脇役になりたくないTS転生者   作:有機栽培茶

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壊心

 

クロスボウに矢をつがえる。

そこに殺意はなく、アーツさえ込められていない。

ただの一本の矢。

 

彼にとっての最期の矢だ。

 

クロスボウを構え、スコープを除く。

 

ガラス越しに広がる戦場に、彼は一人だ。

共に生きてきた半身も、戦う術を教えてくれた仲間達もいない。

だがもういいと。

これで良いのだと。

彼はとっくに疲れ切ってしまっていた。

 

 

多くの近衛局やロドスとメフィストの作り上げた家畜達の向こうに、“ツバメ”を見た。

 

 

ファウストは軽く目を伏せる。

これが最後の舞台だと。

もう、終わってしまいたいと。

 

 

「其れを放つのは今じゃない」

 

 

だが、それは叶わなかった。

 

見上げれば天使がいた。

赤黒く輝く結晶の翼を広げ、夜空にはためいていた。

 

───────────────────────

 

アーツを使用し身体強化。

ビルとビルを跳びファウストを確認した。

状況を確認。

戦場はメフィストの作り上げた家畜と龍門近衛局。

さらにはロドスまでも戦いに投じている。

まさかロドスが既にここまで追いついてきていたとは。予想外だ。本当にまずい状況が続いてばかりだ。

 

だが、問題ない。私の目的はあそこで自殺未遂をしているファウスト少年を助け出すのみ。近衛局とロドスは言わずもがな、家畜達だって私の味方ではない。アレはメフィストとファウスト以外を敵味方関係なしに襲う獣だからだ。

だが、獣も利用次第では駒となる。

あの軍勢を纏めて相手する必要はないのだ。

 

 

だから、まずは先手を打つ。

 

 

 

「剣雨」

 

 

翼のように展開した源石剣を一斉投下。

 

 

「な!アレは!?」

「あの時のワンちゃん!?」

「....来たのか」

 

 

地面に突き刺さる源石剣を通し戦場の把握及び干渉を開始。同時に気配を察知した数体の家畜が襲いくるが、遅い。

配置した源石剣越しの干渉は既に周囲の家畜にまで及び、彼らはその動きを止める。私の傀儡までは行かずとも彼らの大半は源石に蝕まれている。つまり50%傀儡状態のようなものだ。ならばそこに少し手を加えれば、こちらの戦力として操ることも可能。

 

容易い。

 

 

「お前は....」

「君がファウストですね?さぁ、帰りましょう」

「.....メフィストの命令か?」

「ええ。それに、使えるものは使いたいですからね。貴方をここで死なすわけにはいきません」

「断──

「拒否権はありません。彼らに合流した後、じっくりと話しなさい」

 

 

私を睨むように見つめる小柄な少年の目は暗く、確かに疲れ切った目をしていた。まあ、確かにこのような、家畜という化物を作り出す相方を持っていれば、私のかつての仲間のように狂人の精神を持たない限りは大きな負担となるでしょうね。

ですがそのようなことは今の私には関係がない。

 

 

「やあ、さっきぶりだねフェイスレスちゃん」

「.....ちゃん付けはやめていただきたい」

「ごめんごめん。でも今はそれは置いておいて、降参する気はない?」

「あると思いますか?」

「なら君達二人で私たちに勝てるとでも?」

「勝てずとも逃げることはできるでしょう?」

「.....交渉決裂、か」

 

 

その声と共にロドスのドクターは片手を上げ隊員達に何やら指示を出していた。多くのアーツや矢が迫る。だが、無駄だ。

 

 

「傀儡達、私たちを守りなさい」

「お゛、ああ゛.......」

 

 

迫り来る奴らの攻撃は全て私達を庇うようにして現れた傀儡達によって阻まれる。露出されていた生身のほとんどは源石に覆い隠され侵食率も増加している。使える時間は短くなるがその分、即席としても十分と使える程度に強化することが可能になる。

しかしこの程度か。

ならばこの隙に逃げてしまおう。

 

 

「ファウスト、撤退しましょうか」

「おめおめと逃すと思っているのかい?」

「逆に聞きますがこの程度で私を止められるとでも?」

「ふふ、そうだね。でも、君に対する対策を私たちがしていないとでも?」

「なにを─────

 

 

「久しぶりだね。僕の大切な人」

 

 

────がっ!?」

 

 

 

首に鋭い痛みが走った。

同時に人一人分の衝撃。視界が天を向く。

刺された。人の弱点の一つである首を貫かれたのだ。

気を絶するほどの痛み、不快感。

そして身近に感じる死の感覚。

 

 

「コッ...ごぽ....ぐ.......」

「フフ....アハハハハハ!愛しのアルベルト...君を傷つけるのは苦しいけど...それと同じくらい興奮するなぁ.....ハハ、でも君ならこの程度の傷ならすぐに治せるんだろう?」

「ゲホッ......はぁ、はぁ......ラップ、ランド.....」

 

 

源石で傷口を塞ぐと同時に同じく源石で体の回復能力を向上させる。くそっ!この程度の傷って.....確かに!私なら致命傷になり得るダメージを食らったとしても!意識さえあれば生き延びることはできますが!痛いものは痛いのです、よ!

