この度、書こうか書こうとして、自分の中で解釈違いが起こり筆を置いていた作品をどうにかこうにか完成させたので投稿しました。カーマに関して語るとクソ長くなるので、此処では我慢します。
カーマは最高に面倒臭いけど可愛い!!
これに同意できる人のみ進んでください。
第一印象は最悪だった。声は聞くだけで意識が遠のくほどの魔性に満ちた淫靡で蠱惑的なもの。姿は少女、乙女、妙齢と様々で相手に合わせる魂胆が見え見えで吐き気がした。
「良いんですよぉ?素直に私を求めてくれて」
「どうしたんですかぁ?あ、もしかして私の方から求めて欲しい感じですか?」
「仕方ないですねぇ……」
「……寄るな。吐き気がする」
擦り寄って媚びて、相手が求める様に振る舞って、好かれやすい様にするその姿は実に俺が大嫌いな女の姿だった。ゴルドルフに付き合ってカルデアに来たのが運の尽きだ。こんな事件に巻き込まれるとはな。
だが、俺にとって最も嫌いな在り方をしているこの『カーマ』とかいう女の心に触れた時。
初めて、俺は惹かれたんだ。
「あぁ?俺と一緒にカルデアに来て欲しいだぁ?それはお前の役目だろが」
「そ、そうなのだが!……彼処は色々と良くない噂を聞く。コヤンスカヤ君以外にも私の唯一の友人である君に来て欲しいのだ!
勿論、謝礼も用意するし必要費は私の方でゴフッ!?いきなり手刀とは酷いじゃないか」
あぁ、確か始まりはこんなんだったな。いきなり時計塔にある俺の自室に駆け込んで来たと思ったら、失礼な事を言ってくる俺の数少ない友人のゴルドルフ・ムジークに俺は正面から手刀を叩き込んだ。魔術師の癖になんの防御礼装も呪術礼装も発動させないこの男に呆れと好感を感じながら口を開く。
「その金で解決しようとするのやめろと言っただろう。……で、いつだ?」
「うん?」
「うん?じゃねぇ!行く日を教えろって言ってんだ。準備とかしたいからな」
「おぉ!ありがとう!では、一週間後によろしく頼む。ではな!」
ルンルン駆け足で部屋を出て行くゴルドルフ。此処に来る以外にも奴には用事が盛り沢山なのだろう。しかし、一週間後か今作ってる礼装がギリギリで間に合うぐらいか。カルデアね……人理修復を成し遂げたとかいう機関。ただの一般人に成せる偉業だとは思えないが伝承を辿ればそういう一般人の偉業と言うのはない話ではない。
「折角なら、この目で見て話してみたいものだ。男だと良いんだが」
伝承科特別講師として時計塔に在籍している俺としては興味がある。この世ならざる遺物を取り扱う学科だがその手の遺物も、伝承と共に語り継がれている場合が多い。単に物語が好きだと言うのもあるがな。全ての事象にはそれが起きる要因が幾つも連なっており、それらを辿っていけばやがて根源へと辿り着けるかもしれない。故に、カルデアが一般人を擁し成し遂げた偉業の背景には何かしらあるのではないだろうか?と思える。何もないならそれはそれで、構いはしない。
こうしてカルデアに向かう事になったのだが……詳しく語る必要はないな?カルデアは凍結、地球は白紙化され7つの異聞帯が生まれた。汎人類史を取り戻す為に隠れて白紙化を逃れた彷徨海と接触、少しは安全な旅になると思っていた。
「殴れるならどれだけ良かったか……」
両手、両足が完全に柱に埋まり、身動きが取れない。そして、周囲には俺の大嫌いな女だらけ、しかも全員同じ顔つきとか気色悪い。
