起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

40 / 85
39.戦争のルールとは、強者が勝つために決めた不平等なものである

「彼等が来て5日か、もう少し持つかと思ったがのう」

 

手にした端末の画面を見ながら蒔苗・東護ノ介は眉を寄せながら髭を弄った。遂にギャラルホルンが鉄華団の位置を特定、オセアニア連邦に対して彼等の引き渡しを要求してきたのだ。蒔苗の口添えで通報こそ免れてはいたものの、鉄華団に対し何の義理もないオセアニア連邦にしてみれば、ギャラルホルンに渡せと要求されたなら否応無いのは当然の対応と言えた。

 

「如何なさいましょう?」

 

「如何もなにもなかろう。連中を差し出せば、後は邪魔な儂等も殺されて終わりじゃよ。彼等の手腕を信じて任せる他あるまい。すぐに連絡せい」

 

「は、はいっ!」

 

慌てて部屋を出て行く若い秘書を見て、蒔苗は溜息を吐いた。経験を積ませるために連れてきた男だったが、それにしても能力が不足し過ぎていると感じたからだ。平素は頭も回り気の使える人間であるが、想定外の事に直面した際の対処能力が低すぎる。そもそもたかが背中に機械が生えている程度の事で、相手に露見する程感情を見せるなど政治家として落第も良いところだ。

 

「まあ、後50年もすれば多少は見られるようになるじゃろう。生きておればの」

 

そう言って彼は笑うと、湯飲みの中身を一息で飲み干した。

 

 

 

 

「思っていたよりも遅かったな」

 

地図を眺めながらアキヒロがそう呟くと、オルガが笑いながら応じた。

 

「ああ、もう2~3日は早いかと思っていたんだが。まあおかげで十分休めたんだし文句を言うのも筋違いか。チャド、モビルワーカーの組み立て状況は?」

 

「持ち込んだ機体は全部終わってる、今雪之丞のおやっさんが最終点検をしてくれているよ」

 

「よし、なら終わり次第輸送の準備に入るよう伝えてくれ」

 

「使わないの?」

 

「この島は碌な防御陣地もねえからな。艦砲射撃を喰らったらモビルワーカーじゃひとたまりもねえ。MS相手にゃ火力不足だし、手加減に向いてねえからな」

 

ミカヅキの疑問にオルガが答える。

 

「連中が言葉通りにクーデリアさんの身柄を押さえるつもりなら、上陸部隊が来るはずだ。そっちの対応はガットに任せる。やれるな?歩兵部隊の指揮はサブードさんに任せる」

 

その言葉にガット・ゼオとサブード・カタンが黙って頷いた。

 

「今回の目的は島からの脱出、それから追撃部隊の戦力低下を狙う。具体的に言えばMS部隊の撃破と移動用艦艇の破壊だな」

 

「MSはともかく船の撃沈ってなると、殺さずって難しくねぇ?」

 

シノがそう顔を顰めると、すかさずロッドが口を開いた。

 

「そうでもない。水上艦艇は自動化が進んでいて殆ど人が乗っておらん。艦橋や格納庫に直撃でもさせんかぎり簡単には人死には出ん。更に言えばギャラルホルンの海上艦艇はナノラミネート処理がされていないから砲戦でもダメージを与えられる。喫水線下に幾らか穴を開けてやれば行動不能に追い込めるだろう」

 

「なら、アキヒロとシノに船は任せる。どうせ近づいてこねえだろうからな」

 

そう指示をしながらオルガはガットとサブードへ再び視線を戻した。

 

「贅沢を言うなら連中の揚陸艇を確保したいが、まあこっちは努力目標だ、無理はしなくていい。歩兵同士の撃ち合いじゃあ阿頼耶識の支援も受けにくいからな」

 

その言葉に頷いて同意を示すサブードの通信器が音をたて、彼の視線が僅かに動いた。

 

「社長、偵察班から連絡。B班が敵艦隊を目視したそうだ」

 

「数は?」

 

「空母と思われる艦影が3、それ以外は確認出来ていないそうだ」

 

「その距離まで近づいているとなれば、揚陸用舟艇も搭載している艦だ、射程も短いが主砲も備えている筈だから、恐らくその艦隊はそれで全てだろう。後は別働隊がいるかだな」

 

「引っかかりますかね?こんな単純な手に」

 

「正直引っかかって欲しくないのだがな、間違い無くかかるだろう」

 

ロッドは苦虫を噛み潰した顔でそう答えた。

 

「治安活動で出撃することはあっても、地上で大規模な軍事作戦を展開する機会は殆ど無い。ついでに言えば、策を練ってギャラルホルンと戦おうなどという勢力もな」

 

「そいつは有り難いですが、かえって怖いですね」

 

「怖い?」

 

顔を顰めたオルガに対し、ロッドが問い返す。それに対し、オルガは大真面目な表情で答えた。

 

「ええ、つまり相手はこんな手に引っかかるような馬鹿って事でしょう?馬鹿は次に何をしてくるか解らねぇ、頭が良い敵よりずっと厄介だ」

 

