起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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更新は鈍化すると言っているというのに…。


本編1期編
16.権力者との接近は相手からの場合、特に警戒が必要である


「革命の乙女、年若い娘が健気な事だ。親として鼻が高いのではないかな?」

 

「は、いえ。世間知らずの不肖な娘でして」

 

投げかけられた言葉に、しきりに額の汗を拭きながらノーマン・バーンスタインは答える。

 

「火星独立に向けた経済交渉、か。確かに世界秩序を預かる身としては、この様なクーデターを放置は出来んな」

 

世界を遍く監視し、秩序と正義を司るギャラルホルン。そう自らを謳う彼らにも内部を見れば厳然たる格差が存在する。火星支部は本拠地から遠く離れた左遷先であり、その支部長の席はエリートコースから脱落した者に与えられる敗者の証だ。

 

「しかし、良いのかね?場合によっては穏便に済まない場合もあるが?」

 

「これも、世の秩序を守るためでございますれば」

 

状況次第ではお前の娘を殺す。そう告げられたにもかかわらず。そう言ってノーマンは頭を下げた。

 

「承知した。この件に関して貴殿に不利益が被らぬ事を約束しよう」

 

「は、ありがとうございます」

 

そう言ってノーマンは席を立ち、頭を下げるとそそくさと部屋から出ていく。それを見送ったコーラル・コンラッドは侮蔑の色を隠さずに吐き捨てた。

 

「ふん、保身の為に我が子を売るか。まあ、いい」

 

所詮は火星人の内輪話である。そんなものよりも今回の一件でコーラルの懐にどれだけの金銭が入り込むかの方が彼には重要だった。何しろヴィーンゴールヴの席は高いのだから。

 

 

 

 

「おいマルバ、大変だ。このお嬢さんが何を言っているのか解らない」

 

横に座っているマルバの脇を小突き、小声でそう伝える。すると向こうも小声で返してきた。

 

「安心しろ、俺も解らん」

 

そうか、俺だけじゃなかったか、良かった。いや、全然よくねえけど。

 

「あー、ミス・バーンスタイン?」

 

「はい、何でしょう?」

 

少し緊張しながらも目の前の娘さんは健気に笑顔を作って見せる。

 

「もう一度確認させて頂きたいのですが。ご依頼は護衛業務と言う事で宜しいでしょうか?」

 

「はい、先ほど申しました通り、この度私は地球にてアーブラウ代表の蒔苗氏と会談を行う運びとなりました。ついては地球までの移動並びに護衛を御社にご依頼したく伺いました」

 

「真に有難うございます。しかし、この条件に加えられております護衛は少年兵に限る、と言うのは?」

 

俺の問いに彼女は一点の曇りも無い瞳で口を開く。

 

「はい、私は経済格差の是正、そして貧困の撲滅を目指し活動しております。今回の会談もその一環なのですが、その活動をより世に知らしめ、かつ私自身が本当の彼らを知ることで活動意義を高めようと考えたのです」

 

へえ、そいつは立派だね。ところでウチは、そのあなたが言う経済的弱者の少年兵やら元ヒューマンデブリを食い物にしている企業なんだけど大丈夫か?俺は再びマルバの脇を小突き耳打ちする。

 

「おい、マルバ。彼女は本当にバーンスタインの御令嬢か?どっかの企業がウチのイメージダウンを狙って送り込んだ工作員じゃないのか?」

 

「本物だよ。お前もノアキスの七月会議の中継は見ただろ。IDも本人のもので間違いなかった。残念ながらな」

 

あの革命家()達を集めて騒いでた決起集会な。そうかぁ、本物かぁ。

 

「最悪断るってのも手ではあるが、あまり賢明とは言えねえな。彼女の後ろにはノブリス・ゴルドンがいる」

 

「難儀な事だ」

 

俺はそう言って溜息を吐く。ノブリス・ゴルドンと言えば火星圏どころか圏外圏とされる広域に名を馳せる武器商人兼大富豪だ。ウチで使っている戦闘用のモビルワーカーの購入先も彼の会社だし、個人用の火器なんかもそうだ。そして何より彼は火星で現在大人気の革命家さんたちのパトロンなのだ。その影響力は強大と言わざるを得ず、安易に敵対してよい相手ではない。

断ればノブリス氏の心証悪化。受ければ社のイメージダウン。どっちもマイナスとかこの選択肢最悪だな!

