脇役になりたくないTS転生者   作:有機栽培茶

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変な時間に投稿
テキサスが尊すぎて辛い(pixivを開きながら)


一刺し

 

 一歩踏み出すごとに背中から全身に響き渡る耐え難い痛み。スノーデビルの彼から伝わるはずの体温も何も感じず、手足の末端の感覚もなくなり動かせるかどうかも怪しいほど明らかな重症だ。

 

 でも不思議と意識だけははっきりとしていて、まだ私が戦えるということを示していた。

 

 

「あと少しだ!意識をはっきり持て!」

「……大、丈夫ですよ…」

 

 

 霞む視界で捉えた街並みは暗い。ああ、そういえば龍門に比べてクレアスノダールは明るかった。そこらじゅうに火が立って、みんな笑って、狂気と、そして希望に満ち溢れてた。直ぐに消えてしまったけれど。

 

 ……火は、初めから灯されていなかったら消えることはない。あの時は私がこの手で消してしまったけれど、きっとあのままでも未来はなかった。もっと大きな、別の光に潰されていたはず。

 

 レユニオンも同じなんだ。チェルノボーグであげた光が、今龍門で消えようとしている。夏の夜の線香花火の様に、一瞬輝いて、消えていく。本当に、一瞬だけなんだよ。

 

 

「見えた!おーい!クラウンスレイヤー!」

「っ!無事だったのか!」

「先輩!無事──じゃないっスね!?急いでくださいっス!治療するっス!」

 

 

 暖かい。リュドミラ達の声がする。無事だったんだ。よかった。

 

 

「アルベルト!」

「りゅ…ド、ミラ…よかった」

「喋るな!もう、無理するな…お願いだから…」

「……まだ」

「せ、先輩!?動いちゃダメっスよ!?」

「動くな!傷が開く!」

「まだ…やらなきゃ…動くなら、今しかない」

 

 

 早く行かなきゃいけない。スラム街下層部の脱出口はもう少しだ。そして追手の黒笠達も追いかけてきてるだろう。ロドスも近衛局だってそうだった。まだフロストノヴァと言う切り札もあるができれば切りたくない。あと使える手札は…

 

 

「フェイスレス」

「…ファウスト、戻ってきたんですね」

「……ああ、この有様だからな」

 

 

 チラリと横目で彼らを見ればファウストにくっついて離れないメフィストの姿が見れた…はは、可愛いところもあるじゃないか。

 

 

「ファウスト、アーツは使えるか?」

「ああ…少しだけなら」

「それでいい。みんなを連れて龍門を脱出しろ。私が殿を務める」

「な!?」

「アルベルト!?何を言っている!?」

 

 

 これが一番生き残る確率が高い作戦だ。

 

 

「私はもうすぐ死ぬ」

「……え?」

 

 

 これは絶対だ。

 

 アーツを使いすぎた。多分タチアナさんのアーツも誤魔化し程度にしかならない。私はあと数時間で死ぬ。

 

 

「…嘘だ」

「……」

「お前は…そんな簡単に死ぬ様な人間じゃないだろ!?」

「…私も死ぬよ」

「……嫌だ…そんなわけない!そんな!そんなこと…!」

 

「……仇を打ちたかったのですか?もっと私が苦しむ様を見たかったのですか?なら、今この場で私を殺してください。あの黒笠達に殺されたり源石に飲まれるよりずっと──

 

「違う!!」

 

「私は…お前に死んでほしくない」

「は……え?」

 

 

「…私は、お前のことが嫌いだ。お前は私たちの信頼を裏切って、みんなを殺した仇だ。でも、でも!お前は私の、私たちのヒーローなんだ!」

「……は?」

「あの寒いウルサスの雪原でお前が私を拾ってくれなかったら、私はとっくに死んでいた!今ここにいるみんなも、死んでいった奴らもそうだ!お前が手を差し伸べてくれなかったらみんなとっくに死んでいた!」

「そ、それは」

「それだけじゃない!家族も、友達も、頼れる大人も………何もなかった私に、手を差し伸べて与えてくれたのはお前だけだった。もう一度、私の目を見て私の名前を呼んでくれたのはお前だけだった」

「そんなこと…」

「そんなことじゃない!じゃないんだ……だから…」

「………ごめん」

 

 

 …こう言う時、なんて返せばいいのだろう。わからない。逃げてばっかりの私には、わからない。

 

 嘘でも生きて戻るといえばいいのか。それともはっきり無理だって言った方がいいのか。そもそも私には彼女の考えがわからない。確かに助けた。確かに与えた。でもそれだけだ。それに、最後には全部奪っていったんだから。

