もし良ければ、読んでください。
第一話 始まりの日
××××年 某所
「どうして……どうして……こんな目に……私たちが」
うつ伏せに倒れている私は、母親だったモノを虚な目で見ながらそう言う。
そんな中でも、
……寒い、さむい、さムい、サムイ。
暖かい場所を探さなきゃ。
私は立ちあがろうと両手に力を入れる。
もう少し……もう少し……。
あともう少しで立てるという時に、雨が染み込んでぬかるんでいる地面のせいでズルッと滑る。
「ぁッ」
バシャン。
水飛沫を立てて、私の身体は再び地面と密着する。
口の中に汚染されているであろう黒い雨水が入ってくる。
苦い……雨水の味は苦かった。
最もその苦味が、単純に雨水の味が苦かったのか、それとも立つことも出来ない惨めな自分に対する悔しさから来たものかは分からなかった。
いや、両方なのかもしれない。
「お前、まだ生きてたのか」
水音を聞いて私の存在に気づいた、私たちをこうした張本人であるテロリストの男が私の髪を乱暴に掴み、私の身体を持ち上げる。
必死に抵抗しようとするが、ボロボロの私にはもう抵抗する力なんて残ってなかった。
男の顔は、ガスマスクを付けているから見えなかった。
それが余計に恐怖心を煽る。
彼は一体どんな表情をしているのだろうか?
私をどうするつもりなのだろうか?
「いた……い。やめて……わた、し……何も」
「黙れ、
そう言って、男は乱暴に私を投げ飛ばす。
痩せ細った、貧相な私の身体はそこらの石ころを投げるかの如く軽く投げられる。
もはや、痛みすら感じなかった。
……空が見えた。
黒色の雲で覆われた空。
そこには、一切の
それもそのはず。
ここは残酷な世界。
この世界そのものに希望がないのだ。
汚れた右手を空に伸ばす。
何も掴めない癖に。
希望なんてないって知ってる癖に。
救いなんてないって知ってる癖に。
それでも、私は手を伸ばした。
ひょっとしたら……と最後に思ってしまったのだ。
もちろん、この残酷な世界に奇跡なんてある訳もなく。
無慈悲にも男の持つアサルトライフルの銃口が私の頭に向く。
「……来世では、魔術師の家になんて産まれないといいな」
そう呟いて、男はアサルトライフルの引き金を引こうとする。
ちゃんと、この世界に希望はなかった。
私はそっと右手をおろす。
せめて、痛みを感じる前に死ねたら良いな
そう思いながら、私は目を閉じる。
「う、うぁぁぁぁぁ!」
「……?」
いつまで経っても、私は死ななかった。
それどころか、先ほどまで私を殺そうとしていた男の悲鳴が聞こえた。
何ごとかと目を開ける。
そこには地獄が広がっていた。
幸い私は巻き込まれていないものの、辺りはメラメラと勢いよく燃えている炎に包まれていた。
そして、テロリスト達の身体は、雨水が降り注いでもなお燃え続けているほどの激しい炎に包まれていた。
肉の焼き焦げる、嫌な臭いもあまりに充満し始める。
一体何が起きているの……?
「だ、誰か助け……」
身体が燃え尽き、黒焦げになったテロリスト達は次々と力尽きて倒れる。
「お、お前、早く火を消してくれ!」
「……! 来ない……で」
そんな中、私を殺そうとしていた男が、必死そうな表情を浮かべながら燃え続けている手で私の身体に触れようとする。
私は、もちろん逃げようとするが、身体が言うことを聞かない。
立つことすら出来ない。相変わらず、私の身体は仰向けに倒れたままだ。
まずい、せっかく生き残れそうだっていうのにこのままじゃあの男に延焼させられて死ぬ。
誰か、誰か、助けて……!
一度は下げた右手を再び持ち上げる。
今度こそ、奇跡が起きるかもしれない。
たった今、それが起きたんだから……!
