起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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週間ランキング1位有り難うございます投稿。


13.悩むのは若者の特権であり、答えるのは大人の特権である

「うむ。大漁大漁」

 

二番艦シラヌイと三番艦ジャックオーランタンに曳航されて移動する三隻の船を眺めながら、俺は満ち足りた気持ちで頷いた。ブルワーズはトップ二人を同時に失ったことで戦意を喪失。援軍としてこちらのウィル・オー・ザ・ウィスプが現れた時点で降伏の信号弾を乱射していた。突入部隊が侵入し掃討を行ったが、然したる抵抗もなく大人しく皆捕まった。

 

「大漁は解りますけど、どうすんです?こいつ等」

 

困った表情でそう聞いてきたのは、3番隊のビスケット・グリフォンだ。浮浪児やヒューマンデブリで構成されている3番隊の中では珍しく、家族も居れば修学経験もあるという異色の存在だ。いや、こっちが異色とかやっぱりこの世界ふざけてるわ。

彼が指示したのはタブレットに並んでいる捕虜のリスト。それもヒューマンデブリではなく、大人の海賊達だ。これまでは多くても2~3人だったが、今回は一気に20人位捕まえたからな。流石にこの人数をクリュセの警察に突き出しても、向こうが困ってしまうだろう。

 

「うーん。いっそ売ってしまうか?」

 

「…ヒューマンデブリにするんですか?」

 

俺の言葉にビスケットが顔をしかめる。彼は優しいから、仲間と同じ境遇の人間が増える事が気持ちとして整理出来ないのだろう。

 

「いや、どちらかと言えば派遣社員というところだな。確かテイワズが資源衛星で使う鉱夫を探していたから、そこに送ってしまおう」

 

タービンズ辺りに買ってもらって、その後は自分の人生をタービンズから買い戻して貰おう。彼らの今までの所業からすればぬる過ぎる判断ではあるが、ここで苛烈さを見せつけては教育上宜しくない。敵は誰彼構わず皆殺しなんて最悪の選択である。

 

「で、他の連中はどうしてる?」

 

3番隊は先に休憩に入らせている。これはまだ若すぎる連中も編成されているからだ。一部からブーイングが出たが、

 

「子供より体力がないクソ雑魚ナメクジだと認めるなら、彼らより先に休むといい」

 

と説得したら全員沈黙した。うん、意地張れる大人はいい大人だぞ。

 

「それがちょっと変な雰囲気でして」

 

「どういう事だ?」

 

俺が聞き返すとビスケットは一度深呼吸をすると状況を教えてくれた。

 

「ミカヅキは何だかピリピリしています。オルガは部屋から出てきません。それと、アキヒロが…」

 

「アキヒロがどうしたんだ?」

 

「すごく落ち込んでいます。なんだか、捕まえた連中と何かあったみたいで」

 

なにかって何だ。意味がわからん。

 

「俺たちが聞いても、罰が当たったとか俺が悪いとか言い続けてて会話にならないんですよ」

 

そいつは良くねえな。

 

「解った。少し様子を見てみよう。ああ、ビスケットももう休め」

 

「いえ、俺は戦ってた訳じゃないですし」

 

「休んでいる時に仲間が働いていたら落ち着かないだろう。自分の為に休めなくても、彼奴らの為に休め。いいな?」

 

「…はい、解りました」

 

宜しい。さて、それじゃ一つ部下とコミュニケーションと洒落込みますか。

 

 

 

 

「罰が、当たったんです」

 

訪ねてきた相談役にアキヒロはそう答えた。

 

「最近、俺はずっと楽しかった。仲間と騒いだり、相談役とバカやったり。だから勘違いしちまったんです」

 

「勘違い?」

 

「俺はヒューマンデブリだ、人間じゃねぇ。人間と同じに楽しんだり笑ったりしていいはずがねぇ。なのに俺がそんなことをしたから、罰が当たった」

 

沈黙している相談役に、アキヒロは自らに起こったことを打ち明けた。

 

「敵に、今日捕まえた敵に弟がいたんです。もう死んじまったと、生きていねえと諦めてた」

 

「それとお前の罰がどう関わってくる?」

 

「あいつはずっと俺を待ってたんだ!なのに俺は諦めて、放り出して笑ってた!その間もあいつはずっと苦しんでいたのに!俺は、俺がもっとっ!」

 

