ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々 作:樽薫る
あれからまた二日。
チラシ効果は皆無……まぁそりゃそうだなとは思う。
こんな陰のオーラガンガンの見たことないウマ娘がトレーナーやってんだからそうなるわ!
愛称しか公表してないし!
なにが悪いって世界が悪い! 私が走れなかったのはどう考えても世界が悪い!
トレーナー室、私は頭の中で世界への呪詛を募らせる。
今度の休みは気分転換でもしよっかなぁ、トレーニングの休みともかぶるし……。
タマモちゃんもハネのばせればいいけど……。
「んぅ~」
今日も今日とてソファに寝転がっている。
書類はまとめたし、今後のトレーニングメニューを数パターン組んだ。
ブライアンは全体的に能力が高いから、タマモちゃんに付き合ってトレーニングをするのが逆にベストだと思うし、あとは……。
「あと二人、レースが年末だから……うぅ~ん」
時計を見れば昼休み。
そろそろ御飯食べようかなぁ……。
なんて思ってると、ノックがされる。
たぶんタマモちゃんかブライアンでしょ、じゃあ大丈夫だ。
「鍵開いてるから入って~」
「お、お邪魔します……」
「ふぁっ!!?」
「あ、お姉さまっ」
「ららら、ライス!?」
しまったぁぁぁっ!!? この発想はなかった!
「すすす、すみませんこのような恰好で!」
「あ、ううん……なんだか気の抜けたお姉さま、新鮮で嬉しいっ」
かわいいかよ。私の妹(暫定)がかわいいんですけど!
と、とりあえずシャツのボタンとネクタイ締めてジャケット着なきゃいけない。
ライスが立っているので、こほんと咳払いをしてからしっかりと座りなおす。
「えっと、どうしたの?」
「あ、その……」
「それじゃあ……座って話そっか」
言いよどむライスにそう言うと、ライスは頷いて―――私の隣に座った。
……隣なんだ。いや良いんだけど。
「えっとね、お姉さま……」
「ん?」
「ネームレス杯、お姉さまのところに、入りたいなって」
まじで?
「え、ほんとっ!? 凄いうれしい!」
「う、うん……!」
「いやぁ、ありがとう! あ、書類書類!」
急いでパソコンの置いてあるテーブル、そこに積まれた書類の束の中から―――それを取り出す。
「はい! あ、放課後でもいいよ!」
「それじゃあ放課後で、いい?」
「もちろん!」
あ~持つべきものは義妹! 義妹万歳!
私が男だったら全力で攻略しにかかってるね!
「それじゃあ、あと一人かぁ」
「えっと、ナリタブライアンさんと、ライス、だよね?」
「あ、知ってるんだ」
「うん」
助かったぁ、でもあと一人。あてがないわけじゃないけど……話したことないんだよなぁ。
でも、慎重にいかないとだなぁ……ライスとブライアンの二人を負けさせるわけにはいかない。
それに、これでタマモちゃんを蔑ろにしちゃうわけにもいかない。
新人トレーナーなのに忙しすぎない?
「でもまぁ、学生時代とやってることそんな変わらないな……」
「お姉さま?」
「んぁ、ごめんごめん、とりあえず放課後ね。タマモちゃんとブライアンには連絡入れとくから」
「うんっ!」
ニコリと笑顔を浮かべるライスに、私も自然と笑顔になる。
根拠はないけど、ライスはきっと笑顔と幸せを運ぶ良いウマ娘になると……そう、思うよ。
◆◇◆◇◆◇
任務、最終目標……クラシック三冠。
それを達成するためにはいかなる努力もハードトレーニングも惜しむつもりはありません。
そして、その目標を達成するには、私にはトレーナーが必要です。
目標を達するために、目標へと導いてくれるトレーナー、マスターが……故に此度のレース。私が走るべきなのは……。
「ミホノブルボン」
「……はい」
視界に入るのは、ベテランのトレーナーのようです。
トレーニングコートで走っているのを、先ほどから観察していたのは理解していましたが……。
