起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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43.悪が栄えないのは勝った者が正義だからである

「うわ、面倒臭ぇ」

 

双眼鏡を覗いていたオルガが、そう嫌そうに漏らす。同じく横で見ていた俺もそれに同意した。

 

「河川を挟んで対峙、しかもご丁寧に橋は一つを残して破壊済みとはな」

 

「川の水量は大した事無さそうですが、モビルワーカーはともかく車両での突破は厳しそうですね」

 

「それこそのんびり渡河していたら蜂の巣だろうな。仮に突破しても直に市街地だ、少し下がられれば撃破の難易度は跳ね上がる」

 

都市への損害を気にしなくて良いのなら幾らでもやりようはあるのだが、そんな事をしたら選挙に出る前に蒔苗氏の政治生命を終わらせてしまう。

 

「釣り出したい所ではあるが流石にそこまで馬鹿では無いだろうしな。そうなると、残念だが正攻法だな」

 

「モビルワーカーの数が圧倒的に足りませんよ?」

 

火星から持って来たのが6台に、ノブリスからかっぱらったのが2台。オセアニア連邦の島で強奪したのが6台で、テイワズから買い付けたのが20台。ちょっとした数ではあるのだが、相手は正規軍の上に見えるだけでも30を越えている。あれで全戦力とは考えにくいし、俺達が拠点にしているのは郊外の廃駅だ。市街地への影響を気にせずにMSで襲撃し放題である。割と最悪な条件だな。

 

「その分は経験と腕で補うしかないだろうな。装備の点検が済み次第全員を集めて作戦会議だ」

 

 

 

 

「モビルワーカーの動作チェック急げよ!特にノブリスの所のとギャラルホルンの奴は入念にな!」

 

大声で指示を出して居る雪之丞にエーコ・タービンが駆け寄る。

 

「MSのチェック終わったんで、こっち手伝います!」

 

「おう、助かる!テイワズ製の奴を見てくんねぇか」

 

「はい!」

 

慌ただしく動き回る整備班の間をすり抜けてオルガが雪之丞に近づいてきた。

 

「おやっさん、どうです?」

 

「持って来た6台はともかく、他のは頼りねえってのが本音だな。ギャラルホルンの奴はともかく他のは性能的にも向こうより下だろうし、何より阿頼耶識がついてねえ」

 

「それなんだが、おやっさん。テイワズ製のやつには外部操作機能がついてましたよね?」

 

オルガの言葉に雪之丞は顔を顰めた。

 

「あるこたぁあるが、ありゃ本当に外から操作出来るだけって代物だぞ?真面に動かせるもんじゃねえ」

 

「十分です、重要なのは中に人が乗ってねえって事ですからね。取敢えず1台、出来れば10台を操作出来るようにしておいてください」

 

悪戯を思いついた子供のような顔でそう告げてくるオルガを見て、雪之丞は溜息を吐く。

 

「おめえのそういう所、だんだんマの奴に似てきてやがるなぁ」

 

「褒め言葉として受け取っときます。どの位かかりますかね?」

 

「試しで1台弄ってみて次第だな。一時間もありゃセッティングだけはできんだろ」

 

「じゃあそれで。あと30分後に作戦会議をするんで、手の空いた奴を会議室に来させてください。たのんます」

 

「おうよ、オルガ」

 

「はい?」

 

「ちゃんと全員で火星に帰ろうぜ」

 

雪之丞の言葉にオルガは頭を下げて走り去っていく。雪之丞はそれを見送ること無く手の中のタブレットを操作し始めた。今の彼等にとって、時間はとても貴重なものだったからだ。

 

 

 

 

「急に呼び出したかと思えば、宇宙に上がってこいとは人使いが荒いんじゃないか?」

 

「おや、なら声をかけずに留守番を言いつけた方が良かったかな?」

 

そう返してくる友人に対し、ガエリオ・ボードウィンは肩を竦めて笑った。

 

「それは勘弁願いたいな。で、アインも呼び出したとなると連中絡みか?」

 

キマリスを搬入する際に見たマクギリスのシュヴァルベ・グレイズは地上用に調整を受けていた。その理由は考えるまでもないだろう。ガエリオの思考を肯定するように、マクギリスが首肯し口を開く。

 

「オセアニア連邦領で交戦した後、彼等はアーブラウ領に移動した。追撃に当たったカルタに確認した所、彼等はアーブラウの前代表、蒔苗東護ノ介と行動を共にしている。目的は4日後に行われる代表指名選に蒔苗氏を送り届ける事と見て間違い無いだろう」

 

「彼等が地球に来た理由が蒔苗との交渉だったか。ならば何も不思議じゃないな」

 

「ああ、むしろ不自然なのはギャラルホルンの動きだ」

 

「……」

 

沈黙するガエリオに構わずマクギリスは言葉を続ける。

 

「不法侵入した鉄華団を地球外縁軌道統制統合艦隊が追撃するのは職務の範疇だろう。だが、アーブラウ駐留部隊が防衛出動しているのは辻褄が合わない」

 

