起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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何とか週1更新は頑張りたいと思っている。


65.辛い時こそ人は笑うべきである

その日、ダンジとライドはハーフメタル採掘場の警備に参加していた。アドモス商会が保有している区画は他の二社に比べると狭く、少し距離も空いていた。これは別にアドモス商会が割を食っている訳ではない。クリュセのハーフメタル加工メーカーの多くはアーブラウの企業であり、ノブリス・ゴルドンの経営するマーズ・マイニング社やテイワズのJPTトラストは採掘したハーフメタルの原石をアドモス商会を通して加工を委託しているのだ。そのためアドモス商会の採掘場は掘削エリアが小さい分、鉱石の積み込みや輸送を意識した造りになっており、位置もクリュセに続く道路――邪魔になる巨石を退かしただけの簡易なものだが――に面した配置になっている。

 

「警備って言っても、正直やることないよなぁ」

 

『最初の頃はバカしに来るやつらも居たけどな』

 

現在火星はクリュセ以外のアーブラウ管区も規制緩和に伴う開発ラッシュが続いている。そのため採掘場で使われているような作業用モビルワーカーはどこでも品薄で値が高騰している。そうなるとあるところから拝借しようとする輩が少なからず現れるものだ。CGSに捕まった幸運な連中はクリュセの警備部に突き出されるだけで済んでいるが、他の二社から奪おうとした不幸な者達は大抵が地面の赤い染みに転職していた。この話が広がるにつれて犯行も激減したため、今ではこの警備任務は非常に退屈なものとなっている。ただしそれと同時に安全な仕事でもあるので、ダンジやライドといった年の若い三番隊の隊員が割り当てられることが多かった。

 

『そういえば次の研修、ダンジも行くんだろ?』

 

「おう、またお土産はメープルクッキーでいいか?」

 

『お前あれ好きだよなぁ。俺は甘すぎて苦手だわ』

 

「あのめっちゃ甘いのがいいんじゃんかよ」

 

そんな取り留めのない話をしている最中の事だった。二人の乗り込んでいたモビルワーカーが僅かに揺れる、それと同時に警告音が鳴り響く。

 

『は?エイハブ反応?』

 

「さっき連絡があったJPTトラストの機体…じゃねえよな?」

 

ダンジが緊張した声音でそう確認する。採掘現場ではMSも作業用として恒常的に運用されているが、これらの機体にはハーフメタルを利用したシートがリアクター周辺に巻かれているため、エイハブウェーブが大幅に抑えられている。使用する際には連絡は来るものの、採掘現場から離れているダンジ達の場所で観測できるだけの放出量は出ない筈なのだ。

 

「作業員に緊急連絡!すぐに避難するように伝えろ!通信が使えない!走れ!」

 

ライドが張り詰めた様子でモビルワーカーから身を乗り出すと、近くに居た隊員にそう指示を出す。緊張した顔で頷いた彼らは事務所や倉庫のある方へと走っていった。

 

「俺は採掘現場の方へ連絡に行ってくる!」

 

「ああ気を付けろよ!クソ、本部に何とか連絡を…」

 

ダンジはライドにそう告げるとモビルワーカーを走らせる。そして、彼はその先で厄災と邂逅する。

 

「なんだよ、こいつら!?」

 

避難指示を出し、状況を確認しようと更に先へ進んだダンジの眼前に姿を現したのは機械の群れだった。まず目についたのは巨大な白い鳥のような機械。MSと比較しても遥かに巨大なそれは、長い尾のようなものを煩わしげに振り回しながら周囲を睥睨している。そしてその足元にある採掘現場からは、まるで湧き出すように無数のモビルワーカーのような機体が這い出してきていた。

 

「おい、おい!なにする気だよ!?」

 

まるで考え込むように止まっていた白い機体が、その首を一点で止める。その先にはJPTトラストの使っている施設があった。ダンジの問いに答えを示すようにゆっくりとそちらへ移動を開始する白い機体。その足元に居た紺色のモビルワーカー達は我先にと施設へと突撃していく。

 

『な、なんだこいつ等!?』

 

『ひ、や、止め来るなっ!?』

 

『たすけ、たすっいぎっ!?』

 

慌てて飛び出したJPTトラストのモビルワーカーとMSは混乱の中、次々と紺色のモビルワーカーに集られ撃破されていく。ダンジはそれらが正確にコックピットを狙っているのを目にしてしまった。

 

(ヤバイ、こいつらはめちゃくちゃヤバイ!?)

 

それが何であるかをダンジは知らなかった。けれどそれが人間を必ず殺そうと動いている事は理解できてしまった。故に彼は即座に決断する。

 

(ここに居る戦力で止められる相手じゃない!すぐに皆を逃がさないと!)

 

彼のこの判断がアドモス商会に所属する面々を窮地から救う事になる。容姿こそ子供であるが、彼らの戦闘に関する判断はその場の誰よりも正しいと認識されていたからだ。同時に運も味方したと言えるだろう。彼らの施設はJPTトラストの施設から離れており、それよりも近い位置にマーズ・マイニングの施設があったからだ。

 

 

 

 

「良く生きて戻って来たな」

 

泣きながら報告をするダンジの頭に手を置きながら、オルガはそう労う。その視線の先にはダンジのモビルワーカーに収められていた敵の映像を確認したギャラルホルンの面々が渋い顔で唸っている。

 

「間違いなくMAですね」

 

「これは、ハシュマル、か?確か中期頃の機体だったか」

 

「それよりもプルーマの数だ。既にとんでもない数になっているじゃないか」

 

そんな彼らを見てライドが険しい表情になる。そしてオルガに向かって口を開いた。

 

「隊長、モビルワーカー隊にも出撃準備をさせるべきです」

 