そう口にしながらも、どうすれば良かったのか、アキヒロには解らなかった。もっと鍛えていれば良かったのか?もっと金を稼いでいれば?相談役が来てからは変わったが、それでも人生を買いとられているヒューマンデブリに出来る事は圧倒的に少ない。人間ですら生き別れた家族を探すなどと言うのは困難な事だ。遥かに制限されたヒューマンデブリならば尚のことである。自分たちは社の備品。大切に扱われようと、その事実は覆らない。それを大切にされたことを勘違いして、自分が人間になったような気がしていた。だから、罰が当たった。自分がなんであるかを思い出させる為に。あふれ出る感情が、目から零れ落ちる。とっくの昔に無くなったと思っていたそれが、未練がましく人のふりをさせてくる。アキヒロはどうして良いか解らず、下を向いた。零れた感情が、床を濡らす。

 

「そうか、すまなかったな。アキヒロ」

 

「なんで、相談役が謝るんだ?」

 

視線を戻さぬまま、そうアキヒロは聞き返す。おかしな人だと思う。何故この人は備品と言い切った相手に謝罪するのか。例え自分のミスで道具を壊したとしても、その道具に謝る人間は居ないだろう。

 

「お前が人間じゃないと思い込んでいるのは、私のせいだからさ。私が力及ばなかったから、私が頑張らなかったから、お前は自分を人だと思えないでいる」

 

「違う、アンタは悪くねぇ!」

 

「いいや、お前たちが人間だと思えないのは、あの馬鹿らしい紙切れのせいだ。そしてその紙はわが社が管理している。そして私は会社を動かす側の人間だ。ならばその責任は私にある。だからな、アキヒロ。お前は悪くないんだ」

 

「そんな、だって俺は」

 

「諦めた?違うだろう。お前は精一杯今日まで生きていた。弟と会うというのは、何よりお前が生き延びなければできない事だ。そして、今日までお前は生きる以外に気を割けるほど余裕があったのか?」

 

沈黙するアキヒロに男は畳みかける。

 

「楽しかった?それは私に気に入られる必要があったからそうしたんだ。嬉しかった?生きる上で喜びを感じない者が明日へ進もうと思える訳がない。アキヒロお前はな、今日まで精一杯生きてきたんだ。そんなお前に当たる罰などあるものか」

 

「だけど、その間もマサヒロは苦しんでた」

 

「そんなのはお前のせいじゃない。苦しめた奴と、それを助ける方法があったのに助けなかった奴だけが負うべき責任だ」

 

だから、と男は続ける。やらなかったのではない、やれなかったお前がそんなものを背負う必要はないのだと。

 

「だいたい、お前の背中はそんなものを背負う余裕などないだろう。兄弟とは出会えば終わりか?違うだろう?ならお前が背負うべきものが解るはずだ。ここからが大変だぞ、兄貴っていうのはな」

 

そう言って男はアキヒロの背中をたたく。

 

「この再会は、神様とやらがくれた幸運じゃない。お前達兄弟が生きるのを諦めなかったから勝ち取った成果だ。だから、ちゃんと話して、そして勝利をしっかりと噛みしめてこい」

 

それだけ言うと男は立ち上がり歩き出す。それを暫く見送った後、アキヒロも立ち上がり別の方向へと歩き出した。

 

 

 

 

「どうした、何か違和感があるのか?」

 

通路で自分の右手をぼんやりと眺めていたミカヅキにそう声をかける。俺の声に気付き、振り返るミカヅキに向かってドリンクの入った容器を俺は放った。

 

「ん、何でもない」

 

ドリンクを受け取りつつそう返すミカヅキに肩をすくめた後、俺は近づいてすぐ横の手すりにもたれかかった。

 

「そうか?帰ってきてから随分苛立っているように見えたが」

 

「苛立つ?なんで?」

 

そう不思議そうに聞いてくるミカヅキ。自覚すらなかったか。

 

「それが皆目見当がつかんからこうして様子を見に来たのさ。お前さんは顔も口も人より動かさんからな」

 

「別に、苛立ってなんかいないけど」

 

「でも何か違和感がある」

 

「…ん」

 

俺が指摘すると、ミカヅキは目を少し見開いて俺の顔を見た。

 

「何があったのか話してみろ、話しても解決はしないかもしれんが。口に出すことで自分の中に納まることもある」

 

ミカヅキは少し間をおいてから、今日起きたことを話しだした。同じガンダムフレームと戦った事、その中で投げかけられた言葉。そして、その言葉を聞いた時の苛立ち。

 

「硬かったけど、それだけ。おっちゃんより全然弱くて、まあ取り敢えずずっと切ってれば死ぬかなってやってたら、そう言われて」

 

「頭にきた?」

 

そう聞くと、ミカヅキは頷く。

 

「すごくイライラして、すぐに殺そうって思ったんだ」

 

