起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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今週分です。


66.正解を選び続けられるほど人は強くない

「作戦と言う程大層なものではないが、一応確認だ。作戦目標はMAの撃破、最低でも現地点への足止めだ」

 

ガエリオの言葉に全員が頷く。

 

「まず先制としてイオク二佐がレールガンにて攻撃、MAの注意を引く。ノーマルのロディ部隊は二佐の直掩についてくれ。連中が釣れ次第、左右に展開したスコル・ロディ隊も射撃を開始。距離を保ちつつプルーマの漸減を行う、この間に俺とジュリエッタは左右より連中を迂回し背後を取る。そして第三駐屯地から発進しているグレイズ2個小隊と合流後、攻撃を加える。注意すべきはハシュマルのテイルブレードだ。有効射程は400m、当たれば確実に殺されるぞ」

 

「戦中の記録によれば、ハシュマルは100m/s程での運動が可能です。常に彼我の距離は1000以上確保するようにしてください」

 

ガエリオの言葉を補うようにジュリエッタが口を開く。更に眉を顰めながらイオクが付け足す。

 

「さらに言えばハシュマル本体はMS以上の防御能力を有している。レギンレイズのレールガンでも撃破はほぼ不可能だ。故に目をつけられたら兎に角逃げるのだ」

 

「そしてアーレスの部隊が到着次第彼らを主軸にMA本体への攻撃を掛ける。尤も戦力として一番頼りになるのはミカヅキとアキヒロだろう。悪いが頼らせてもらうぞ」

 

「はい」

 

「了解です」

 

「偵察班から連絡が来ました、MAが移動を開始しました!」

 

オルガがそう叫び、全員の表情が引き締まる。およそ300年振りの厄祭戦が始まった。

 

 

 

 

「人に仇なす怪物め!相手にとって不足はない!!」

 

始まりを告げる砲声は実に小さなものだった。レギンレイズの装備するレールガンから放たれたそれは、ハシュマルの左側のウイングユニットに命中するも、澄んだ音を立てて弾かれた。なんら痛痒を与えない一撃、しかしその攻撃は目的を十分に果たす。

 

『来た来た来た!』

 

『まじかよ、地面が見えねえ』

 

レギンレイズの左右に陣取ったランドマン・ロディからそんな声が聞こえてくる。その間もイオクは躊躇なくプルーマへ射撃を加える。

 

「これはいいな、撃てば当たる」

 

そう嘯くもののイオクの攻撃は基本を忠実に守っている。それは彼自身が自らに課した戒めであるからだ。

 

「狙いもつけずに引き金を引く者を何と言うか知っているかね?馬鹿だ」

 

訓練を一目見た相談役にそう評されたのち、彼は射撃の基本を文字通り体で覚えさせられた。それでもその技量は平凡に留まったが、その不足分は支援型にカスタマイズされたレギンレイズが補ってくれる。結果、彼の射撃はその言葉通り確実にプルーマを屠り続ける。

 

『いいよなぁ、レギンレイズ』

 

『マン・ロディはもう飽きた』

 

不平を漏らしながら、構えたマシンガンで射撃を加えるビトーとペドロに対し、イオクが笑いながら話しかける。

 

「ならギャラルホルンに入るか?お前達ならすぐにでも受領出来るぞ?」

 

『あはは、そりゃすげえや』

 

『元デブリがギャラルホルンか、大出世ってヤツ?』

 

ハシュマル本体の移動に合わせて、彼らはゆっくりと後退する。彼らからすればMAの戦い方は酷くお粗末に見えた。それはある意味仕方のない事だと言える。元々ハシュマルはMSが登場する以前に生み出された機体であり、当時の戦場において文字通り頂点となる兵器だった。天敵を持たなかったこの兵器は他の兵器を脅威と設定しておらず、最優先目標である人類駆除の障害程度にしか認識していない。故にプルーマの損耗を避けるために自機を先行させ、脅威度の高い目標を優先して叩くなどといった初歩的な戦術すら実行しない。はずだった。

