ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々   作:樽薫る

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新章突入、この話以外は比較的明るめでいく所存です


第3章【はじめましてアンタレス!】
第15話【複雑そうだよウマ娘!】


 あれから数ヶ月が過ぎた―――8月末。

 

 タマちゃんが前を走り過ぎ、それに連なって数名のウマ娘。

 今回のレースは芝2000良バ場。

 15名のウマ娘が参加してるけど、タマちゃんは後方6番目。

 

「……」

 

 今回のレース、タマちゃんの勝ちだ。

 前半の走りを見ているだけで十分わかるぐらいに、タマちゃんの仕上がりは良い。

 

「でも、毎度は安定はしないんだよねぇ」

「バ群に飲まれるとだねぇ、それに食事の量も安定してない」

「タキオン……」

 

 アグネスタキオン、通称タキオン。ウマ娘について研究をしているウマ娘。

 先月、夏休み前に少しばかり関わり合いがあってそれから、ここ最近はずっといるのでチームメンバーみたいになってるけど……別にチームに加入申請をしたわけでもない。

 ルドルフも少しは気に掛けるぐらいには優秀らしいんだけど……いや科学者的な意味で?

 

「お茶でもどうだい?」

「なんか盛ってるからいらない」

「え~!?」

「絶対盛ってる……」

 

 今月初めに謎の薬を盛られたのを忘れない。おかげでその日は両足が謎の発光していた。

 タキオンを見れば、ニコニコしている。

 この顔……やってんな!

 

「盛るのは君の胸だけで十分だよ」

「盛らないでよ」

 

 タマちゃんの方を見れば、最終コーナーに差し掛かるところだ。

 そろそろだ……稲妻ステップってとこだね。

 タマモちゃんの表情が変わると、次の一歩が強く踏み込まれた。

 

 それと共に加速、団子状態になっているウマ娘たちの隙間を縫って―――端を取る。

 

「さすがだねぇ」

「うん、しばらくはこの感じでいければ安泰だけど……怖いのは事故だなぁ」

「ウマ娘にはつきものだねぇ」

 

 そりゃそうだ。

 

『強い! タマモクロス、余裕をもって今ゴール! 圧倒的でした!』

 

 問題なし、だと思う。

 来年のクラシックはいけるかな……いかせてあげたいなぁ。

 まぁその前に……弥生賞で様子見て、かな。

 

 弥生賞……皐月賞トライアル。

 

「……良い目をしてるねぇ。“あの日”と同じ目だ」

「え、死んだ目してるって?」

「言ってないんだけど、君は自己評価低いねぇ」

 

 妥当だと思うんですけど……あ、タマちゃん戻ってきた。

 

「おかえり、お疲れ」

「おう、ただいまやな……そういやタキオンもきとったな」

 

 そう言いながらタマちゃんはジト目でタキオンを見る。

 

「酷いじゃないかぁ、仲間だろぉ? ねぇモル、トレーナーくぅん」

「モルモットって言おうとした! ネズミ娘にされる!」

「猫娘とねずみ男の融合みたいなのきたなぁ」

 

 

 

 最近は、タマちゃんはレース後の疲労を見せるなんてことも少なくなってきてる。

 食事も前よりはだいぶ食べるようになってきたし、胃が多少なりとも広がってきてる証拠だ。

 トレーナーとしても、なかなかどうして安心できるようになってきてなによりだし、走る側としても自信がついてきと思う。

 

「GⅠかぁ……」

「お、いくかGⅠ!?」

「さすがにそのレベルは無理かな……ね、タキオン」

 

 帰路を行くタマちゃんと私……と私の背中に張り付いてるタキオン。なぜ……?

 

「目立つからやめてほしいんだけど」

「君が目立つのは今更だと思うね」

「身長高いしね」

「そっちじゃないよ」

 

 はて?

 まぁ今は人通りないから良いけどさぁ、大通りに出たら降りてよね。

 てか、帰り道に商店街あるからその前では絶対下ろす! 買い物よくするからそんなところで、担当ウマ娘じゃないけど担当ウマ娘に手を出してるとか噂が出たらろくでもないし!

 ただでさえ、最近はルドルフとかと話すこと多いからそこらのファン怖いし!

 

「タキオン、ウチのトレーナーやぞ」

「おや嫉妬かい?」

「しっ……い、いやそういうんやなくて」

「え~なら良いじゃないかぁ、ねぇトレーナーく~ん」

「ひゃっ、く、首かじんないでよっ」

 

 なに人の髪の毛かき分けて頭突っ込んでくれやがってんですか!

