脇役になりたくないTS転生者   作:有機栽培茶

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久しぶりです。
以前の投稿が満足する作品に仕上がらなかったので再投稿です。



DC-4【キルゾーン】戦闘後

 正義と悪。

 人はこの二つの勢力を作りたがるものだ。

 そうやって、明確な敵を作り出したがるものなのだと。

 そうやって、自身の正しさを証明したいのだと。

 私は考えている。

 

 敵であれば虐めても良い。

 敵であれば迫害しても良い。

 敵であれば殺しても良い。

 敵であれば排除しても良い。

 

 自らの行動を正当化する理由……そう、免罪符を作り出すため、人々は二分する。これは人々の作り出した創作物にもいえることだ。

 

 魔王と勇者。

 悪魔と天使。

 悪の組織に正義のヒーロー。

 

 前者は誰もが『悪』と認識する様なもので、後者はそれを打倒する明確な『正義』。悪と正義が白と黒の様にはっきりと分かれている。

 

 

 

 しかし現実は複雑で、正義に対する明確な悪を作り出すことは難しい。

 そもそも正義と悪という単純な構造は存在しないのだ。

 それぞれにそれぞれの正義があり、悪がある。

 

 魔王が正義になるかもしれないし、天使と悪魔が共に笑い合うかもしれない。悪の組織がヒーローから市民を守るかもしれない。

 

 現実では絶対的な悪や正義は存在しない。

 それらの認識は観察する者の立場によって変化するものだ。

 

 それは、このウルサスに蔓延る感染者差別にもいえることだったのだと、私はようやく気づくことができた。

 

 

 

 

 ある人は言った。

 感染者は悪であり、非感染者は正義である──と。

 いかに優れた人間性を持っていようと、その身が源石に犯されている時点でそれは明確な悪である──と。

 

……

………そんなこと、誰が決めたのだろうか。

 

 

 私はずっと疑問に思っていた。

 感染者を差別することは正義なのか。

 私のやっていることは正しいのか。

 感染者というだけで人権が剥奪されるこの世界は正しいのか。

 

 

『感染者は悪だ。慈悲をかけるな。たとえそれが家族だろうとな。』

 

 

 その疑問は自分の息子が発症し、家が静かになったあの日。確信に変わった。

 

 

『貴方は正しい。間違っているのは世界の方です。』

 

 

 だから、私は立ち上がった。

 この体が源石に汚れて無かろうと、私は私が正しいと思ったことをするだけだ。

 

 

 

 

 

「な……」

 

 

 

 再び光の灯された工場内に真っ赤な池が形作られた。

 背中から伝わる熱と、込み上げる赤い液体。

 強烈な胸の痛みに耐えきれず、池に身を沈めながらベール副隊長は、目の前の人物を睨みつける。

 

 

「て、めぇ…」

 

 

 手に握られた軍刀は赤黒くひかり、彼の一部が先端から滴っていた。

 彼を見下す冷え切った瞳は、とても仲間へ向けるような物とは思えない。

 

 そこに籠るは怒りと憎しみ。

 

 裏切ったのか。

 霞む視界の中、ベール副隊長は力の限り彼女を睨みつけた。

 

 それを、彼女はまるで道端に捨てられたゴミの様に蹴り上げた。

 

 

「まったく、クラウンスレイヤーにも困ったものだ。この屑共は私が殺すと言ったのに。私はずっとこの瞬間を待っていたんだ。ずっと、ずっと、ずっと。貴様が私のアイン(息子)の、その命を奪ったあの日からッ!!!!」

「なに…を…っ」

「聞こえないなあ!!もっとはっきり喋れよ!!」

 

 

 軍靴が脇腹に突き刺さり、血の塊が喉から吐き出される。

 紡ごうとした言葉は痛みにかき消された。

 

 

「副隊長!!」

 

 

 副隊長を助けようと動いた彼の行動は正しい物だった。

 しかし、彼は少し視界が狭すぎた。

 周りを囲む武装集団と、その手に握られた凶器に気付くことができなかったのだから。

 

 

「かッ!?」

 

 

 頭部に打ち込まれたボルトは正確に彼の脳を貫き、痛みを感じさせる暇もなく死を与えた。

 

 

「動くな」

 

 

 熱を感じさせないその声は静寂の中いやに響いた。

 

 

「……裏切ったのかお前」

「裏切ってなどいない。悪いな客人。私は初めから感染者の味方だ」

 

 

 両手を上げ膝をついた。

 もはや戦意の残った者などいなかった。

 わずかに残った心の支えも、砕け散り跡形もなくなった。

 立てるものは、もう居ない。

 

 

「私や他班の生き残りは私の思想に、いや。先導者の意思に共感を持った者たちだ。我らは我らの考える正義を成すだけだ。そうでしょう?我らが先導者よ」

 

 

