世界に魔法を、心に歌を。 作:RHC
アレと出会ったのはそう、当時俺が6歳か7歳ぐらいの頃だった。
前世の記憶を思い出して何故生まれ変わったのだと頭の中で自問自答しながらも肉体年齢に意識が引っ張られ、幼子特有の純粋な考えで何となくその日その日を特に問題無く過ごしていたよな。
けれど前世を体験している俺にとってはそんな日々は正直言ってかなり退屈だ。言ってる事がさっきと違うだって? ……仕方ねぇだろ、その時はそう考えてたんだから。確かに友達と遊んだりしてたら楽しいと思えた。が、何時も頭の片隅に何か足りない、何かが無いと感じていたんだ。
これに関しては明確に言葉には出来ない。しかしこれに関しては何故があったと今でもハッキリと覚えてる。
そんな思いを抱えたまま俺は刺激の無い、何処か足りない生活を続け休日。その日の俺は何を思ったのか自分で言っては難だが珍しく散歩にと思い外へ出かけていた。特に理由は無い、本当に思いつきでふらぁーっと宛の無い散歩へと繰り出したんだ。
近くにある数多く店並ぶんだ商店街、友達や親友も数多く住んでいる住宅街、そして何故か歴史を感じさせる古びた神社のある山などなど割と引きこもりな俺にしては珍しく一日中飯も食べずにふらふらと散歩を続けていたんだ。だけども未発達な今の体の体力では流石に持たなかったらしく疲労が限界に達し、ちょうど近くにあった公園で一休みする事に。今頃珍しく遊具も何もない公園にはベンチが複数ぽつんと点在するのみ。それ以外ではその土地の自治体に植えられたであろう多彩な季節の花が綺麗に咲くのみだった。
疲労で動けない俺はゆっくりとベンチに腰掛け、ふと目を瞑った。
花の揺れる音。木々の葉が揺れる音。遠くで走っているのであろう車のエンジン音。目を瞑ると視界は途切れ、聞く事に集中している為に様々な音が耳に入りまるで俺自身が世界に溶けていくような、そんな何とも言葉で言い表しずらい不思議な感覚に陥っていた。
――――でも、だからだろう。そんな感覚だったから俺はある音が聞きとれた。
【―――――】
それは途切れ途切れの旋律。耳を疑うような不協和音。木々の揺らめきにかき消されそうなほど小さなその音は俺の興味を引くには十分過ぎるほどの対象となる。
目を開き、疲労の残った体に鞭打って俺は動く。その小さな小さな音を頼りに発生源へとふらふらと近付き、先ほど目に入った花壇へGO。花を潰さないように慎重に中へ入り、探してみるとそれはあった。
【―――――】
本だ。一見古びた、焦げた跡のある音を発している灰色の本だ。恐らく煌びやかだったと思われる霞んだ装飾がこの本の古さを物語っているかのように思えて仕方なく背表紙や表紙にあったのであろうタイトルは掠れて読めなくなっており、どんな本かは開けてみないと分からない。
【―――――】
しかしこの本からは不気味な事に不協和音を響かせている。その事実に少々恐怖を感じ手が震えていたが胸の中から沸き立つ好奇心に少年の心を取り戻しつつあった俺は抗えるはずも無く、ゆっくりとその表紙を開いた――――
【――――まぼろし? 夢? 優しい手に包まれ】
そしてそこから聞こえるは不調和音ではなく、綺麗な歌声へ変化した。
その本の――――いや、その女性の綺麗な歌声は悲しい思いと未来を掴もうと足掻いているっと言う思いが感じられる心動かされる歌だ。
彼女は俺が本を開いて歌声を聞いている事も気付いてないようでそのまま歌い続け、そして歌いきった。
【君ト云ウ 音奏デ 尽キルマデ 止まらずに Sing out with us―――――ふぅ、アハハ。何だか懐かしくって歌っちまったな……どうせ誰も聞いちゃいないってのに】
なははと笑うその声は先ほどの歌声とは違い、何も知らない俺からしても寂しいと言う感情が強く感じ取れてしまった。そして誰も聞いて無いと言う発言で俺はこの歌を結果的にとは言え披露してくれたこの本に失礼と思い、本を一端その場に置くとスタンディングオベーションなみの拍手を彼女へ送った。
【え……】
するとどうだろう。驚きに声と共にふと、何故か赤毛の女性が涙目でこちらへ振り向くイメージが脳裏に過った。
【わ、わたしの声。き、聞こえていたのか?】
そう問われた俺はゆっくりと頷くと‥‥‥‥一つの、涙を流す女性の泣き声が響き渡ったのさ。
それから俺は彼女に付き添い、色々と泣きながらではあるが彼女の話す抱えた事情に思わず同情してしまった。
彼女曰く、彼女自身はある人間のコピーらしく、かなり昔に今の本中に宿らされてある役割を担っているとか。
彼女曰く、最初の数年は持ち主がいたがそれからてんで持ち主……つまりは彼女の声が聞ける人物は居らず、長い間独りぼっちで寂しかったとか。
彼女曰く、そんな中で俺の拍手が嬉しかっただとか。
色々と話してくれた。そんでもって当時の俺はその彼女の受けた境遇に涙してしまった。だって、独りぼっちの寂しさは最近両親を亡くした俺にとって痛いほど理解が出来たから。
【なんでアンタが泣いてんだよ】
そう疑問を問いかける彼女。だから俺は泣いた理由を話すと再度泣き始めてしまった。どうやら彼女の性格はかなり優しい人物らしい。
【そうか、そうか。アンタも1人ぼっちなんだな】
二人して泣いている状態が数分間続き、両者の涙が枯れる頃に彼女は俺にこう問いた。
【アンタ、私のマスターにならないか】
っと。最初は意味は分からなかったが、ゆっくりと説明を聞くに俺が彼女の所有者になる契約らしい。細かな内容を理解してない当時の俺はそれをすぐさま了承。
【これからよろしくな、マスター】
こうして俺は彼女のマスターとなった。
そして数年経ち、俺は13歳となって中校生に。マスター契約をする際に結んだ細かな契約内容などを忘れた頃、俺は奇妙な事象に見舞われていた。
「なぁタバネさん」
【なんだマスター】
「ネズミってあんなに大きかったけ?」
夜遅い時間帯、タバネさんと共に美味しいアイスでも食べたいなぁだと思いコンビニへ買いに行ったところ俺は帰り道の住宅街にて自身の全長ほどの大きさを誇るネズミとエンカウントしてしまった……いや、マジでなんなん?
此処は海鳴市。山あり海あり翠屋ありの割と何でもある町。だけどさ、こんな超常もあるってマジぃ?
風音 響(かざね ひびき)
海鳴市に住む普通の少年。小さい頃ある本を拾った事を切っ掛けに頭の片隅にあった思いを満たす事となる。
タバネ
言葉を話す謎の本。本人曰く魔法の本との事。直、響と過ごした10年間魔法が使えた試しは無い。