「モビルワーカーは防御陣地まで後退!支援に徹しろ!」
ハエダは叫びながら手にしたマシンガンをばら撒く。MS相手では牽制程度の意味しかない行為だが、モビルワーカー相手ならば十分に脅威だ。
『ギャラルホルンだかキャラメルだか知らねえが、誰に喧嘩売ったか教えてやる!!』
同じく出撃したササイがそう叫びながら両手のマシンガンで次々とモビルワーカーを破壊していく。普段、余りにも理不尽な連中が訓練相手であるため下に見られがちであるが、伊達にそのような連中と同じ訓練をしているわけではない。二人揃えばまともな戦力、などと社内では酷評されているが、それはあくまでCGS内における評価であり、世界と言う水準で見れば十分に優秀な部類だ。当然モビルワーカー程度では何機いようとも敵ではない。
「二手に分かれた?」
『包囲する気か!』
『ハエダ隊長!上ぎゃっ!?』
2人の注意がモビルワーカーに逸らされた瞬間、後方の陣地に砲弾が降り注ぐ、何機かのモビルワーカーが被弾し真っ赤な炎を噴き上げた。
「くそがっ!」
『野郎!!』
即座に射点に対しマシンガンを二人が放つが、それはむなしく空を切る。そして曳光弾に照らされた敵を見て、ハエダは歯噛みをする。
「グレイズ…、それも6機もかよ」
『モビルワーカー隊は全速で基地まで下がれ!お前らじゃ手に負えねぇ!』
『で、でも――』
『お前らじゃ足手まといだって言ってんだよ!とっとと下がりやがれ!!』
ササイが即座にそう叫び、そしてハエダに個別のチャンネルを開いてきた。
『へへ、こりゃ少しばかり貧乏くじですかね?』
「ああ、後でボーナスを要求しないとな。覚悟はいいか?」
ギャラルホルンからの目を避けるために、CGSは保有するMSの殆どを宇宙の艦艇内に置いている。常時本社に置かれているのは彼らが使っているランドマン・ロディと言う陸戦対応型に改修されたマン・ロディ2機のみであり、その他は定期的にメンテナンスの為に運び込まれるか、鹵獲あるいはサルベージした機体だけだ。だが、まだ彼らの悪運は尽きていない。
「あの二人が来るまで持ちこたえりゃこっちの勝ちだ、気合入れろよササイ!」
『楽勝だぁ!』
余裕のつもりか軟降下していたグレイズ達に二人は襲い掛かる。獲物と考えていた者たちに攻撃された事に慌てたのか、一機がバランスを崩す。
『頂く!』
「がら空きだ!」
ササイがマシンガンで頭部を撃ち視界を奪った隙に、接近したハエダがチョッパーを叩きつける。露出している脇腹のシリンダーを破壊されたその機体は錐揉みをしながら地面に倒れた。
「次!」
『オラオラオラぁ!!』
続けてもう一機。着地には成功したものの、僚機が倒された事で硬直していたグレイズに二人は再び襲い掛かる。慌てて回避をするために飛ぼうとしたグレイズに連続して砲弾が降り注ぎ、浮かび上がった機体の脚部にチョッパーが掬い上げる軌道で振られ、右足を膝から破砕する。だが、快進撃はここまでだった。
『調子に乗るなよ賊風情が!』
「ぐぅ!?」
格闘の為に速度が落ちていたハエダの機体に砲弾が殺到する。HEIAP弾頭が次々と着弾し、瞬く間にハエダのランドマン・ロディは緑がかった激しい炎によって包まれる。
『隊長!このっ!退きやがれ!!』
『落ち着いて2対1を維持しろ!』
『はいっ』
ササイが救援に向かおうとするが、そちらも体勢を立て直した2機のグレイズによって阻まれる。
(腕も連携もミカヅキ達よりも遥かに下だってのに!!)
