報告書
『チェルノボーグ事変』
“レユニオン”と呼ばれる感染者集団によって引き起こされた、ウルサス政府によって闇に葬り去られた『クレアスノダール事変』以降最大規模の感染者の暴動は龍門、そしてロドスの協力のもと多数の死傷者、行方不明者、建物被害を出しながらも主犯格とされる『タルラ』の捕縛。そしてウルサスの地において“感染者を扇動し暴動を促した”という罪で指名手配されていた政治犯『フェイスレス』の捕縛、処刑によって幕を閉じることとなった。
「めでたしめでたし」
「……」
「お茶いる?」
「…いいえ」
感染者の英雄フェイスレス
かの大罪人は暗闇に迷う感染者達を導く希望の火だったという。だが感染者達にとってそれが希望であるのはその一瞬だけで、いずれは近づきすぎて燃え尽きてしまう。
結果、感染者は危険だというイメージが世間一般的なものとなり、より一層感染者に対する差別は激化することになるかもしれない。感染者はより苦しい生活を送ることになるかもしれない。
だが、私は彼らや、彼らの選択を一概に悪だと、間違いだったと断じることはできないように思う。私達ロドスのように感染者でありながら一定の地位を確保した者達は非感染者に歩み寄り、時間をかけてでも差別をなくしていこうという、言って仕舞えば気長な考え方ができる。だが、レユニオンのように差別され厳しい生活を余儀なくされていた彼らにその選択肢はなく、暴動という道しか選べなかったのだから。
そして、それを選ばせてしまった私たちにも罪はあるのだから。
だからこそ、私達ロドスが結果起こる悲劇を防がなければならないのだ。
「それはそうと今度一緒に“フェイスレス”の墓参りにでも行くか?」
「とんだ茶番劇ですねドクター。空っぽの棺桶が埋めてあるだけでしょう。そもそもアレは私───」
「シー!言っちゃダメだって!」
「むぐっ!?む、が…セクハラですよ!?」
ケラケラと私は笑う。それを相変わらず彼女は不満げな表情で見つめていた。
「はぁ……それで、どうして私を助けたんですか?」
「え?死にたかった?」
「い、いえ…そういうわけではないですよ。ただ、あんな別れ方をしてやっぱ生き残っちゃったなんて……」
「おかしいな…あの時確かに『やだー私はまだ死にたくないー』って声が聞こえたんだけどな?」
「んなっ!?」
「まあ嘘だけど……あれ?ほんとだった?」
「ッッッ〜〜〜!!!は、話を逸らさないでください!」
彼女は顔を真っ赤にして叫ぶ。そんな彼女の肌はあの時みたいに死人のような青白い者ではなく、しっかりと血の通った健康的な色をしていた。
「そもそも…どうやってあの状態から助けたんですか」
「ロドスの医療技術は世界一!!!」
「は、はぁ…」
「確か君を助けた理由だっけ?」
「そうですけど」
これだよこれ、と一枚の紙を前に出す。
「入職手続き書?」
「そう。君にはロドスに入ってもらいます。ちなみに拒否権はありません」
「ペンギン急便は…」
「あんな事件起こして居れるわけないでしょ。ウェイさん達は今回のこと知ってるし」
「……ところでこれ、給料の欄がおかしいのですが…」
「ん?ああ、しばらくないよ。借金に当てさせてもらうから」
「え?借金?」
「yesシャキーン」
まず指を一本立てて手術代。次に龍門ビル2軒の弁償代に破壊した地下施設の弁償代に、近衛局への慰謝料と、私のおやつ代と、君の新しい義手代と………
スラスラと目の前の不審者が呪文を詠唱していくのを、彼女は見ていることしかできなかった。
1本、2本、3本、4本と指が立てられ、両手の指だけでは足りなくなって折り返し、また折り返し、幾度かその動作が繰り返された後、ついに術式は解放される────!
「んー、はい。これ君の借金総額ね」
「はぇ?」
0が1、2、3、4、5、6、7、8…………
「きゅう…」
彼女は再び眠りにつくこととなった。
脇役になりたくないTS転生者《終》
本編無事完結。
皆様ここまで読んでくださり誠にありがとうございました。