源石爆弾に源石剣、かっちかちのウルサス軍用携帯食糧に銀色に輝く水筒、そして最後にまた源石剣。
斬り飛ばされた傷口を時間が経ち、赤黒い汚れのついたワイシャツの袖を結ぶことで覆い隠し、かろうじて残った右腕で器用に荷物を詰めて行く。行き先は龍門。チェルノボーグ本体よりは近いが、流石にこの距離を歩きではきついため移動手段は誰かの遺したバイク。
「水筒ご飯におっ菓子♪そしーてしっあげーに火炎びーん♪」
「飛ばしますよ」
「えっ、ちょっ、待っーーーっスーーー!!???」
既に戦況は動き出した。
クラウンスレイヤー隊及びもう一人の幹部、メフィスト隊が龍門への襲撃を開始。先程私たちが“逃してしまった”ロドスも見たところ迎えにきたであろう声の大きい龍門人に回収されたようで、彼らが龍門の援軍に向かうのも時間の問題だろう。
故にクラウンスレイヤーたちが戦況をかき乱し、ロドスや近衛局が体制を整える前にスノーデビル率いる我々が叩き、その後に追い討ちとばかりにタルラ率いる本隊が龍門を襲撃するという流れだ。
本来なら私もスノーデビル小隊に付き従い、この廃都に残った約一個中隊規模の雑兵を率いる予定だったが、予期せぬ事故でその中隊が壊滅。フロストノヴァからも『お前は一人で行った方が立ち回りやすいだろう』*1と言われたためこうして一人、いやタチアナさんも含めて二人寂しくバイクで先乗りできるというわけだ。
龍門はチェルノボーグほど上手くはいかないだろう。きっと敵味方限らず多くの犠牲が出る、と考えていた私にとってはうってつけの申し出だった。フロストノヴァさんが発する冷気に耐えられそうになかったからという理由もあるが。
何にせよ、早く行くのに越したことはない。
既に視界に入った龍門は煙を上げている。
血は流れ悲劇は始まった。その果てに救いはあるのか。
いや、そんなことは私には関係ない。ただ、犠牲を最低限に抑えるだけだ。
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少女は貧しくもなく、かと言って裕福でもない。『普通』と呼ばれるような家庭に生まれた。優しい母とかっこいい父と可愛らしい弟がいる『当たり前』の生活を暮らしていた。
学校に通い、勉学を学び、友達と遊び、日が暮れる頃には家に帰る。ごく『普通』の、けれどもそんな幸せな、『当たり前』の生活が少女にとっては少し退屈であった。
ある日、少女は遠くに住む叔父の家に泊まりに行くこととなった。少女は喜んだ。久しぶりの叔父に会える機会と、そして何より少女の『当たり前』の外にあった景色が楽しみで仕方なかったのだ。
数日分の衣服やお気に入りの絵本、誕生日に買ってもらったクマさんのぬいぐるみは残念ながら大きすぎて持っていけなかったが、少女は楽しみでたまらないといった様子で『日常』から飛び出した。
楽しい楽しい冒険から少女が帰ってきたのはそれから数日後だった。
荒野に揺れるおじの車に乗せられて少女が見たのは散りばめられた巨大な源石結晶と、黒煙に染まる空。
そして崩れ去った平穏だった。
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「先輩!8時の方向に火柱っス!」
「8時...だとしたらレティシアですか。レティシアなら大丈夫でしょう。彼女のしぶとさはよく知っている。私たちは私たちのすべきことをしましょう」
「っスね!えーっと龍門近衛局ビルはここから右に曲がって脇道を...」
「道はわかっています。急ぎますよ」
私たちが龍門に侵入した頃にはすでに戦火は上がっていた。
しかしあたりを見渡せばチェルノボーグのように逃げ遅れた住人が転がっていることもなく、ところどころ窓ガラスが割られている以外には被害は軽微。そして我々の動きを読み取っていたのか近衛局は部隊を展開し終え、先遣隊として送り出した部隊のほとんどは彼らを打ち破ることもできず押され気味。
なかなかまずい状況だ。
ロドスがあの廃都市を見つけた時点で龍門が警戒態勢に入ることは予想できた。しかしあまりにも早すぎるのではないか。まさかロドスにあの飛行装置のような長距離通信装置があった?ありえない。距離もさながらあそこには天災の影響で多くの源石結晶が生えていた筈だ。故に通信は妨害されレユニオンの使用する短距離用の通信機にもノイズが生じていた。
だとしたら....チェルノボーグが襲われた時点で予想されていたか。そういえば以前不法入国した際にも平常時よりも警備が厳重だったように感じる。ウェイ...この都市の主ならこのくらいやってもおかしくはない。それだけ感染者が集団を成して一都市を落としたという事実は強大なものだった。