 

「天下の往来でなにやっとんねん!」

「えーじゃあこっちでー」

「んっ、み、耳やめっ」

「おいこらタキオン降りぃ!」

 

 人の背中乗っていたずらするとはふてぇやつじゃん!

 

「っ……落とすよ?」

「え~仕方がないなぁ、降りるよぉ」

 

 仕方がないことはないでしょ!

 

「でも真っ赤な顔で睨まれるのは嫌いじゃないね」

「……なんかタキオンも顔赤くあらへん?」

「気のせいじゃないかな?」

「……お前まさか!?」

「え~!? なんの話かな~!?」

 

 なんか楽しそうなので黙って歩いておく。

 ふと思い出して、最近買ったスラックスのポケットに手を突っ込む。

 中に入っている小袋につつまれたそれを三つ、取り出す。

 

「飴ちゃん舐める?」

「ポケットから飴が出てくるとはね」

「おばちゃんやん!」

「こんなピチピチギャル掴まえて酷い言いぐさ」

「マルゼンスキーやん!」

 

 センスが古いと言われた。間違いなく……。

 まぁ二人して口に放り込んだけど、でごみを私によこしたけど。

 タキオンはその甘さが気に入ったのかニコニコしながら歩き出す。

 

「タマちゃん、来年の夏休みからは合宿あるから……」

「わかっとる」

「楽しみだね、水着どうしようかな」

「遊びに行くんとちゃうねんぞ!?」

 

 わかってるわかってる。

 

「……その前にダイエットか」

「トレーナー君、相対的に見て太って無いとは思うけどねぇ、身長と肉の付き方、ウエストの比率を」

「冷静に診断しないでくださる!? デリカシーとかねぇ感じですか!?」

 

 そうして話をしていると、商店街にたどり着く。

 ここを抜けてもう少し歩けば、トレセン学園にたどり着くのでそこで解散になる。

 先ほどメッセージを送ったところ、まだ自主練中らしい……まぁトレーニングメニューは渡して置いたし問題もないでしょう。

 商店街を歩いていると、タマちゃんが声をかけられたようで精肉店へと向かう。

 さすがコミュ力の塊……。

 

「ん~」

 

 少しばかり猫背だったせいか、背を伸ばすと気持ちが良い。

 

「今日は走るのかい?」

「……今日はないかなぁ、明日はやると思うけど」

 

 そもそもタキオンと出会うきっかけとなったのは、夜のブルボンとの併走を見られたからだ。

 いや、併走と呼べるもんでもないけど、ただ“着いて来い”というだけの投げやりなものだし……。

 私の1000メートルしか持たない全力疾走の……。

 

「あの時の君は狂った目をしていて好きだったけどね、一目惚れと言うやつさ」

「誤解されそうなんでそういう物言いやめてよぉ」

「別に私は気にしないさ」

「私は気になるの……寿退社するんだから」

「できる予定が?」

「……ないです」

 

 はい、もちろんないです。男の人と喋ったっけ?

 どっかのトレーナーさんと話した記憶がないでもない。

 完全に詰んでるじゃないですかやだー!

 

「それに、なんていうのかな、彼をつくるとしても脚質があってないというか……」

「どゆこと!?」

「ん~先行より追い込みというか……」

「もっとわけわかんなくなった!」

 

 なぜだかタキオンは頭をひねる。

 ひねりたいのはこっちだよ!

 

「うあぁ~」

 

 タマちゃんの叫びが聞こえてそちらをむけば、ホクホクとした表情で、ホクホクの肉まんを持っていた。

 買ったのか……私の分は!?

 てか今月はクリークちゃんたちと海行ったから節約するとか言ってなかった?

 

「なんで買うてもうたん、ウチ……っ!」

 

 待ってくれれば買ってあげたのに……。

 

「美味い、美味い……っ」

「そ、そりゃ良かっ―――なに、タキオン」

 

 凄い服の袖引っ張ってくるんですけど。

 

「トレーナーくん! 私にはご褒美は?」

「ご褒美もなにもなくない!?」

「え~先払いだよぉ、今後色々私のお世話になると思うよ~?」

「もれなく私の背中のお世話になってましたね」

 

 ほら見ろ! 私が買う可能性があるせいでタマちゃんの顔が絶望みを帯びてる!