 

 だから、私は彼女に謝ることしかできなかった。

 

 

「……すまない、少し…取り乱した」

 

 

 …本当に難しいな。人と向き合うって言うのは。

 

 

「フロストノヴァ、部隊の指揮をお願いしてもよろしいですか?」

「ああ、構わないが…いいのか?」

「…ええ、今は時間がないから…」

 

 

 嘘じゃない。

 

 

「…地図ってあったりしますか?」

「ああ、ここに」

「ありがとうございます」

 

 

 地図を見ながら脱出経路を考える。現在位置はスラム街の地下に位置する廃棄された搬入口へ続く通路の入り口。ここを通っていけば一直線に龍門外へ脱出することができる。クラウンスレイヤー達も作戦通りならここを通って龍門へ侵入してきたはずだ。つまり脱出までの経路は把握済み。あとはこの通路を走っていけば逃げられる。その後はここまで乗ってきた車両でチェルノボーグへ───────

 

 

 

 いや。まて。おかしい。違和感を感じる。

 

 

 

「フロストノヴァ、時計を」

「あ、ああ」

 

 

 そうだ、もう時間だ。彼ら、後方部隊でタルラ達援軍がきていてもおかしくない時間なんだ。だが、どうだ?その気配すらないじゃないか。何かトラブルがあったのか?まさか龍門の別働部隊が──いや彼らにこれ以上の戦力があってたまるか。ならなんだ?他に理由が?作戦の変更?まさか見捨てられた?十分ありえる。アレは目的のためなら仲間だろうと捨てる様な目だった。私と同類。何らかの目的のために私たちを捨て駒にしてもおかしくはない。

 

 だが、その目的とは何だ?彼女の目的が龍門の陥落だとすると今この場で攻め込まない理由がない。私たちの部隊は壊滅状態だがメフィストの放った家畜もほぼ駆逐され、近衛局にだって多少はダメージが入っているこの時こそ絶好の機会だ。なら他に目的があるのか?龍門陥落が目的ではない?

 

 …私だったらどうする?私だったらどう言う理由からこの様な行動に至る?

 

 見捨てなければならない事態が発生した?否。それならフロストノヴァやメフィストなどの幹部格へ即時撤退命令が出るはずだ。でなくとも連絡の一つくらいあるはず。では、逆に見捨てること事態が目的だとしたら?私たちを排除することが目的だとしたら───

 

 

『確か、アイツの影が()()見える...だったかしら?』

 

 

 Wの語ったイネスの言葉。そしてもう一つ。

 そう、アレは血に濡れたウルサスの雪原でウルサスの闇に私の知る中で最も近づいた男の話。

 

 

『なあルクス、こんな噂を知ってるか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………不死の黒へ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメっスよ?先輩」

 

 スパっという気持ちのいい音と一緒に視界に赤い噴水が映った。

 

「ぁ、かっ」

 

 それの発生源は私の喉元で、怒り、恐怖などよりも先に私が思い浮かべたのは驚きだった。意外に思った。私にまだこんな綺麗な赤色をした血が流れていたんだと。多分脳へ向かう血液にかけられたアーツの浄化作用がまだ健在だったんだろうな、と。

 

 ふらつく足取りに追い打ちをかけるように腹を蹴られ地面に体が叩きつけられる。

 

 

「立ってくださいよ先輩。あんたそんくらいじゃまだ死なないでしょ」

 

 

 噴き出す血飛沫を手で抑えるようにして源石で傷口を塞ぐ。しかし失った血は戻らない。視界が霞み眩暈がする。

 

 

「フェイスレス!!」

「おっと〜、大切な人がこれ以上傷つけられたくなかったら動かないでくださいっすよ。手が滑っちゃうかもしれないっすから」

 

 

 膝をついた状態で頭を上から足で地面に押し付けられる。ピリッとした痛みがあったため口の中を切ったのかもしれないが、口内いっぱいの体液でわからない。解るのはただ、一瞬見えた彼女の顔が弧を描いていたことくらい。

 

 

「センパァーイ…いや殺人鬼フェイスレス!自分は我慢したんすよ?ずっとずっとずぅぅぅぅっと、あんたを殺したくて仕方がなかったのに、パパとママと弟を殺したあんたを殺したくて殺したくて仕方がなかったのに自分はちゃんと彼の方の命令を守って耐えてたんすよ?偉いっすよね!?褒めてもらえるっすよね!?」

