2022年 5月6日 10:16 旧静岡県・軍営孤児院三十六号
Side:宵月瑠奈
「ここが孤児院? 陸軍基地とかではなく?」
私は、思わずそう疑問をこぼす。
いや、これは誰だってそう思わざるを得ないだろう。
孤児院の入り口には、アサルトライフルを持った兵士が2人立っており、中にもたくさんの軍人が歩いているのが見える。
さらに、奥の建物の屋上では軍旗である旭日旗が翻っている。
ここ、ほんとに孤児院か?
住所、間違ってない?
「いいえ、ここはちゃんと孤児院ですよ。まぁ、国防軍が運営しているので基地も併設していますが。さ、入りましょう。まずは、地下に降りないと」
そう言うと、氷華は入り口の門の方へと歩いていき、兵士の人に学生証を見せる。
すぐに兵士は頷き、門を開ける。
……私も行くか。
「はい、これが私の学生証」
「宵月瑠奈さんですね。確認できましたので、どうぞお入りください」
中に入ると、まだ若い兵士たちが走り込みをしている姿が見える。
彼らは、魔術師ではなく、一般兵だろう。
辛そうな表情をしているが、必死に走り続けている。
そんな彼らを少しボーっと眺めていると、制服のブレザーの裾をグイグイと軽く引っ張られる感覚。
我に帰ると、氷華が私の顔を覗き込んでいた。
「宵月先輩、こっちです。ついて来てください」
「あ、あぁ、うん。分かった」
彼女の後ろをついて行くと、基地の端の方へと辿り着いた。
そこには、錆びついた鉄の扉がある。
扉には、三十六号と文字の彫られた木の札がぶら下がっている。
……不気味だな。
「えっと。ここが孤児院の入り口、なのかしら?」
「はい。ちょっと古めなんで入り口は錆びついちゃってますけど、中はしっかりしてるから大丈夫です」
「そう」
氷華が扉を押す。
すると。
ギィィィという重い音を立てながら、扉が開かれた。
そこには、下へと続いている、これまた錆びついた金属製の階段が現れた。
「ここを降りれば、孤児院です。私の妹の住んでいるは、B13なので結構下まで降りなきゃいけないんですけど、大丈夫ですか?」
「私は、大丈夫だけど。エレベーターとかはないの?」
「貴重な電力と国費を無駄にしてはいけないと、人間用エレベーターなどの装置は設計時に排除されたらしいです」
人間用……?
まるで、人間以外のものを運ぶエレベーターはあるみたいな言い方。
あぁ、食料とかを運ぶ用のエレベーターはあるって事か。
流石に、沢山の子供たちのための食料を階段で持って行くのは無理だもの。当然ね。
「じゃあ、行きますよ」
「えぇ」
私たちは、階段を降りる。
足を動かすたびに、階段は今にも壊れるんじゃないかとヒヤヒヤさせるぐらい酷い音をたてた。