 

「……まぁおいしそうだし買うけど」

「なぁ!!?」

「タマちゃん、もうちょっと待ってくれれば……」

「なんでや!」

「じゃあタマちゃんにはもう一個買ってあげちゃう」

「!」

 

 パァッ、と表情が明るくなるタマちゃん。

 よく食べてくれるようでなによりだよ……大きくなれよ!

 

「すみません、肉まん六つおねがいします」

 

 店主の威勢のいい返事、私は小銭を取り出しておく。

 そうしていると、脇の下からタキオン。

 

「ここに二つあるじゃないか」

 

 なんだか妙に体が軽い、そして同時に下から持ち上げられる感覚……てかッ―――

 

「―――っ!!?」

「おお、この重量、弾力、やわらか―――ぶふぁっ!」

「こここっ! このばかちん!」

 

 何やってんだこのバカ!

 背後から私の胸を持ち上げるタキオンの頭が、丁度いい位置にあるんで肘打ちで反撃すると、タキオンは頭を押さえてうずくまる。

 まったく、頭良さげなふりしてバカ!

 ひひひ、人の胸をそ、そんな風に触って!

 

「痛いじゃないかぁ~」

「当然です」

 

 支払をして、紙袋を受け取る。

 それを抱えてタマちゃんの方へと向かいつつ、一つをタキオンに渡す。

 嬉しそうな顔でそれを受け取り、かじりつく。

 

「……ははっ」

「ん、なんだいトレーナーくん」

「なんでも」

 

 そう言いながら私も一つを取って、かじる。

 

「うまぁ」

「紙袋と肉まん、似合うなぁ」

「……太ってるって!?」

「いやなんつーか、うん……」

 

 そういうことでしょ!

 

「そうやなくてなんつーか、なぁ?」

「そうだねぇ、なんていうか、ねぇ……」

 

 なんだよぉ! もういいよ、肉まん食べるから!

 

 ―――うまっ!

 

 

 

 商店街を抜けてトレセン学園へと足を踏み入れる。

 外へ遊びに行く生徒たちと、すれ違ったりもあるものの……挨拶するってほどでもないなぁ。

 そもそも、私は仲良い生徒なんてウチの子たちと一部だけだし……。

 

「あ、クロネトレーナー」

「たづなさん」

「はい、たづなで、す……よ……」

 

 たづなさんと会ったけど、理事長はいないっぽい?

 てか様子おかしくないです?

 

「なんですかそれ……」

「むぐ……んぐ、なにがですか?

「に、肉まん食べながら、紙袋まで抱えちゃって……胸の下でっ」

 

 へ、なにが? てか胸押さえてなんなんです?

 

「過ぎますっ……!」

「どうした急に」

「侮っていたようです。クロネさんの……ポテンシャルを」

「なにが?」

 

 ほんと、なにが?

 

「わかってませんねクロネさん、自分のことが……」

「めっちゃわかってる方だと思うけど……」

「え~本気で言ってるのかい?」

 

 いや、自分のデータには不備がでないようにしてますよ私。

 最近だってちゃんと走って、体重とかにも気を遣って……すみません、肉まんで間食しました。

 でもまぁ、たづなさん変ですね……いつも通りか。

 

「それじゃこれで」

「今度飲みにいきましょうね、ホテルのバーにでも……」

 

 バーて、この陰の極み乙女に?

 

「ホテルのバーにでも」

「こんなとこで二回も言わないで! てかホテルもバーも私には無理です!」

「自宅が良いと!?」

「なにが!?」

 

 やらしいことにしか聞こえないんですが!?

 

「クロネ、いくで……あんま余計なことせんようにな」

 

 ―――なんで私が怒られんの!?

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ブルボン、ライスとの併走トレーニングを終えた。

 わざわざクロネが置いて行ったメニューを見れば、これで終わりのようだ。

 私としてはもう少し走っても良いんだが、ブルボンが限界か……。

 

「最近は、ブルボンは余裕をもったトレーニングをしてたが……」

「はい、今日はお二人と限界まで、のようです……」

 

 クロネの思考に何か変化があったか?

 

「あ、三人ともいた~」

「お姉さま!」

 

 戻ったか……タマモが勝ったとの連絡は受けたが……。

 

「えへへ、お土産あるよ~」

「ぐっ!」

 

 なんだ、紙袋抱えて歩いてくるあの姿はっ!

 タマモが食ってるのは、肉まんか!

