずり込もうとする悪夢を見るのでしょう。

しかし今ではもうそれを見ることはない。かつて罪の意識に沈みきっていた私の心もいつの間にか軽い。

あの時吹っ切れたからでしょうか?

流石に私の心、掌がドリルの域に達するレベルで回転しすぎでは...?

やはり私の心は、というか罪の意識はそこまで薄っぺらいものだったのでしょうね。いっそ笑えてくる。

 

しかし今はそんなふうに思考する時間も残されていませんでした。

 

 

「何をしている行くぞスカルシュレッダー!撤退だ!この採掘場は破棄される!!」

 

 

ひとりのレユニオン兵士が叫びました。

 

 

「一体何が起きた!?」

 

「ロドスだ!強襲を受けた!!」

 

「────あのゴミどもがっ!!」

 

 

スカルシュレッダーの怒りのこもった声が鳴ります。

それに呼応するようにガチャリと音を鳴らす兵装を持ち上げ、彼は指示を出し始めました。

まさかもうここまで彼らの追手が迫ってきているとは。

やはり龍門は一度侵入した感染者を逃す気はないということでしょうか。

それとも、この少女にそれほどの価値があるとでも....?

 

 

「どうするッスか?」

 

「撤退一択でしょう。今の我々に勝ち目はない。迎え打とうとも返り討ちにされて私たちは全滅。折角奪取したミーシャさんを奪われるのがオチです。今戦っている彼らができるだけたくさん時間を稼いでくれることを祈りましょう」

 

「同意見よ。そこまでのことは契約の対象外だしね」

 

 

そもそも、私たちが逃げ切れるかどうかも怪しい...ということは黙っておくことにしました。

選択肢としては私たちを殺さないでくれそうなロドスに投降することが一番マシだと思いますが.....

 

 

「ロドスなら......私たち.....」

 

「何だ?ロドスと話し合えとでも?」

 

「あの人たちならきっと感染者を助けてくれる」

 

「俺の同胞は何人もロドスによって殺された....お前は俺に、あいつらと話し合えって言うのか?」

 

 

まあ、無理でしょうね。

なかなかに面倒な状況です。

 

 

「....タチアナさん、一応聞いておきますが援軍は?」

 

「多分無理っス。さっき通信兵のおじさんが話してましたっスけど、あっちもあっちで色々やってるみたいっスからね」

 

「そうでしょうね」

 

 

例えタルラさんたちの“色々”がなくとも、幹部格といえどたった1人の少年の家族を救うために本隊が動くわけがない。リターンに対してリスクが大きすぎます。だからこんな捨て駒のような部隊を寄越したのでしょうね。スカルシュレッダー君の信奉者の中に腕利きがいればよかったのですが聞けば彼らはスカルシュレッダー君と同じ境遇の者たち。つまり元はただの一般市民だった人たちです。たとえウルサスという種族が力強くても、訓練もせずにスカルシュレッダー君のような戦闘センスを持つものはそうそういないでしょう。

 

 

「お前は裏切り者と何を話せって言うんだ!?」

 

 

そうなると選択すべきはやはり撤退のみです。

採掘場は複雑な地形です。隠れる場所もたくさんある。

ですのでその辺りに捨て駒達を伏兵として忍ばせて、申し訳程度に私のアーツやWさんの装備で作り上げた罠を置いて足止めをしている間に私たちは撤退.....

 

 

「同胞の死を見過ごせっていうのか?」

 

 

.........スカルシュレッダー君、“私たち”の中には貴方も入っているのですよ?