ミカヅキの言葉に俺は一度大きくため息を吐いた後問いかける。

 

「なあ、ミカヅキ。お前はなんで戦っている?」

 

その問いに対するミカヅキの答えはシンプルだった。

 

「俺は戦うしか出来ないから」

 

おいおい、違うだろ。

 

「それは戦う理由じゃない。それしか出来なくても、それをしないという事だって選べる。だけどお前は戦う事を選んでいるだろう?それは何故だ?」

 

再び問うと、ミカヅキは沈黙した。多分同じ質問は今までもされたが、ミカヅキの答えに納得しなかった者が居なかったんだろう。何しろ俺と彼らでは生きてきた環境が違う。浮浪児であるミカヅキやその周囲の人間は、出来る事をしなければ生きていけない世界に住んでいる。故にミカヅキの答えである“戦うしか出来ない”に納得する、してしまう。だが俺は違う。子供が戦うなんてふざけた世界を俺は認めない、だからミカヅキの答えに納得しない。暫く沈黙した後、ミカヅキは口を開く。彼は考える事を放棄しているきらいがあるが、愚かではない、むしろ聡明とすら言える。そんな彼は、以前俺が言った言葉を必ず覚えている、そしてそれを怠ったために仲間が頭を下げたことも。故に同じ間違いを彼は犯さない。

 

「俺はオルガに命を貰った。だから俺の命はオルガの為に全部使う。俺は戦うしか出来ないから、オルガの邪魔をする奴を全部殺す。だから戦ってる」

 

「……」

 

「オルガは凄いんだ。俺にたくさんの事を教えてくれた。あのクソみたいな所から連れ出してくれたのもオルガ。オルガが言ったんだ。俺達の本当の居場所に連れてってくれるって。だから俺は役に立たなきゃいけない。オルガの為に出来る事をしなきゃいけない。だから、俺が出来る事をする」

 

凄いな。この子は。

 

「あくまでこれは私の感想だ。ミカヅキ、お前は戦いが悪い事だと解っているな?」

 

「そんなこと」

 

「思っていない?嘘だな。お前が戦う理由は常に誰かの為にある。お前はいけない事だと理解しながら、一番自分が上手くできるから戦っている。そんなお前に戦いを楽しんでいるなどと言えば、腹を立てられて当然だ。そして」

 

「……」

 

黙って聞いているミカヅキに俺は覚悟を決めてそれを告げる。

 

「お前の苛立ちは多分もう一つ。その言葉に思い当たる節があったからじゃないか?」

 

「俺は」

 

そう言ったきり顔をしかめるミカヅキ。多分彼はそれが楽しいという感情なのかすら整理できていない。けれど似たような感情で分けるならば、その敵から言われた言葉通りの位置に納まるのだろう。俺はそう悩むミカヅキに対して言葉を続ける。

 

「ミカヅキ、それは異常な事ではない。誰だって力を振るえば興奮して体が喜ぶ。それは人間の体に備わった至極当たり前の反応なんだ。そして、それを肯定せずそれでも悪い事だと思えるお前はとても凄い奴だ」

 

「俺が、すごい?」

 

そう聞き返してくるミカヅキに笑いながら言ってやる。

 

「ああ、凄い。その欲望に負けて暴力を振るう人間の多さをお前たちは良く知っているはずだ。だからそれに怒れる、間違いだと思えるお前はとても凄い奴だ」

 

だからこれだけは伝えなきゃいけない。

 

「だからその苛立ちを忘れるな。そしていつかお前のその思いが当たり前に口にできる世界が来た時の為に、お前は戦う以外も出来る男になれ」

 

「戦う以外。出来るかな、俺に」

 

そう口にするミカヅキに俺は堂々と言い放つ。

 

「当たり前だ。何しろお前は凄い奴だからな」

 

 

 

 

照明の消えた暗い部屋で、オルガは俯いてベッドに腰を掛けていた。

 

(やっぱミカはすげぇよ。MSを任されて、そんで相手の親玉までやっちまう)

 

オルガ・イツカは幼少のころから目端の利く子供だった。他の連中よりも機転が利き、頭も悪くない彼は常に誰かの兄貴分として生きてきた。その中で運命的なものがあるとすれば、間違いなくミカヅキ・オーガスとの出会いだろう。周囲の浮浪児から金を巻き上げていた破落戸に抵抗し殺されかけていたミカヅキをオルガが救った明確な理由は彼自身にも説明できない。ただ確かだったのは、こんな所で自分もミカヅキも終われない、終わらせたくないという強い思いだった。破落戸を二人で返り討ちにしたあの日、オルガはミカヅキと約束をした。それは子供の口から出た他愛もない夢物語。しかし、ミカヅキという力を得たことでオルガはその道を進むだけの理由と力を手にしてしまう。それが多少目端が利く程度の少年には余りにも大きすぎる夢だったとしても。