「ゴボッ…」

「彼の方はお優しいことにアンタのことを利用価値のある駒として最期まで使ってあげる予定だって見たいっすよ?なのにアンタが余計なこと言うから……あ!でもそのおかげで殺せるんだから結果オーライっすね?」

「タチ…アナ…」

「喋らないでくださいっす。手が滑っちゃう」

「っ…」

「アルベルト!」

 

 

 赤黒い血が漏れ出る。

 これは綺麗じゃないな。そんな場違いな感想が頭に浮かんだ。

 

 

「…反応薄いっすね。つまんないっす…あ!そうだ!いいこと思いついた!おい、そこの。クラウンスレイヤーお前だよこっち来い」

「なにを…」

「先輩の反応が薄すぎるせいでつまらないんで!代わりにまずコイツを殺すことにするっす!」

「貴様…!」

「お前も自分の故郷をめちゃくちゃにした奴らの一人なんすから、しょうがないっすよね。精々苦しんで死ね…………あ?」

 

 

 

 それ以上は許せない。

 

 

「あ゛ぎゃぁぁぁぁあ!?!?!?!?!?」

 

 

 クレアスノダール事変。それはあまりにも多くの命を奪いすぎた。私は家族を裏切り、その都市に居るほぼ全員を皆殺しにした。しかしその1番の被害者は非感染者、その都市で平和を謳歌していたものたちだ。彼らは一概に無実の善人とはいえないものの、その多くは手が血に汚れていないただの一般人だった。そんな彼らの平和を、私たちはこの手で壊してしまった。故に、その被害者であろうタチアナさんの断罪は正当なものであり、私が受け入れるべき罪だ。

 

 でも、ダメだ。今私が死ぬわけにはいかないし、何より家族に手を出すのを黙って見ているわけにはいかなかった。

 

 私は、黙って自分の罪を受け入れることのできるような善人ではなかった。

 

 

「やめろっ!いやだ!やだ!源石が、剥がれてよ!こないで!僕はアイツらみたいな薄汚い感染者にはなりたくない!」

「……タチアナ」

「っ!……見下すなよ感染者が!殺人鬼が!テメェらが居るからみんな死んだ!テメェらのせいで僕は一人ぼっちになったんだ!…クソがァァァァ!そんな目で僕を見るなァァァァ!死んじゃえ!死んじゃえ!お前らなんかさっさと源石に飲まれて死んじまえ!」

「……」

「死んでよ!早く死んでよ!罪がどうとか言ってさぁ!アンタは私たちのことを見もしなかった!加害者同士で傷を舐め合いやがってよぉ!気持ち悪いんだよ!少しでも悪いと思う心があるんならさっさと死んでよ!」

「…ああ、そうだな」

 

 

 全くもってその通りだ。だから──

 

 

「選択肢をやる。貴方の知っている情報を吐いて“人間”として死ぬか、そのまま“感染者”として死ぬか。好きな方を選べ」

 

「っ!!!」

 

 

 貴方の言う通り私達は全員罪人だ。感染者、非感染者だからではなく、“殺人”と言う罪を犯したのだから。でも、あいにく私の善悪の基準は違う。

 

 “家族”を傷つけたか否か。今の私にとって、それ以外はどうでもいいんだ。昔の中途半端なままの私だったらどうか知らないがな。

 

 

「…クソ!クソクソクソ!」

「どうする?」

「……そんなの決まってんだろ」

 

 

 

 

 

 

   “死んじまえクソ野郎ども。”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 源石で傷口を塞ぐ。この程度の傷どうってことはない。どうせもうロクに使わない内臓が傷ついたって無問題だ。

 

 

「大丈夫か?」

「………」

 

 

 弧を描いた不気味な、すごく見覚えのある顔が地面を転がりながら私を見つめてくる。まあ、そうですよね…当たり前だ。貴方はタルラが私につけた見張りだ。初めからわかっていたじゃないか。

 

 はぁ………

 

 

 

きっついなぁ

 

 

 

 

「メフィスト」

「っ!」

「いつまでもファウスト少年にくっついていないで、早く回復アーツをよこしなさい」

「で、でも僕のアーツは」

「貴方が命じなければ変異はしないのでしょう?なんなら家畜にしてしまっても構いませんよ。どうせこの身は後少しで使い物にならなくなる。貴方の家畜が私以上に役立つと言うならそれもいいでしょう」

「わ、わかったよ…」

 

 

 タチアナの回復アーツほどではないが体が楽になった。

 

 

「フ、フェイスレス」

「なんですか」

「そ、その……ありがとう」

「…それは私ではなくファウストに言いなさい」

 

 

 さて、

 

 