...としたら、彼らはチェルノボーグを落とした本隊...タルラやパトリオットなどの脅威を迎え撃つことを想定して作戦を立て、戦力を揃えていてもおかしくはない。というよりそうでない理由が見つからない。
不味い。
このままではどれだけ保つか。
彼方は対レユニオン戦を想定した精鋭部隊。対するこちらは一部にクレアスノダール事変から生き残り部隊として形を成したものたちがいるとしてもその多くはただの暴徒たち。
チェルノボーグでレユニオンが非感染者を打ち破れたのも、クレアスノダールを地に沈めることができたのも全て数と少数の強者に非感染者たちの感染者への軽視、油断、そして不意打ちがあってこそのもの。
数こそはあるもののこれでは本隊が到着する数時間を持ち堪えられるかどうかも怪しい。
希望があるとすればスノーデビル小隊か。雪原の悪魔と呼ばれる彼らがどこまでやれるかはわからないが私にはそれを信じることしかできない。
「はぁ....」
「どうしたっスか?浮かない顔して」
「いえ....ただこれから会う幹部の一人、メフィスト少年がどのような人物なのかと思いましてね」
「あー.....クズっス!」
「ひどい言いようですね」
「アイツ、フェイスレス先輩のファンなんて名乗ってるっスけどやってることは先輩とは完全に真逆。仲間のことを道具としか思ってないっスし、実際に駒なんて呼んでるんスよ。しっかもあいつの部隊に入った奴らの様子も変っスし、噂じゃ人体実験なんてしてるって話っスよ」
「あー.....なるほど」
「先輩はそんなことしないっスもんね!あのクソガキなーにが“僕の方がフェイスレス様のことを知ってる”だ!ただの妄想野郎が!“ウルサススラング”っス!」
「....一先ずは本作戦の司令を担うメフィスト少年たちに合流しま───っ!!」
「何すかこれぇぇぇ!?」
──爆発音
「これは....不味い───いえ、ヤバいですね」
「え?え?え?え?」
遠目でもわかる。
一本の摩天楼が地響きを立てながら崩れゆく。
エンペラーたちが問題を起こして私に処理を押し付けた時、チェンさんに殲滅したマフィアたちの身柄を引き渡す時、ホシグマさんの訓練に無理やり付き合わされた時......そして私たちレユニオンの司令部であり、これから私たちが援軍に向かうはずであった龍門近衛局ビルがたった今文字通り崩壊していた。
これが示す答えはただ一つ。
レユニオンの司令部は崩壊したということ。
「そ、そんな....」
「今だ押せ!押せぇぇ!!」
ただでさえ最悪な戦況はさらに転落の一途を辿る。
最悪だ。
「ヤバいっスよこれ!」
ああ、くそ。
「撤退します。捕まっててください」
「ええ!?助けないでいいんスか!?」
「駒にもならない赤の他人に使う無駄な余力はありません。できることといえばクラウンスレイヤーさんと合流するくらい...」
「あ!誰か向かってくるっスよ!」
「なっ!?」
タチアナさんの指差す方向を振り向けば確かに人影が見えた。それは複数人のレユニオン兵。しかし様子がおかしい。歩きも辿々しく、ふらふらとまるでゾンビ映画とような足取りで向かってきます。そして、その体表には服の上からわかるくらい異常なほど大きな源石結晶......明らかな異常。
そして彼らは─────
「お゛オ゛ア゛ァァァァァァ!!!」
叫びながら襲いかかってきた。
「っ!」
「ひぃぃぃぃぃぃ!?何スか何スか何スか!?」
「くそっ!力が強い....!」
「待って待って!自分たちは仲間っスよ!?ほら!レユニオンの紋章!」
「ごがぁぁぁぁぁぁ!!!」
「いいいいいいいい!?!?!?!?!?」
狂ったように叫びながら襲いかかってくる兵士たち。その力は強く、所属など関係なしにただの民兵上がりである彼らに...いやそもそも人間に出せるような力ではなかった。それこそ私がアーツを起動し身体能力を底上げしなくてはならないほどに。
見覚えがあった。
いつ、どこで、どのような状況で.....
....ありえない....いや、まさか....さんな....ありえない!
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「っ!逃げますよタチアナさん!」
「え!?あ、は──うげ!?」
逃げ回っていたタチアナさんをお米様抱っこの体制で持ち上げ、そのまま走り出す。最悪だ。なぜアレがここにいる?なぜあんなものが今になって出てきた?家族には私のアーツを再度掛け直し、源石の進行を遅らせている筈だ。それもクレアスノダール時代にかけたような“時限爆弾”ではなくしっかりと進行を抑えるだけではなく体内の源石を分解し無力化する働きも付与しているはずだ。だから、アレは彼らではない....はずなんだ。
だが、なぜあんなものが存在する?