 

「どうする、マルバ?」

 

「俺は受ける方がマシじゃねえかと思う。印象が悪くなるったってどうせ地球での話だ。こっからは遠い。それよりノブリスを手伝わなかった方が不味い」

 

「同感だ。思想家に経済支援をしている武器商人など字面だけでも厄介だ」

 

素早く話し合い、俺たちは笑顔でバーンスタイン嬢に告げる。

 

「解りました、ミス・バーンスタイン。ご依頼を承らせて頂きます。ご出発の予定は?」

 

「会談は2ヵ月後の予定です」

 

となると、出発は1ヵ月後。余裕を見るなら3週間後って所か。

 

「承知しました。では出発は3週間後とさせて頂きたく思います。それから」

 

「他にも何か?」

 

流石にね。

 

「護衛に関して未成年者のみと言うのは承知出来かねます。彼らは年齢通り経験も浅い。また長期の航海経験を持つ者もおりません。安全の観点から成人社員の随行は必須です。これはご承知おきください」

 

「私はそのリスクも覚悟の上で申し上げているつもりですが」

 

強い眼差しでそう訴えるお嬢さん。いや知らねえよ、アンタの覚悟なんて。

 

「貴女は良いかもしれないが、それに巻き込まれる我が社の社員はどうなりますか?それとも、金を払っているのだからその程度の危険は受け入れろと仰るのかな?」

 

そう言って俺は目の前に座る彼女を睨む。

 

「崇高な理念も結構ですが、我々は企業だ。社員の安全を守る義務も責任もある。ご理解頂けないのであれば、お話をお受けする事は出来かねます」

 

俺の言葉に彼女は一瞬ひるむが、俺を睨み返しつつ口を開く。

 

「致し方ありません。私の我儘で誰かを傷つける訳にはまいりませんから。ただし、随行の成人社員は最低限にして頂きます」

 

俺はその言葉に小さな溜息と共に応じる。

 

「その辺りが妥協点でしょう。承知いたしました。ではまた3週間後に」

 

「ええ、宜しくお願いしますね」

 

立ち上がり差し出された彼女の手を俺は握り返す。傷一つない綺麗な手だった。

 

 

 

 

「なあ聞いたか、今度の俺たちの仕事。あのクーデリア・藍那・バーンスタインさんの護衛らしいぜ!」

 

昼食時、テーブルを囲んだ仲間に向かってダンテ・モグロが興奮気味にそう話しかける。CGSに彼女が来訪してから1週間の時間が経ち、社員たちにも正式に通達されたのだ。

 

「いや皆聞いたし。それにしてもクーデリアさんってあれだろ?クリュセの代表んとこの娘さんなんだろ?お嬢様じゃん」

 

その言葉に年少のライド・マッスが応じる。サンドイッチを頬張った際に付いた口端のソースを器用に舌で舐めとりながら、彼は首を傾げた。

 

「でも何でウチに頼むんだろ?」

 

「そりゃおめえ、火星で一番頼りになるのが俺達だからだろ。なんせ海賊狩りのCGSだぜ!けど、お嬢様かぁ…、いい匂いとかすんだろうなぁ」

 

得意げにそう口にした後、鼻の下を伸ばすノルバ・シノに対してミカヅキ・オーガスが突っ込みを入れる。

 

「お嬢様って言っても人間でしょ?俺達と変わらないよ」

 

「馬鹿野郎ミカヅキ!汗くせぇアキヒロと女の子が同じなわけねえだろ!」

 

「おい、何で俺なんだよ」

 

「そりゃ兄貴がいつも臭いからだろ。ちゃんと服も小まめに洗えって」

 

急に飛び火したアキヒロ・アルトランドが半眼で呻き、それを見たマサヒロ・アルトランドが呆れた声音で突っ込む。その中で昼食を咀嚼していたミカヅキがそれを飲みこむとポツリと呟く。

 

「そう言われれば、アトラはいい匂いがする」

 

「「こ、これが勝者の余裕っ!」」

 

圧倒的戦力差に慄くシノ達を横目に、ユージン・セブンスタークは恨めしそうに溜息を吐いた。

 

「ったく、パイロット組は気楽なもんだぜ、こっちは長期航海で気が気じゃねえってのに」

 

「3番隊じゃあユージンが一番操艦に慣れてるからな。仕方ねえさ」

 

フォローするように向かいに座っていたオルガ・イツカが資料に視線を落としながら口を開くが、それに応じたのはユージンの意地の悪い声だった。

 

「言ってくれるぜ。オルガだって不安であんま寝れてねえだろ、知ってんだぞ」

 

その言葉に持ち上げていたマグカップがピタリと止まる。

 

「な、何でそれを」

 

「それだけ解りやすく隈を作っていれば誰でも解るよ。ほら、食事の時くらい休みなよ」

 

そう隣に座ったビスケット・グリフォンが苦笑する。

 

「クライアントの要望らしいからメインは任されるけど、1番隊からも応援が貰えるんだから大丈夫だよ。むしろ今からそんなだと持たないよ?」

 

「そうは言うけどな。折角の機会に無様は晒せねぇだろ?」

 

「なら猶更ちゃんと体調管理もしなきゃ」

 

ビスケットの言葉にオルガは降参するようにタブレットを仕舞い、食事に手を付ける。今日もCGSは平和だった。




一応こんな感じの方向で進めていく予定です。


あ、本話以降本当に更新頻度が下がります。
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