脇役になりたくないTS転生者   作:有機栽培茶

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配達

 

「あいつらを見捨てたのか!」

 

 

怒りのこもった声と共に頬に鈍い痛みが走ります。

 

相対する少年は全身に切り傷や青あざを作り、右腕は骨折したのかダランと力無く垂らしています。

対する私は左腕を失い、肩から胸にかけての大きなものから数えるのも億劫になるような無数の切り傷。そして今なお痛みを発し続ける右腕の大穴。

 

満身創痍でした。

 

ミーシャさんを連れた本隊を逃すため、採掘場に残った殿部隊は私とスカルシュレッダーを残して全滅。

彼らを犠牲に生き残った私たちもまた死に体の状態。

 

 

「は、はははは....」

 

 

なんてひどい有様なんでしょう。

 

 

「こいつ.....!!」

「ダメっスよ!先輩が死んじゃうっス!!」

 

 

これが英雄か。

これが、感染者の英雄の姿か。

希望だけ持たせて、ろくな成果も出せない。

これではただのハリボテじゃないか。

英雄なんて、所詮はただの偶像に過ぎなかったってわけだ。

 

何とまあ、滑稽だ。

 

私は何もできなかった。

壊すことしかできない。誰かを助けるなんてできない。

罪を償う?そんなこと無理だ。私は誰一人救うことなどできない。

 

私はただの凡人だ。誰かを傷つけることしかできない罪人だ。

 

 

「....はは....は........」

 

 

いや、違う。罪人の方がよっぽどマシだ。

好きなように生きて好きなように死ぬ?

できていないじゃないか。何人犠牲にした?何人の命を弄んだ?

無理だ。無理なんだ。あの時、テキサスに生かされた時点で。

いや、そもそも私が生まれたその時からそれは私の物語じゃなかった。そしてそれも、両親が死んだ時点で終わりを迎えていた。

 

私はただの人形だ。

それもとびっきり出来損ないの。

 

人形は人形使いがいなきゃ何もできない。

どんなに優れた性能を持っていようと、どんなに大層な夢を抱いていようと、人形一人ではまともに動くことすらできない。

 

不恰好に、かっこ悪く足掻くだけ。

何もできない。

 

何もなし得ない。

 

 

そこに.......

 

 

 

 

 

果たして存在意義はあるのだろうか。

 

 

 

「先輩!!!」

 

「っ!?」

 

 

肩を揺すられる衝撃で我に帰ります。

冷たい感触がズボン越しに脛に伝わってきます。

また私は.....

 

 

「ここで先輩がしっかりしないとやばいっスよ!!」

 

「.......申し訳ありません。取り乱しました」

 

「とりあえずみなさん落ちつくっス」

 

「.........ああ」

 

 

そうだ、落ち着くべきだ。

私が狼狽えてどうする。

 

死んだのはあくまで他人だ。私の家族じゃない。

私には関係ないことです。

アレらは私にとってただの捨て駒。

彼らも、そしてここにいる者たちも。

私の目的はスカルシュレッダー君とミーシャさんを生かすこと。

そして生きて帰ることのみ。

落ち着け。

 

気にすることはない。そう、自分自身に言い聞かせます。

 

 

 

......状況を整理しましょう。

 

 

 

「今いる人数とチェルノボーグまでの距離を教えてください」

 

「了解っ「あらあらあらあら?ひっどいざまねぇ貴方」....っス」

 

「W」

 

「そうよ。Wよ。で、あんたは無様に負けてきたってことね」

 

 

煽り顔でエビのようなツノを持ったサルカズ、Wさんが話しかけてきます。

 

 

「私のことはいいです。それよりも状況は」

 

「え、私の仕事....」

 

「一言で言って最悪ね。生き残っているのも戦えない回復系アーツ使いと死にかけの怪我人だけ。この先の地形も利用できるようなものじゃないわ。しかもチェルノボーグはあと何時間も歩かないと見ることさえ叶わないわ」

 

「......不味いですね」

 

 