「わぁぁぁぁ!?追ってきてるっス!」
「ちっ....」
アレが何にせよ、今は逃げないといけないようだ。
アレは私の傀儡ほど強力ではないにせよ今の私たちでは不利すぎる。
一体何が起こっている?この都市で、レユニオンは、龍門はどうなっているんだ。
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少女の叫びが木霊する。
だが、破壊され尽くしたその地に、少女の叫びに応える者はいない。
悲痛な叫びだけが響き渡る。
静止を呼びかけるおじの声を無視して少女は駆け出した。崩壊した懐かしい景色。笑顔で駆け回った平穏にはもう戻れない。
“お父さん!お母さん!”
そんな少女の鳴き声は届かず、現実はいつも非常にもやってくる。
コツン
そんな音と共に少女はつまずいた。
足元にあるのは真っ黒な二つの謎の塊。
しかしそれは妙に柔らかく、嫌な匂いを放っていた。
少女は震える手でそれを転がした。
ゴロンと転がった“ソレ”は、“ソレ”になる前の名残を残しながら、てにもう一つの、それも少女の弟ほどの大きさの小さな塊の“ソレ”を持ちながら丸まっていた。
もう一つも、転がす。
同じだった。
それらはたがいを抱き合うようにして動かなくなっていた。
手元に小さな“ソレ”と共に下半身の燃え落ちたクマのぬいぐるみを抱きながら。
もう、永遠に動き出すことはないだろう。
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「はぁ、はぁ.....追ってきていますか?」
「はぁはぁ...いえ、撒いたみたいっス....うぷっ」
オロロロロという女の子の出してはいけない音が後ろでしますがそれを気にしている余裕は今の私にはない。
疲れた。本当に。
何時間走った?最低でも3時間は走ったのは確かだ。
幸い龍門の地理に詳しかったおかげでなんとか生き延びることができたが疲労困憊で息が上がっている。
だが同時に確かな成果もあった。
「......死んだやつは?」
「....12人」
「まあ、生き残れた方でしょうね」
幾人かの“駒”を捕まえることに成功した。
何度かの近衛局と化物の襲撃によって数は減ったものの大きな進展だ。残念ながらクラウンスレイヤー達とは合流することは叶わなかったが....
だが安心するのはまだ早い。
先程から視線を感じる。クレアスノダール時代....いやそれよりももっと前、傭兵時代や従軍していた頃に感じた静かな殺意。素人の放つものではない、ほとんど感じることのできないプロのものだ。
近衛局か?いや、彼らの練度は相当のものだがここまでではなかったはず。ではロドスか?あの指揮官が所属する組織にこんな冷徹な視線を向ける事が出来る者がいるとは考えにくい。だとしたら一体.....
「おーい!そこの!レユニオンか!?」
安全だと思っていた路地裏の奥から声が下した。
「っ!敵か!」
「待て待て待て!俺たちもレユニオンだ!俺たちも逃げてきたんだ!」
男が両手を挙げると同時に暗闇の中から複数人のレユニオン達が姿を表します。なるほど....一安心...とはいきませんが仲間ならいいでしょう。
そう言って武器を下ろします。
「助かるぜ......っておい!お前タチアナの嬢ちゃんか!?」
「あ!おっさん!」
「誰がオッサンだ!!そこまで老けてねぇ!」
声をかけてきたレユニオン兵が叫びます。
タチアナさんが知り合いだったのか。まあ確かに私よりもレユニオンにいる年月の長いタチアナさんなら彼らのようないかにも下っ端のような人たちのことを知っていてもおかしくはない。
「はぁ、はぁ、よかったぜ。俺たちは近衛局の連中とメフィストの坊主が作りやがった化け物どもから逃げてきたんだ。だが嬢ちゃんが来たってことは本隊の援軍が来たのか?援軍はどこに....」
「来たっスけど私たちだけっスよ」
「......は?」
「ガチっス」
「おいおいおいおい!?どうなってんだ!つーかあんた誰だ!?」
ビシッと指を刺された。
「....私は───
「フェイスレス先輩っス」
「はぁ!?こいつがファウストの言っていた英雄様かぁ!?........思ったより小さいな」
「あ゛?別にちっさくないですが?まだ大きくなる可能性だってあるかもですし?そもそも大きさが全てじゃないですが?柔らかさだって大切なんですよ?揉んでみます?私結構柔らかいんですよ?ほーらぷにぷにしてますよ?二の腕は乳の柔らかさと言いますが私のは二の腕以上に柔らかいですよ?」
「いや胸の話じゃねぇよ」
「ん〜....しょーじき先輩自分よりも硬いですしちっさいっスね」
「ン....!?」
っ.........本当に揉むとは。やりますね....!!
