起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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37.何をもって仲間とするかは個人の主観による

「間違っていたらどうしようかと思ったよ、如何せん似たような船はそこそこ見るのでね」

 

笑顔で迎えてくれたマクギリス君にそう言って俺も笑顔で握手する。残念ながら彼はモンターク中なので仮面で表情の半分は見えないが、まあ口元が笑っているなら笑顔でいいだろう。

 

「今まで色々なお客様を相手にしてきましたが、MSで乗り込まれたのは初めてです」

 

「それは随分と真っ当な商いをしてきたのだね。私なんて結婚式にMSが乱入してきたよ」

 

それも複数。あの時は流石に死を覚悟したわ、かみさんが何故かMS用意してて迎撃したから事なきを得たけど。

 

「おや、ご結婚なされていたのですか?」

 

「昔のことさ、面白い話でもないよ」

 

だからそんなに興味深そうにこっち見るな、目元のシャッターも開けなくていい。

 

「そうですか、それで本日はどの様なご用件でしょう?」

 

うん、ちょっとね。

 

「MSを単独で降下させる装備などは扱っていないかと思ってね。まあ無ければ適当なシャトルの残骸でも良いんだが」

 

「…失礼ですが、今、何と?」

 

え、だからぁ。

 

「大気圏にMSで単独突入出来る装備が欲しい。無ければシャトルの残骸、可能な限り底面の状態が良いものがいいな」

 

俺がもう一度繰り返すと、彼は顔と腹に手を当てて肩を震わせ始めた。

 

「今まで様々な商いをしてまいりましたが、その様な注文を受けたのは初めてです。用意出来なくはありませんが、性能は保証致しかねます。貴方がお使いのグレイズは本来そのように使う機体ではありませんので」

 

「問題ないよ、MSで無茶をするのは慣れている」

 

まあ、後で雪之丞にキレられる可能性はあるが仕方あるまいて。

 

「彼らに任せるのが不安ですか?」

 

んー。

 

「不安、と言えば不安だね。あの子達は真面目で責任感が強く、それでいて大抵の無茶を通せる実力もある。だから直ぐに無茶をするんだ、ちょっと無理をすれば大抵の事が出来てしまうからね。なかなか目を離せんよ」

 

そう返すとマクギリス君は笑顔を作る。

 

「成程、彼らを高く評価されているのですね。ご依頼の件ですが、この船にも在庫がございます。そのままお持ち帰りになりますか?」

 

「それは僥倖、ぜひそうさせてくれ。ああ、ラッピングは要らないよ、直ぐ使うのでね」

 

「承知しました。それで、本当の御用件はなんでしょう?」

 

おお、流石に鋭い。いや、まあバレバレか。この程度の事は通信でも十分対応できるもんな。態々船に乗り込んでまでする話じゃない。

 

「モンタークではない方の君に用事なんだが」

 

「…暫しお待ちを」

 

そう言って彼は艦内を歩き出す、しばらく無言での移動が続き、連れ込まれたのは執務室と思しき部屋だった。

 

「失礼、部下には同一人物と教えていない者もいるので」

 

仮面を脱ぎながらマクギリス君はそう話す。まあ人間秘密の一つや二つはあるもんだからね。俺だって皆に話してない事なんて幾らでもある。

 

「構わんさ。さてそれでは本題だ、例の件の進捗は如何かな?」

 

「芳しくない。ギャラルホルンの選民思想は若手にまで広がっている。それも全く無自覚な位に」

 

「君の御友人もそうだったね、ボードウィン家のガエリオ君だったかな?」

 

「あれでもまだマシな部類だよ。彼らにとって人間とは即ちギャラルホルンに属している存在だけを指す。経済圏の人間ですら人と認識出来ているか怪しい。なにせ彼らにとって民衆は守るべき弱き民草だからね」

 

中世の貴族かな?まあ、軍事力を独占してりゃそうもなるか。宇宙世紀にも貴族馬鹿は居たしな。

 

「成程、では難しいかね?」

 

「困難ではあるが不可能ではない。ボードウィン家の人間は少なくとも善良だし現状を憂いるだけの思考能力もある。もう一家、イシュー家の当主代理も人柄は真面だ。ついでに言えば単純な分思想の誘導は容易だ。問題は残る一家、クジャン家のイオク・クジャンは善良ではあるが、頭が悪い」

 

「……」

 

「残るエリオン家はファリド家と権力争いの真っ最中、バクラザン家とファルク家は風見鶏だ、交渉する価値があるかも怪しい」

 

「マクギリス・ファリド」

 

説明を続ける彼を俺は名を呼んで制する。

 

「…なんだろうか?」

 

うん、いや前から気になってはいたんだよね。でも今ので確信したわ。

 

「何故君は年上の男性にそれ程まで敵意を向けているのかな?」

 

「……」

 

「君が引き込む側として口にした相手は全て年が近い者達だ。賛同は得やすいだろうが組織内での影響力には疑問が残る。対して敵と認識している者たちは全て年上だ。偶然と言うには少々偏りが過ぎていると思うのだがね?」

 

