起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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今週分です。


77.戦争とは最も野蛮な外交手段である

「では、我が社の社員はお返し頂けないという事ですかな?」

 

『返さんとは言っておらんよ。返せないと言っているんじゃ』

 

アリアドネ越しの長距離通信。飄々とした声音でそう応じるのはアーブラウの現代表、蒔苗・東護ノ介だ。

 

「過程など知ったことではありませんな。そもそもそうした状況を招いたのはそちらの落ち度だ。我々には正しく契約が履行される事を要求する権利がある」

 

『権利はあるじゃろう。だがそれが行使できるかは別問題、そうじゃろう?どうしても返せと言うならシャトルを用意するのも吝かではないが、如何せん宇宙の戦力は各コロニーに張り付いているでな?不幸な事故が起きてしまってもこちらではどうしようもないぞい』

 

ギャラルホルンも中立の立場を崩さんからのう。そう言って惚ける爺に色々とメーターが振り切れかけるが、小さく息を吐いて押しとどめる。キレ散らかしてアーブラウを灰燼に帰すのはいつでも出来る。まあやればオルフェンズ大量生産待ったなしなのでやらんけどな。

 

「成程、あくまでアーブラウとしては契約を遵守する意思はあるが、状況的に困難だと仰りたいのですね?では、何故エドモントン周辺の部隊を移動させているのですかな?」

 

『自分の首都を戦場にする馬鹿はおるまい?戦力を適切に使うために前線に配置換えするのがそんなに不思議な事かね?』

 

ああ、とても不思議だね。

 

「エドモントン守備隊は名前こそ首都防衛部隊ですが、実態は北米大陸の予備戦力だ。これを吐き出してしまっては万一の事態に対応出来ない」

 

エドモントンに集められている戦力は我が社に鍛えられた中でも特に技量に優れた精鋭だ。彼らには破綻しかけた戦線の立て直しや逆撃時の先鋒というような、決定的な場面での活躍が求められる。言ってしまえば開戦早々に、こちらの方が敵より数が少ない程度の事で投入するような部隊ではない。

 

『如何せん戦争はてんで素人でのう。せめて前線の要請に精一杯応えようとした結果じゃよ』

 

のらりくらりと言い訳を続ける爺にいい加減苛立ってきた。どうせ人質と交換にこちらから支援を申し出させるつもりなんだろう。この状況でこちらの足元を見ようとするなんて余裕じゃないか。

 

「解りました。そう言うことでしたら弊社としては貴国との契約を打ち切らせて頂きます。ご安心ください、従業員はこちらで迎えに行きますから」

 

『脅迫するつもりかね?』

 

人質とってるような奴が何言ってやがる。

 

「何のことでしょう?我々は迎えに行くだけですよ。まあ途中邪魔などされれば、相手がなんであろうと身を守らせていただきますが」

 

『宇宙港は使えないと言ったはずじゃが?』

 

「仕方がありません。SAU辺りに問い合わせてみましょう、出費は覚悟しなければならないでしょうが、大切な社員やその家族を失うより遥かにマシだ」

 

俺の言葉に漸くこちらの逆鱗を撫で回している事に気が付いた爺は、一度唸ると諦めた声音で降参を申し出る。

 

『すまん、儂が迂闊じゃった。どうか助けてほしい、この通り頼む』

 

なんだ、まだ立場が解ってねえな。

 

「地球に住んでいる政治家はみなそうなのですかな?これならばクーデリア嬢の方が余程見込みがある。強引な手が駄目ならば泣き落とし、しかも対価も提示せずに。それとも貴方に頭を下げさせるのには命を懸ける程の価値があるとでも言うのですかな?」

 

俺にはとてもそうは思えんのだけどね?

 

『う、ぬ。契約の見直しと今回の件に関する賠償を約束する。それ以上に関しては儂の一存では…』

 

決められないってか?

 

「安く見られたものですな?」

 

思わず笑いながらそう言ってしまう。その程度は巻き込んだ時点で支払って然るべき対価だろう。その程度で済まそうなんて虫が良すぎると思わんか?

 

「それに加えて各経済圏が保有する火星領土の割譲、加えて火星における統治権の放棄で手を打ちましょう」

 

『な、なにを言っている!?』

 

はぁ?言わなきゃ解らねえのかよ。

 

「この戦争に勝たせてやるから火星を寄こせと言っている。他にどう聞こえたかね?」

 

 

 

 

「地球外縁軌道統制統合艦隊は、アリアンロッドは何故連中を止めないのか!?」

 

円卓の間にネモ・バクラザンの焦りを含んだ声が響く。その向かいに座るエレク・ファルクも腕を組み難しい表情をしていた。その二人に対し穏やかな表情を崩さぬままマクギリスは告げる。

 

「此度の混乱は経済圏同士の領土問題に端を発しています。この件に介入する事はアーブラウ事件の愚を繰り返す事になりかねない。故に慎重な姿勢を見せるべきだと言うのが総意だったと記憶しております。だから開戦に踏み切ったSAU側を止めなかったのではありませんか。彼らが傭兵を集めているのも内政干渉を理由に警告に留めています。ならば火星からアーブラウが傭兵を雇ったとしても、我々に止めるだけの権限はありません」

 

「だが連中はアーブラウの要請を受けずに動いているではありませんか。あれだけの戦力の移動を素通りさせるのは如何なものかと」

 