「.....ふぅ、こちらからも質問させていただきたい。そちらの迷彩服の方々はどちらの部隊の方で?」
「.......俺たちはファウストの部隊だ」
「それで、ファウスト少年はどこに?」
「.....いない」
「は?」
「隊長は俺たちを逃すために...殿になった」
「あーー.....」
なるほど。
そういうことでしたか。
だとしたらその迷彩服を着た男....迷彩服Aに背負われている少年はメフィスト少年か。
相方を失って傷心中といったところでしょうか?
....はぁ、めんどくさい。
実に面倒臭い。
つまり事実上幹部二人がロスト。戦力ダウンもいいところですよ。
はぁ........くそ。どうしましょうか。司令部がやられたことは予想できましたが、二人いると聞いていた幹部格が同時に使い物にならなくなるとは。
しかも“化け物”なんて置き土産を残して。
あんなものを再現できる人がいるとは驚きですが....まあ似たようなことをする人がいてもおかしくはない。制御はできなくとも暴走状態の化け物を作り出すことは頑張れば誰にでもできることです。あれに似たようなことは一定時間生命を維持できるだけの優れた医療技術とアッチ系の薬を持っていればできることですし。
......あーーー、くそ。最悪だ。
当初の予定通りクラウンスレイヤーさんたちと合流しようにもめんどくさくなってきた。
「どうしましょうかね......」
「......ファウストを助けてくれないか?」
「......あ?」
「なあ、お前、英雄なんだろ?だったら助けてくれ。隊長はまだ子供なんだ。それに、こんなところで死んでいい人じゃない」
「....そこに何の得が生じるというのですか?自ら殿を切って出た人を助けに行くなど自殺に等しい。私は家族でもない人に命をかけたくありませんよ?」
「お前.......!」
ソレにもうそのファウスト少年が生きているのかもわからない。そんなもののために命を捨ててくれなんて馬鹿げた願いだ。今は感情よりも損得を大事にすべきだというのに。それに、私の最重要事項は家族を助けること。駒を集めるにしても、わざわざ危険な道を通る必要はないのだから。
「................ねぇ、君、フェイスレスなんでしょ?」
その時、泣き喚いたのか掠れた声で真っ白な少年、メフィスト少年が口を開いた。
「お願いだ....ファウストを、助けてよ....きっと、役に立ってくれる....ソレに、僕はファウストがいないと.......お願いだ....お願いです.....ファウストを....どうか.........先導者様.......どうか.....一人は、嫌だ......」
「......」
はぁ
「そこの迷彩服A」
「はい.........え???」
「ファウストを助ける利点を挙げなさい」
「.......隊長は、優れた部隊の指揮ができます」
「ほう」
「隊長はたとえ重装兵でさえ貫くことのできる強弓を打つことができます」
「ふむ」
「それに....隊長のアーツは自身と仲間を不可視化、少なくとも見えづらくすることができます」
「なるほど.....確かに有用だ」
......仕方ない。
「タチアナさん、少しの間、部隊の指揮を頼みます」
「え!?は、はいっス!」
「そこの貴方、地図を。集合場所はそうですね....確かこの辺りはスラム街に通じる地下通路.......この辺りがいいでしょう」
「っ............すまない」
「謝罪よりもお礼が欲しいのですがね」
「...ありがとう」
「はぁ...私が彼を助けに行くのはあくまでファウスト少年が使えそうだと判断したからです。なので、使えそうになかったら置いていきますからね」
「ありがとう.....」
「.............はぁ....タチアナさん、死ぬつもりはありませんが約束の時間になっても私がこなかった場合はそのままスラム街のクラウンスレイヤー達に合流して撤退してください」
「りょ、了解っス!」
さて、めんどくさいですが、一仕事行くとしましょうか。
新イベキチャーー!!!
今まで謎に包まれていたラテラーノイベ!!
詳しくは言いませんが珍しくハッピーエンド(?)でしたね。
色々謎は残ったしあの髭のおじさまとかアンドアインさんが見たものとかちょっと闇の深そうなものもありましたが。
にしてもキャラがいい!全員が全員しゅき!
てかアンドアインかっこいい!!そこまで苦戦はしませんでしたが格好良さは過去一では!?!?!?(血騎士とか利刃とかブレヒャーネキもいいけど今までのイベボスで一番好きなのはジェスおじ。進化の本質は論外)