起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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今週分です。


67.物事には常に対価が求められる

「なんとか間に合ったか」

 

「嘘だろ?ナノラミネートを撃ち抜いちまった」

 

俺が安堵の溜息を吐いていると、パイロットシートに座ったシノが呆然とそう呟いた。いや、そう言っておいただろうに。

 

「呆けるのは後にしろ。そら前進だ、あの機械を躾けねばならん」

 

「え?寄るのかよ!?」

 

当然じゃないっすか。

 

「弾速が速いと言っても撃った瞬間に当たる訳じゃない。さらに言えばコイツの照準は少々骨でな、出来れば絶対当たる距離で戦いたい」

 

なんせナノラミネートのせいでレーザー測距儀すら使えんから、完全に目視照準だ。幸いにしてアホみたいな弾速と高精度な砲身のおかげで誤差は少ないが、外乱の影響は少ない方が良いに決まっている。だから近づく。

 

「仕方ねえ、やってやんぜ!」

 

気合の入ったシノの叫びと共に履帯が地面へと噛み付き、愉快な速度で景色が流れ始める。体がシートに僅かに沈み込むが、加速のGは大したことは無い。流石にリアクターを4台も積み込んだだけはある。

 

「遠慮は要らんぞ、これもどうかね?」

 

背に取り付けられたランチャーから吐き出されたロケットが漸く起き上がったMAに次々と命中する。被弾した瞬間眩しい閃光を吐き出すロケット達。うむ、急造のテルミット弾だったがちゃんと動作しているな。

 

『せxdrtふゅhじおkl!?』

 

うるせえ何言ってるか解んねえよ、音出すなら人間に解る言語使いやがれ。

 

「全機攻撃しろ!鎧を引き剥がす!」

 

この世界でMAは極めて強力な兵器だが、その理由の一つが彼らの圧倒的な防御力にある。大出力のリアクターとぶ厚く蒸着されたナノラミネートは、文字通り戦艦と同等の防御力を発揮する。だがそれは無敵と言う意味では勿論ない。何せナノラミネートは熱に弱く、ナパーム程度の温度で損傷させることが可能だ。宇宙空間ならばまだしも、燃やす物に事欠かない大気中ならば幾らでもやりようはある。まあ、使っているロケットは宇宙でも使う事を考えたものだからどちらでも変わらないが。テルミット反応によって得られた高温が奴の装甲を炙り、ナノラミネートを急速に損傷させる。ついでに周囲から援護射撃を貰う事でさらにその速度は高まっている。

 

「旧世代の遺物が。今更起きてきても貴様の居場所はない、今度は永遠に寝ていたまえ」

 

必殺の間合い、そう考えた俺はレールガンをMAへと向ける。しかしそれを察知したのか、奴は飛び上がるとブレードを振り回しながらこちらへ接近して来た。

 

「うおっ!?」

 

激しい接触にシノが驚きの声を上げた。更に耳障りな金属同士の擦過音が機内に響く、見ればサブモニターが一つつぶれていた。どうやら左側の装甲を切り付けられたらしい。だが機体の各所は問題なく動作している。

 

「こいつの装甲は伊達ではないのだよ!」

 

そう叫びながら俺は至近距離からマシンガンを浴びせる。派手な音が響くが損傷を与えた様子はない。だが多少でもセンサーをくらませられれば十分だ。

 

「シノ!」

 

「おっしゃぁ!」

 

再加速して機体をぶつける、装甲を盛りに盛りまくったおかげでコイツは150t近い重量を誇っているから、そのぶちかましとなればさしものMAであってもよろめくのは免れない。そしてその瞬間を見逃すほど俺はお人良しではなく、シノも鈍くはない。シートベルトが食い込むほどのGを受けながら機体が急停止から後退、丁度レールガンのバレルを滑り込ませられるだけの隙間が出来る。

 

「くたばれ」

 

照準一杯に広がるMAへ向けて、躊躇なくトリガーを引く。やや見上げるような角度で吐き出された砲弾は嘴のような頭部を正面から穿った。だが浅い。

 

「シノ!」

 

「おうさ!!」

 

更に機体を後退させもう一基のレールガンも射線に捉えると俺は再びトリガーを引く。衝撃波とともに飛び出した砲弾は更に破孔を生み、3発目でMAの頭部を完全に吹き飛ばした。

 

『くぇrちゅいお!?!?!?!!!』

 

うるせえ!ゲームの人工知能じゃあるまいしゴチャゴチャ囀るな。頭部を破壊されたMAが奇声を発しながらブレードを滅茶苦茶に振り回す。だが所詮悪あがきだ、そんなもので運命は覆らない。

 

『暴れんな!』

 

『もう黙れよ』

 

グシオンが槍でブレードを受け止めた瞬間、ブレードの根元部分のワイヤーをバルバトスの刀が貫き地面へと縫い留める、これで終いだな。

 

「イシュー一佐!」

 

『吶喊!!』

 

俺が呼びかけると同時にカルタ嬢がそう叫ぶ。そしてその声に応じるように包囲していた9機のレギンレイズが構えていたロングソードを突き出し突撃、その刺突は次々とMAの胴体にあるエイハブリアクターへと吸い込まれていく。

 

『『鉄拳制裁!!』』

 

最後の一本が深々と刺さると、MAは大きくその身を震わせた後脱力する。同時に残存していた子機が統制を失ったように暴れ始めた。

 

『残敵を掃討なさい!MAは討ち取りました!』

 

どうやら母機が完全に機能停止を起こすと子機はとにかく暴れて被害を出させる仕様のようだ。迷惑この上ねえな。

 

