起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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今週分です。


69.世界は常に変化する、それが良い方向とは限らない

「世話になった」

 

「はい、いいえクジャン公。自分は職務を全うしただけです。お礼を言っていただくような事は何もありません」

 

握手を交わしながらそう真面目に答えるアキヒロに対し、イオク・クジャンは柔らかく笑った。

 

「だとしても、私が君たちに多くを教えてもらった事、そしてそれに感謝をしている事に変わりはない。ならばそれは伝えるべきだ。だから改めて言おう。感謝する」

 

「勿体ないお言葉です」

 

男くさい笑みを浮かべながら、アキヒロが強く手を握り返す。その力強さを受けながら、イオクは苦笑した。

 

「尤もまだまだ学ばせてほしい事は山ほどある。いずれ折を見てまた世話になるだろう。その時は宜しく頼む」

 

「お任せ下さい。クジャン公ならばいつでも歓迎です」

 

アキヒロの返事に頷くと、イオクは踵を返しシャトルに続く通路を歩き出した。その後ろを少し不満げな表情でジュリエッタが続き、その横には愉快そうに二人を眺めるガエリオの姿があった。

 

「納得いかんのは解るがあまり顔に出すな。折角の美人が台無しだぞ?」

 

「もう少しで一本取れるようになるんです。なのに召還だなんて!」

 

「仕方あるまい。イシュー一佐も呼び出されているのだ、我々だけ呑気に訓練とはいかん」

 

そうは言うものの、イオクの表情には確かな口惜しさが滲んでいた。

 

「イオクが惜しんでいるのは訓練だけではなさそうだな?」

 

「言ってくれるな、ガエリオ」

 

イオクは人目をはばからず溜息を吐いた。事はMAの討伐から一週間ほど経った日だった。

 

「どうだろうか二人とも。クジャン家に仕えてはくれないか?」

 

ギャラルホルン火星支部、アーレスに設置されている医療ポッドは非常に優秀だ。喪失した四肢や機能を停止してしまった臓器などは無理だが、それ以外であれば大抵の事は治癒できてしまう。尤も、多少強引な所はある様で、深手であるとそれなりの傷跡などは残ってしまうが。その日医療ポッドから解放され、ベッドで体の調子を確かめていたペドロとビトーに向かって、イオクは真剣にそう提案した。MAとの戦いの際イオクは真っ先に撃墜されたが、彼自身は無傷で生還している。無論それは彼の技量やまして幸運などと言う曖昧なものではなく、目の前の二人の献身によるものである事をイオクは十分に理解していた。そしてそれに報いる方法を考えた結果が、二人をクジャン家の家臣として迎え入れるという事だった。彼らは元ヒューマンデブリだ、当然そのような者を使用人ならばともかく、家臣として迎え入れるとなれば相応の反発もあるだろう。だが彼らに報いるためならばその程度の事は説き伏せるだけの覚悟もイオクは出来ていた。しかし返ってきたのは戸惑いを含んだ曖昧な微笑みを向ける二人だった。

 

「気にし過ぎだよ、イオクさん」

 

「そーそー。俺らも生きてるんだし、こうして治してもらったしさ。それで良くね?」

 

「命がけで守ってもらったのだぞ?治療を手配するなど当然ではないか。その程度では到底この恩は――」

 

「その程度じゃないよ」

 

とても返したとは言えない。そうイオクが続ける前に言葉が遮られる。

 

「デブリだった頃、俺達は治療なんて受けた事がなかった。当然だよな、だって俺らは幾らでも替えが利くMSの部品だったんだから。ちょっとした怪我ならまだいいけど、酷い怪我をした奴なんて悲惨だった、丸裸にされてさ、宇宙に捨てられるんだ。直すより新しいのを捕まえてきた方が早いし簡単だからね」

 

「MSを壊すのもやばい。MSは俺達よりもずっと貴重で高いから壊すようなヘボい部品は殴られるなんて当たり前、下手すりゃその場で撃ち殺される事もあった。そんなのを生かし続けるより鉛玉一発で済ませる方が安上がりだってさ」

 

絶句するイオクを前に、そう語った二人は笑いながら続ける。

 

「だからさ、俺らイオクさんには十分返して貰ってるんだ」

 

「それに悪いけど、俺達も恩を返す側でさ。イオクさんが当たり前だと思っている世界に俺達を連れてきてくれた人達に、俺らはまだ全然、何も返せてないんだ」

 

「だからごめん、イオクさんの家来にはなれねーわ」

 

「そうか」

 

二人の拒絶の言葉をイオクは静かに受け止める。目先の利益よりも恩義に報いようと考える彼らの言葉に好感を持ったからだ。だが、言いようのない感情に動かされ、彼は口を開く。

 

「残念だが、今回は諦めよう。だが、やはり私も恩を受けたままではいられない。何かして欲しいことなどはないか?そうだ、MSなどはどうだ?レギンレイズは難しいが、グレイズならばクジャン家の私用として割り当てられている機体を貸し出せる」

 

その言葉に二人は顔を見合わせた後、苦笑しながら答える。

 

「嬉しいけどいいよ、俺らにはロディがあるからさ」

 

「道具は有効に使わなきゃだぜ、イオクさん。第一お礼にMS貰ったなんて言ったら、俺らが相談役に叱られちまうよ」

 

