起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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47.火星の王様

『いや、大概慣れたけどよ、良いのか?』

 

インカム越しに聞こえてくるアキヒロの声は、既に諦めの色が出ている。だというのに一々聞いてくるとか、ガタイの割に相変わらず肝が小さい奴である。

 

「構わん、やれ」

 

『知らねえからな?』

 

躊躇無くそう言ってやれば、目の前に居たロディ・フレームが手にしていたスコップを地面に突き立て、次いで大量の土砂を巻き上げた。

 

「ふははは!大変結構!その調子でどんどん掘れ!」

 

伊達に人型をしとらんな。人間の道具と同じ物を与えれば作業機械に早変わりだ。作ってくれた雪之丞には後で旨い物でも持ってってやろう。高笑いをしながらアキヒロの作業風景を眺めていたら、モビルワーカーが走ってきて横滑りをしながら停止、荷台からスーツにCGSの制服を羽織った男が飛び降りるや、こちらに向かって怒鳴ってきた。

 

「てめえ、マ!この野郎帰って来て早々何してやがる!?」

 

「見ての通り、池を造っている」

 

「あ、これ池だったんだ?」

 

「うむ、アーブラウで品種改良された淡水魚がいてな、折角だから火星で育たんか試してみようと思ったんだ」

 

モビルワーカーの操縦席から顔を出して聞いてきたライドにそう答えると、マルバがこちらに詰め寄ってきた。

 

「ここは!第四演習場だぞ!?」

 

「大丈夫だ、今回は土地改造の申請は済んでいるから役所の連中も襲ってこない」

 

「ちげえよそうじゃねぇ!?」

 

ウチの社長はテンション高ぇなあ。

 

「自治権拡大に伴って再開発が決定しただろう?今後河川や貯水池といった施設での活動も増える。そう言う場所での行動について学べる環境を用意するのは重要な事だ」

 

俺が施工図に目を落としながらそう言うと、マルバとライドがチベットスナギツネ――信じられない奇跡でこの世界でも生存している――みたいな顔でこちらを見ながら口を開く。

 

「「で、本音は?」」

 

「だって美味い魚食いたいじゃん。あ、アキヒロ、右に逸れているぞ」

 

『ロディ・フレームは力が足りねえ』

 

ガンダムフレームと比べるんじゃないよ。出てきた岩の位置などを書込みながら視線を送れば、ライドは愉快そうな笑顔で、マルバはまるで胃が痛むような苦悶の表情で突っ立っている。何、暇なん?首を傾げているとマルバが俺の手から施工図をひったくり、モビルワーカーの荷台を親指で指しながら口を開いた。

 

「上から呼び出しだ。さっさと行ってこい馬鹿野郎」

 

えー。

 

「先週呼び出されたばかりなのだが」

 

「おう馬鹿野郎。忘れてるかも知れねえがお前今観察処分中だからな?呼び出されたらすぐ行くんだよ馬鹿野郎。今度ギャラルホルンに睨まれたら100%てめえのせいだからな?判ったか、この馬鹿野郎」

 

三回も言った!前世でもそこまで言われたこと…結構あったな。

 

「ならば仕方ない。ライド、帰りにマサヒロとアストン達に声をかけてくれ、あいつらならここの施工が解るから、アキヒロのナビを任せたい」

 

「はい、了解ッす」

 

「来るまでは俺が見といてやるよ。おら、インカム寄越せ」

 

仏頂面でそう手を出してくるマルバを見て、俺は笑う。ああ、帰ってきたんだなぁ。

 

 

 

 

「まだなの?全く、男というのは何故こうも女性を待たせるのかしら?」

 

ギャラルホルン火星支部の本部である宇宙ステーション、アーレスの執務室でカルタ・イシュー一佐はそう口を尖らせる。それを見て、近くに立っていたコーリスが苦笑しながら応じる。

 

「出頭指示を出したのは今朝方です。シャトルの都合もありますから、最低でも出向くのは昼過ぎでしょう」

 

「だから専用のシャトルを常駐させるべきだと言ったのよ」

 

その言葉に周囲に居た他の青年達も困った顔になる。実情はどうであれ、今の彼は保護観察処分中の身である。そんな相手を特別扱いするのは一般的に見て異常であるし、その様なことをすれば対立派閥の良い攻撃材料になってしまう。特にエドモントンにおける一件でファリド家が大きな失態をおかしている現状で、これ以上の余計な弱味は作るべきでは無い。そう彼に説得され、カルタも一度は頷いたものの、やはり納得とはほど遠い状況だったようだ。

 

「仕方がありません。個人向けの教練は午後に回して午前は集団戦の訓練を中心に行います。それからコーリス、都市部で活動家達の運動が活発化しています。地上部隊の行動は暫く要請に対応するのみに留めなさい。余計な刺激をしたくないわ」

 

溜息を一つ吐いた後、カルタはそう部下達に指示を出す。彼がギャラルホルンに拘束されている間、捕縛した責任者として監査局より監視を要請されたカルタは長く彼と接していた。おかげでギャラルホルン内で最も彼の影響を受けてしまった人物と言える。それは彼女に足りていなかった現状に即した軍事知識を補填した一方で、思想や信条と言う面でも多くの変化を見せていた。尤も最大の変化は失恋の経験と次の恋を見つけた事だろうが。おかげで今まで彼女の周囲を固めていた有能な人材が、それぞれ部隊長として機能する事で、カルタの率いる部隊は飛躍的にその戦闘能力を高めつつある。