加えて彼の言葉が正しいならば、懐柔が容易と言える相手でもある。イズナリオ・ファリドの失脚は最大の敵と認識しているエリオン家の追い風となるのだから、それを手土産に関係の改善を図ることは困難ではない。風見鶏と評した2家だって有利な方へ付くと言えるのだから、自分達が有利であると積極的な主張をするだけで味方になる可能性があるし、最悪でも中立を保たせることが出来る。少なくとも没交渉にはするべきではない。だが彼はそれらの家との関わり合いを積極的に避けているように見受けられた。そして、何より気になったのは俺を見る目だ。オルガやミカヅキ達を見る目は何処か気を許しているような雰囲気があったが、俺に対してのみ隠しきれない敵愾心みたいなものを感じたのだ。最初はオルガ達をいいように使っている俺への義憤かと思っていたのだが、その割には怒りの質が何と言うか嫌悪に近い気がするのだ。

 

「それを聞いて、貴方はどうするのかな?」

 

どうするって、そりゃお前さん。

 

「どうもしないな」

 

「何?」

 

「仮に君が極めて私的な内容で憎んでいても、大きな志を持って遠ざけているのだとしてもだ。君がそう決めてしまっている意思を私がどうこう出来るとは思えないし、するべきだとも思わない。何故ならその選択は君が君の人生において決定したものだ。それを横からしゃしゃり出て変えろなど余計な世話と言うものだ」

 

「彼らにはあれこれと口を出しているようだが?」

 

「アドバイスくらいはするさ、それが先に生まれた人間の特権だからね。間違っていると思えば忠告だってする。まあだからこそ知りたいのさ、私には今の君の選択が正しい様には見えない。けれど君にとっては正しい選択なのだろう?その根底を知らぬままに言葉を幾ら重ねた所で、妥協点は探れない」

 

「妥協だと?」

 

「誰にだって譲れない部分なんてものはあるものだ。そこを強引に抑えた協力関係など絶対に成功しない。そして、今の我々は弱い」

 

険しい表情のマクギリス君に構わず俺は続ける。

 

「弱い者が強い者に抗おうとするならば、数を束ねる他に方法はない。正に選り好みなどしている余裕は無いほどにね。だから、味方にできそうな相手とは出来うる限り互いに納得できる協力関係を築きたいと考えている」

 

「私にとって、協力者を作ること自体が妥協できない点であるならどうするのかね?」

 

獰猛な笑みを浮かべるマクギリス君に俺は肩を竦めて応じる。

 

「それはもう協力関係になれないという答えしかないね。それはつまり君は私達も協力者と見ていないという事だろう?そういう相手に背を預けるほど私は博徒ではないよ」

 

「信用ならない相手の船に乗り込んで言う台詞ではないな」

 

そう口にすると彼は表情を緩め、とんでもない爆弾を放り投げてきた。

 

「私が彼らを嫌悪していると言う貴方の判断は正しい。何故なら私は年上の男性と言う存在に生理的嫌悪感を抱いているからね」

 

「それはまた、随分と広く嫌ったものだな?」

 

「私はイズナリオ・ファリドの妾の子という事になっているが、実は養子でね」

 

「君程優秀なら御父上の気持ちも解らなくはな――」

 

「彼の稚児趣味で集められた者の中で、偶々優秀だった私が選ばれた。養子となった後も随分彼の趣味には付き合わされたよ」

 

とんでもねぇ事さらっと暴露すんなや!脳の処理が追い付かんわ!

 

「…それは」

 

「奴は中々いい趣味をしていてね、養子になる前は品評会に出された事もある。随分と同好の者が居るものだと子供心に驚いたよ。どうしたのかな?話せと言ったのは貴方だったと記憶しているが?」

 

悪かった、悪かったよ。

 

「成程、だから男性、それも年上には生理的嫌悪感か」

 

そいつは如何ともし難いね。

 

「どうするね?はっきりと言えば、貴方と二人きりの空間に居るだけで吐き気を感じる私に彼らとの交渉を求めるかね?」

 

その言葉に俺は頭を振る。

 

「いや、必要ない。その代わりにボードウィン家とイシュー家を確実に確保する方がいいだろう」

 

「いいのかな?貴方達への嫌疑解除が失敗するかもしれないぞ?」

 

かもね。

 

「私達の利益を追求するならばそうだろうな。けれど私は我儘でね」

 

「我儘?」

 

「君を犠牲にして他の連中が助かっても、私はちっとも嬉しくない。だから君も助かる道があるなら、そちらを選ぶさ」

 

「驚いたな、私の為に仲間を危険に晒すと言うのかね?」

 

は?何言ってんだ?

 

「協力するとなった時点で、君はもう仲間だろう?仲間が犠牲にならないようにするのは当然の事だ」

 

我ながら随分と歪んだ思考だと思う。けれどこのくらい手を広げないで、どうやって皆で笑える世界など創れると言うのか。欲を掻くと決めたんだ。どこまでだって掻いてやる。

俺がそう言うと、マクギリス君は暫し呆然とこちらを見ていた。




マッキーのカミングアウト
こうかはばつぐんだ!

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