「あ、起きました?本当は貴方もこの大奥の材料になる筈だったんですが。何故か、そんな憐れな状態で耐えてるんですよねぇ……もしかして無駄に足掻いて下さってます?良いですよぉ、その愚かさ私が愛してあげます」
作っておいた礼装のお陰だろう。どうやら俺は大奥とやらの材料にならずに済んでるらしい。自分の表面に毎秒切り替わる不可視のテクスチャを展開し続ける礼装。カルデアが人外魔境の地でも良い様に用意したものが役立つとはな。この礼装があれば俺を対象とした呪術などを受けずに済む。理由?例えるならそうだな、着ぐるみを着ている様なものだ。最も、その着ぐるみは瞬きの瞬間には別の着ぐるみになっているが。これを抜けるには俺に触れながら呪うしかない。しかし、そんな真正面から来ればバレバレだ。遠慮なしに武器で殺しにくる衛宮切嗣の様な人間が相手でなければ安心できる護りの一つだ。
「ちょっと、無視しないでくれます?」
そして、完全に柱になってないところを考えるにどうやら機能はしているらしい。だが、余りにも強力すぎて突破されたか。はぁぁ、ゴルドルフにいきなり言われてなければもっと万全に仕上げたんだがなぁ。異聞帯攻略中に完成させろ?無理に決まってんだろうが。
「あのー、聞いてますぅ?四肢、切ってしまいますよ」
「……チッ、なんなんだお前は」
「漸く話してくれましたねー。ずっと、思案顔でしたけどどうですか?足りない頭捻って、脱出方法でも思いつきました?」
「質問に答えろ」
「……はいはい、私の話なんて興味ないですかそうですか。そういう態度腹立ちますけど、特別に許してあげますよ。
私は愛の女神、カーマ。そして此処は大奥ですよ」
「カーマ……あぁ、インド神話の。他の神々の願いを叶えてやったのにシヴァに焼き尽くされた可哀想な神か」
「は?なに、私を憐れんでるんですか。そういうの良いですから」
別に憐れんだ訳ではないが。あの結果はカーマの意思ではない。周囲に利用されるその伝承に昔の俺は自分を重ねただけのこと。
「それがまさか女の姿で現れるとはな……それで?わざわざ別の神話の憐れな女神様が大奥で何を企んでいる?」
「うーん……別に教えてあげても構わないんですが貴方の態度が気に食わないので勝負といきましょう。ちょうど暇ですし。
私が勝てば貴方も大奥の建材になる。貴方が勝てば知りたい事を教えるってのはどうですか?」
ニヤニヤと相変わらずこちらを馬鹿にした様な表情で提案してくるカーマ。腹立つがその提案に乗るしかないだろう。どうにか抗っているとは言え、俺の魔力じゃいずれ限界は訪れる。耐えられてるのは恐らく、こいつを持ってしても解析しきれない異界の物を触媒にしているからだろう。
「分かった。はぁ、地獄か此処は」
「失礼な。此処はあらゆる快楽に溺れる事が許された楽土です」
そう言い目の前のクソ女神は此方を見下した笑みを浮かべる。腹立つ事にそんな笑みですら、俺の男しての要素を刺激した。その事実がこいつを何よりも、女神だと理解させる。あぁ、本当にイラつくな、こいつは。
「それで?勝負の内容は?」
「ちょーと待ってくださいね」
カーマが柱に埋まっている俺の左手を解放し、その手に触れる。直後、手の甲に焼けつく痛みが走り悲鳴こそあげないが、顔を顰める。何だ?愛を語る神の勝負内容が拷問か?
