ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々   作:樽薫る

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ちょっとずつシリアス比率上がってます


第14話【やるそうですよ新レース!】

 あれから数日が経って、安静にしつつ気を遣ったこともしたおかげか、脚もすっかり治った。

 そして、早朝から私は理事長室へと案内される。

 もちろんたづなさんに……。

 

「理事長、クロネトレーナーをお連れしました」

「感謝っ! さっそくだがクロネトレーナー、今日は君に伝えておきたいことがある!」

「え、改まってなんですか?」

 

 クビですか!? 待ってまだ彼氏の一人もいないの!

 寿退社するって決めてるんだから!

 

「朝、発表する気ではあったのだが先にな!」

 

 なんで重要そうなこと、私に最初に話しちゃうんですか!

 無駄に責任感じちゃうじゃないですかやだー!

 

「安堵! その前にクロネトレーナーの足が治って安心した!」

「あ~あはは、お恥ずかしい限りで」

 

 家でやりましたというテイで、色々と周囲には説明した。

 走りたくてヤッちゃいましたなんて、とてもじゃないけど言えないね!

 マルゼンスキーにだって言いたくなかったけど、なぜかバレた! 私のこと大好きかよ!

 

「本当に、無理はしないでくださいね?」

「あ、う、はい……」

 

 たづなさんにも色々と迷惑をかけていたこともあるしなぁ。

 故に、脚に関しては心配するんだろう。

 

「……」

「いや、もう脚大丈夫ですよ?」

「……」

「え、なにジッと見てんですか?」

 

 なんか目が怖いんですけど。

 

「そんなに太い脚をして……! 私を誘っているんですか!?」

「ないですけど!? てか太い言うな!」

 

 これでもレディーですよ!? たしなみねぇですけど!

 

「太腿っ! トモがしっかりしていて良いことだな!」

「フォローですかそれ!?」

「別腹っ! 上の方が好みだな!」

「なんの話してます!?」

「そろそろ真面目に話しませんか?」

「早朝呼び出してこれですか!?」

 

 気を取り直してと、たづなさんが言うので私を置いて理事長も咳払いをして真面目な表情になる。

 なぜか私が置いてかれたんですけど!

 きっと私は不満そうな顔をしてるだろう、と思いながら理事長の方を向く。

 

「はい、どうぞ……」

「そんな不満そうな顔しないでくださいかわいいですね」

 

 絶対にツッコまんぞ! バカにしてぇ!

 

「発表っ! URAファイナルズを開催する!」

「また新しいレースですか!?」

 

 ―――たまげた。

 

 

 

 新レースURAファイナルズの開催。

 全レース場の全距離、世代すらもデビュー三年目以上のウマ娘であれば関係なし。

 ファン投票上位はもちろんのこと、参加人数の多さから目立った活躍がなくとも可能性はある。

 

 実現されれば―――まさに『全てのウマ娘が輝けるレース』だ。

 

 開催は二年後の年末から、丁度タマモちゃんは出場可能だろう。

 

 

 

「い、良いですね。それにしても、それをなんで私に?」

「見聞っ! 君の意見を聞きたい。ウマ娘として、それをサポートするトレーナーとして」

 

 いつになく真面目な表情の理事長。

 たづなさんもニコニコとしているけれど、どこかその雰囲気が違う。

 

 だからこそ、はっきりと口にする。

 

 URAファイナルズ―――全面的な賛成はできない。と……。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 昼休みのトレーナー室。

 ノックもせずにウチが入れば、相変わらずだらしなくソファに横になっとるクロネがおった。

 朝っぱらから理事長がぎょうさん集めて“URAファイナルズ”とかいうのを発表して、ずいぶん盛り上がっとったけども……ウチのトレーナーがいつも通りなんは安心してええんか悪いんか……。

 いや、ウチにとってはそれがベストかもしれんけど。

 二人でソファに座り、昼食をテーブルの上に置き、そこでようやっと本題に入る。

 

「URAファイナルズやっけ、どないすんのや?」

「んぐ、やっぱそれだよねぇ」

 

 口に頬張ったサラダを呑みこみながら、やっぱ考えてたんやろうわかってたみたいに言う。

 