「単刀直入に言う。ネームレス杯、うちのチームに入ってほしい」
「了解しました」
「っ、あっさりだな、それは助かる」
「しかし、私は此度のレース、長距離を希望しています」
私の提案に、そのトレーナーは顔をしかめました。
予測通りです。
「君の適正では短距離路線が―――」
「―――長距離でないのならば、辞退させていただきます」
「よくいるんだよ。君のように脚質があっていないのに三冠やらを取りたいなんてウマ娘が」
「……以上でしょうか?」
私がそう言うなり、そのトレーナーは背を向けて去っていきました。
そう、私には長距離レースの経験が必要です。
それも本番に近い……。
「インスピレーションとフィーリングよ! そしてゲッターズよ!」
「む、無理だって、マルゼンスキー知ってるでしょぉ、私コミュ症なんだって」
「昔はもうちょっとイケイケじゃなかった?」
「いや全然だよっ、周りが優しかっただけで……」
あのウマ娘、マルゼンスキーさんと……ウマ娘でトレーナー。
クラスメイトが『知らないウマ娘』『見たことも聞いたこともない』と言っていた方ですね。
理事長、たづなさんが呼び寄せたそうですが、重賞を制したウマ娘であれば誰かしら名前を知っていてもおかしくないはずです……。
「マルゼンスキー、声かけてよ」
「クロネぇ……私じゃなくて貴女が面倒見る娘でしょ?」
クロネ。聞いたことがないですね。
「私は万年マルゼンスキーの後ろ追っかけてるよぉ」
雰囲気が、わずかに変わりました。
「あら、追っかけてすら来てくれないじゃない?」
「あ、あれはその……うぅ」
マルゼンスキーさんが、バツの悪そうな表情を浮かべています。
「ごめんね……私戻るから、頑張りなさい?」
「あうっ、お、怒った?」
「怒らないわよ。私もデリカシー無かったわ……それに、だからこそ貴女への大きな借りもあるし、ね」
「いやあれは―――」
「とりあえず、いろんな子を見なさい」
クロネさんの方が身長が高いのですが、なぜかマルゼンスキーさんの方が大きく見えます。
「貴女に判断を仰いで成功した娘が沢山いるのを知ってる。大丈夫よ」
「それは、私じゃなくてあの娘たちが」
「いいから、自信もって!」
そう言うなり、マルゼンスキーさんはクロネさんの背中を叩きました。
「それにさっきからこっち見てるし彼女、クロネに気があるんじゃない?」
「へっ、あ……」
見すぎましたね。それに気があるとは? 女性同士ですよ?
「がんばってね♪」
「ほんとにナンパいかせるノリじゃんっ!」
「スカウトもナンパも一緒よ」
「違うよっ! トレセン学園をなんだと思ってるのさ!」
「ばいび~」
「ちょっ!」
何も言わせぬような勢いで、去っていくマルゼンスキーさん
置いて行かれた彼女は、私の方をチラチラと見ていますね。
―――私は、なにをしてるのでしょうか、時間を無駄に使えるほど余裕はないというのに。
トレーニングに移行しなくては……。
「み、ミホノブルボン、さんっ!」
「!?」
驚きました。まさか私を知っているとは……なぜ?
「はい」
「あ、ご、ごめんねトレーニング中にっ」
目の前まで軽く駆けてくるクロネさん。
「さ、最近、気になってるウマ娘ちゃんは、覚えるようにしてるからそのっ……」
「私が、でしょうか」
「うん……その、わ、私のっ」
しかし、スケジュールにズレが生じています。
「私は……」
「え、あ、はい」
「……長距離レースを希望しています」
「その、知ってるんだよね。実は……この前、他のトレーナーさんと話してるの、聞いたから……」
頬を掻きながら、彼女は『えへへ』と気まずそうに目線を逸らしながら笑いました。
「疑問です。ならばどうして」
私の脚質では長距離は向かないと、知っているでしょう。
「わ、わかるよ。ウマ娘なら、脚質うんぬんじゃなくて……走りたいレースがある。夢見たレース」
彼女にも、あったのでしょうか?