もう少しで私の身体に彼の腕が触れるというところで、刀身に炎を纏っている剣によって腕が切り飛ばされる。
傷口が即座に剣の炎で焼かれたからか、血は一滴たりとも飛び散らなかった。
「がァァァァァァァッ……ァ」
彼はその痛みからか絶叫したが、すぐにその声も小さくなり、やがてピクリとも動かなくなる。
ちゃんと奇跡は起きた……願った通りに。
「遅れてごめんなさい……あなたのお母さん、救ってあげられなかった」
「あ……」
右手に暖かさを感じた。
視線を右に動かすと、私の手を優しく握っている少女の姿が見えた。
長くて艶のある美しい金髪の持つ、スタイルの良い少女だった。
その顔は、凛々しいもののまだ少しあどけなさが残っていた。
そして、彼女は魔術師の通う学校として有名な
私の心に彼女の姿が焼き付つ。
もちろん、恩人だからその恩を忘れぬよう姿を心に焼き付けるという理由もある。
ただ……私にとって彼女の存在は、恩人というよりも憧れという側面の方が強かった。身近な人も守れない私と違って、赤の他人である私を助けれる強さを持つ彼女に憧れた。
だから、彼女の姿が心に焼き付いたのだと思う。
「悪いけど、ちょっと待ててね。すぐにヘリを呼ぶから……こちら
ヨイヅキ……ルナ。
絶対にこの人のことは忘れない。
そして、絶対に彼女に……。
そう心に誓った。
2022年 4月18日 旧新宿近郊
私はふと、顔を上げて空を見る。
空には一筋の光も無くて、まるで吸い込まれていきそうな漆黒に塗りつぶされた雲に覆われていた。
まるで、私たちの未来を暗示しているようで嫌になる。
せめて明るい未来の幻想くらい見させてくれても良いじゃないかと、今はもうこの世界にはいない、神サマとやらに心の中で愚痴ってみる。
ま、
そう思うことで、心の中に燻っていた暗い感情を無理矢理追い出す。
「……はぁ、にしても遅いなぁ」
再び視線を下に戻し、スマホの画面を見る。
現時刻は7時6分。
作戦開始時間から6分も過ぎている。
なのに、私の新しい
司令部に通信を繋いでも、もうちょっと待ての繰り返し。
今までなら作戦の遅れなんて許さなかったのに……。
何がどうなってるのかやら。
そもそも、なんだって急にCクラスの新入生を私にあてがうことにしたのか……まったく、今年も退屈しなさそうだ。もちろん、悪い意味で。
愛銃であるM4カービンを手に持ったまま、私は黒焦げになって所々が崩れている廃ビルの壁に寄りかかり、改めて周りを見てみる。
周りの建物は全て半壊状態であり、壁などには所々弾痕が残っている。そして、道路は場所によっては抉れている。
私が今立っている所なんてもはやコンクリートがなくなってしまっており、茶色の地面が見えている。
「……一昔前、ここに銃の一丁も持っていない市民で溢れていたなんて驚きね」
思わずそう呟いてしまう。
私にはまったく想像出来ない……銃刀法なんてものがあった時代が、日本国が連合皇国じゃなかった時代が。
私が産まれた時には、既に日本という国は地獄であった。平和の残滓すらなかった。
硝煙と血の匂いがこべりついた、常闇に支配された再建されつつある都市。
それが私の知っている日本……いや、
私もその時代に生きていたら、もしかしたら……。
「すいませーん! 寝坊して遅れましたっ!」
「……やっと来たわね。次からは遅れないように……あ」
そんなことを考えていると、私が今着ているモノと同じ秋風武装学園の制服を着ている茶髪の少女がこちらへと走ってくる。
そして、その少女が私の近くまで来た所で……。
「あっ」
瓦礫に足を引っ掛けて、盛大に転んだ。
「……はぁ、大丈夫?」
本日二度目のため息をつきながら、私は左手をM4カービンのフォアグリップから放し、彼女に左手を差し出す。
「うぅ、ありがとうございます……」
そう言いながら、彼女は私の手を握る。
そのまま、彼女の手を引っ張って彼女を立たせる。
……初対面にしては、色々と濃い出会いだ。
にしても、最初からこれだとこの先が思いやられる。
果たして、私たち二人はちゃんとこの任務を遂行出来るのだろうか。
彼女はブレザーやスカートに着いた砂埃を払うと、私の方に顔を向ける。
……ちゃんと正面から顔を見たから気づいたのだけど、この子左目に白い眼帯を付けてる。
何かあるんだろうか。
「まずは遅れてすみませんでした。私は、秋風武装学園1-Cの