「二年後でしょ。それを目標にする? でも違うでしょ、タマモちゃんの目標は」

「……せやな」

 

 自然とウチの口元がニヤける。

 

「わかっとるやん……ウチは勝って勝って勝つ。それで家族を楽させたること」

「じゃあ、二年後の……目標でもないそれを考えて走るなんてナンセンスだよ……」

「はっ、トレーナーらしいこと言うやんけ」

「ふふん、トレーナーだからね」

 

 そう言うクロネの耳がピコピコ動く。

 

「にしてもタマモちゃん、ちょっとずつ量増やしてるんだね」

「まぁな、クロネが色々やってくれとるのもわかってるし……ウチもやれることやらな」

 

 少し多めの食事を食べながら言うとると、クロネは前髪の隙間から覗く眼を少し俯かせがちにする。

 

「私のことなんでどうでも良いんだって、私はタマモちゃんたちが“走り続けてくれる”なら、それで十分だよ」

「そか、ところで……ウチのレースは?」

「ん、一月後にオープンを走ろうか……それと今後は遠征とかかなぁ。いろんなウマ娘とのレースを経験して、来年のクラシックを走れるようにする」

 

 私生活というか、ふるまいはダラしないけどなんやかんや、やるトレーナーやクロネは……まだ知り合って一月やけど、それは十分わかっとるつもりやしウチはコイツをできる限りは信じる。

 だから教えてほしいとは思う。直接、聞けはせんけど、クロネ。“お前は一体誰”なんや……。

 

「ん、どしたのタマモちゃん」

「いや、なんでもあらへん。ただ……」

「ただ……?」

 

 静かに息をついてから……。

 

「―――うどんっておかずやんな?」

「いや違うと思うけど」

「なんでやねん!」

 

 ―――いつか教えてくれたら、それでええけどな。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 放課後、私はジャージを着てトレーニングコースへと出る。

 先に着いていたタマモちゃんたちがそこにいる。

 バインダーに挟んだ書類に書かれているのは、私なりにまとめた四人の現状の課題点。

 

「お待たせー」

「開始7分前、許容範囲内と判定します」

「う、うん相変わらずだね」

 

 言葉自体はお堅いことこの上ないけど……まぁ案外感情表現豊かではある。

 

「締まってる……だと……!?」

「あ、うんジャージ、新しいの買ったよしょうがないから」

「お姉さま……」

 

 ブライアンとライスは二人してなんでそんな悲しそうな顔してんの?

 

「とりあえずトレーニング始めるよ。今日はブライアン、ライスの二人はスピード強化の方面で、タマモちゃんはその二人と併せながらプラスで差し込みの特訓、脚の強度とかも上げたいけど……」

「それはええけど、ブルボンは?」

 

 まぁそこなんだけど……。

 

「ちょっとお話プラス、秘密の特訓かな。すぐにそっちに合流してもらうから」

 

 そう言うと、タマモちゃんは納得したように頷く。

 

「ほ~ん、まぁええわ。いくでブライアン、ライス」

「お姉さまの……」

「どんだけ落ち込むねん、おっぱい好きすぎやろ」

「お姉さまのだけ、ですのよ?」

「なんでお嬢様言葉やねん」

「いや、意外と胸部分はパンパンだしあれはあれで」

「お前無敵なんか!?」

 

 なんか話して楽しそうにしているのでそっちは安心。

 私がやるべきことは一つ、残酷ではあるが言う必要があることをブルボンに言う。

 新しいやりかたは数字を見る限り明らかな成果を上げてるけど……。

 

「ブルボン、あの三人に合わせて長距離のトレーニングどうかな?」

「ラップタイムを意識するトレーニング法は明らかに効果を出していると認識しています」

「……長距離の方は?」

「このままトレーニングを続け、いえ倍にすれば年末までには」

 

 いや、そうではない。そうじゃあないでしょ?