「こんな感じかなっと。はい、左手を見てくださいー」
言われるがまま左手を見れば、桜の花弁の様な形をした赤い痣が浮かび上がっていた……令呪だよなこれ。
「この依代の記憶から借りてきたんですけど、令呪ってサーヴァントとマスターの間にパスを繋ぐんですよね。今回はそれを利用した勝負です。今、この大奥にはカルデアを取り戻そうとする方々が来てます。彼らが私の所に到着するまでの間、徐々に私はこのパスを利用して貴方の魔力を吸い取り続けます。もちろん、日に日に吸い取る量は増やしていきますよ♪
カルデアの方々が到着するまでこの大奥の素材にならなければ貴方の勝ち。建材になれば私の勝ちです。あ、勝負とは別に私は貴方を誘惑し続けますのでそれに乗っても貴方は建材です」
「圧倒的に俺が不利じゃねぇか……」
俺はカーマから魔力を奪われながら、建材にならない様に礼装を起動させ続けなくてはならない。礼装を起動出来なければ、勝負以前に俺は建材に成り果てる。藤丸を信じろ?確かにあいつは人理修復に異聞帯踏破と成し遂げているが、カーマが自信満々に勝負をふっかけるだけの何かがこの大奥にはある。神としての気紛れ、慢心なら良いんだが……カルデアに一切気づかれる事なく此処までの大事を成したこいつにそれを期待するのは薄いだろう。
「対等な扱いしてくれるなんて思いましたぁ?する訳ないじゃないですか。大奥は既に完成していて此処で建材の一つくらい殺しても良いんですから。でも、それじゃあ必死に抗ってくれた貴方に悪いですから、理不尽な勝負で手を打ってあげたのです」
「そうかよ。あぁ、分かった。その勝負に乗ってやる」
どうせ、選択肢はない。圧倒的な力量差がありながら、手を抜いて遊ぶこいつの怠惰に一縷の希望を託すしかないだろう。はぁ、実に最悪な事件に巻き込まれたものだ。恨むぞ、ゴルドルフ。
「うふふ。どれだけ持ち堪えられるか楽しみですねぇ」
俺の返事に妖艶に微笑むクソ女神を、睨み付けるというなんとも小さい反抗しか出来なかった。しかも、それすら自虐心を擽るのか、より満足そうに笑みを浮かべるのだから、溜まったものではない。
──夢を見た。怠惰な神が、周囲から権能を頼られ1柱の神にその愛の権能を使い、見事逆鱗に触れ、肉体を焼き尽くされる夢だ。……都合よく利用され、頼ってきた者達は怒り狂う神を止める事も、ましてや彼女を救おうともしない姿を見て彼女は愛の醜さを理解し、全てを諦めた目で紅蓮の炎へと消えていった。
「……まさか、この目で見る時が来るとはな。やはり、哀れだな愛の神よ」
『勝手に入ってきて、抱く感想がそれですか。別に良いですけど』
「見たいと願って見せられたものでもないからな。ところで、何処にいるんだお前は。声だけ聞こえてきて気持ち悪い」
ただでさえ、聞くに耐えない声だと言うのに頭の中に直接響いていたら、防ぐことすら出来ん。
『
シヴァの炎に焼かれ、灰になり無となった逸話からか。それなら確かに、所在を説いても意味はないな。それにあの神の世界だと?令呪には詳しくないが、俺とあいつの間でパスが繋がれた影響か?クソッ、碌に仕組みも理解せずに使ってるんじゃないだろうなあの神。
「おい、此処での出来事をあいつは自覚できるのか?」
『答える義理ありますそれ?まぁ、自覚するかもしれませんししないかもしれないですね。貴方が此処に居るって事は、私も貴方の内側にいるでしょうし。意外と相性が悪くなかったみたいですねぇ私達』
「……は?誰と誰が相性良いって?」