 肉まん抱えて戻ってきたのか……!

 

「かわいいが過ぎるっ」

 

 思わず膝をついてしまうのも致し方ない。

 

「肉まんかってきた~」

「お姉さまの、肉まん……」

「ん? あ、うん、気にせずどうぞ」

「ありがとうございます、マスター」

 

 ライスとブルボンがそれを受け取ると、クロネが私の方へと近づいてくる。

 

「はい、ブライアンもっ」

「……ん」

 

 それを受け取って、立ち上がる。

 小首をかしげるクロネ……なんだ、かわいいか?

 相変わらずのドスケベボディをスーツが隠してくれない。いやむしろスーツのせいでさらに強まってるかもしれない……甘いものを入れて辛味をひきたてさせるのと同じ原理。

 まぁなにはともあれ……。

 

「んぐ、ほう……」

「おいし?」

 

 首をかしげつつ100点の笑顔。

 

「ん゛ん゛!」

「ブライアン!?」

 

 私の愛バがうまぴょい伝説……!

 

「どうしたのブライアン?」

「放っといたれ、病気やあれは」

「え、大丈夫なの!?」

「いやぁ~所謂恋の病じゃないかい?」

「え゛、私より先に彼氏作っちゃうのぉ、ブライアン……」

「クロネ、お前ほんま、ホンマ……あれやなぁ」

「アレってなに!?」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 夜、家に帰って着替えをして、冷蔵庫から缶チューハイを取り出す。

 夏休みもあと数日で終わり、九月へとさしかかる。

 タマちゃんも三人もかなり良い具合に仕上がってきて……心配は無理な長距離に出るブルボンぐらいだろうけど……。

 

 んぇ、着信? って……。

 

「もしもし」

『ハロハロー』

「……マルゼンスキー、ドライブ?」

『あたり前田のクラッカーよ』

 

 せっかく飲もうと思ったのにぃ……。

 私は足で冷蔵庫を開けて、チューハイを中に戻す。

 

「いまどこ?」

『ベランダ出てよ』

 

 まじか……。

 ベランダに出ると、3階下の道に真っ赤なカウンタック。

 そして、そんな車のボンネットによりかかる。ナウなヤング。

 

 っていうか、やりかたも古いな!

 

『待ってるわよ~』

「はいはい、着替えていくから」

『そのままでも良いわよ、お姫様?』

「絶対やだよ」

 

 そう言って、通話を切る。

 

 

 

 ―――景色が流れる。

 

 この極めて車高が低い車も、マルゼンスキーの運転もすっかり慣れたもんで、それほど思うこともない。

 やっぱり車買おうかなぐらいだなぁ。

 

 2時間ほど、他愛のない話をしながらドライブをしていた。

 

 海の傍を通って、今は帰り道。

 マルゼンスキーの顔を見れば、楽しそうだけど、どっか……。

 

「そういえばタマモちゃん、頑張ってるみたいね」

「んぁ、そだね……私の指導なんかでホント、よくやってくれてるよ」

「あの娘の努力もだけど、貴女の努力も実力も知ってる身としては当然なんだけどね」

 

 なんか褒められた。嬉しくなくはないけど。

 

「どしたの?」

「どうしたもこうしたもないわよ。他三人もかなり仕上がってきてるし……最近、走ってるんでしょ?」

「ブルボンに付き合ってるだけ、だよ?」

「そのための調整、前に私のせいにしたものね~?」

 

 う゛っ、それを言われると弱ぃ……。

 クスクス笑うマルゼンスキーだけど、すぐにその表情が変わる。

 その顔を知ってるから、私もなんだかナイーブになってしまう。

 

「なんで走ろうって思ったの、また……」

「別に、ただ……あの娘たちの、ために、練習だし……」

「私のときには、走れなかったのに?」

 

 それを言われると、弱いかもしれない……。

 確かに“あの時”走るのを諦めた。ハッキリとマルゼンスキーに言った。

 ていうか、練習はともかく、もうレースは走らないよ?

 

「自分の時も貴女の時も、メイクデビューの日のことを覚えてる」

「うん……」

「貴女が走ろうって言うからクラシック三冠だって、お堅いルールだって……」

 

 そうだったよね。

 

「貴女だけが、影を踏んでくれた」

「そうだよ。私は“マルゼンスキーの影”それでも良かった。楽しかったよ」

 

 マルゼンスキーの後ろを走るのは好きだった。

 負けるのだって、悔しいけれど……嫌いではなかった。

 でも“あの日”から、その“領域”にすら至ることができなくなっちゃった。

 

「でも、どうしたの、マルゼンスキー……なんで、そんな」

「……はぁ、ほんと、どうしちゃったのかしら」

 

 困ったように笑うマルゼンスキーはいつも通り。

 私が走りだしたということが、それほどマルゼンスキーに重要なのかな?