 

 

「W」

 

「なによ」

 

「捨て駒はいくら捨ててもいいです....ですが流石に幹部格は生き残らせなければまずいのでは?」

 

「別に?いいんじゃないかしら」

 

「なに?」

 

「正直にいうわね?あの龍女は彼らのことをそこまでの重量視してないわ」

 

「まあ、そうでしょうね」

 

「いいえ、むしろ死んでほしいと思ってるのかもね?」

 

「っ!?.....一体どういうことですか?」

 

「さあね?アンタが私の部下としてこき使われてくれるってなら教えてあげてもいいわよ?」

 

「........遠慮しておきましょう。嫌な予感がする」

 

「あら、振られちゃった」

 

「今のは聞かなかったことにします。ですので......貴方も余計なことはしないでいただきたい」

 

「はーい♪」

 

 

.....本当に、想定外だ。

本当に、一体何が起こっている?Wは何を知っている?タルラの目的はなんだ?私と同類ではないことはわかる。同じ匂いがしない。だからこそわからない。仲間を無駄死にさせてなんの徳があると?

 

 

「くっ....わからないことが多すぎます」

 

 

どうしましょうか。

このまま逃げてしまいましょうか。

スカルシュレッダー達を見捨てて逃げてしまいましょうか。

そうすればミーシャさん一人ぐらいは助けられるでしょう。

スカルシュレッダー君も彼女のために死ぬというのなら本望でしょうし、私の任務自体は達成できます。

それでいい。

それでいいじゃないですか。

そもそも私がレユニオンに参加した理由はかつての“家族”を助けるため。ただの道具である“仲間”を助けるためじゃないのですから。

これでいいのです。

 

 

「絶対に....貴方も帰ってきて.....私も苦労してやっと....」

 

「ああ、必ずお前に会いに戻るさ。そしたら、一緒に家に帰ろう」

 

「.......うん」

 

 

これで.......

 

 

『先に行ってください。大丈夫。お兄ちゃんはこんな奴らには負けませんよ』

 

『お兄ちゃん!やだよ!行かないで!』

 

『.....必ず帰ってきますから。どうか泣かないで』

 

『う.....うぅ.........約束、してくれる?』

 

『ええ、約束です。可愛い妹を守るのは兄の役目ですから』

 

 

......は、はは.......なぜ今思い出すのでしょう。

わかってる。被るんだ。彼らが、かつての私達に。

私が自らの手で壊してしまった本物の幸せに。

 

あの時、本当に大事なものを見失っていた私は、真に大切なものをこの手で壊してしまった。そしてそれを、今なお裏切り続けている。自らの自分勝手な意志で。

 

では彼らはどうだ?

互いを大切に思いあっている。

にも関わらず、それが今理不尽な暴力と、仲間の死から生まれた逃れられない復讐によって壊されそうになっている。

言いたい。本当に大切なものは復讐などではなく目の前にあるものだと。でもそれは無理だろう。復讐を諦め逃げたとしても彼はまた戦場に戻るだろう。それに、正体の掴めない不可視の魔の手に彼は狙われている。

かつて私が壊してしまった幸せが、今、また目の前で失われようとしている。

 

 

「ああ!くそっ!!!」

 

 

思わず頭を押さえます。

私に似合わない乱暴な声も出てしまった。

 

 

「スカルシュレッダー。私も同行する」

 

「フェイスレス、お前はミーシャを連れて....」

 

「それはWに任せる」

 

「どうして....」

 

「家族と被った」

 

「....は?」

 

「それだけです」

 

 

私は自己中心的な人間だ。

時に絶対的な悪を演じ、時にこのように偽りの正義を演じる。

どっちつかずの人間だ。

当たり前だ。だって、自分の好きなように生きているのだから。守りたいから守る。壊したいから壊す。

罪悪感なども所詮はただのお飾り。それが悪い子だと知っているから罪を感じている演技をしているだけ。

私はいつだって好きなように生き好きなことをやってきた。

 

...そんな人間だと思っていた。

そのはずだったのに。

 

なのにこんな中途半端な感情に流されるなんて。

演技のはずだったのにいつのまにか飲まれていた。

いつから私は壊れてしまったのだろう。

 

いや、初めから私は人間として壊れていたんだろう。

それも、中途半端に。

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