『勿論素通りなどさせておりません。提出されている航路を逸脱していないか定期的な確認はしておりますし、こちらの警備宙域に入り次第監視の艦隊を派遣します。それに確かにかなりの大所帯ではありますが、艦艇もMSの数も誤魔化しておりません。紛争地域に救助へ行くというなら、妥当とも言える数でしょう』

 

「軍艦5隻にMS25機がかね?」

 

『彼らの機体は厄祭戦時代の旧式です。それに数ならばアリアンロッドの分艦隊にも及びません。技量は確かですが、それを踏まえても万一の際十分に対応可能です。むしろ何故彼らだけを警戒するのでしょうか?』

 

皮肉気に混ぜ返すファルク公に挑むような声音で問いかけるのはイオク・クジャンだった。

 

「いや、アリアンロッドの技量に疑問があるわけではないのですよ。ですが、彼らは些か戦力として纏まり過ぎている。無用な混乱を地球圏に持ち込むのではと危惧した次第で」

 

『それこそ今更でしょう。第一地球圏は既に地球圏の人々によって混乱しているのです。彼らだけに原因を求めるのはフェアではない』

 

そうラスタル・エリオンはCGSを擁護しつつも、革新派を牽制する。

 

「確かに、こう見ると先のMS保有は時期尚早であったのは否めませんな」

 

彼の言葉を受けてバクラザン公も同様に革新派を牽制する。対してマクギリスは沈黙を保つが、その横に居たガルス・ボードウィンが代わりに口を開いた。

 

「だがあれが無ければ、ギャラルホルンの存在そのものすら懐疑の目を向けられていたことも事実、自らの不徳をまず恥じねばなりますまい」

 

その様な人気回復を選ばねばならなかったのは、ギャラルホルンの腐敗があったからである。長期的に害を及ぼす決断であったとしても、それを取らねばならぬほどギャラルホルンの権威は失墜していたのだ。それぞれの派閥がけん制し合う中、唐突にマクギリスが耳に着けたインカムへ手を当てる。

 

「失礼、どうした?…そうか、解った。ご苦労」

 

短くやり取りをした後、マクギリスは全員に向けてはっきりと告げた。

 

「たった今、CGSがアーブラウと再契約を結んだそうです。内容は本大戦におけるアーブラウへの軍事支援とのこと」

 

その言葉にバクラザン公とファルク公が目を見開く。

 

『すぐに拘束すべきでは?』

 

カルタ・イシューがやや緊張した声音でそう問うとラスタルが残念そうに答えた。

 

『難しいな。これがSAUやアフリカユニオンの増強は黙認しておいてアーブラウだけ妨害したとなればギャラルホルンの公平性は失われる。まして今のアーブラウは侵攻されている側だ』

 

「それでは地球圏の秩序はどうなります?」

 

苦々しい声音でファルク公がそう問いかけるが、それに応じたのはマクギリスの溜息だった。

 

「短期的な混乱は避けられないでしょう。ですが、どこまでが内政干渉であるのか明確にしてこなかった以上仕方のない事でしょう。残念ですが我々に出来るのは、戦後いち早く治安を回復させることくらいでしょうか」

 

事実上戦争への不介入を提案するその言葉にボードウィン公は頷くが、バクラザン公とファルク公は苦虫を嚙み潰した表情を作る。そもそも内政干渉の線引きを曖昧にしてきたのは経済圏に影響力を残している両家だったからだ。

 

『いや、それまでにも出来る事があります』

 

「それは何でしょうか、クジャン公?」

 

『現在圏外圏より大量の武器が地球圏へ送られています。これに歯止めをかけなければ戦争が長期化する事は必至。特に両陣営に武器をばら撒く様な行動は規制されて然るべきだと考えます。如何か?』

 

「しかしそれは商取引への干渉になるのではないかな?」

 

即座にバクラザン公が疑義を呈する。イオクの提案した内容は一見公平にも聞こえる内容だ。確かに両陣営はそれぞれ圏外圏と繋がりを持ち武器弾薬を購入している。だがその比率が大きく異なるのだ。元々地球の北半球、それも高緯度を領土とするアーブラウは工業が盛んな地域であり、領内に軍事転用可能な重工業地帯を多く抱えている。対して他の3つの経済圏は食料生産が主で、工業に関してはコロニーに多くを依存している。当然圏外圏との貿易では軍需物資の比率も高い。武器に限った規制を設ければ、どちらが先に悲鳴を上げるかなど内情を知っていれば火を見るよりも明らかだ。

 

『それすらも受け入れられないと言うのであれば、最早反発した経済圏そのものが“地球圏の秩序を著しく損なう存在”なのではないでしょうか?その際限のない争いの先に起きたのが厄祭戦であると私は認識しておりますが』

 

際限のない闘争の終着点。それを歴史として刻み付けている彼らにとってその言葉は正に金科玉条である。二度とその愚を犯さないと誓ったからこそ存在するギャラルホルンであり、武力闘争においてその諫言を無視するというならば、イオクの言葉通りその組織は人類に再び厄災をもたらす者である。

イオクの痛烈な物言いに再び訪れた沈黙を破ったのはエリオン公だった。

 

『どうやら決まったようですな。ではギャラルホルンは今後各経済圏への介入は戦後を待って、そしてそれまでは圏外圏における武器輸出を規制すると。異議のある方はおりますかな?』

 

様々な思惑の渦巻く会議は、ギャラルホルンの不介入を決定し幕を閉じることになった。




堅い話が続いているのでそろそろ頭の悪い話をぶち込みたい今日この頃。
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