「シノ、後退だ。あれの相手はハティには荷が重い。悪いが皆に任せよう」

 

俺はそう言って溜息を吐く。何とか終わったが、さてここからどうなる事やら。

 

 

 

 

火星でのMA復活、そしてその討伐は即座に世界へと広まった。ギャラルホルンは情報統制を検討したが、状況が悪すぎた。事の起きた場所は火星最大のハーフメタル採掘場であり、その供給量は地球圏の約30%にも達していたからだ。MSの配備拡大によって消費が拡大していた各経済圏は突然の供給停止に説明を求めたし、何より採掘をしていたのがアーブラウと深い繋がりを持つアドモス商会、火星経済に強い影響力を持つノブリス・ゴルドン傘下のマーズ・マイニング社、更に圏外圏を牛耳るテイワズの直轄であるJPTトラストと、情報の流出が止めようのない環境であった事も大きかった。結果、被害状況についてはぼかしつつ、大凡事実のままMAにまつわる一件は公式に発表されることとなる。そしてそれは変化しつつある世界に波紋を呼ぶこととなる。

 

「各経済圏がMSの供給を増やせと言って来ております」

 

「機体そのものもフレック・グレイズではなくグレイズにしろと」

 

円卓に集まっているのは4人の男、そして3台の通信ユニットだ。困り顔で口火を切ったファルク公に続き、バクラザン公が頭を振りながらそう続く。ヴィーンゴールヴを預かる彼等の職務には経済圏との折衝も含まれている。火星での一件で自分達が未だに戦後から抜け出していない事を知った各経済圏の首脳陣は、我先にと戦力の増強を願った。

 

『デブリ帯においても多数の残骸が発掘されております。幸い今の所再起動可能な個体は確認されていませんが』

 

「安全が確保出来るまでサルベージを禁止する、のは無理でしょうな」

 

疲れた声音で告げるエリオン公に溜息で応じるのはボードウィン公だった。戦争から300年が経過し、人類は安定した社会を再建している。しかしそれは地球に限った話であり、その地球は現在あらゆる面で飽和し始めている。無理もない、厄祭戦によって人類は経済や技術、生活圏と多くのものを失ったが、その一方で人口は25%しか失わなかったのだ。これらの問題は人類社会復興を大義名分に圏外圏へしわ寄せを押しつける事で目を逸らし続けられていたが、それも限界に近い。故に人類にとって生活圏の拡大と消費の増加は社会発展の必須事項であり、その為にもデブリ帯の除去や現在圏外圏と呼称されている火星や木星といった地域の経済基盤拡大は必要とされている。

 

「ギャラルホルンは既にMAの撲滅宣言を出しています。体面を考慮するならば、今回の一件はあくまでイレギュラーである必要がある。しかし…」

 

『現実問題として休眠状態のMAは発見が極めて困難であると言わざるを得ません。更に即応したとしても、レギンレイズだけではかなりの損害を覚悟する必要があるかと』

 

『MAの戦闘能力は極めて高く、現在運用している武装での討伐は極めて難しかったのです。遠距離で対処出来ない分接近する必要がありますし、仮に近づけても分厚い装甲とあの運動性です。一撃を入れるためだけに何人死ぬか解ったものではありません』

 

マクギリスが眉を寄せながらそう口にすれば、即座にカルタがMAの危険性を訴えた。更に同じく直接相対したイオクも続けてそう証言する。

 

「それは些か過大評価のしすぎでは?」

 

「然り、イシュー公とクジャン公は一人も欠けること無く討伐しておられる」

 

そうファルク公とバクラザン公が口々に楽観を述べるが、カルタはそれを否定する。

 

『対応に動き出した時点で3つのハーフメタル採掘場が壊滅し、100人以上の死者が出ています。更に言わせて頂けば、MA討伐は私達のみで成し遂げた訳ではありません。寧ろ彼等こそ本命でした』

 

「報告書にあったガンダムフレームと自称モビルワーカーかね?」

 

目を細めながら問うボードウィン公にイオクが応じる。

 

『MAを押さえ込むのにレギンレイズでは全く力不足でした。彼らが居なかったなら、今頃私は火星の土になっていたでしょう』

 

『ガンダムフレームはともかく、問題はモビルワーカーの方だろう。射撃でMAに損傷を与えたと報告書にあったが?』

 

エリオン公の問いにカルタが返事をする。

 

『私も確認させて頂きましたが、ダインスレイヴではありませんでした。尤も、より強力な砲ではあったのですけれど』

 

「違法でないと言い切るには少々外連が過ぎているでしょう。一度正式に調査する必要があると考えます」

 

カルタの答えに溜息交じりにマクギリスがそう提案し、全員が頷く。それを見ながら彼は更に口を開いた。

 

「最悪ダインスレイヴに関する条約そのものを見直す必要があるでしょう。しかし、同時にこれはチャンスと言えるかもしれない」

 

「チャンス?」

 

訝しげな表情で視線を向けてくる者達に向かって、彼は言葉を続ける。

 

「仮にその砲が容易に量産出来るならば、ダインスレイヴの禁止自体が無意味になります。同時に民間組織でもMAを討伐可能な武装を運用出来るという事にもなる」

 

『まて、ファリド公。まさか』

 

「どちらにせよ既にダインスレイヴ以上の実物があるのです。禁止した所で密造されるだけでしょうし、サルベージも採掘も止められない以上対抗手段は必要です。ならばMAを駆除しきれないギャラルホルンは、駆除の道具を配るしかないでしょう」

 

エリオン公の言葉にマクギリスは笑いながら応じた。




さて、この風呂敷どう畳んだものか…。

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