さて、ここでいいだろう。
アタシは、自分の別荘の庭に着いた所で足を止める。
これだけ広ければ、なんの問題もないだろう。
別に本気でアタシが力を使うわけじゃない。
ただちょっと、宵月瑠奈の心を折るだけなんだから。
「ここでやるの?」
「えぇ、不満?」
「……まぁ、いいけどさ」
アタシと宵月瑠奈は、互いに向き合ったままで距離を取る。
「おいおい、宵月のばーさん正気か? いくらあの娘が秘密兵器とはいえ、流石に桜木恵梨香には勝てないだろ」
「あの娘も可哀想に……」
「桜木に従わないとどうなるかがこれで分かるな」
ふふっ、外野も盛り上がってるわね。
そう、これは制裁。
将来、宮廷魔術師筆頭となるアタシに逆らうとどうなるか……思い知らせてやるわ。
「……恵梨香さん、あなた魔弾は使わないの?」
「ま、遊びみたいなものだから。あなたこそいいの?」
「私も別にいいかな」
「じゃ、早速始めましょうか。先手はあげる」
「そう」
先手ぐらいあげないとね。
アタシは最強なんだからさ。
「……
ふーん、転移魔術を使うんだ。
まぁ、まだ抜き身じゃない白銀の片手剣を手に持ってるし、妥当か。
アタシの目の前に彼女は転移して来た。
そして、柄に手を掛ける。
やっぱり、距離を詰めて来た。
なら、こっちも……!
「来て!」
「目覚めなさい」
……詠唱ですって⁈
まさかあの剣……いや、アタシの
「フェニック……」
「魔剣フォティア」
詠唱は向こうが先だった。
まぁ、この程度は誤差だ。
すぐに、「ス」と口にするだけで十分巻き返せる。
そうすれば、アタシの
そう、口にすれば良いだけ……だけなのに……なんで声が出ないんだろう。
……あぁ、そう言えば。
なんでアタシは……宙を舞っているのだろうか。
下を見てみる。
うわぁ、凄い高い。
あまりの現実味の無さに恐怖は襲ってこなかった。
そして地上の方をよく見ると、地面が焼き焦げていた。
庭の草木は灰になってる。
彼女……宵月瑠奈はもちろん、外野の観客たちも安全だ。
ところで……今、アタシは地面に落ちていってるけど……死ぬよねこれ。
はぁ……まぁ、これは自業自得ね。
にしても……まさか、アタシをこんな目に合わせられるヤツがいるなんてねぇ。
この時、アタシは自分の視野の狭さを初めて知った。
そして、世界の広さもまた知ったんだ。
……そろそろ、地面に着く頃。
アタシが死ぬ時。
アタシはそっと目を閉じる……。
あーあ、せっかくアタシより強いヤツがいるって分かったのになぁ。
ざーんねん。
ボスッとアタシは何かに落ちる。
ただ、感じたのは冷たく、硬い地面の感触ではない。
柔らかな、温かい感触だった……まるで人のような。
恐る恐る目を開ける。
そこには、金髪碧眼の少女の顔があった。
そう、彼女はアタシの身体を受け止めていた。
そして、今アタシは彼女にお姫様抱っこをされている形になる。
……ちょっと、恥ずかしいかも。
彼女は、笑いながらこう言った。
「なーに今にも死にそうな顔してるのよ、恵梨香さん」
「……ほんとに死ぬと思ったから」
「……私って人殺しかなんかだと思われてる?」
「いや、そうじゃなくて……単純にアタシが酷いことしたから」
「? なんか酷いことなんかされたっけ、私?」
「それはその……えっと……きつい言い方したり、あなたが負けた姿をみんなの見せ物にしようとしたり」
「あぁ、そんなの別にいいよ、恵梨香さん。確かに、最初の挨拶にしては馴れ馴れし過ぎたかもしれないし、それに……負けた私がどうなっても別に構わないもの。弱い私に価値は無いから……」
「そう……あ、後、もう降ろしていいよ。立てるから」
「……気をつけてね」
アタシは彼女の腕から降りて、自力で立つ。
「よいしょっと……ねぇ、
アタシの心には、新しい欲が芽生えていた。
この、アタシに世界の広さを教えてくれた少女と一緒にキチンと世界を見たい、という欲が。
「何かしら?」
「……その、アタシの……と、友達になってくれないかな」
「……へ?」
「だからその……友達に」
「あぁ、うん。大丈夫、聞こえてるから。ただちょっと驚いただけで」
「えぇ、私で良ければ友達になるわよ、
これが、アタシと彼女との出会いだった。
そして、アタシは目標にしたんだ。
いつか、今度こそ本気の彼女に勝つことを。