「作戦変更。フロストノヴァ、チェルノボーグへは向かってはいけません」

「…なぜだ?」

 

 

 正直、まだ確証はない。酒飲みの英雄が言った言葉や故人の得体の知れないアーツで知り得た情報など言っても普通なら信じない。けれどタチアナのおかげでこの場を押し通すだけの説得力は得られた。

 

 

「不死の黒蛇という言葉を知っていますか?」

「…いや、知らないな」

「そうですか。まあ、それ事態私も信じ難いことなのですが……何でも奴は遥か昔から他者の肉体に宿りウルサスを守り続けてきた化け物…」

「……」

「…まあ、つまり今のタルラは貴方たちの知る『感染者の味方』ではないということです。私の予想が正しいのであれば、貴方たちの知る彼女はもういない」

「な!?そんな!タルラ姉さんが?ありえな──」

「なるほどな」

「フロストノヴァ!?」

 

 

 メフィストやタルラに付き従っていたものたちが驚愕し信じられないと言った表情をする中、フロストノヴァだけは静かに納得した様子だった。リュドミラは…わからない。

 

 

「確かにタルラはある日を境に人が変わった様に私たちに対する接し方が変わった。信じ難い内容だが……その女の反応から信じてみる価値はあるだろうな」

「感謝します」

「…ならどうするんだ?チェルノボーグに戻れないとなれば私たちが行ける場所は…」

「ロドスです」

 

 

 息を呑む音が聞こえた。

 …簡単に受け入れられるとは思っていない。ロドスはレユニオンの敵で、多くの同胞を殺されている。そんな敵に助けを求めるなど簡単に決められることではないし、彼らはロドスを信じることができないだろう。

 

 

「…ロドスは確かにレユニオンの敵だ。だが彼らは同時に感染者の味方なんだ。彼らの指揮官のドクターという人物は信頼できる。彼らは私たちがちゃんと助けを求めれば助けてくれるはず…」

 

 

 ロドスがどの様な組織か。彼らがどれほど信頼できるかを語る。彼らとはほんの少しだけ言葉を交わしただけだったがそれだけでわかるほど彼らはわかりやすい善人だった。中でも共に酒を飲んだ(飲まされた)ブレイズさんや救出対象であったドクターなどは信頼できる。だからそう彼らを説得しようとするが……どうも反応がおかしい。

 

 

「わかっていたよ」

 

 

 メフィストが小さく言葉を溢す。

 

 

「僕たちが悪者だってことも。ロドスの奴らが言ってることが正しいってことも。でもどうすればよかったの?ただ黙ってあいつらに殴られていればよかったの?あいつらのいうことを聞き続ければよかったの?」

「メフィスト…」

「……ごめん。君にいうことじゃなかった…でも、これだけは証明してほしい。ロドスは本当に信用できるの?」

 

 

 メフィストのその言葉にファウストやクラウンスレイヤー、フロストノヴァさえも同意の意を示す。当たり前か。さっきまで殺し殺されの関係だった奴らにいきなり助けてなんて言って素直に助けてくれるなんて誰が信じられる?

 

 だが、私ははっきりと断言できた。

 

 

「ロドスの指揮官は感染者ならばレユニオンだろうが助けるべきだと言っていた」

 

「……だが、スカルシュレッダーとミーシャは…」

「生きていますよ」

「………は?」

 

 

 フロストノヴァもなかなかいい反応をしてくれる。

 

 

「彼らは生きています。私が知人の伝でロドスに逃しました。ドクターから証拠も見せてもらっています」

「な、なぜそんなことを?」

「彼彼女らの目的非感染者への復讐でも感染者の自由でもなく、姉弟の幸せ。これ以上レユニオンにいたんじゃ叶わない夢だとは思いませんか?」

「それはそうだが…なぜもっと早く言わなかったんだ」

 

「だって貴方達信じないでしょう?ロドスがそんなことするはずない〜って」

「うっ…」

 

 

 ほら、やっぱり図星じゃないか。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 夜明けはもうすぐそばだ。

 日は上り、戦果は戦火。

 その後に待つのは平穏か、それともさらなる地獄か。私にはわからない。ただ家族が幸せに暮らせることを願うしかできない。

 

 

 

 私が日の出を見ることは叶わないのだから。




そういえばロドスって当たり前のようにいろんな国の人がいますけど言語ってどうなってるんでしょうね。英語みたいな共通言語とかあったりするのかな


ちなみに次回で本編(クレアスノダールからチェルノボーグ)完結です(小声)


コメントで色々いただきましたがこの後も続くかもです。煩わしい書き方をしてしまい申し訳ありません。
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