だが....く、痛みが引かない....

 

「ゴホッ....」

 

一気に事態は悪化した。

今のでわかった。なぜここにペンギン急便でもロドスでもない彼女がいるのか。それは考える必要はない。それよりも重要なのはラップランドがかなりの腕前だということ。私一人で対処するのは厳しい。それに...私に、家族同然の彼女を傷つけることはできない......否、彼女たち、か。

 

 

「テキサス....」

「.......兄さん。次は、逃がさない」

 

 

本当に....ついていない。

 

 

「ファウスト!貴方は一人で撤退しなさい!私の傀儡たちが援護する!」

「俺はここに残──」

「貴方が戻らなければ皆死ぬぞ!メフィストも、貴方の仲間もみんな助からない!それでもまだ死にたいというのなら一度彼らと話し合ってから死ね!」

「っ...!」

 

「うじうじするな!さっさと行け!」

 

「....わかった...!」

 

 

姿は見えませんが後ろから聞こえる足音が遠ざかっていくのがわかります。やっといきましたか。

ですが問題はまだ解決したわけではない。

そして、私は目の前の二人に勝てるかどうか.....

否、無理でしょうね。

私はここで死ぬか、彼女らの奴隷になるか...

 

 

「ふふふ...逃がさないよ?僕のアルベルト」

「...ラップランド、今は兄さんを捕まえるために仕方なく手を貸してやっているが、兄さんは私だけのものだ。私だけの家族だ。お前のじゃない」

 

 

そんなの、どちらもお断りだ。

 

 

「傀儡ども!私を援護──

「させないよ」

「ぐっ!」

「君のあのおもちゃ達はいちいち指示を出さないと動かないみたいだ」

「なら....兄さんが命令を出す前に倒せば良いだけのこと」

 

 

黒と白の連撃が容赦無く私を追い詰める。

一撃防げばもう一撃。上下上下左右中央。

源石で左腕を形作り、さらに大気中の源石を活性化させて作り上げた塊で防いでゆくも、次第に加速してゆくそれに手数が足りなくなってゆく。

 

そして、限界は訪れる。

 

 

「っ!」

 

 

方に一撃。ラップランドの剣先が傷を作った。

赤い鮮血が噴き出す切り口にラップランドは上気した笑い声をあげ、テキサスは顔を歪める。確かに痛い。そして許容量を超える痛みは隙につながる。だが、この程度の痛みは神経の麻痺した私にとってないに等しい。だから気に留めず剣を奮おうとして────

 

 

 

『お前のせいだ』

 

 

 

背筋が凍った。

“お前が殺したんだ”そんな憎悪の声が耳元で聞こえてきた。

 

 

「あ、あ、ああああ!!!???」

 

 

頭を抱える。聞こえる。耳を塞ぐ。聞こえる。

声は止まない。

お前のせいだ。お前のせいで死んだ。みんな殺された。お前が殺したんだ。死んでしまえばいい。

聞き覚えのある声が耳元で何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返される。

その隙に源石製の左腕を砕かれ、右腕を斬り飛ばされ、地面に押さえつけられようと気にする余裕すらなかった。

自身の落とす影から手が伸びる。それは赤く爛れ、黒く輝く源石に包まれ、骨が見えた。それらは全て等しく私を掴み、離さない。

爪がめりこみ感じるはずのない痛みが生じた。

 

『お前のせいで息子は死んだ』

『お前のせいで家族は死んだ』

『お前のせいで罪なき人が死んだ』

『お前のせいで弟が死んだ』

『お前のせいで仲間が死んだ』

 

『お前のせいで、私は一人になった』

 

悪夢だ。

涙が溢れて震えも止まらない。

やめてくれ、助けてくれと叫んでも届くはずがない。

 

「違う、違う違う!私じゃ!私じゃない!」

 

お前以外に誰がいる。

 

「違う...私じゃ、ない...誰かが....私にやれって....だか、ら...わた、しの....意志じゃ.....?............あ」

 

気づいた。

 