Wさんが後ろで私たちを見つめている数人を指差します。

彼らは皆が皆体のどこかしらに包帯を巻き、一部が欠損しているものもいます。戦える状況ではない。武器すら持てないかもしれません。

それでもこうして逃げずにここにいるのはスカルシュレッダー君の人望か。はたまた逃げることも叶わないとわかっているのか。

そこにあるのは絶望か。怒りか。哀しみか。

 

 

「それにほら、ここには──────

 

「アレックス!!」

 

─────この子までいるしね」

 

 

「ミーシャ!?何故ここにいる!?」

 

 

その叫び声と共に私たちの護衛対象、ミーシャさんが走ってきます。

それに対してアレックス...スカルシュレッダー君はマスク越しからでもわかるくらいに驚いていました。

 

 

「何故だW!」

 

「この子がどうしてもって言って聞かなくてね」

 

「くっ!ミーシャ!俺は必ず帰るって....」

 

「ダメ!そんなこと言ってこんなにも怪我して....もうあんなおもいをするのは嫌なの....」

 

「.........すまん」

 

 

尊い....そんなことを言っている暇はないですね。

しかし本当にまずいことになりました。

状況は最悪。主戦力は壊滅。迫撃砲もクロスボウもほとんどない。利用できるようなものは肉壁にもならなそうな肉袋のみ。

ないない尽くしです。

それに護衛対象までここにいるとなると......

 

 

「....W。この二人だけでも逃すことはできますか?」

 

「ええ、可能よ」

 

「フェイスレス!俺は!」

 

「貴方が行かないとミーシャさんも大人しく逃げてくれないでしょう?」

 

「..........」

 

 

これが最善だ。

ただ、Wがこの依頼を受けてくれるかだが.....

 

 

「報酬は?」

 

「貸し一つ」

 

「今のあんたにその価値があるとでも?」

 

 

そう言って指差す私の体はひどいものでした。

左腕は欠損。タチアナさんの回復アーツで殆どの傷は治ったものの、スカルシュレッダー君を抱えてここまで走ってきたせいで体力も限界。アーツも過剰使用で暴走限界。これ以上使えば源石が私の制御下から脱し、私の体を喰らいに来る。

万全とは言えない状況です。

それでも...

 

 

「ええ、あります」

 

「......へぇ?」

 

 

都市一つ地獄に下ろした私の実力を舐めないでいただきたい。

 

 

「“壊す”ことに関しては私の右に出るものはいないでしょう」

 

 

ものを壊すことも。

平和を、幸せを壊すことも。

希望を、望みを壊すことも。

 

 

「私の前でよく言えたわね」

 

「事実ですから」

 

「ふーん?」

 

 

そんな私の解答に挑発的な笑みを浮かべると彼女は──

 

 

「いいわ。受けてあげる」

 

「ありがとうございます」

 

「貸しも生きて帰ったらでいいわ。貴方はなんだかんだ生き残りそうだしね。でも覚悟しときなさい?私に作った貸しはでかいわよ」

 

「....はは、悪魔の契約みたいですね」

 

 

思わず乾いた笑い声が出る。

まだ足掻くのかと誰かの声が聞こえる。

 

諦めて仕舞えば

 

全て捨てて仕舞えば

 

いっそかつてのように狂って仕舞えば

 

私は楽になるのに。

そんな甘い言葉が脳内に語り掛けられます。

 

 

 

ああ、そうですね。

その通りだ。

 

でも私は諦めません。

諦めることなど許されはしない。

かつての知り合いが、仲間が、家族が。罪が。

許しはしない。

 

諦めればいい。そばにいてくれるだけでいい。

そう言ってくれる人はいるけれど、私自身が許しはしない。

それだけで私が不恰好に足掻く理由にはなるでしょう。

 

 

なぜなら今まで散々奪い去ってきた人生。

その対価。

命の一つ、賭けなければ釣り合わな────────

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「先輩っ!」

 

「邪魔」

 

 

真っ先にその存在に気づき、私を守ろうと動いたタチアナさんは、瞬きした次の瞬間には気を失って地に倒れ伏していました。

私たちを心配そうに見つめていた観客達(負傷者達)も同様に。

 

そして、

 

 

「会いたかったよ、アル」

 