 いや、ルドルフやシービーちゃん、あそこの二人の方がよほどマルゼンスキーに迫るはずだ。

 

「まったく、おセンチはよくないわね~」

「私は年中センチメンタルだよ」

 

 最近は特に、だ……まぁ思い入れはあるしね。

 そのレースの度に思い出す光景はマルゼンスキーの背中と、極限の集中の中にいた自分。

 思わずため息が出そうになるも、それを呑みこむ。

 

「私ってさぁトレーナー、向いてる?」

「何度も言ってる気がするけど……貴女が、私をこんなにしたのよ?」

「なんかえっちぃ言い方しないで」

 

 そう言うと、マルゼンスキーは再びおかしそうに笑う。

 車は見慣れた道を行き、再び乗った時と同じ場所に止まる。

 いつも通り、自然な流れでシートベルトを外すと、マルゼンスキーも外していた。

 

「ん、ウチ寄ってくならちゃんと駐車場」

「クロネ……」

 

 突然、マルゼンスキーが助手席に身を乗り出す。

 顔が近づき、鼻と鼻がぶつかりそうな距離にマルゼンスキーの顔がある。

 お互いにそのまま、お互いの目を見つめ合う。

 

「……貴女にとって、私はなに?」

 

 逆に“マルちゃん”にとって私はなんだったんだろう……。

 

「マルゼンスキーはいつだって、マルゼンスキーだよ」

 

 私をその“領域”に連れて行ってくれて、自らの力で“領域”にたどり着いた最強のウマ娘。

 ミスターシービーもシンボリルドルフすらも、私にとっては2番目3番目。

 そうしてると、マルゼンスキーの瞳が揺れる。

 

 ……戻った?

 

「……ごめんね。今日ほんと、おかしいみたい」

 

 そう言って離れるマルゼンスキー。

 私は車のドアを開けて出ると、軽くかがんでマルゼンスキーの顔を見る。

 普通そうな笑顔に見えて、安心半分で軽く手を振った。

 

「それじゃあ、また明日ね」

「ええ、また明日」

 

 アパートの入り口に入って、エントランスのポストの前で、私は顔を俯かせる。

 

「顔、あつぅ……」

 

 あの至近距離にマルゼンスキー、さすがに照れる。

 しかも雰囲気がいつもと違ったし……。

 

 てか、そもそも良い顔は健康に悪いんだよね!

 

 ―――相変わらず、綺麗な顔してくれちゃって。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 クロネがアパートへと戻るのを見送ってから、私はハンドルに頭を預ける。

 なにをしてるのかしら、チョベリバ……。気分サゲサゲよ、せっかくのドライブだったのに……。

 悪いのは私って自覚はあるけれど、どうにもならなかったのはあの娘の最近の変わりようのせいもきっとあるんだから……。

 

 昔からそっちの方で人気あったけど、今また生徒の子たちからこんなモテちゃってるとはねぇ。

 

「というより……なんで私、イライラしてるのかしら」

 

 クロネが、本気で走って、担当ウマ娘たちをトレーニングして……。

 

 こんなこと本人には言えないし言いたくないし、なんでこんなこと思っちゃうのかもわからない。

 だから、静かに息を吐くように……言う。

 

「……私の知らないところで、勝手に走らないでよ」

 

 顔、熱つぅ……。

 

 バックミラー見ればやっぱり顔が赤くなってる。

 車の中で天井を見上げて、息を吸い込む。

 恥ずかしくて、いまにも叫び出しそう―――ていうか、叫ぶ!

 

「もぉ~! 私ったら!」

 

 ―――めんどくさい!

 

 

 




あとがき


最後にシリアス持ってくると前半の日常パート死んでる気がする
……分けた方が良かったかなと思わんでもない

前半はタキオン参戦ってことで、まぁこんな雰囲気だよって感じ

後半はマルゼンスキーとクロネ、だいぶシリアスな感じで
恋心とかそういうんじゃなくて純粋に複雑というかなんというか

それではまた次回もお楽しみいただければー
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