彼女は深々と頭を下げながら、そう言った。
Cクラスか……Cかぁ。
Cクラスは……言ってしまえば、お世辞にも魔術の腕が良いとは言えない魔術師たちの入るクラスだ。
本当に大丈夫かしら……。
「私は3-Aの
「宵月瑠奈……それにこの容姿……もしかして」
「何が言った?」
「い、いえ、なんでもないです」
さて、とりあえず自己紹介は終わったし、任務を開始しましょうか。
とりあえず、学園の
スマホの学園専用通話アプリを開き、HQと繋げる。
「こちら宵月、時間は遅れたものの無事バディと合流に成功。これより作戦行動を開始する」
「こちらHQ、了解。目標地点での活動可能時間は3時間だ。諸君らの健闘を祈る」
……通信終了。
さて、作戦開始と行こう。
2022年 4月18日 7時15分 D-03地区
私たちはKEEP OUTと書いてあるテープを乗り越えて、旧東京都新宿区……今はD-03地区と呼ばれている地域へと入っていった。
このD-03地区を実効支配している国際的テロリスト、
人気のない、薄暗い廃墟だらけの都市跡を周囲を警戒しながらゆっくりと進む。
「ねぇ、氷華。貴女、何の銃を使うの?」
魔術師というのは、基本的に弱い敵相手には魔力温存のために魔弾、魔術的な能力を付与した銃弾を装填している銃を使用する事が多い。
魔弾は魔術師なら誰でも作れるし、魔力消費も少なくて済むコスパ最強の魔道具である。
あの偉業が為され、神秘の守護者たる魔女から奇跡の力"魔術"を与えられた人間である魔術師の間でも、なんやかんや銃が幅広く使われているのは、やはりこの魔弾の存在が大きい。
そんな多くの魔術師たちが愛用している銃を氷華は持っているようには見えない。
連携を取るためにも、彼女の武器は聞いておきたい。
ちなみに、私の主武装は見ての通りM4カービンである。
「あ、えっと……私って射撃もあまり得意じゃないので……これだけしか……」
そう言いながら、氷華は茶色のブレザーの下から一丁のハンドガンを取り出す……銀のルガーP08だ。
P08を使ってる人なんて、この三年間見たことがなかったから新鮮だ。
「これは……中々な骨董品ね」
「お父さんが古い銃を集めるのが趣味で……それで私にこのルガーをくれたんです」
「なるほどね。中々、いい趣味をしているお父さんだ」
にしても、氷華の武器はその銀のルガーだけか。
なら、遠・中距離は私のM4カービンと遠距離魔術でカバーしよう。
そんな話を小声でしていると、先の道から足音が聞こえる。
間違いなく、敵だろう。
氷華も気づいたらしい。
私からの指示を求めて、彼女は私の顔を見る。
今回は戦闘はなるべく避けろと言われているし、ここは……
「あそこの店に入って隠れよう」
そう言って、私はすぐ近くにある長年放置されていたであろうボロボロの小さなパン屋を指差す。
「了解しました」
私たちは、そのパン屋の扉を静かに開けて入る。
うぇ……埃っぽい。
しかも、雨漏りしていたのであろう。店の中に水溜りが出来ていた。
向こうからは私たちの姿が見えず、こちらからは外が見える位置に立つ。
……店に入って1分程度が経った時。
このD-03地区を哨戒しているのであろう、AK-74Mを持っている黒い防護服とガスマスクを装着している兵士が一人、先ほどまで私たちがいた道を通る。
典型的な原初派の兵士だ。
……魔力持ちの気配なし。
あの兵士は、魔術師ではなく、普通の歩兵らしい。
こっちには気づいていないみたいだし、このままやり過ごすか。
「クシュンッ……あ、す、すいません」
……私のバディが見事にやってくれた。
埃っぽいのは分かるが、あと少しクシャミをしないように耐えて欲しかったもんだね。
どうやら、このクシャミの音は原初派の兵士にも聞こえたらしく、私たちの元へと歩いてくる。
「おーい、そこに誰かいるのかー!」
「先輩、どうしましょう……?」
「はぁ、私がなんとかする」
小さく、本日三度目のため息をつきながら、この場を切り抜ける方法を考える。ため息をつくと幸せが逃げると言うが、もしそれが本当なら私の幸せはもはやマイナスの領域に達していることだろう。
あぁ、そう言えば。
あの魔術を使えば……2人ぐらいならなんとかなるかも。
1週間に一話は最低限投稿する予定です。もし良ければ、お気に入りと評価の方をお願いします。感想は自由なことを書いていただいて結構です。