「そ、そうか、そうだな。浅慮だった」

 

落ち込むイオクを見て、ビトーが頬を掻いた後、苦笑しながら口を開く。

 

「どうしても俺らに恩返しがしたいっていうならさ。別の俺らを助けてやってよ」

 

「別の二人?」

 

意味が理解できないイオクに対し、ビトーの意図を察したペドロが口を開いた。

 

「俺らはCGSに運よく拾われて助かった。けど世界には助けて貰えずにいる俺達がまだ沢山居るだろ?だから、イオクさんが俺達に恩返しをしてくれるっていうなら、そいつらを助けてやって欲しい」

 

彼らの言葉にイオクは自らを恥じた。イオクは紛う事無くこの世界の名家と呼ばれる家の出である。彼は生まれながらに貴種として扱われ、それを当然のこととして受け入れていた。血が証明している事など、先達が積み上げた功績だけだというのに。そんな自分より遥かに恵まれない二人が見せた高潔は、彼の価値観を揺さぶるに十分過ぎるものだった。

 

「血ではなく、行いにこそ貴種が貴種たる所以はある…か」

 

シャトルの席に座り、イオクは一人呟く。その目には確かな信念と覚悟が宿っていた。

 

 

 

 

「結論から申し上げますと、新型砲を運用するためだけの兵器です」

 

アリアンロッド艦隊から選出されたMA護送部隊、その中に含まれていたヤマジン・トーカは自らが出した結論をラスタル・エリオンに向けて報告していた。

 

『簡潔に言い過ぎだ、詳しい説明を』

 

苦笑と共にそう告げられトーカは一度頭を掻くと、再び口を開く。

 

「機体の構造材や駆動方式、制御系に目新しいものはありません。どれも既存の技術を流用したものばかりです。それは新型砲についても同様です。構造やエネルギー効率で見ればレギンレイズ用のものの方が洗練されているくらいです」

 

『成程、つまりそれなりの設備があれば量産可能という事か』

 

ラスタルの言葉にトーカは肯定の言葉を返す。

 

「レアアロイ製のフレームが最も難易度の高い部品ですから推して知るべしと言うべきでしょうか。御大層にリアクターを4基も搭載していますが、周波数の同調や個体差の選別を行っていません。本当に4基載せただけですね。ある意味ガンダムフレームよりも贅沢な機体と言えるでしょう」

 

機体の駆動用に1基、そして残り3基は全てレールガンへのエネルギー供給用というふざけた仕様だ。だがふざけてはいるが、理にかなっている。この方法ならばリアクターさえ確保出来れば、ダインスレイヴモドキを好き放題撃てる機体を大した技術力も必要とせずに量産出来るのだから。

 

「リアクターさえ揃えられれば、MSを独自生産出来ているテイワズどころかレストア程度が可能な組織なら何処でも製造可能です。普及した際の脅威度はMSの比ではないでしょう」

 

『厄介な物を造ってくれたものだ』

 

ラスタルのため息交じりの言葉にトーカも心中で同意する。海賊の大幅な弱体化と防衛戦力の拡充によって、各経済圏は積極的な掃海と言う名のデブリ帯のサルベージを行っている。経済の活発化自体は歓迎すべきではあるものの、同時にそれはギャラルホルンが把握出来ていないエイハブリアクターが更に出回る事を意味している。そこにリアクター以外は大抵の組織で造れてしまう、強力な砲を持った兵器が現れたとなれば、最強の兵器であるMSの存在が大きく揺らぐ事となる。

 

「封印が妥当かと」

 

技術者としてはあらゆる事に忌避感のないトーカであるが、それでもギャラルホルンの人間としての立場は弁えている。厄祭戦後人類が人同士の大戦を経験していないのは、良くも悪くもギャラルホルンが軍事的に一強だったからである。だが長きにわたる平穏に慣れ切った経済圏とギャラルホルンは、その関係に罅が入り始めている。

 

『難しいな。今更掃海を止めろと言って経済圏が従う訳がない、既に投資の後だからな』

 

守護者としての立場から、経済圏が自らを養う事は当然であると驕ったギャラルホルン。長年の平和に守護者への敬意を失った経済圏。どちらが悪かったのかなど、問いただした所で今更の事だ。

 

『人類の発展に寄与出来ない組織の存在理由を疑問視する声も少なからず存在する。今回の一件は対応を見誤ればギャラルホルンの立場を間違いなく悪化させるだろう』

 

「では許可なさるのですか?」

 

『いや、それはあり得ない』

 

トーカの言葉をラスタルは即座に否定する。

 

『便宜を図ってでもこの兵器はあの連中だけに留めおくべきだろう。テロリストにでも流れたら目も当てられん』

 

そうラスタルが口にし、同時にトーカの端末へデータが送られて来る。

 

『だがMAの存在がある以上、各経済圏へ対抗手段を送らねばならないのも無視出来ん。故にギャラルホルンは次世代機の開発を決定した。トーカ、貴様にも携わってもらう事になる』

 

ラスタルの言葉にトーカは驚きと共に端末へ視線を送る。そこにはダインスレイヴの運用を前提とした新型MSの仕様が記載されていた。




思いつきで書いてるので本気で収拾がつかない可能性がががが。
やはりデウスエクスマキナが必要だ…。

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