 

「……このままのペースであれば、年末には間に合わないかと」

「そうだね。元々脚が長距離向けじゃないんだから、一朝一夕でどうにかなるもんじゃないよ」

「マスター、では私は」

「……ちょっと残酷なこと言うけど、良い?」

 

 周囲に人がいないのを確認してから、静かに深呼吸。

 やば、こわ……大丈夫、だよね。ブルボン。

 

 

 

 ―――結論から言って、ブルボンは一応は納得してくれた。

 

 だからこその“このあと”だ。

 今の私にできる全力であの娘たちに応えること。

 現在は三人に合流して、ブルボンも一緒にトレーニングをしてい―――。

 

「あの!」

「ふふぇあ!?」

「きゃっ!」

 

 へへへ、変な声出た!

 陰の者に急に話しかけるのはNGなんですけお!

 

「すすす、しゅみませんっ」

「あ、い、いえ……こちらこそ」

 

 そこにいたのは、小さな女の人―――服装からしてトレーナー。

 

「えと……」

「すみません、私は桐生院葵と申します」

 

 スカウトですか? いやんなわけねぇんですけど。

 

「ど、どうも……」

「ウマ娘でトレーナーの方……クロネさん、ですよね?」

「あ、はい」

 

 良かったぁ、クロネの愛称広がってる。

 いやこれが名前のテイでやらさせてもらってます。

 

「よかったぁ、実は前から気になってたんですよ」

 

 ……もしかしてナンパですか!?

 

「配属時期がほぼ一緒だったので、お話お伺いしたくて!」

 

 違う、これ普通にそれだ。

 最近イケメンに絡まれて自惚れた私を殺してっ……!

 

「あ、はい……」

「では、トレセンOGとして―――」

 

 どうしようかこれ、私……人見知りなんですけど。

 しかしまぁ桐生院といえば、トレーナーの名家じゃないですか……てかこの人担当は?

 あ、あの芦毛の子かな?

 

「あ、うちのハッピーミークです」

「か、可愛い子ですね」

「え?」

 

 しまった選択を誤った気がする!

 

「……やはりクロネさんは他のトレーナーとは見るところが違うんですね!」

 

 あ、はい。なんかいい感じの解釈してくれた。ウマ娘で良かった。

 

「走りにどんな関係が!?」

「……な、なんかインスピレーション的な」

「なるほど!」

 

 めっちゃ眼をそらしてるのに眼をあわせようとしてくる。こいつ陽の者か!?

 くっ、マシンガントークが止まらないっ、私が差し込む隙すらないっ!

 

 ―――なんて思ってると。

 

「私のクロネになにか用か?」

 

 トレーナーと言ってくださる?

 

「ブライアン、勝手に抜けんなや」

「ごもっとも」

「いや、クロネがナンパに」

「あってないから」

 

 もれなく腰を抱いて言ってる私のとこのウマ娘。

 ほらぁ、桐生院さんぽかーんじゃん!

 

「えと、だ、大丈夫……心配してくれて、ありがとっ」

「……天国の姉貴、ウチのトレーナーがかわいい」

「かわっ!? て、てかハヤヒデちゃん死んだみたいにしないであげてよ……今日話したし」

「なん、だと……?」

 

 そんな驚くことです?

 

「えっとクロネトレーナー、こちらの方は」

「あ、この四人ウチの子です」

 

 そう言うと、桐生院さんがなぜか眼を輝かせる。

 

「な、なんでしょうか……」

「もう四人も、チームを組んでいるなんてさすがですねクロネトレーナー!」

「あ、いやですね。わ、私はぁ……」

「今度じっくりお話聞かせてくださいね! それでは私はこれで!」

 

 両手で私の手を握ってそう言うと、名刺を渡してきた。

 受け取ると、ダッと音が出るぐらいの勢いで去っていく桐生院トレーナー。

 なんつー人でしょう。まるで嵐、ちゃっかり電話番号もらっちゃったし。

 

「……なんだったの?」

「ウチが聞きたいんやけど」

「ちゃっかりデートを取り付けるとは、桐生院、侮れないヤツ……」

「ブライアンェ……」

 

 てかさっきから黙ってるけどライス、なんか雰囲気怖いんですけど……。

 

「花京院さん……!」

「桐生院だよ」

 