「は、走れるレースは走る方が、いいよ。それで壊れたら、本末転倒だけど、ね」
「貴女は……」
自然と、言葉が口から漏れる。
「貴女なら、可能ですか? 私を、クラシック三冠に……導いてくれるのでしょうか?」
壊れず、走りきる……。
「か、必ずって約束はできないけどっ、努力はする。私ができるのは、それだけだからっ」
「曖昧な答えです。私は確実にこの任務を遂行しなければなりません」
「でも、今よりずっと長く走らせてあげられる、と思う……距離も時間も……」
トレーナーならば、確実に走らせると言うものです。それが嘘だとしても……。
「無理な長距離は、体を壊すからね。いきなり長距離トレーニングしてくれって言われても無理だよ。最初から適正が合う娘とは違う」
「しかし―――」
「残念だけど、才能ってものだよ。散々味わってきた」
彼女にもあったのでしょう。トレセン学園に通っていたのだから……。
「嫌というほど思い知らされてきた。目の前をグングン進んでく“スーパーカー”と“痛み”に……」
彼女は顔を苦々しく歪めて、自嘲するように笑っています。
すぐに両頬を自分で叩くと、私のほうをしっかりとみて―――視線を合わせました。
「任務変更は不可です。故に私は貴女のチームには―――」
「それでも、無理じゃあない。それに今回のネームレス杯、参加するのは長距離だし」
「……ステータス『戸惑い』が発生」
「サイボーグ感出た……じゃなくて」
彼女は頭を左右に振る。
しかし私は、いまだ動揺が回復しません。
「み、ミホノブルボンちゃん……まだ貴女はデビュー前だから体作りも間に合ってない。スタミナもない。それで無理矢理に長距離トレーニングなんてしたら壊れる」
「ならば、なぜ今回の長距離を?」
「す、少しだけ、考えがあってね。ミホノブルボンちゃんが入ってくれるなら、打てる手があるし……きっとそれは、君が“無事”にクラシック三冠を達成するのに、役に立つ……はず、だよ?」
―――顔の半分ほどを隠す長い前髪から覗く、優しい眼差し。これは……?
「走れなくなったらおしまいなんだよ―――だから私が君をクラシック三冠に導きたいって、思う」
ステータス。動揺を確認。
しかし、私は―――。
「あ、待ってこれ、ちゃんとトレーナーやる感じになってる! ち、ちがっ、私は今回のネームレス杯の勧誘に来たんであって!」
「了解しました」
不確定要素を排除。結果、彼女の元が現状では最もミッションコンプリートの可能性が高いと判断。
「アップデート完了。貴女をマスターと登録」
「え、なんか始まった?」
「ミッションを開始します」
「なにが!?」
―――クラシック三冠への道です。
◆◇◆◇◆◇
離れた場所から、クロネが笑っているのが見えて自然と頬が緩む。
どうやらブルボンちゃんとは上手くいったみたいね。
相性的にもバッチグーだったんじゃない?
聞いたことない、実績のないウマ娘、だけど……話してみれば色々わかることもあるわよ。
ちょっと厳しいこと言っちゃったし心配したけど……大丈夫だったみたいね。
「あの娘、もうちょっと自信さえつけばねぇ」
「マルゼンスキー、やけに笑顔だね」
「あらルドルフ」
まったく、相変わらずいいタイミングで現れるわね会長さんは。
「やはり、最近に君が動いているとすれば彼女関係だからね」
「あらやだジェラシー? かわいい~」
「私も彼女に興味が出てきた」
へぇ~……。
「いいわね~アゲアゲよぉ」
「意外だな、君はあまりおもしろくないものと思ったが」
「わかってないわねぇ」
「……そろそろ、見てみたいがね、彼女の走り」
「どうかしらねぇ」
くるのかしら、あの娘がまた本気で走るなんて……。
「はぁ~嬉しいけど憂鬱なのよねぇ~」
「少女のようなことを言うな」
「あらやだ、まだまだ少女よ~?」
失礼しちゃうっ!
―――ってルドルフ、クロネの方に夢中みたいだし。
「どうしたの? 貴女って女の子いけたっけ?」
「さてね、別にこだわりはないが……彼女はそういう意味でなく興味がある」
まじでじま? まさかのまさかね、案外“あの頃”より学園の話題になっちゃうかも!
そしたらどうするのかしら、まぁなにか変わるとも思えないけどねぇ。
「おっと、こんな時間か」
「ん、予定?」
「月刊トゥインクルの取材さ」
「忙しいわねぇ皇帝さまは」
ルドルフは肩をすくめて苦笑して見せる。
相変わらずサマになるわねぇ~。
「あと、クロネの名前出さないでね?」
「……徹底してるな」
「もうちょっと気楽に楽しく過ごしてほしいし……釘を打ってるのは貴女だけじゃないから」
「……承ったよ」
ルドルフが去っていく。
その後ろ姿に淀みや迷いは一切なし、こういう時は可愛げないわねぇ。
ちゃんと姿が見えなくなってから、クロネの方を見てみる。
ブルボンちゃんのトレーニングをそのまましてるみたいね……。
「貴女はきっと良いトレーナーになるわ」
前の柵に腕をかけて頬杖をつく。
―――私を無敗の三冠ウマ娘にしたのは、貴女だからね。
◆◇◆◇◆◇
「ただいまー」
トレーナー室に入ると、タマモちゃんたちが先にいた。
ブライアンとライスちゃんも一緒で……なにより!
ブルボンちゃんは私の後ろにいるので、サプライズしてあげよう!