「おい、ライド」

 

「聞いてください。あのちっこいのはMSの射撃やモビルワーカーの攻撃でも壊れてました。なら手数は少しでも増やすべきです」

 

その言葉を聞いていたガエリオが眉を寄せながら声を掛けてくる。

 

「気持ちは解らないではないが。それは些か危険が過ぎる」

 

「あいつらは人を殺そうとしてます!あんなのがクリュセにでも行ってしまったらとんでもない事になる!その前に止めないと!」

 

「そうだとしてもだ、ライド」

 

ガエリオの言葉にイオクが続く。

 

「プルーマはともかく問題はハシュマルなのだ。あれにはビーム兵器が搭載されている。MSならばともかく、モビルワーカーではとてもではないが耐えられん。死ぬと解っている者を戦場に出す訳にはいかない」

 

二人の言葉にライドは唇を噛みしめる。そんな彼にオルガは優しく声を掛けた。

 

「落ち着けよ、ライド。何も出番が無いって訳じゃねえんだ。あのデカブツを叩いた後の掃討には手が居る。そん時まで少し待ってろってだけだ。それに、お前はまだ仕事があるだろう?避難した人達をちゃんとクリュセまで送り届ける。半端に仕事を放り出すなんざ、マさんが許しちゃくんねえぞ?」

 

「…はい」

 

そう言って俯くライドを見て、声を発したのはジュリエッタだった。

 

「もし貴方の分が残っていなくても許して下さいね。何しろ我々はギャラルホルン、対MA戦のプロフェッショナルですから」

 

その言葉にガエリオとイオクが頷きつつ笑う。

 

「確かに最近は訓練ばかりだったからな。加減を間違えてうっかり全滅させてしまうかもしれん」

 

「ガエリオとジュリエッタがこうもやる気では、MAの方が可哀想かもしれん。だからと言って容赦してやるつもりはないがね」

 

「だとさ、ライド。安心しろよ、俺達とギャラルホルンが組んでるんだ、負ける相手を探す方が難しいさ」

 

「隊長」

 

「ほら、もう行け。アドモス商会の人らが、ゆっくり休めねえだろ?」

 

オルガの言葉にライドは頷くと、ダンジと共に自分のモビルワーカーへと走っていく。それを見送りながら、ジュリエッタは愉快そうに口を開いた。

 

「全滅とは大きく出ましたね、ボードウィン三佐殿?」

 

「そっちこそ、プロフェッショナルとはよく言ったものだ。何百年前の話をしているんだか」

 

「気楽なものだ。大言壮語とはいえ一度口にした以上呑み込めんというのに」

 

「おや、イオク様は自信が無いのですか?」

 

「私は謙虚なのだ。まあ武門として己の発言に責任を取るつもりではあるがな」

 

そう笑い合う彼らを見て、オルガも苦笑する。確かに状況は良くない。だが、悲壮な顔をしたところで事態は好転しないどころか、指揮官がそんな顔をしていれば部下は不安になる。ならば例え空元気であったとしても笑っている方が遥かにマシと言うものだ。

 

「それに頼もしい味方も居る事だしな。あんなものをいつの間に用意していたんだ?」

 

そうこちらに聞いてくるガエリオに対し、オルガは不敵に笑いながら答える。

 

「MSの保有に関する条約は見ましたが、何処にも改造してはいけないなんて項目はありませんでしたからね。使い勝手の良いように多少は弄りますよ」

 

「アレを多少と言うのか」

 

「大方壺のおじさんの仕業でしょう。CGSの悪だくみは大体あの人のせいです」

 

そう好き放題口にする彼らの視線の先には、オルガ曰く多少弄ったランドマン・ロディが鎮座している。この機体は彼らの推論通り、どこぞの相談役がランドマン・ロディの改良機として製造したものだ。外向けにはガンダムフレーム、特にグシオンからのリバースエンジニアリングとしているが、実際には相談役が一から再設計に携わった代物である。実際に作成を担当したビルス曰く、まるで何度もMSを設計した経験があるかのような手際だったらしい。

内部ではスコルの名を与えられているこの機体は、現在の主流からすれば非常に異端と呼べる設計だ。外観として大きな違いは、背面に追加された一基のサブアームとハードポイントだろう。サブアームは射撃武器の保持と使用が可能となっていて、様々な携行火器が扱える。今回持ち出して来た機体は、全て330ミリ滑腔砲が装備されている。この他にも腕部が延長されていて格闘武器の運用能力の向上が図られているほか、外観からは解りにくいが、装甲の内部が一部外され軽量化と推進剤の搭載量を増加させている。ただし問題がない訳ではなく、ランドマン・ロディに比べバランスが悪く、阿頼耶識組でなければ性能を発揮する事が出来ない機体になっている。

 

「詳しい事が気になるなら、後で相談役に聞いてください。さてと」

 

そう言ってオルガは獰猛な笑みを浮かべると、ヘッドセットを身に着け口を開いた。

 

「お前ら、準備はいいな?仕事の時間だ」




作者の自慰設定

ランドマン・ロディ“スコル”

CGSがデブリ帯に秘匿している工作艦『箱船』にて建造されたMS。ベースはロディ・フレームであるが、各部位のバランスが変更されているため同フレーム最大の強みであった汎用性と操作性が失われている。特に操作性の悪化は顕著で、真面に動かそうと思えば阿頼耶識システムの補助が必須とまで評されている。
しかし逆に真面に動かせるならばその性能は高く、戦闘面のみならばグレイズ並と言われている。CGSが公式に保有しているのは4機であるが全て阿頼耶識システム対応機で、主なパイロットは元ヒューマンデブリの面々が務めている。

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