 

「なっ!?」

 

その変化は唐突に訪れた。見晴らしの良い平野部と言っても、文字通りに平坦な訳ではない。十字砲火が効率よく行える地点まで誘引するべく移動していたイオクたちが、目標地点まで100mを切ったその瞬間、ハシュマルが突然翼を広げると爆発的な速度で加速し距離を詰めてきた。

 

『あぶねえ!』

 

唐突な変化に対応出来ず、立ち尽くしていたイオクを救ったのはビトーだった。驚異的な速度で繰り出された尾のようなブレードが、レギンレイズのコックピットへと吸い込まれようとしたその瞬間、ランドマン・ロディが強引に割り込みブレードをその身に受ける。

 

『あぁぁぁあぁ!?』

 

装甲を破壊されながら、ビトーのランドマン・ロディがレギンレイズを巻き込んで吹き飛ばされる。

 

『野郎!』

 

『二人をカバーしろ!!』

 

焦りを滲ませた声で通信が満たされる。即座に動いたスコル・ロディ達がハシュマルの注意を引くべく連続して砲弾を放つ。だがハシュマルはそれを意に介さぬように進み、転倒した二人のMSへと近づいていく。

 

『ビトー!イオクさん!!逃げろ!逃げろ!!』

 

『こっち向きやがれデカブ――がっ!?』

 

『ペドロ!?』

 

接近し過ぎたペドロ機に再びブレードが振るわれる。強引に体を捻ってコックピットへの直撃こそ免れるものの、躱しきれずに右腕をもぎ取られ、その余波でペドロの機体は吹き飛ばされる。そして彼の機体が落ちたのは、プルーマのど真ん中だった。

 

『話と違うじゃねえか!?』

 

困惑したダンテが思わずそう叫んだ。強力過ぎる故に戦術行動を取らない兵器。ギャラルホルンのデータベースは決して間違っていた訳ではない。事実製造直後の個体であれば、ハシュマルはそのように行動しただろう。しかし彼らの前に現れた機体は、厄祭戦で破壊されなかったのではなく、かの大戦を生き延びた個体だった。だからこのハシュマルはMSという存在が自身を破壊しうる脅威であると学習していたし、それを操る人間がどの様に動いて見せれば油断するかも熟知していた。そして、連携して戦いを挑んでくる人間の陣形をどうすれば効率よく崩せるかも。

 

『何しやがる!?やめろ、このっ!』

 

起き上がるのに手間取っていたペドロの機体にプルーマが取り付き、耳障りな音と共にドリルを突き立てる。ペドロは機体を捩ってもがくが、押しつぶすかのように纏わりついたプルーマがそれを許さない。その間にハシュマルは倒れたビトーとイオクの機体へブレードを振るい、両機の足を破壊する。逃げられない味方を生み出すと人間は面白い様に陣形を乱すことを学習していたからだ。身動きの取れなくなった二機にもプルーマが取り付きドリルを突き立て始める。だが周囲の人間は距離を取ったままだ。どうやら我慢強い連中であると判断したハシュマルは、次の行動を起こす。幸いにして餌は3つもあるからだ。特に選ぶ事も無く、最も近い位置にいた機体へブレードを突き立てるべく高々と持ち上げる。見せつけるように、しかし無慈悲に振り下ろされたそれがコックピットへと突き立つ刹那、圧倒的な速度で間合いへと飛び込んできたMSが刃を振るい軌道を逸らす。

 

『調子に乗るなよ、お前』

 

『ペドロ!無事か!?』

 

更にもう一機が、やや離れた位置で倒れていた機体に取り付いてたプルーマを次々と薙ぎ払い助け起こす。その特徴的な角とツインアイを持つMSを見た瞬間、ハシュマルは即座に最優先攻撃目標としてその二機を指定する。自らを封じたものと同じような形をしたそれを、ハシュマルは明確な脅威として認識していたからだ。嬲っていたプルーマさえも動員し、ハシュマルはガンダムへと襲い掛かる。しかし敵の直中にありながら、ガンダムは憎らしい程冷静にそれらを捌く。