「ようやく集まったよぉ」
「ドラゴンボールがか?」
「なんでやねん!」
「そうそう、タッカラプト、ポッポルンガ」
「ナメック星の方!?」
「え、えっと……ら、ライスの戦闘力は」
「無理してやらんでええ!」
「う、うんっ……」
ライスの可愛さは53万だよ……。
「それで、新メンバーの……い、いいよ」
「了解しました」
そしてブルボンちゃんがトレーナー室に入る。
「ミホノブルボンです。本日からマスターの統率するチームへと参加することとなりました」
「マスターって」
「クロネの趣味か?」
「違うよ!」
自然に受け入れてたけど確かに変か!?
でも今更変えてくれってのはなぁ、別にいやではないし……。
「とりあえず、これでメンバーが揃ったから明日からチームレースのトレーニングするよ」
そう言うと、しっかり頷く三人と、ニッと笑うタマモちゃん。
「よ、よろしくブルボンさん」
「はい、よろしくお願いします。ナリタブライアンさんも」
「ブライアンで良い」
仲良くやれそうで安心しましたお姉さん。
タマモちゃんの隣に座って、緊張が解けたので息をつく。
とりあえずこれでレースの参加資格はクリアした。
「お疲れさん、てか大丈夫なんか……ウチのメイクデビューも近いけど」
「もちろん、そっちもしっかり見てるよ」
「……ならええけど、無理して倒れたら本末転倒やからな」
あ、私の心配だった?
「そういえばなんやけど」
「ん?」
「ウイニングライブの練習ってやらんでええの?」
「……ふ、ふふふっ」
―――そうか、そうだったね。
「な、なんや?」
「忘れてた」
「アホやん」
ストレートにものを言うね。
「しょうがない、レッスンと行こうか……」
「大丈夫かぁ?」
「トレセンOGを
「心配しかないんやけど」
そうだね。私が踊り出すとはしゃいだヲタクにしか見えないやつだね。
「……まぁ、一応経験はあるし練習もしてたからさ、ほら……役にはたつって」
「お、おう、なんかスマン」
「大丈夫大丈夫」
まぁそういう落ち込むのは終わってるんでガチで大丈夫だよ。
「タマちゃんは、これから一杯ウイニングライブするんだからね。完璧にしとかないと」
「なんや嬉しいこと言うやんけ」
二人で笑いあう。
「クロネの歌とダンスか……」
「え、なにブライアン、やっぱ心配? しょうがないなぁ、見せてあげよ……」
冷静に考えたら、この歳でそれは恥ずいのでは……?
いやいや、私とてウマ娘、や、やるぞっ……お見せしようか、うん!
「ドスケベボディで……」
「ドスコイボディ!?」
「言ってないが」
いーやまた言ったね!
「昔から体型変わってないはずだしこれでダンスしてたよ!」
「だから言ってないが」
「うぅ、昔からなんか私のライブの時、変なんだよね……身内が」
「予測完了、ミスでは?」
「ブルボン、お前天然やの……」
いやいやミスはないって! マルゼンスキーとイケイケで練習してたんだから!
「お、お姉さまその……」
「どしたのライス?」
「私も、一緒にお姉さまと練習したいな」
かわいいかよ。かわいい測定器……5000兆点!
あ~ライスは良い子だなぁ!
「お姉さまはうれしいよ~!」
抱きしめたる!
「おね―――むぐぅっ!?」
「ライスはかわいいなぁ~」
なでなでしたるぅ~! えへへ~♪
「まずいライスがおっぱいで殺される!」
「羨ましい……!」
「ブライアン、そんな残念になってもうて……」
「予測、ライスさんがバッドステータス『ピンチ』です」
「おいクロネ! 貴重なメンバー殺すつもりか!?」
「へ?」
―――なにが?
ライスを離すと、顔が真っ赤だった。
……あれ、息苦しかった!?
「ご、ごめんねライスっ!
「これが、お姉さま……っ」
「ふむ、癖が壊れた音がするな」
「嘘やろ……!!?」
「……?」
「ブルボンの背景に宇宙が見える気がすんで……」
なんかわからないけど、みんな楽しそうなのでヨシ!
なにはともあれ、こうして私達のチームがとうとう始動していくわけです。
―――チーム名、どうしよ。
あとがき
ライスとブルボン参戦! そのうち絶対曇るやつ……
最近、まじめパート多い気がして落ち着かない
まぁ次回からもうちょっとワイワイした感じっす
中等部組と関わるのもうちょい後になる予感……
そして、お気に入り1000まで行ってました!ありがとうございます!
こっからも頑張っていきますので次回もよろしくお願いしますー!