 

「それと、本国に要請している艦艇の配備についてはどうなっているかしら?」

 

彼女の問いにコーリスが答える。

 

「地球外縁軌道統制統合艦隊の規模縮小に伴う余剰艦艇の内2隻のハーフビークを回して貰えます。残りはアリアンロッド艦隊預かりに」

 

「つまり手に余る事態が起きた際はアリアンロッドの支援を受けろ、と言う事ですね。…エリオン公はともかく、クジャン公は心許ありませんわね」

 

アーブラウ内政干渉問題以降、ギャラルホルン内では大がかりな再編が行われている。本部施設であるヴィーンゴールヴ司令が実刑から逃れるために亡命、その後失踪などしたのだから無理もない話だ。カルタ自身も今回の責任をとって地球外縁軌道統制統合艦隊司令の職を辞している。火星支部の支部長に納まったのはセブンスターズの当主が無職では問題であると言う政治的判断と本人の希望によるもので、これにファリド家現当主とボードウィン家の後押しがあれば異を唱える者はいなかった。

更に鉄華団への対応から地球外縁軌道統制統合艦隊はその規模とその任務内容を見直される事となる。最終防衛線を守護する部隊としての性格よりも、アリアンロッド艦隊をすり抜けた小規模な戦力に対応するために、規模を縮小してでも即応性と柔軟性が必要であるとの結論から、大幅に戦力を削減するのと同時に訓練内容の見直しを計っている。

当初は艦隊運用の経験を持つイオク・クジャンが後任に推薦されたが、本人が固辞したため現在はボードウィン当主であるガルス・ボードウィンが受け持つ事になった。ヴィーンゴールヴ司令の地位も当初はファリド家が引き続き担当するという案も出ていたが、イオクと同じくマクギリス・ファリドがこれを固辞、現在はバクラザン公とファルク公が共同管理する事で一応の決着を見ている。

 

「クジャン家の連中は少々ご当主に甘すぎますからな」

 

「あら、貴方達も随分私を甘やかしていると思うのだけれど?」

 

そう評するコーリスに、カルタは愉快そうに問い返す。彼女が火星支部へ異動すると言った際、コーリスを含めて多くの者がそれに付き従う形で異動を希望、特に旗艦に所属していた者に至っては全員が付いてきた程だ。左遷にも等しい人事に自ら好き好んで付き従うなど、カルタからすれば随分過保護に映ったのだ。

 

「甘やかされていると御自覚があるなら問題ないでしょう。それにカルタ様には指南役がおりますからな。甘やかす人材も必要でしょう」

 

そう涼やかに笑うコーリスに、カルタは素直に笑顔を向ける。

 

「ならば皆の期待に応えられるよう励むとしましょう」

 

そう言って彼女は執務に取りかかる。火星支部長の席は決して疎かに出来るものではないのだから。

 

 

 

 

「やれやれ、やっと息が吐ける」

 

襟元を緩めながらイオク・クジャンは乗艦の司令席でそう溜息を吐く。それを見ていたジュリエッタ・ジュリスが半眼になりつつ口を開く。

 

「イオク様はもう少し絞られた方が宜しかったのでは?」

 

「ぐ、相変わらず口の悪い山猿め」

 

「諫言する部下に対してその物言い、壺の人の言った暗愚な君主の典型例ですね」

 

「お前のは諫言では無くただの悪口ではないか!まあしかし、ラスタル様に言われたから会ってはみたが、正直そこまでの人物とは思えなかったな。あれならばラスタル様の方が余程大人物だろう」

 

その物言いに、ジュリエッタは気付かれぬよう静かに溜息を吐いた。彼女の主であるラスタル・エリオンが大人物である事は疑いようのない事実だ。孤児であるジュリエッタを見いだし、取り立ててくれたと言う大恩もある。アリアンロッド艦隊をまとめ上げる手腕やイオクなどからも解るように人心の掌握にも長けている。だがそれらを十分に振るえるだけの地位に彼がいるのは、セブンスターズのエリオン家であると言う事が大きい。幼い頃に真面な教育を受けられなかった事によるハンディキャップを身を以て知っているジュリエッタにしてみれば、むしろ戸籍すらも曖昧な壺の人がラスタルと比較になる程の才覚を見せている方が異常なのだ。

 

(在野、それも蔑まれる火星出身者ですらあれだけの才覚を示す者がいる。血統主義の現状に少しでも疑問を持てと言う配慮だろうに、この盆暗は)

 

ラスタルの意図も読めず、貴重な識者との面会からも学べぬ事に、ジュリエッタは自身の中でイオクの株が更に下がるのを自覚する。

 

「いっそ、イオク様が火星支部に赴任した方が良かったかもしれませんね」

 

「何を馬鹿な、この私が学ぶべき相手はラスタル様を措いて他にはいない」

 

その思考が既にラスタル様から何も学べていない証拠ですよ。ジュリエッタは内心そう思ったが、それを口に出す事は無かった。言っても無駄なことを口にする程、彼女は愚かではなかったからだ。




お読み頂き有り難うございます。
これにて第一期編を完結とさせて頂きます。
ご愛読有り難うございました。





…もうちょびっとだけ続くんじゃよ?
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