 

少し後ろから聞こえてきた声は、私の真横からしたのでした。

 

風にはためかせる美しい青い髪に、黒曜石のような角に神話状の生き物のような光り輝く光輪を浮かせた悪魔のような、そして同時に天使のような女性。

こんな特徴的な人物は他にはいません。

 

 

「モ、ス...ティマ...」

 

「ふふ...」

 

 

私のその声を聞いた彼女は嬉しそうに笑います。

しかしそれも束の間。

 

 

「っぐ!?」

 

「ーーーな!?」

「きゃ!?」

 

 

文字通りの凄まじい重圧がそのばにいる全員に降り掛かります。

重力が数倍にも増したようで、直立することすらできないほど。

知っている。私はこれを。

 

 

「な、ぜ.....!」

 

 

アーツです。

彼女の使用するアーツロッドの一つ。

通称“黒き錠”。

その能力。

 

 

「なぜって....言ったよね私。君が道を外した時は私が終わらせてあげるってさ」

 

 

そう言いながら彼女はアーツロッドを私に向けて構えます。

 

 

「それなのに君はまたこんなことをして。こんなにも傷ついて、死にそうになって、それでもまだ懲りずにこんな悪魔とまで契約してまで立ちあがろうとしてる」

 

「....あんたも似たようなものでしょ」

 

 

光のない目で、こういうのです。

 

 

「だからさ。もう、休もう?」

 

 

アーツロッドに集まる光が、殺意が、優しさが、その全てが眩しかった。そして同時に、私が受け取るべきものでないこともわかっていました。

 

 

「......モスティマ」

 

 

だから

 

 

「もう、私は大丈夫です」

 

 

この一言で十分だと、わかっていた。

 

 

「......そ......っか........」

 

 

光が収まります。

アーツの反応が、殺意が、そして救いが露散します。

全身にかかる重圧も解かれ、私や、他の方々の体が自由に動くようになました。

 

 

「くっ!」

 

「止めろ」

 

「フェイスレス!こいつは...!」

 

「いいから、やめなさい」

 

 

体が自由になった瞬間に武器を抜こうとしたスカルシュレッダーの動きを静止します。

嗚呼、モスティマ。ごめんなさい。

髪に隠れた貴方の表情を窺うことは叶いませんが、決していい表情はしていないでしょうね。

 

 

「.....必ず生きて帰ってくるって約束できる?」

 

「.....ええ、そして、貴方が手を下す機会もまた訪れない事も約束しましょう」

 

「....そっか」

 

 

嘘

 

自分でも馬鹿らしくなるほどのわかりやすい。

そんなことは貴方は百も承知でしょうに。

 

私の歩む道の先にそんな平和な未来は訪れない。

 

皆を救い、罪を償い、笑い合う。

 

罪人にそんな明るい未来は訪れない。

人形にそもそも未来などない。

猿でもわかるようなこと。

わかりきっていることなのに。

 

それでも貴方を見て、そうなってほしいと願うのは間違いでしょうか。

 

 

「モスティマ」

 

「.....」

 

「今まで私が嘘をついたことがありましたか?」

 

「....数えられないほどあったよね」

 

「.......私は過去を振り返らない主義なので」

 

「ほらまた嘘ついた」

 

「.....」

 

「..............ぷっ」

 

 

あははははははは!!

 

そんな明るい笑い声が辺りにこだまします。

 

 

「....貴方そんな笑い方もできたのですね」

 

「ごめんごめん、おかしくて........うん、でも、信じるよ。信じてみる」

 

「......ありがとう」

 

「でも、もし破ったらどうなるか...わかるよね?」

 

「おお怖い。確かに貴方なら地獄(ゲヘナ)に逃げても追ってきそうですね」

 

「ふふ.....そんなに怖い?」

 

「ええ、めっちゃ」

 

 

正直言ってテキサス以上に怖いです。

なんなら、何かやらかしたらその首掻っ切るぞ、という無言の圧力を感じるウェイさんや大量の書類を持って行く旅に向けられるチェンさんや、何もかも見通すようなリンさんや、酒樽を片手に担いだホシグマさんよりも恐ろしい。