『貴方と私です。確かに、令呪を通して繋がってる者達が相手の過去を夢として見る事はありますよ。でも、こうして対話が成立するほど相手の中に入れるのは、魂や精神そう言ったものの相性が良くなければ不可能です。まぁ、私が自分の世界と定めている大奥と、その建材ってのもあるとは思いますが、それだけで此処まで来れるとは到底思えませんね。何か、心当たりがあるんじゃないですか?』
発狂しそうな精神を理性で無理やり抑え込み考える。俺とあいつの共通点を。そして、その答えはすぐに思い浮かんだ。
「……先ずは、俺もカーマを名乗るあの女神も自らの意思ではなく、他人に利用された経験がある事だ。俺の魔術属性は虚数で、そこまで歴史のない家系の魔術師としては大当たりとも言える属性だった。だから、家の連中はまだはっきりと自我が芽生える前の俺を、一族の更なる発展の為に使い潰そうとした。なんでも、虚数を後世に確実に遺すとかどうとか。……俺の女嫌いも此処に根を生やしてる。種を欲しがる連中を腐るほど見てきたからな」
だから、俺は自分が人として生きられる未来など来ないと全てを諦めて、抵抗を放棄した。身体を弄られても、好みでもなんでもない女に性的に襲われても。どうせ、碌に生きる事も何かを望む事も、真っ当に誰かに愛される事も無い身だからと諦めて、ただ周りに利用されるだけの短い人生を送る筈だった。
「そんな人生にも転機が訪れ、こうして今此処にいるがそれは今は関係ない事だ。そして、次に俺もカーマも全てを諦めている癖にその役割は全うしようとしているところだ」
『役割ですか?』
「あぁ。全てを諦めたのなら、愛の神なんて辞めてしまえばいい。神にそんな事が出来るのかは分からないが、特異点を作ってまでその姿を現し、それでも愛の神を名乗り、家畜を見るような目で俺を愛そうとする。俺も同じだ、全てを諦めている癖に魔術師としての生き方を変えていない。愚かにも、根源を目指そうとしている」
『なるほど。確かに私は愛の神である事を疎んでいますが、役割を放棄していませんね。そして、それは貴方にも言える。魔術師が碌でもないと理解しておきながら、その魔術師であろうとしていると。それで?一番大きな要因はなんですか?』
ここまで話しながらずっと言わなかった事を聞いてくる。というか、俺の事情を理解して聞いてくる辺り、今頃俺の中でも似た様な問答してんじゃねぇか?自分の内側を勝手に見られるというのはこうも気持ちが悪いものか。
「……俺とあいつの一番の共通点それはな──」
俺が答えると同時に、世界が宇宙が燃え上がる。青い炎が視界の至る所で渦をあげ、燃え上がりその中央に俺は立っていた。不思議なことに、周りがこれだけ燃え盛っているというのに熱を感じる事はない。
「……ソレがお前の本当の姿か」
「えぇ。カーマでありマーラ。それが私です。良かったですね、此処が精神の世界で。現実の貴方は、数多の私に愛を囁かれて気持ち悪がっていますが、もし向こうで私がこの姿を見せていれば貴方の様な矮小な存在、魂ごと消えてしまいますもの」
身体の全てがいっそ神々しいぐらいに宇宙を映し出すカーマ/マーラ。あの女神の本性がこれなら、確かに俺は消えているだろう。
「私は私の愛で、全ての人間を堕落させます。煩悩に満ちた人類を愛で満たせば、永遠に救われます。その果てに産まれるものは何もないですけど。ねぇ、私の宇宙に容易くきた貴方?それがどれだけ心地の良いことか分かるでしょう?」
俺の頬をゆっくりと撫でていくカーマ/マーラ。それは見る人が見れば、或いは相対すればとても優しく愛おしげに感じられるのだろう。だが、俺には熱がなく冷めたまるで、死人が触れてきているかの様な言い知れぬ気持ち悪さがそこにはあった。何より、此処で彼女を受け入れるという行為自体、彼女自身が嫌う行為だと理解してしまった。
あぁ、全く面倒な神様だな。こいつは。
パァン!