『人形め』

『意志なき人形め、初めは父に囚われ、社会に囚われ、家族に囚われ、終いには自分自身にも囚われた意志なき人形め』

『罪を受け入れるという自身の言葉すら守れぬお前に果たして意志なんてものがあるのか?お前は空っぽなんだよ』

『初めから何もない、空っぽだ』

 

嫌だ。聞きたくない。やめろ。やめてくれ。

 

「あ、ああぁぁぁぁ....」

 

「....アーツか」

「そうだよ。ここまで効くなんて思ってなかったけど....ハハ、可愛いなぁ」

「ラップランド?」

 

 

譫言のように声を漏らしながら彼女の瞳孔は拡大と縮小を繰り返し涙は滝のように溢れ出す。汗や唾液、その他諸々を体全身から垂れ流す。そんな無様な姿でうずくまる彼女をラップランドは抱きしめた。

 

 

「な!?ラップランド貴様....!」

「まあみてなよテキサス」

 

「ぁ...え.....?」

「大丈夫かい?僕の大切なアルベルト」

「っ!....あ、あ、あ、あ.....!」

 

 

その瞬間彼女はさらに怯えたように震え出し、ラップランドから逃れようと抵抗しようとするが振り回そうとした両手は既になく、徐々に徐々に両者の体は密着してゆく。

漏れ出る声は次第に大きくなり悲鳴に変わる。まるで目の前の少女が恐ろしくてたまらないというように。

 

 

「嫌だ、来ないで、やだ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「大丈夫、大丈夫だよアルベルト....僕は君を傷つけない」

「はぁはぁはぁはぁ.....!はな...して....」

「やだよ?だって君、そうやってまた僕を置いていくつもりなんでしょ?」

「っ....ち、ちが」

「違くないでしょ?だって君が違うって言ったって、君じゃない“君”が僕を置いていくんだ」

「な....!なんで......」

「君のことは何でも知ってるってことさ。君がどうしようもない悪人で、嘘つきで、そしてただの人形だってこともね」

「..........ころ...して...」

「ダメ.......ねえ一緒に逃げちゃわない?」

「え......?」

「罪も、使命も、家族も全部忘れちゃってさ。僕と二人で逃げちゃお?」

「ラップランド!!」

「テキサスは黙ってて!」

 

 

割り込もうとしたテキサスに向けてラップランドの叱責が飛ぶ。だがそれにテキサスは言い返すことはせず、顔を顰めて踏みとどまる。ラップランドの一度心を折ってから希望を与えるというのは相手に自分の意見を聞かせる際に非常に有効な手段だ。おそらく普段の彼女には何を言っても通じないし、また逃げられてしまうのは明白だ。そしてラップランドは自分よりもその手口に長けている。だから今は黙って見ておくべきだと思ったのだ。“家族を忘れて”という発言は聞き捨てならなかったがそこは兄のことを信じることにした。ほんの少し不安に感じ、ラップランドに向けて源石剣を今にも振り下ろそうになっても、彼女は兄を信じて踏みとどまっていた。

 

 

「ね?そうしよ?君の吊り手だって握ってあげる。僕が操ってあげるから。一緒に逃げよ?あのファウストって子も、レティシアって子も、リュドミラって子も、レユニオンもロドスも全部、全部全部捨てちゃお?」

 

「........ラップ......ラン....ド」

 

 

 

 

「ことわり.....ます」

 

 

 

「──────え?」

 

 

いけない。

テキサスは収めた源石剣を再抜刀して立ち上がる。

 

 

「私は....いけない。まだ、ダメだ。私にはまだやることがある」

「何で!?そんなこと全部忘れて逃げちゃおうよ!」

 

「駄目なんです!これは!私が初めて“自分”の意思で!後悔しないための選択をした!私がやっと、やっと見つけた私の意思だ!それを捨ててしまったら!私は人形ですらなくなってしまう!」

 

「ラップランドどけ!」

 

「悪人だ?クズだ?最低だ?事故中心的だ?何とでもいえばいい!私は私のやりたいことをやる!」

 

「兄さん!」

 

「これが私だッ‼︎」

 

 

結晶の花が咲いた。

地面も瓦礫も家畜達も、全てが源石の結晶に飲まれてゆく。

兄を呼ぶ悲痛な声も遮られ消えてゆく。

全てを飲み込みながら巨大な花々花は咲き誇り、砕け散る。

結晶の欠片が舞う幻想的な風景の中、後に残ったのは砕け散った家畜の残骸と、置いて行かれた少女二人。

 

彼女の姿はどこにもなかった。




アルちゃん
SAN値減少、尊厳ちょい破壊!
腕一本を原作改変の代償として消費!
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