起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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51.抗う為の暴力を恐れてはならない

「成程な、夜明けの地平線団についてはこちらでも対処を考えていたところだ」

 

『非正規航路利用の抑止に一役買っていることは理解しております。ですが真っ当な民間船への襲撃が増加している現在、野放しにすれば健全な人類発展の妨げとなる事は明白です』

 

「しかし連中は数のわりに臆病ですぐ逃げるのですよ、イシュー公。こちらが数を揃えれば現れもしないでしょう」

 

ラスタル・エリオンとカルタ・イシューの会話に、眉を寄せながらそうイオク・クジャンが口を挟んだ。アリアンロッド艦隊主導で過去幾度か夜明けの地平線団への討伐部隊は編成されたが、そのいずれも空振りに終わっている。イオク自身も指揮を執った事があったが、その時は彼の言うとおり姿すら現わさなかったのだ。

 

『ギャラルホルンと事を構えると言う意味を十分理解しているのでしょう。ですが、面倒な相手だからと放置して良いという話にはなりません』

 

「それはそうですが」

 

イオクはカルタ・イシューが苦手だった。以前は付き合いにくい程度の認識だったが、彼女は火星支部に赴任以降着実に実績を重ねている。またこれまで練度不足、お飾りなどと呼ばれていた地球外縁軌道統制統合艦隊が実のところ技量面では非常に優秀である事が後任のガルス・ボードウィンから報告されており、セブンスターズ内だけでなくギャラルホルン全体でカルタ・イシューの評価は上がっている。その姿は早くに父を亡くし、若くして家を継いだものの実力を示せずにいるイオクの気持ちを落ち着かなくさせるのだ。

 

「何か策があるのかな?」

 

ラスタルが愉快そうに彼女へ問いかけると、すぐに彼女は答えた。

 

『策と言う程の事ではありません。多数で掛かると逃げるというなら、逃げない程度の少数で当たれば良いのです』

 

「安直な、その程度で連中が捕まえられるなら苦労していない」

 

顔を顰めてイオクはそう否定する。アリアンロッドでもその程度は思い至り、実行していたからだ。結果は良いように手玉に取られ敗北。戦死者まで出てしまい、ラスタルが上手く立ち回らなければ大きな問題となっていただろう。だが、カルタはイオクの物言いに余裕の表情で応じてきた。

 

『勿論容易であるなどとは申し上げていません。肝要なのは火星支部とアリアンロッド艦隊がそれぞれ隊を派遣する事です』

 

「ふむ…」

 

彼女の言葉にラスタルが真剣な表情で考え込む。イオクも彼女の言わんとしている事は理解出来た。要するに逃げない程度の艦隊を複数用意し、合撃して叩こうという話だ。だが言うは易く行うは難い。何しろ連中が襲っても平気だと考える規模であるから、多くても一艦隊は2隻が限度だ。そして精強で鳴らすアリアンロッドであっても、そのような少数では友軍が来援するまで支えきれる保証はない。最悪各個撃破されてしまうだろう。

 

「哨戒任務であってもアリアンロッドは最低3隻からの艦隊運用だ。囮として連中を食いつかせるのは難しいと思うが?」

 

ラスタルがそう口にするも、カルタは何ら問題ないといった表情で応じる。

 

『いえ、アリアンロッド艦隊は囮ではなく主力を務めて頂きたく思います』

 

「つまり少数の囮は火星支部が買って出ると?危険だぞ?」

 

その言葉に大胆にもカルタは笑顔で切り返す。

 

『火星支部に配備されているハーフビーク級は現在4隻。ローテーションで運用していますから2隻の編成でも不自然ではありません。何よりセブンスターズの小娘が火星支部に左遷され、懸命に点数稼ぎをしている最中です。海賊討伐という大手柄に目が眩んで無謀な賭に出たとしても不思議ではないと思いませんか?』

 

「ふ、ははははっ!見事な覚悟だ。承知した、イシュー公。貴殿の策に乗らせて頂こう」

 

大笑いしながら承諾するラスタルに対し、カルタは笑顔のまま頭を垂れつつ口を開く。

 

『感謝致します。すぐに計画書を送らせて頂きますので、宜しくお願い致します』

 

「解った。確認次第折り返そう。詳細も詰めておきたいからな。こちらこそよろしく頼むぞ、イシュー公」

 

上機嫌でラスタルがそう言うと通信が切れ、程なくして作戦計画概要が送られてくる。その内容は神算鬼謀などとはお世辞にも言えず、堅実で手堅いが平凡な作戦だとイオクは思った。

 

「つまらない作戦だ、と言いたい顔だな?イオク」

 

「…はい。大見得を切った割にはただの分散合撃、使い古された作戦です」

 

「ほう、ではお前ならどうする?」

 

その質問にイオクは言葉を詰まらせた。平凡と評したは良いが、咄嗟にそれを上回る策など思いつかなかったからだ。それを見透かすようにラスタルは苦笑しながらイオクを諭してくる。

 

「効果的で有効だからこそ多用され使い古されるのだ。それに今回の作戦はアリアンロッドだけで当たるわけではない。そうなればいつもより遥かに連携の難易度は上がる。複雑な策を用意した所で実行できねば意味がない」

 

タブレットを振りながらラスタルは続ける。

 

「それに手柄を欲している娘が、それを譲ってでも成したいと願うのだ。応えてやらねば男が廃るというものだ。派遣する艦隊の指揮はイオク、貴様に任せる。ジュリエッタを護衛に連れて行け」

 

話は終わりだと、ラスタルは視線をイオクから外し執務を再開する。彼は一礼した後、自身の指揮する艦へと戻るべく執務室を出る。その表情は悔しさに歪んでいた。

 

 

 

 

「なあおい、こりゃなんの冗談だ?」

 

設計図を持って行ったら雪之丞がそんな言葉と共にこちらを半眼で睨んできた。冗談?馬鹿言っちゃいけねえよ。

 

「私は大真面目だ」

 

「余計悪ぃわ。おめえこんなもん造って何するつもりだよ?」

 

なにって、兵器を造る理由なんて一個しかねえべさ?

