起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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17.暴力で問題を解決するのは下策だが、暴力を嫌って放置する事は更に下策である

「今日からお世話になります」

 

そう言って頭を下げるバーンスタイン嬢。若くて行動力がある点は評価すべきなんだが、そこに世間知らずが追加されると迷惑度が跳ね上がるので正直褒めにくい。

 

「むさ苦しい所ではありますが、どうぞ。危険な場所もありますから、先に施設をご案内しましょう。ミカヅキ」

 

「はい」

 

「済まないが彼女を案内してやってくれ。くれぐれも危ない場所へは行かせないように」

 

「はい」

 

心底面倒くさいという空気を醸し出しているものの、ミカヅキはそう素直に頷いてバーンスタイン嬢と部屋を出ていく。本当はオルガかビスケット、もしくはユージン辺りが適任なんだが今は出発の準備に追われていて手が離せない。後はチャドくらいだが、今日の彼は休日だ。流石に呼び出すわけにはいかん。まあ、ミカヅキならアトラのお嬢さんとも上手くやっているようだし、問題も起きんだろ。

…と、思っていた時期が私にもありました。

 

「なんかさぁ、こう自然に見下されてる感じなんだよねぇ」

 

「まあ、しょうがないよね。あっちは箱入りのお嬢様、こっちは元デブリだもん。むかつくけどね」

 

夕食時、社内を廻って色々とやらかしたバーンスタイン嬢は現在落ち込んであてがわれた部屋に引き篭もっている。因みに不満を漏らしているのは4番隊の娘さん達だ。

ミカヅキに案内を命じた際、俺は危険な場所は行くなと指示した。これをミカヅキは危険でない場所は案内しろと解釈し実行した。つまり、4番隊の本当のお仕事関連の施設も案内してしまったのである。お陰で顔を真っ赤にしたバーンスタイン嬢とツンドラを想像させる視線を送ってくるフミタン・アドモス女史の二人に責められると言う、得難い経験をさせてもらった。まあ専ら怒っていたのはバーンスタイン嬢だけだが。

まあ思春期の女の子には刺激が強いよね、と素直に責められていた俺であるが、それに憤慨したのがそれを聞いた4番隊の娘さん達だ。何しろ今残っている彼女達は、仕事に納得しプライドを持って当たっている。それは彼女達が自分の人生の中で初めて自らの意思で選んだ選択であり、仕事だからだ。もちろん他の仕事に就ける自信がないとか、不安だから知っている仕事で手を打ったという消極的な理由の者もいる。けれどそうだとしても自らの選択を頭ごなしに間違っていると否定されて愉快な人間が居るはずもないのだ。部隊長のスピカに至っては殺気まで放っていたからな。どうしよう、地球までの護衛を彼女にお願いしようと思ってたのに。

 

「聞いた?ミカ君にも酷い事言ったらしいよ」

 

「対等になりたいから握手しましょうってやつでしょ。それって対等じゃないって自分で言ってるじゃん。流石お嬢様は違うわ」

 

子供の言う事なんだから大目に見てやりなさいと言いたいが、それはそれで違う気がするんだよな。飛び級ではあるものの彼女は大学へ通っているし、既に多くの人を巻き込んで行動する側の人間だ。ならば安易に甘やかしてしまうのは違うだろう。そもそも、こうした実情を知りたいと願ったのは彼女なのだ。自分の思い描いた救済以外は認めないと言うのも些か傲慢に過ぎるだろう。

 

「ああ、やっぱここか。ちょっといいか?」

 

そんな埒もない事を考えていたら急に声が掛けられる。視線を上げればそこには真面目な顔をしたマルバが立っていた。

 

「構わないが、ここでは話せない事か?」

 

出来ればこの後新作料理の研究がしたいんですけど。

 

「ああ、大事な話だ」

 

ふぁっきんしっと。

 

「了解した、行こうか」

 

手早く残っていた食事を掻き込むと席を立つ。向かった先は社長室の隣の休憩室だ。ここはちょっとした仕掛けがしてあって、内緒話に向いている。部屋に入ると即座にマルバが口を開いた。

 

「クーデリアのお嬢さんはここの所名を上げている独立運動家だ。有名処の運動家連中とは大体懇意にしているし、そいつらの支援者であるノブリス・ゴルドンとも繋がりがある」

 

「どうした、急に」

 

「一部じゃその若さと容姿で革命の乙女、なんて呼ばれてる」

 

「御大層な事だな」

 

そこでマルバは大きく息を吐いた。

 

「問題はここからだ、彼女の家族ははっきり言って彼女の活動に否定的だ。特に父親との関係はかなり悪化しているらしい。そして重要なのは、日程を繰り上げてウチで未成年達と共同生活を送るように仕向けたのはその親父だそうだ」

 

「…なんだと?」

 

「救う相手の事も良く知らず云々と彼女を食事の席で責めたらしい。それが今回の訪問に繋がってるんだが、おかしいと思わねぇか?」

 

「因みにその情報は何処から?」

 

「バーンスタイン家のハウスキーパーからだよ。首相周りの情報は持ってて損はねえだろうと何人か金で抱き込んだ。んで、相談役様としてはどう考えるよ」

 