 そう、彼女が手を伸ばした先は───

 

 

「はぁ……ネタバラシが早すぎませんかねえ。貴方、よくつまらないって言われません?」

 

 

 彼は頭を掻きながら、仕方がないと言ったように苦笑を顔に浮かべ1人前へ進み出る。

 

 体型を誤魔化せるほど分厚い防寒具を脱ぎ捨てた彼、いや彼女は白いワイシャツにサスペンダーを付け、そのまくられた右腕には真っ黒な源石と、そして、他の暴徒たち同様に腕章がはまっていた。

 

 

「と、言うわけで。皆様、改めてこんにちは。私は先導者faceless。この革命の指導者にして、感染者に自由と幸福を与える者です」

 

 

 彼女、facelessはまるで騙されていた我々を嘲笑うが如く、丁寧なお辞儀と共に笑みを浮かべた。

 

 しかしその行為に怒りを露わにする者はいない。

 今までの全てが嘘だったと知り、演技だったと知り、武器を落とし、膝を折り、諦めたような視線を送るだけだ。

 

 もはや彼らには裏切りへの怒りを浮かべるだけの余力すら残されていなかった。

 

 

「おや、思ったより反応が薄いですね。」

「……なるほどな。どうやってあの地下通路に暴徒どもが入り込んできたのか、そもそもどうしてあんな複雑な地下通路で俺らがお前ら駐屯軍に合流できたのか、やっとわかったぜ。」

 

 

 ありえるはずのない地下通路での会敵に、都合よく潜伏中の軍の生き残ると合流出来たこと。そもそもの話、エンペラーのファンだと言って近づいてきたことすら計算のうちだったのかもしれない。

 

 はぁ、苦しかった、と彼女は熊耳のついたキャスケットと共に赤色のウィッグを髪から外す。

 

 

「久しぶりですね、エンペラー。」

「……ああ、そうだな。」

 

 

 そこから現れたのは夜空を詰め込んだ様な黒髪に、明らかにウルサスのものではないピンとした狼の耳。

 

 まさに隣で目を見開き、彼女を見つめる部下の姿と瓜二つの背格好だった。

 

 

「アルハイム」

 

 

 かつての良客。

 そして自分の部下、彼女の妹であるテキサスを逃すために燃え上がり崩れ落ちゆく屋敷の中に消えていった懐かしい、しかし死んだはずの女の姿がそこにはあった。

 

 胡散臭い糸目笑いは健在だ。

 

 

「いやぁ……サラシを巻いたり、ウィッグを付けたり、キャスケットを被ったり、仮面をつけたり。バレない様に様々な努力をしてきましたが...まさか何度も仕事を共にした同僚や、かつての親友にまでバレないなんて思いませんでしたよ。悲しいです。」

 

「知らん。俺にテメェみたいな親友はいない。」

「傷つきますねぇ。しくしく」

 

 

 わざとらしく泣き真似をするライト、いや、アルハイムにエンペラーは舌打ちを返す。

 

 かつて彼とアルハイムはなかなか長い付き合いがあった。

 彼女が幼少期のころ、両親に代わって家を継いだあの時から、妹を庇ってファミリーと共に炎の中消えていったあの時まで。

 

 約束に従って、彼が唯一愛情を向けていた“妹”をシラクーザでの血の連鎖から、『社員として引き抜く』という名目で保護するほどに、なかなか良好な関係を築いていた。

 

 しかし、彼は同時に彼女の本心を見抜いていた。

 ドス黒く粘り気を持ち、決して洗い流すことのできない程汚れ、歪み切った彼女の内心。その笑みの裏側を見抜いていた。

 

 こいつは1マフィアの頭に収まるような人間じゃない。

 きっといつか、何か恐ろしいことをしでかすだろう。

 だから彼女が炎の中消えた時、抱いた感情は悲しみと、そして少しの安堵だった。その時初めて彼は自分が嫌いになった。

 

 結局彼は生存し、エンペラーの予想通り“大きなこと”をしでかした訳だが。

 

 

「話は終わったか、我らが先導者よ。」

「ええ、私は彼らに嫌われてしまった様なので。数年ぶりの感動の再会だと言うのに帰ってきたのは舌打ちと暴言。ひどいとは思いませんか?」

「……そうだな。」

「旧友との再会に上がっていたテンションも駄々下がりですよ……はぁ……」

「……」

「私としては再会のハグくらいあっても……」

「……もういいか?」

 

 

 アルハイムの返答を待たず裏切り者リスタは片手を上げる。

 同時に周囲から向けられる視線と共に金属音が鳴り響く。

 黒光りする殺意が、今にもその命を奪わんと一点に集中した。

 

 

「あ…ああ…」

「いやだ…死にたくない…」

 

 

 絶望に満ちた彼らに向けて。

 

 

「射撃用意」

 

 

 掲げられた右手は────

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