 

「普通に戦力の拡充だが」

 

何が気に入らないのか雪之丞は深々と溜息を吐く。あ、なんかすっげえ馬鹿にされてる気分。仕方ないな、丁寧に説明するとしよう。

 

「MSの保有が正式に認められたとは言え、保有数には制限があるし資産税も馬鹿にならん。ならばどうするか?簡単だ、MS以外に戦える戦力を増やせば良い」

 

CGSは地球支社も含めて50機程運用している。正直真っ当な仕事ではこの辺りが精一杯の数字だ。本当はもっとあったのだが、税金が高すぎて話にならんから程度の悪い機体は色々と取り外してアーブラウへ払い下げた。幸いにして秘密工廠の準備も順調に進んでいるから、隠し機体の方は順調に増えている。おまけに先日サルベージ組がとんでもないものを見つけてくれたので、今後も機体の確保は難しくない。しかしである。良くも悪くも武闘派と見なされているCGSであるから、MSを素直に手放し大人しくしていては疑いをかけられる心配がある。まあその疑心は極めて正しいのであるが、我々とすれば歓迎できない。なのでそうした目を欺くためにも、表向きに見せられる追加戦力が必要なのだ。

 

「それでモビルワーカーって訳か?いや、コイツをモビルワーカーって呼んで良いのか?」

 

「良いとも、何故ならMSはモビルアーマーを倒すために製造された人型兵器の事だ。ならばフレームにレアアロイを使おうが、エイハブリアクターを積もうが人型でないこいつはモビルワーカーなのだ」

 

メーカー向けにギャラルホルンが発行している製造規約も読んだが、それらの使用禁止という文言は存在しなかった。ならば文句を言われる筋合いはあるまい。

 

「じゃあそこは譲るがよ。何だよこのレールガンってのは?」

 

いや、まんまですけど?

 

「文字通り手も足も無いのだから白兵戦をやらせる訳にはいくまい。故に遠距離からの射撃で撃破を狙う」

 

「いや狙うって」

 

「厄祭戦時代のレールガンをベースに再設計したものだ。使用する弾頭は専用のものになるが、こちらの製造器も現在準備しているから補給の心配もいずれ解消される。まあ、暫くは適当な弾丸を転用する事になるだろう」

 

専用弾頭の重量は本家ダインスレイヴの約30%程、その代わり初速は脅威の2倍だ。総合的な威力はざっくり2割増しといったところだろうか?問題はエイハブリアクター1器では発射に必要なエネルギーを賄い切れない事だが、我が社にとってそれは些末な問題である。何せリアクターなら売る程あるからな。

 

「……」

 

「問題は発射速度の調整機能が無いことだな。特に宇宙では射線に十分注意する必要があるだろう」

 

地上みたいに障害物で止まったり大気での減速も見込めんからな、味方に当てでもしたら大惨事だ。

 

「基本的には複数機を同時に運用、かつMSの後方支援機として扱う。OSに関しては取敢えず現行のものを流用し、阿頼耶識組にブラッシュアップを頼もうと思っている」

 

「足回りは大型化による負荷の軽減と、射撃時の安定性を向上させるために履帯を採用する。センサーはロディ・フレームのものを流用だ、あれなら市場に随分流れているから怪しまれる心配はあるまい」

 

何故だろう、説明すればするほど雪之丞の表情が険しくなっていく。

 

「なあマの字よ、もう一度聞くぞ?おめえこんなモン造って何をしでかすつもりだ?」

 

そうだな、巻き込もうというんだからちゃんと話しておくべきだろう。

 

「アーブラウとの一件で今後火星は独立の機運が高まるだろう。クーデリア嬢もそのように動いているしな。問題は各経済圏が再軍備を進める中で、それが穏便に認められるのかという事だ」

 

「おめえ」

 

呻くようにそう口にする雪之丞に構わず、俺は言葉を続ける。

 

「言葉で済めば良いが、そうならなければ必ず武力衝突が起こる。所謂独立戦争と言う奴だな。経済圏の相手だけならばともかく、武力闘争となればギャラルホルンの介入は必ずある。その時までに健全化が済んでいれば良いが、そうでなければ俺達は連中を敵に回す事になるだろう」

 

武装した分離主義者なんて治安維持組織の天敵みたいなものだからな。だがその程度で諦めていたら、火星はいつまでもこのままだ。そんな世界なんて、俺は御免蒙る。

 

「悪いな、ナディ。軍人というのは、常に最悪を想定して動く生き物なんだ」

 

俺はそう笑ったが、雪之丞の表情が晴れることはなかった。




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