「なっ!?」
渇いた音を立てて、カーマの手が俺の顔から離れる。何をしたか?簡単なことだ、俺自身の手で彼女の手を叩いただけに過ぎない。ただ、それだけの行為で俺の左手は彼女の身を焼く炎に焼かれ、炭になる。驚きに顔を染めるカーマを真っ直ぐと見ながら彼女の頬を残っている右手で叩く。
「両手が炭になったな」
「い、いきなりなんなんですか!?この状況で私に手を出すとか正気なんですか貴方!?」
さっきまでの威厳は何処に消えたのか慌てふためく彼女を見ていると思わず笑いが込み上げてくる。俺が女性のリアクションで笑うなんていつぶりだろうか?いや、そもそも初めてかもしれないな。
「お前が与える一方的な愛なぞ、俺はいらん。そこが俺とお前の決定的な差だ。他者の事を考えていない自己満足的な愛など、俺は求めていない。愛欲の獣、まだ羽化することの無い獣。それは、本当に心の底からお前が望むことか?」
「ッッ!!貴方に、貴方に何が分かるんですか!ただの人間が、神である私の何が!」
俺の身体が徐々に灰になっていく。此処には礼装も何もない。抗うだけ無駄だろう。それに此処にいる俺が燃え尽きれば、自ずと現実の俺に意識は戻る。此処での記憶が引き継がれるかは分からないが、そこは俺に期待しよう。
「知るか。俺はお前ではない。だからこそ、言葉を交わして理解しようとしたんじゃないのか?お前が俺の話を聞く必要は初めからなかった。此処は、お前の宇宙なのだから、とっとと俺を燃やせばそれで済んだ話だ。だが、お前はそれをしなかった。ふっ、一方的に愛を与える獣が対話をしようとした。ふっははは!なんとも滑稽な笑い話だな!」
その言葉を最後に俺は燃え尽きた。同時に、現実の俺に意識が戻り、瞬間的に何があったのかを理解した。カーマを見れば、向こうも何かを理解したのだろう。驚いた表情で俺を見ている。
「このタイミングでッッ!」
どうやらタイミング的にはカルデアの人らがカーマを追い詰めている様で余裕のない表情も浮かべていた。確かにいつの間にか床が木製だし、俺は柱に埋まってないし。物語的には最終局面ってやつかこれは。
「え!?なんで、此処に貴方が!」
「……そいつのおもちゃ代わりにされてたからな。ところで、確認するがこれは最終局面ってやつか?」
「そうです!だからそこから動かないでください!」
藤丸の言葉を聞いて、俺はカーマの方へと歩き出す。カルデアの面々が何かを言っているが全て無視し、カーマ/マーラの横にたどり着いた。自分のところに来た俺を不思議そうに見つめ、やがて反吐が出るほど淫靡な笑みを浮かべる。
「どうしたんですか?やっぱり、私が欲しくなったんですかぁ?」
「はっ、ほざけ。俺が柱から解放されたって事は俺の勝ちでいいんだよな?」
左手の令呪を見せると、顔を歪めるカーマ/マーラ。返事はないが、その表情が全てを物語っていたから俺は言葉を続ける。
「知りたい事を教えてくれるんだったな。愛の女神、カーマ。お前は全てを覚えているのか?」
「……えぇ。覚えてますよ。何故か、貴方の内側で話をした事、そして私の内側で貴方と会話をした事を」
俺の内側で話した内容も当然、俺の記憶の中にある。と言っても、殆どは彼女の中で話した事と変わっていない。彼女のリアクションが違うぐらいだ。俺の中の俺、よく無限に喋るこいつ相手に話をしたな。尊敬するよ。
「そうか。なら良い、じゃあとっとと構えろカーマ」
カーマ/マーラに背を向けて戦闘用の礼装を起動させる。その行為にカーマもカルデアの連中も呆気に取られた様に固まってしまった。まぁ、そりゃ味方が突然敵に協力する様な素振りを見せればそうなるわな。
「ん?どうした、戦わないのか?」