「胡散臭いどころか完璧に厄ネタだろう。仲が悪いとは言え父親で政治家の男が小娘一人の行動が読めないとは思えん。つまり彼女がここに居るのはノーマン氏の思惑だという事だ」

 

「やばいな」

 

「ああ、不味い」

 

「全隊に非常呼集をかける。非戦闘員は全員シェルターへ移動させるぞ。クーデリアの嬢ちゃんとあのお付きの姉ちゃんもだ」

 

「ナディに連絡してMSを即応待機させよう。海賊残党にでも金を積まれていたら万一がありうる」

 

「杞憂なら笑い話で済むが、多分無理だろうな」

 

最近めっきり荒事に慣れたマルバがそう溜息を吐く。同感だね、往々にしてこういう場合は一番悪い札が来るものだ。

 

「私もMSで待機す――」

 

部屋を出てそう口にした瞬間、爆発音が響いてきた。マルバの端末が鳴ると同時、CGSでも最も目立つ建物である管制塔が吹き飛ばされた。

 

「ちっ、ガワ直すのだってタダじゃねえってのに。おう俺だ、何処の馬鹿が来やがった?」

 

そう吐き捨てるとマルバは端末に出た。管制塔は勿論ダミー、本当の監視員は近くの丘陵に掩蔽壕を作成してそこに詰めている。報告を受けているマルバの顔がだんだん引きつり真っ青に変化した。

 

「マジかよ」

 

あ、すっごい嫌な予感。俺が何かを言う前にマルバが振り返り口を開いた。

 

「ギャラルホルンが、攻めてきた」

 

 

 

 

『どうした、クランク二尉。気分が優れないか?』

 

何処か嘲るような色の声音がスピーカ越しに響く。それに対しクランク・ゼントは生真面目に答えた。

 

「は、いいえ、問題ありません」

 

『そうか?君は随分この作戦が不満のようだったからな?なんなら新米と下がっていても構わんぞ?足手まといは少ない方が良い』

 

『っ!』

 

敢えて個別ではなく小隊用の共通チャンネルで投げられた言葉に、僚機のアイン・ダルトン三尉が息をのむ。彼が何かを言い出す前に、クランクは口を開く。

 

「問題ありません、隊長。アイン三尉もそうだな?」

 

『…はい、問題、ありません』

 

『ふん、ならばいい。他の隊も居るのだ、あまり無様な真似はしてくれるなよ?それにしても司令も心配が過ぎる。賊の処分など私の隊だけで十分だと言うのに』

 

そう部隊長であるオーリス・ステンジャは鼻を鳴らした。現在投入されている戦力はモビルワーカー1個大隊とMSが2個小隊だ。確かに戦力として見たならば有力な部隊と言えるだろう。

 

「目標は複数のMSを保有しているとのことです。モビルワーカーも申請されているだけで30機、決して油断出来る相手では――」

 

『クランク・ゼント二尉、私が何時発言を求めた?そして貴様は数が同じ程度で我々が賊ごときに後れを取ると言いたいのか?』

 

「いえ、申し訳ありません」

 

苛立ちを隠さない口調でオーリスはクランクの発言を止める。これ以上の発言の無意味さを悟り、クランクは口を閉じた。そして彼はコックピットの中で目を閉じ思い悩む。

民間警備会社に偽装した軍事組織CGSに囚われているクーデリア・藍那・バーンスタインの身柄確保。以前から内偵が進められていた武装組織に、クリュセ代表の息女が誘拐されたとの連絡を受けたコーラル司令が救出部隊を臨時編成したというのが今回の筋書きである。MSの所持秘匿は違法であるから、それを行っている連中を制圧する事にクランクも不満はない。少年兵を使っているような者達ならば尚の事だ。しかし、この様な奇襲を行えば、まず最初にそうした弱い者たちが犠牲になってしまう。せめて降伏勧告や事前に通告をしてはどうかとも訴えたが、それは隊長に切って捨てられた。

 

「そんなことをして賊が逃亡したらどうする!?」

 

火星支部は辺境であり、閑職だ。パイロットにすれば退屈な哨戒任務が殆どで、戦果も挙げ辛い。特にここの所は海賊が激減したこともあって、司令からの特別任務の機会も減っていた。戦う事を何処か娯楽としているオーリスにしてみれば鬱屈とした日々であっただろうから、彼の言葉の真意もクランクには良く解った。

 

(だが、こんな大人の都合で子供が死ぬことは間違っている!)

 

自然と操縦桿を強く握りしめていたクランクは痛みでそれに気づき、慌てて頭を振る。戦場で冷静さを失う事はとても危険だからだ。

 

『出たか!』

 

喜悦の混じった声がコックピットに響く、共有のモニターへ視線を送れば、そこには格納庫から飛び出すMSの姿があった。

 

『モビルワーカーは左右に展開して牽制!MS隊、行くぞ!』

 

オーリスの言葉に応じて、6機のグレイズが青白い尾を引き飛翔する。ラグナロクを告げるギャラルホルンが、火星の地で静かに鳴り響いた瞬間だった。




見切り発車過ぎてどうしたもんか。
最初は火星の食糧事情とかをギャグテイストに書くだけの予定だったのに…。

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