 

『人間様を舐めるなよ!』

 

『邪魔』

 

ブラウンの機体が槍を振るいプルーマを纏めて薙ぎ払えば、白い機体は刀で飛び掛かった機体を2体同時に空中で切り捨てる。更に周囲からの支援射撃は圧を増し、プルーマが加速度的に失われていく。無論MAに仲間の喪失を憂うなどという機能は存在しない。しかし、自己の保有する戦闘能力が低下する事は理解出来るし、その要因が目の前の宿敵である事も認識した。だからこそハシュマルはガンダムに集中し、その様子を彼らに嘲られる。

 

『所詮機械だな、お頭が足りてねえ』

 

突き出されたブレードをグシオンが槍で弾き、蹴り出した足はバルバトスに躱される。だがそれはあくまで牽制、背後から飛び掛かったプルーマが二機に取り付く事に遂に成功する。更に次々とプルーマが取り付くのを確認し、ハシュマルは勝利を確信した。しかしその瞬間、突如として頭上に新たなエイハブ反応を観測する。

 

『鋒矢の陣!薙ぎ払え!!』

 

大気圏外から降下してきた18機ものMSが速度もそのままに両手に構えたライフルを撃つ。上空を通り抜けるように移動する彼らが放つそれは正しく掃射であり、地面を覆っていたプルーマが次々とスクラップへと変えられた。

 

『撃ちまくれ!!』

 

更に背後から合流してきた五機のMSが猛然と射撃を始める。包囲されたハシュマルは離脱を選択し、残存するプルーマに遅滞戦闘を指示した。プルーマは所詮消耗品であり、資材さえあれば幾らでも再生産が出来る。しかしハシュマルは違う。本体が機能停止に追い込まれれば、当然プルーマの補充など出来ないし、彼らによる再生もこの状況下では難しい。それは任務の達成不可能を意味しているのだから、ハシュマルの判断は当然と言えた。問題はどちらに離脱するかであったが、それも即座に決定し機首を向かってくるMSの方向へと向けた。

 

『突っ込んでくる!?』

 

撃破したMSの方向はハシュマルが再起動した方向だ。既に周囲の資材は粗方調達し終えていたので戻っても補給は難しい。逆に今MSが現れた方向は未知数であるが、戦力が出てきたならばそれを維持運用するための拠点がある可能性が高い。そしてハシュマルにしてみれば忌まわしい二つ目のMS以外は自身を脅かす脅威ではないのだ。故に合理的判断に基づいて、ハシュマルはMSの群れへと突っ込む。

 

『鶴翼!』

 

降りてきたMSが陣を敷きつつ射撃を加えてくるが既に遅い。プルーマと連携時には抑えられているが、本来のハシュマルはエイハブリアクターに裏打ちされた圧倒的な高速性と機動力を有している。それは脆弱な人間という枷が存在するMSの動きを遥かに凌ぐものだ。更に周囲の機体には厄介な杭打ちも存在していない。ハシュマルは悠々とその包囲を突破するはずだった。

 

『どこに行こうと言うのかね?』

 

激しい衝撃と共に左側の翼に弾丸がめり込む。ナノラミネートを突き破り内部に達したそれは、その運動エネルギーを十全にハシュマルへと伝える。制御の許容値を超える圧倒的な暴力にハシュマルが転倒すると、遅れてやってきた衝撃波にプルーマの残骸が吹き飛び、まるで道の様に地面が掃き清められる。

 

『そうだ、大人しく頭を垂れていたまえよ。機械は人間に隷属するものだぞ?』

 

ハシュマルのカメラが声の主を捉える。そこにはMSとは異なる異形が土煙と共に佇んでいた。


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