「いやいや!どうして、貴方がそっちに立つんですか!?」
藤丸のツッコミは尤もだ。今まで、ずっと汎人類史の人間として、幾つもの異聞帯を滅ぼしてきたのを手伝った男が、その汎人類史を滅ぼしかねない獣に味方をしているのだ。さぞ理解できない光景だろうな。けど、俺はこいつと話をして互いの過去を見て惹かれてしまったのだ。諦めているのに、愛の女神としての在り方を捨てず、自らを愛す事が出来ないのに誰かに愛されて欲しいと願う彼女を。同類がどうして見捨てられるのか。
「全てを愛す癖に、自分を愛せない面倒な神様が寄ってたかって殴られようとしてるんだ。ただ1人ぐらい、そんな神様に味方する愚かな人間がいたっていいだろう、なぁ?」
「……馬鹿ですね貴方。進んで損をする異常者なんですか?」
「酷いな。現状、唯一の味方だぞ」
予想できていた言葉に苦笑しながら言うと、彼女がふっと顔を逸らす。
「まぁでも、そんな異常者でも私は愛してあげます。感謝してくださいね」
「そりゃ光栄だ。精々、頑張るとしよう。その言葉を本当に本心で言えるようにな」
そこから俺とカーマは全力でカルデアの面々に抗った。だが、此処に至るまでの過程で対カーマを万全にしてきたカルデア相手に勝つのは、難しいとかの領域ではなく、俺とカーマは徐々に敗北を自覚していった。礼装も魔力も、カーマから受け取った令呪も使い切ったがそれでもカルデアを押し切る事は叶わなかった。やがて、俺が膝を付きその隙を突かれ、カーマは日本刀で霊核が真っ二つに切断されてしまった。
「……まぁ、勝てる訳がありませんよね」
「向こうは……こういう案件のプロだからな」
いつの間にか宇宙空間から日本屋敷風な場所に切り替わったところで俺とカーマは互いに支え合うように倒れていた。カーマの支配力が弱まった結果か俺の身につけていた通信機が起動し、目の前にシオンのホログラフが現れる。
『全く、貴方はもっと無機質な人間だと思ってましたよ。Mr.ミラン』
「それはどうも。Ms.シオン」
『本来なら貴方の裏切りは重罰として、処したいところですがカルデアの所長からしてアレでしたからね。後で、別の刑に処します』
何したんだよゴルドルフの奴と視線を向けると、無言で目を泳がせる。こういう時のこいつは、大抵しょうもない失敗をしている時だ。まぁ、俺も人の事を言える立場ではないので、寛大な言葉を粛々と受け入れる。
「……貴方、ミランって言うんですね」
「ん?あぁ、そういや名乗ってなかったか」
「名乗ってなかったかじゃないですよ全く……はぁ、貴方のせいで計画が総崩れですよ。どう責任を取ってくれるんですか」
「どうせ綿密な計画でもない癖によく言う。足掻く俺を嘲笑ってやろうーとかそういう考えで、俺を残したお前の失敗だろうに。そもそも、他にも似た様な失敗してんじゃないか、怠惰な神様?」
「うぐっ……否定できない事を言ってくれますね。でも!貴方が、私の味方をするとか言い出さなければビーストとしての権能を失わずに済んだんですよバーカ!!」
「綿密な計画も立てられず、急な要因で弱体化して負け惜しみかい。お前、悪役向いてなさすぎだろ」
「人類悪に悪役向いてないとか言ってくれますね!良いんですよ、もう1度同じ事したって……」
「んじゃ、結局同じ結果だな。その時も俺はお前の味方をするだろうよ」
藤丸達を放置して永遠と互いに話し続ける俺達だったが、俺の発言を最後にカーマの言葉が途切れる。まだ背中越しに彼女の熱は感じているので、消えた訳ではないだろう。けど、きっと次が最後だ。背中から感じる気配はどんどん薄くなってきている。
「……どうして、そこまで私を愛そうとするんですか?」