ハエダは纏わり付く炎を振り払いながらグレイズを睨み付け、同時に自身の無力さに歯噛みする。一般的に見れば、戦闘訓練を受けた正規軍に対し3分の1の戦力で挑み3割を即座に無力化、相手が対応し始めても2倍の戦力に対し応戦し続けられているなど用兵に多少でも明るい者ならば頭を抱えたくなる練度であるが、良くも悪くも非常識な連中との訓練に慣れた二人は気付かない。
『死ねぇ!』
熱損によりハエダ機のナノラミネートが剥がれたのを好機と見たのだろう。片方のグレイズがバトルアックスを手に距離を詰めてくる。ハエダが覚悟を決め、迎え撃つべくチョッパーを構えた瞬間、声が響いた。
『そのまま動くな』
声とほぼ同時に飛来した大口径の砲弾が迫っていたグレイズに直撃、振り上げていた右腕ごとバトルアックスを吹き飛ばす。フレームごと破砕する程の運動エネルギーを受けた機体は、その衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされた。遅れてたどり着いた砲声に、思わずハエダが振り返ると、格納庫の上で大砲を構えたMSが素早く次の獲物を狙っていた。
『調整無しでは流石に直撃は無理か』
僚機が狙撃されたことでもう一機が慌てて回避行動に入るが、それを見てハエダは皮肉気に笑った。
「残念だな、もうそこは間合いだぜ?」
偽装されていた天板と土砂が盛大に吹き飛び、中から白いMSが飛び出す。手に握られているのはカタナと相談役が呼んでいた片刃のロングソード。左腕に握られたそれは、MSの爆発的な推力による突進の中でも正確にコックピットを捉え貫く。グレイズのパイロットは自らに何が起こったのかを理解する間も無く絶命した。
『伏兵だと!姑息な!!』
『どの口で言ってんの?』
ササイ機を抑えていた内の一機がそう叫び、苛立たしげにミカヅキが応じる。その間も彼は淀みなく動き、倒れ伏していたグレイズのコックピットに刃を突き立てた。
『おのれぇ!!』
『待てアイン!友軍の支援を優先しろ!』
『逃がすと思ってるの?』
『やらせん!!』
何とか起き上がり後退しようとするグレイズにガンダムバルバトスが迫る。脇構えから放たれた一撃は強引に割り込んだグレイズの腕を切り飛ばす。
『クランク二尉!』
『大丈夫だ!撤退するぞ!』
その叫びと同時にグレイズの腰から円筒状の装備が転がり落ち、煙を噴き出す。瞬く間に広がったそれは、視界だけでなくレーダーすらも遮った。
『スモーク!?』
『全機動くな!!』
その声と同時に再び砲弾が空気を引き裂いて飛翔、胸部のシリンダーを損傷し後退していたグレイズを背後から撃ち抜き撃墜する。だがそれがこの戦闘における最後の一撃になった。
「失敗しただと!?」
帰還したクランク・ゼント二尉からの報告を受け、コーラル・コンラッド三佐は声を荒げた。
『はっ、2割の兵とグレイズ3機を失い、やむを得ず撤退を――』
「巫山戯るな!MSを有するとは言えこちらの方が数で圧倒していたのだぞ!」
怒りを抑えきれず、コーラルは思わず机を叩いた。独立運動の旗頭となりつつある、クーデリア・藍那・バーンスタインを殺害する事で火星圏の混乱を誘発すると共に地球への憎しみを増大させ、独立運動をより過激な方向に舵を取らせる。戦争を望む武器商人らしいノブリス・ゴルドンの願いを聞き届け報酬を得ると同時に、蜂起を計画していた大規模武装勢力を鎮圧するという戦果を挙げる。その両方を持って本国へ栄転するというコーラルの目論見は出鼻をくじかれることになったからだ。
(しかもグレイズを3機も喪失だと!?大失態ではないか!!)
今回の作戦はコーラルの独断によって実行されている。当然だ、要人の暗殺など公に出来る訳が無いし、CGSに関してもこれまで報告を上げていなかったからだ。これは彼がCGSを過小評価していた事と、ギャラルホルン内の勤務内容に対する評価に原因がある。MSの不正保有摘発よりも武装勢力の鎮圧の方が高い評価を得られる為に、コーラルは今までわざとCGSを見逃し続けてきたのだ。多少戦力を揃えたところで、規模と練度で正規軍に敵う筈もないと彼は考えていたからだ。しかし現実はそれを凌駕する。
『…また、件の組織には少年兵が多数在籍しております。彼等が自らの意思で戦っているとは思えません。一度降伏を促し、改めて制圧すべきです』
「甘いことを言うな!既に連中はギャラルホルンに弓を引いた反乱勢力だ!女子供であろうと関係無い!一人残らず鎮圧しろ!これは命令だ!!」
そう言ってコーラルは通信を一方的に切断する。
「クランク・ゼント。それなりの駒だったが、潮時か」
クランク二尉は彼直属の部下であり、指導教官を務める程の操縦技能を持つ兵士だ。同時に兵隊根性が染みついた人間で、世情に疎く考えも柔軟性に欠けるギャラルホルンの掲げるお題目を本気で信じている類いの希有な存在だ。今までも表向きさえ整えておけば、素直に任務をこなしていた為に都合良く彼は使っていたが、どうにも今回は彼の硬直した思考が悪い方向へと働いているようにコーラルは感じた。
(そもそも今更ではないか)
コーラルは皮肉気に頬を歪める。何故ならクランク二尉は彼の指示で幾度も海賊や武装組織の鎮圧を行っている。戦った戦力にヒューマンデブリが含まれているなど、考えるまでもない事の筈なのだが。
「馬鹿も使いよう、とは言うものの度を過ぎれば話は別か。クソ、時間がないと言うのに…」
そう呟き、彼は計画の修正を考え始める。だが既に全てが遅すぎたことを彼が身をもって知る事になるのはそれ程時を必要とはしなかった。