「蒔苗が鉄華団の武力で議事堂へ向かおうとしている。と言いたいところだが、それは俺達にとって都合の良すぎる解釈だろうな」

 

自宅に帰ると言うのに厳重に身を固めて玄関をくぐる者は居ないだろう。家に不埒な輩が居座ってでもいなければの話であるが。

 

「命令自体は統制局からの正式なものだ。だが辿っていけば大本は異なる」

 

「誰だ?」

 

ガエリオの問いに、マクギリスは皮肉気に口元を歪めた。

 

「ヴィーンゴールヴ司令、イズナリオ・ファリドだ」

 

その答えにガエリオは目を見開くが、そんな彼の事など構わずにマクギリスは話し続ける。

 

「調べてみれば単純な話だったよ。蒔苗氏の贈賄疑惑からの国外逃亡は敵対派閥の追求を逃れるためだとされていたが、実際は違う。政敵であるアンリ・フリュウと繋がり、ギャラルホルンと言う軍事力を運用出来る人物から身を守るための行動だった」

 

マクギリスの言葉の意味が察せ無い程ガエリオは馬鹿ではない。

 

「つまり、イズナリオ様がそのアンリ・フリュウと繋がり蒔苗を追い落とした。アンリとやらはさぞかしファリド公に恩を感じるだろうな。あるいは弱みを握られたと言うべきか。そしてそこにつけ込めば、ファリド公は容易にアーブラウに対し影響力を発揮出来る」

 

そこまで言うと、ガエリオはマクギリスの座る机へと歩み寄り、手のひらを打ち付けた。

 

「これが範を示すべきセブンスターズの行いか!?」

 

「落ち着け、ガエリオ」

 

「お前にとっても他人事では無いだろうマクギリス!いや、ファリド家の人間であるお前こそ!」

 

「そうだ、だからこそ冷静に事を進めねばならない」

 

そう言って彼は立ち上がりガエリオと視線を交わす。

 

「以前私が話した事を覚えているか、ガエリオ?」

 

二人は幾度となく言葉を重ねてきた間柄である。だがこの瞬間、この状況で指し示す話と言えば一つしか無い。

 

「ギャラルホルンを正す。お前はそう言った」

 

「そうだ、そう考えるならば今は決して悪い状況では無い。大きな不義が鉄華団という外的要因を受けその身を晒しつつあるのだ。むしろ我々にとっては奇貨と言える」

 

「だが無傷では済まない」

 

「そうだろうな。セブンスターズが起す不祥事だ、ギャラルホルンの信用は大きく揺らぐだろう。だがガエリオ。我々にとって都合の良い程々の不義を待ちこれを見逃すと言うならば、私達に正義を語る資格が有ると思うか?」

 

視線を逸らすことなく問いかけてくるマクギリスを見て、ガエリオもまた腹を括る。

 

「本気なんだな?」

 

「ああ」

 

即座に返ってきた言葉にガエリオは力強く頷くと拳を突き出し宣言した。

 

「ならば今、ガエリオ・ボードウィンはここに誓おう。セブンスターズがボードウィン家の一人として。そしてマクギリス・ファリドの友として、共にギャラルホルンの不義と戦うと」

 

ガエリオの宣言にマクギリスは一瞬眩しそうに目を細めた後、いつもの笑顔で突き出していたガエリオの拳に自らの拳を合わせてきた。

 

「後悔するなよ?私もここに誓おう、どの様なことがあってもギャラルホルンを正すと」

 

そう口にするマクギリスに向かってガエリオは挑発的な笑みを浮かべ言い返す。

 

「後悔などするものか。第一、俺にそんな思いをさせる男にアルミリアが託せるか」

 

「困ったな。これからファリド家は厳しい立場になる。それこそ最悪セブンスターズの席を返上する事態になるやもしれん。当然嫁いできた妻にも辛い思いをさせることになるだろう。その時お前が後悔しないとは限らない。ここは一度アルミリアとの婚約は白紙に戻して…」

 

顎に手を当て、マクギリスは不穏な事を口にしだす。

 

「友を後悔させる訳にはいかないからな。私としても断腸の思いだが、涙を呑んでアルミリアの事は諦めるしかないか。ガエリオを後悔させる訳にはいかないからな」

 

「おい馬鹿止めろ。俺の言葉が原因で婚約が破棄されたなどと知られたらアルミリアに何をされるか解らん。あれであいつもボードウィンの娘だぞ?お前は俺を後悔する前に死なせるつもりか?」

 

その物言いに半眼になりながらガエリオが言い返せば、マクギリスは悪戯に成功した子供の顔で口を開いた。

 

「冗談だ、アルミリアと約束もしている。彼女は私が幸せにする。この役目を誰かに譲るつもりはない。さあガエリオ、準備をしよう。そろそろ古く淀んだ空気は吐き出す時だ」




そろそろ1期編もクライマックスですが2期の話が全然出来ていません。
と言うか1期のラスボスも決まっていません。
やはり思いつきで物事を進めるもんじゃないですね!

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