消えいる様な小さな声で、彼女は俺にそう問いた。愛の権能を持つ神でありながら、愛を嫌い、愛に裏切られ、愛を見失っている可哀想な、この神に俺はあの時と同じ様に言葉を発した。面倒な彼女の心に届く様に。
「俺とお前の共通点は、愛されて欲しいと心の底で願っているところだ。だから、分かるんだよ。お前が、どうして欲しいのかは。何せ、俺もお前と同じくらい面倒な精神構造をしているからな」
「……本当に愚かな人ですね。貴方は」
その言葉を最後に彼女は完全に消えていった。支えを失った俺の身体はゆっくりと地面に倒れ、そこで俺も意識を失った。意識が戻った頃にはカルデアに戻ってきており、シオンやダヴィンチ、ホームズと言った面々に叱られた。それでも、施設内の掃除だけで赦されたのはなんとも、甘い組織だなと思う。
「時計塔なら首が飛んでそうだな」
「いきなり物騒な事を言わないでくれないかね!?そもそも君なら、ホルマリン漬けだと思うぞ」
「お前も大概物騒な事を言ってるぞゴルドルフ。……ん、やっぱりお前の淹れる紅茶は美味いな。もうそっちに転向したらどうだ?」
「いやいやチミィ。今の地球の何処でそんな場所があると言うのだね。それに全てが戻っても私は、ムジーク家である事を捨てるつもりはないよ」
数週間後、俺とゴルドルフは優雅に紅茶を飲みながら時間を潰していた。次に行く異聞帯への準備には暫くかかる様で、暇だし都合よくイベントが起きる気配もないのだ。
「だろうな。そもそも、お前が家から離れたらホムンクルス達が泣き出しそうだ」
俺がそう言って笑いながら紅茶を飲むと、ゴルドルフがじっと俺を見ていた。なんだ?男に見つめられても嬉しくないぞ。睨みつける様に目を細めるとゴルドルフは慌てた様に口を開く。
「大奥の一件から、少し棘が取れたなって思ってね。ほら、君は根っここそ優しいけど基本的に冷たいからね。やっぱり、あの女神の影響か?」
「さてね。まぁ、あの女神の面倒臭さに比べれば、世の中の大半がマシに思える様にはなったさ」
『藤丸くん!ミランくん!至急、管制室に集まってくれ!!特異点が観測された』
続きを話そうとしたタイミングで、ダヴィンチの放送が流れる。どうやら都合よくイベントが起きた様だ。椅子から立ち上がり、虚数空間から戦闘用の礼装を取り出し装備し、ゴルドルフより早く部屋を出て走る。
「誰が面倒ですか。誰が」
「そうやって態々拗ねてますってアピールしてくるところとかだな。カーマ」
すぐ近くを並走する様に現れたカーマ。態とらしい声にあざとく膨らませている頬が実に面倒臭い。実は、あれが今生の別とかそういう事はなく、左手に痛みが走りあの時の令呪が浮かび上がったかと思うと、カーマが召喚されていた。諸事情ありましてとか言っていたが……まぁ、そこは突っ込まないでおこう。機嫌取りにドーナツを費やす事になる。
「優しく慰めてくれても良いんですよぉ?ミランさん」
「一仕事終えたらな。準備は良いかカーマ」
「またそう言う……良いですよ。貴方と一緒なら何処へでもどんな敵とても戦って差し上げますよ。面倒ですけど」
「あぁ。よろしく、俺の女神様」
「うわっ、やめてくれます?それ、凄く寒気がしました」
「分かる。俺も寒気がしたわ」
俺は彼女が自分を愛せる様になるまで、彼女を愛し続けるだろう。そして、そんな俺が自分を愛せる様になるまで、彼女も同様に俺を愛すだろう。その果てにどの様な関係になるかは分からないが、恐らく悪くない関係になるだろうと予想が出来る。
はい。と言う訳でね、こういう形になりました。
カーマの面倒臭さをしっかりと書けていれば良いのですが、こればっかりは難しいですね。私もカーマの全てを知り尽くしている訳ではありませんので。
感想・批判、皆さんのカーマ愛などをお待ちしております。