 

 

 

「別働隊の移動は済んでいるのだな?」

 

目の前の島を睨みながら、コーリス・ステンジャは部下にもう一度確認した。未だ夜は明けておらず、太平洋上の孤島は静かに息を潜めている。

 

「はっ、艦隊の揚陸部隊を集結後、島の反対側へ移動させております」

 

「明朝、日の出を待って艦砲射撃を実施、制圧射撃後にMS部隊を突入させる。フライトユニットのチェックは念入りにさせておけ、カルタ様の前で無様を晒すなよ」

 

「あの、隊長」

 

「なんだ?」

 

指示を出すコーリスに対し、気まずげな顔で指示を受けていた隊員が口を開いた。

 

「目標は我々に気付いていないように思われます。今ならば奇襲も可能ではないでしょうか?」

 

その提案に対し、コーリスは目を見開くと大声で叫んだ。

 

「馬鹿者!夜討ち朝駆けなどというのは卑怯者のやることだ!貴様はカルタ様の正道に泥を塗るつもりかっ!?」

 

「い、いえその様なつもりは」

 

「お前達も聞け!いいか、ギャラルホルンの正義とは我々の行動そのものが示すのだ!例え敵が卑怯非道の輩でも、我々は正々堂々戦う義務がある。それを忘れるな!降伏勧告は出しているな?」

 

「はい、明朝0600を刻限として発信済みです」

 

その言葉にコーリスは大きく溜息を吐く。

 

「宜しい。獣とは言え我らは慈悲を示さねばならん…尤も、乗ってくれるなと言うのが本音だがな」

 

コーリスはそう呟くと目を閉じる。

 

「オーリス。不出来な弟だったが、死んで良い人間ではなかった。いずれはカルタ様の下で轡を並べられると。その未来を奪ってくれたのだ、報いは受けてもらわねば釣り合いがとれん」

 

夜明けはすぐそこに迫っていた。

 

 

 

 

『よう、なんか見えるか?』

 

ぼんやりと夜空を眺めていたミカヅキの耳にオルガの声が届いた。

 

「ん、月見てたんだ」

 

『ああ、ミカの名前の由来だったか?』

 

「うん、なんか綺麗だなって。良いところだね、地球」

 

『…ああ、良い場所だな。地球は』

 

周囲には樹木が茂り、海には魚が泳ぐ。暖かい太陽の日差しは暑いとすら感じられ、夜の寒さに震えることもない。少年達が初めて経験した地球は、彼等が思い描いていた理想のような場所だった。

 

「オルガ、おっちゃんがさ」

 

『あ?』

 

「おっちゃんがさ、言ったんだ。俺は凄い奴だって。でも俺、何がしたいって考えた事無かった。だって、俺の命はオルガに貰った。だから俺の命は全部オルガの為に使うって決めた。その気持ちは今でも変わらない」

 

『ミカ…』

 

「でも、俺やりたい事が出来たんだ。やり方は知らないし、出来るかも解らない。それでも俺、やってみたいと思ってる。ねえ、オルガ。俺どうしたらいいのかな?」

 

『ミカ、悪いが俺はそれに答えられねえ』

 

オルガの言葉にミカヅキは目を見開いた。何故ならオルガはいつでもミカヅキに応えてくれたからだ。だから今回の事も尋ねた。彼に否と言われればミカヅキは自分の思いを簡単に諦めただろう、それがどれ程重要な事であったとしても。何故ならミカヅキにとってオルガの判断こそが絶対の基準であり、正しい判断だからだ。だがその論理は他ならぬオルガ自身によって覆される。

 

『昔、お前に言ったよな?俺達の居場所へ連れて行くって』

 

「うん」

 

『その約束は忘れてねえ。お前を俺達の居場所へ連れて行く、それは俺のやらなきゃいけねぇ仕事だからな。けどよ、ミカ。その場所ってのは着いたらはいお終いとはいかねぇ。そらそうだろ、たどり着いたって俺達は死ぬわけじゃねぇ、その場所で生きるために俺達は向かっているんだからよ』

 

「…うん」

 

『なあ、ミカ。お前のやりたい事は、そのたどり着いた先でお前がやるべき事なんだと俺は思う。だから、そこに俺の考えは入っちゃいけねぇ。俺達は人間だ、ものじゃねえ。例え苦しくたって、自分のことは自分で決める。そうじゃなきゃいけねえ。だからミカヅキ・オーガスは、いつまでもオルガ・イツカのものであっちゃなんねえんだ』

 

はっきりとした言葉でオルガは告げてくる。それに対し、ミカヅキは小さく笑った。

 

「厳しいな、オルガは」

 

『馬鹿言うな、お前が決めたことなら俺は応援するって言ってんだ。こんなに優しい相棒が居るかよ』

 

「うん、そうか、そうだね」

 

噛みしめるように口にして、ミカヅキは空を見た。もうすぐ夜が明ける。




多忙につき更新を停止致します。申し訳ありません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。