ラップランド...彼女は別に恐ろしくはありませんよ?ただ少しやんちゃがすぎるというか.....ストーカーはやめていただきたい。

ボスは怖いところを探すのが逆に難しいくらいです。あの生命力の強さはある意味恐ろしいですが。

 

そんなわけで、私にとってはこの何を考えているのかわかりずらい天使のような悪魔が昔から変わらず恐ろしい。

 

 

「何か失礼なこと考えていなかった?」

 

「いえ別に?」

 

 

こういうさりげなく心を読むところが恐ろしいのですよ。

人形の心を読むなど貴方とテキサスくらいしかできませんよ。

 

 

「勝算はあるの?」

 

「....私の命を賭けるのは」

 

「なしだよ」

 

「.........まあ、無くはないですね」

 

 

私が生き残り、ここにいる全員が生き残り、その上でスカルシュレッダー君とミーシャさんに平(・)穏(・)を与える選択肢がただ一つ。

貴方がここにきてくれたおかげで生まれた。

 

 

「スカルシュレッダーとミーシャ。両名をどこか遠く、感染者の子供が差別されず生きていけるようなところに連れて行ってもらいたい。私以上にトランスポーターの職についている貴方なら心(・)当(・)た(・)り(・)くらいはあるでしょう?」

 

「フェイスレス!?」

 

 

これだ。

今ここで、私の口から直接いうことはできません。

私に彼を説得することはできないでしょうから。

ですが、彼女なら、否。

彼女達になら心当たりはあるはずです。

そしてその上で、彼女なら彼を説得できる。

 

 

「...へぇ?感(・)染(・)者(・)の(・)子(・)供(・)が(・)差(・)別(・)さ(・)れ(・)ず(・)生(・)き(・)て(・)い(・)け(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)と(・)こ(・)ろ(・)ね?さすがの私でもそんな理想的は場所は知らないかな?....そこの君は知ってるかい?」

 

 

私の意図を理解したのか、彼女は私(・)と(・)同(・)じ(・)人(・)物(・)に目線を向けます。

 

 

「え、あ....」

 

 

両名の視線を一身に受けいた少女、ミーシャさんがスカルシュレッダーに発した言葉は─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元CiRFリーダー、フェイスレス。

弱者を導く希望にして感染者の英雄。

 

そんな彼女に与えられた任務は、同行したレユニオンの半数以上が死亡又は行方不明となり、怪我人も多数。幹部であるスカルシュレッダー及び保護対象であったミーシャも失うこととなり、散散な結果で終わることとなった。

 

しかし、彼女のレユニオン内での評価は存外下がることはなかった。

部隊の指揮を彼女では無く、少年であるスカルシュレッダーがレユニオンがリーダーであるタルラによって一任されていたこともあるが、近衛局とロドスという予想外の戦力を相手取り、それだけの人々を守りきったという功績は、彼女の以前からの名声と合わされば十分すぎるものだった。

 

依然彼女は先導者として尊敬の眼差しを向けられることとなっていた。

 

 

 

「申し訳ありませんねW。あの契約はなかったということで」

 

「まあいいわ。それよりも、あれでよかったの?」

 

「ええ、あそこなら彼らを助けてくれるでしょう」

 

「どうかしらねぇ...“アイツ”がいるところがマトモとは思えないけど」

 

「...怖いことを言わないでください」

 

「冗談よ。今のアイツはただの甘ちゃんの様だったしね」

 

 

 

 

「先輩!報告終わったっス!って、どうしたっスか?」

 

「なんでもないですよ」

「なんでもないわ」

 

 

 

スカルシュレッダーとミーシャ。

二人の子供の最期を知るものはいない。




モスティマと接触!グットコミュニケーション(ベストではない)によってアルのSAN値が少し回復した。

ようはタイトル通り。
捨て駒‘sや監視役が見てないうちに配達してもらった。

とりま原作三章完です。50話くらいでレユ編さっさと終わる予定だったけど思ったより続きそう....

あ、6層ボスクリアできました。やったぜ。
....高評価ちょうだい(ボソッ
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