 そんなんエメラルドスプラッシュじゃん。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 あれは、クロネくんか……。

 

 トレーニングコースの隣を歩く私の横にいる女性が、メモ帳に“ネタ”を見つけては書き込んで、カメラで写真を撮る。

 少しばかり迂闊だったが、ここで急いで動く方が怪しいだろう。

 マルゼンスキーに謝罪することになるかもしれない。

 

「今年はどの子がくるのかっ……楽しみですねルドルフさん!」

 

 ウマ娘に対しては無二無三。彼女ならば気づくかもしれない。

 

「ん~」

 

 乙名史悦子。

 月刊トゥインクルの記者であり、トレセン学園に顔パスで入ることすら可能なかなり希少なタイプの女性だ。

 それもその熱意と腕があればこそ、だが……。

 

「あれ、あの方……?」

「なんです?」

「……いえ、なんでも」

 

 クロネくんは運よくジャージ、他のウマ娘たちと同様に生徒に見える……だろうか、見えるはずだ。

 

「どこかで見た気が……」

 

 これは、マズイか? いやしかし彼女を見たことがあるとは、さすがと言わざるを……。

 

「ルドルフ~」

「マルゼンスキー」

 

 好機到来、このタイミングで来るとはさすがだ。

 少しばかり眼を細めて見られるが、いやはや面目ないな。

 

「こんにちはえっちゃん」

「マルゼンスキーさん!」

「実は、私の一推しの子がいて教えてあげようかなーって」

「本当ですか!? 素晴らしいですっ!」

 

 さすがの手腕、私としては―――。

 

「チヨちゃんって言ってね~」

「マルゼンスキーさん一押しなら期待大ですね!」

 

 残された私は、視線をクロネくんの方へと向ける。

 

 なぜか偶然目が合うので、私が軽く手を振れば―――彼女もまた、軽く手を振りかえす。

 マルゼンスキーは彼女こそがその“因子(ファクター)”だったと言った。

 今はもう辿りつけない、領域の……。

 

「……ゾッコンだな」

 

 少しばかり古臭い言い回しをしてしまうのも、致し方ないことだ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 タマモちゃんたちのトレーニングを終えた放課後。

 私は誰もいなくなった夜のトレーニングコースにブルボンを呼び出していた。

 他の三人も知らないことだけれど……。

 

「マスター、お待たせしました」

「うん、大丈夫……5分前、許容範囲内でしょ?」

 

 そう言うと、ブルボンも表情が少しばかり柔らかくなる。

 私はジャージ姿で、靴を“蹄鉄”が装着されたそれに変えていた。

 

「で、ごめん……言った通り、ブルボンは捨て役になってもらうことになる」

「理解しています。“限界まで”と」

「そういうこと、それでなんだけど……」

 

 作戦を説明する。

 

 話が進むにつれて、ブルボンの表情が僅かに曇っていく感じがして……いや、胸を痛める資格なんてあるわけもないんだけど。

 そして全部の説明を終えてから、そっと手を伸ばしてブルボンの頬を撫でる。

 サイボーグの異名も形無し、温かく柔らかな肌。

 

「……ブルボンのレースは、まだ先だよ」

「はい、理解しています。マスター」

 

 うん、良い顔してる。

 

 手を下ろして、私はつま先でターフを軽く蹴ってズレがないかを確認。

 軽く跳ねて自分の身体の調子も問題ないことをさらに確認。

 もう、大丈夫だ……。

 

「ってことで、走ろうか」

「ッ!? マスターと、ですか?」

「そ、前回で色々と思い出したこともあるからね。私の足がどの程度までならいけるかとか……だからさ」

 

 情けないことに現役の娘たちと、まともな距離を一緒に走るのは無理だろうけど……。

 

「付き合うよ」

 

 

 ―――1000メートルだけね。

 

 




あとがき

やっぱりシリアスとギャグ5:5は難しい
とりあえず次は時間が少々飛んでって感じでー

ギャグっぽいプロローグからそもそも曇る要素しかない面子となっております!
クロネも身元がばれたら曇る……何人かが

それでは新書突入の次回もお楽しみいただければー
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