 

「邪魔するぞ」

 

部屋の扉が開け放たれ無遠慮に誰かが入ってくる。その声から、入ってきたのが相談役だと解り、オルガは慌てて顔を上げる。

 

「マさん!あの、何か?」

 

「3番隊の隊長殿がしょげ返っていると聞いてな。散歩がてら様子見だ」

 

「べ、別に俺はしょげてなんか」

 

「暗い部屋に一人で俯いて座っていてか?」

 

意地悪い笑みを浮かべてそう聞いてくる男に、オルガはそっぽを向きながら口を尖らせた。

 

「それで、どうした?悩みがあるなら聞いてやるくらいは出来るぞ?」

 

そう笑う男に、オルガはぽつぽつと内心を吐露しだした。

 

「なんて言うか、やっぱミカはすげぇなって。強くて、クールで、それでいて度胸もある。MSだって乗りこなしちまうし、最近じゃ読み書きだって出来るようになってる。ガキの頃から、振り返るとあいつの目があるんです。そして目で聞いてくる、次はどうする?次はどんなワクワクする事を見せてくれるって。あの目は裏切れねぇと思っているんです。けど」

 

一拍置き、オルガはきまり悪そうに口を開く。

 

「最近思うんです。俺はミカの期待に応えられているのかって。アイツの目に映る俺はいつだって最高に粋がって格好よくなくちゃいけない。そうじゃなきゃ…」

 

そうでなければ、余りにもミカヅキに申し訳が立たない。自分の口にした夢に向かうため、人を撃ち殺したミカ。自分の力になるために、死ぬような阿頼耶識の施術を三度も受けたミカ。どの行動も全て、オルガの口にした本当の居場所へ向かうために支払われた代償だ。ならば、行き先を示す自分が格好悪くて良いわけがない。

 

「だってのに、今の俺は全然格好よくねぇ。今日だって俺はブリッジでふんぞり返ってただけだ。ミカは敵の大将を討ち取ってるってのに。こんなんじゃ俺は…」

 

その何処か互いに互いを思いながら呪いを掛け合うかのように生きる少年達に、男はため息を吐き、そして笑う。

 

「出来る弟がいると兄貴は辛いな」

 

「マさん」

 

「今日のお前はちゃんとやれていたさ。お前はミカヅキと自分を比べているが、今日の仕事で言えば、どちらもちゃんと役割を熟していたよ」

 

そう言うと男は向いのベッドへ腰を下ろす。

 

「それにオルガ、お前は重大な勘違いをしている。ミカヅキはお前に連れて行って欲しいんじゃない。お前と一緒に行きたいんだ」

 

「そりゃ、どういう意味ですか?」

 

「さっきミカヅキが言っていたよ。俺は戦うしか出来ないから、出来る事でオルガの役に立ちたいとな。誰かにすがってただ後ろを付いていこうなんて思う奴が口にする台詞じゃない。ミカヅキもお前に置いて行かれないよう必死に走ってるのさ。なあ、オルガ」

 

落ち着いた声音で男が諭す。

 

「約束を早く果たしたい、一秒でも早くミカヅキを本当の居場所へ連れて行ってやりたい。その気持ちはとても素晴らしくて大切なものだ。けれどな、いつも全力で走っていたら大事なものを見落とすかもしれない。もしかしたら石に躓いて大きな怪我をするかもしれない。事実お前は、一緒に走っている者が必死で喰らいついている事に気付けなかっただろう?」

 

それに、と続けて男は笑う。

 

「今のお前は仲間も増えた。その中には走れない者やゆっくり行きたい奴だっている。そいつらを放り出して走れる奴だけ付いてこい、生き残った奴だけたどり着くなんて選択は、あまりにも小さく格好悪いと思わんかね?」




以下茶番と言う名の近況

作「15話で終わるって言っても誰も信じないねん」

友「そらな」

作「もう書き上げているんよ?」

友「へー、良く纏められたね?」

作「…書きたいことは書きましたよ?」

友「ん?」

作「いや、本作で書きたかった事は15話までで全部書いたんだ」

友「つまり?」

作「書き終わったけど原作始まる前に終わりまして、ついでに話も投げっぱでして」

友「で?」

作「…いま16話を書いてます」

友「終わってねーじゃねーかw」


と言うわけでもうちょっとだけ続くんじゃ。(ヒント:今日の日付)

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