ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々 作:樽薫る
―――9月も半ば。
ちょっと前まで夏休みだったってのに、もうシルバーウィーク。
私が若いころはそんなこと言わなかった気がする……あ、若いころとか言っちゃった。
そんな思考になりながらも、パソコンを打ちながら顔をしかめる。
そらそうよ……。
セミの鳴き声は未だに響いてるし、日光はジリジリと気温を上げてきやがります。
ソファにいるタマちゃんもライスもタキオンもグロッキー。
逆になんで普通に座ってるのブライアンとブルボン……。
「暑い、暑すぎひんか……」
二台の扇風機が首を振る。
「しょうがなぃよ、エアコン……壊れちゃったし」
「なんでやねん! 時期考えんかい!」
「暑いんだから大きな声出さないでおくれよぉ~」
だらしないから、ソファで寝っころがるのをやめなさい! すみませんいつもの私です!
「修理は明日だしなぁ」
「おかしい、ウチはエアコンなんて無い生活を送ってたはずや……」
「え~風通しの問題じゃなぁい?」
ここには窓は一方向、家とはまた話が変わってくる。
しかしまぁ、それは置いといても死ぬ。少なからず扇風機二台で足りる人数でもない。
文字通りの死活問題に、私は時計を見てから―――勢いよく立ち上がる。
「っし、きた!」
「なにがや……って、透けてんで」
「へ……ッ!!?」
夏ってこれだから嫌いなんだよね! しかもこちとらワイシャツですよ!
私は反射的に胸を押さえる。
いや、別に気にする必要もないんだけどなんかねっ!
「黒……」
「お、おね、お姉さまのっ……」
「あかん、ブライアンとライスの二人の目がヤバなってきた」
「熱のせいだねぇ~」
どゆこと? まぁライスなんて特に目ぇぐるぐるしてる気もする。
そう言えばブルボンは?
「熱処理、エラー……」
ダメだ! とりあえず、私には秘策がある!
「私にいい考えがある!」
「ダメなパターンだねぇ」
「いやいや、枠をね……とってあるんだよね!」
ふふふ、伏して崇めよ!
「……スタミナトレーニング」
つぶやくように言うと、タマちゃんとタキオンがバッとこちらを見る。
普段であれば嫌だけども、学内となったら私だって多少は体型気にせずいけるし!
「そう……みんなでプールだよ!」
「なにをやってる行くぞ」
「お姉さま、早くいこ?」
即座に動くライスとブライアン。そうでしょう、行きたいでしょー。
てかブライアンも涼しい顔してたけど、暑いんじゃーん!
タマちゃんとタキオンの嬉しそうな顔、ふふふ私ったら有能がすぎる……。
「えへへ~それに~」
私はワイシャツのボタンを上から外していく。
「なぁっ、なにやむぐぅっ!」
「黙れタマモっ!」
「トレーナーくぅん!?」
「お・姉・さま! お・姉・さま!」
「エラー、バッドステータス『動悸』が発生」
下いくつかのボタンを残したまま、バッとシャツを広げる。
「中に水着を着てました~!」
さっき黒く透けてたのも競泳水着だから大丈夫!
……あれ、なぜに沈黙?
「ありがとう、ありがとう……」
「え、どしたのブライアン」
なんかタマモちゃんの口塞いでた。
「なんだろう、この……実にこう……」
「……ステータス『不明』が発生中」
タキオン、なんかぽけーっとしてるし、ブルボンは胸に手を当てて斜め45度向いてる。
ライスは……。
「……エッッッ」
「ライスぅ!?」
ライスが鼻血を流していた。私のライスは鼻血を出してもかわいい!
急いで近づいて、ティッシュでその鼻を拭く。
えっと、あとは詰めなきゃ……。
「暑いせいかなぁ?」
「おね、お姉さまのっ……」
なんか視線凄い顔の下な気がするけど、ライスに限ってそれはないよね!
水着か! 早くプールに行きたいのか!?
「はやくプールいこうね~」
「う、うん……たの、しみ……」
「だぁっ! 暑いっちゅーねん!」
ブライアンを跳ね退けたタマちゃんが、肩で息をしながら私たちの方を向く。
てかブライアンはね退けるとかパワー上がったねぇ。
「この性癖の破壊者が!」
「なんか怒られてる!?」
「怒りもするわ!」
「世界の破壊者だってトレーナーくん」
「ディケイドか!」
相変わらず冴えわたってるけど……。
「タマちゃん、あんまヒートアップすると倒れちゃうよ?」
「誰のせいや!?」
「え~、私のせい?」
「クロネの性だな」
「誰が上手いこと言え言うた! 上手いこと言うたんかも怪しいわ!」
とりあえず早くプール行こうよ~。
―――というわけで、やってまいりました室内プール!
涼しぃ~もう入らなくても涼しい!
私は中に水着を着てたので、ぱぱっと脱いでパーカー羽織ってポニーテールにして先にやってきた。
私が予約取ったレーン以外にも、ウマ娘やトレーナーたちも結構いて……案外トレーニングってより市民プールばりに楽しんじゃってる娘も多いみたいだ。よし、私は間違ってない!
……今更だけど、久々すぎて水着恥ずかしいな。
「く、クロネトレーナー……」
「へっ! は、はい! ……ってなんだ理子ちゃ、じゃなくて……樫本先輩かぁ」
びっくりしたぁ。
理子ちゃんトレーナー、じゃなくて樫本先輩はスーツ姿。
そりゃトレーナーは基本そうだよね。担当ウマ娘が泳げなかったりすると、危ないから担当トレーナーも水着で来たりするけど……。
いやでも周りの一緒に入ってるトレーナー絶対涼んでるよ!
「ど、どうして、水着……?」
「あ~えっと……あ、暑いからつぃ……」
他にも涼んで遊んでるウマ娘いるしセーフセーフ!
なるほど、と頷く樫本先輩。理解していただいたようでなによりっす……てか視線感じるなぁ、やっぱ涼むの前提できてるのバレてる!?
なんかウマ娘二人近づいてきてるんですけど!?
「樫本トレーナー、そちらは……」
「あっ、ココン! あの噂のウマ娘の」
あれ、樫本トレーナーってことはこの二人。
「クロネトレーナーは初めてですね。私が担当しているリトルココンとビターグラッセです」
二人のウマ娘が軽く会釈してくるので、私も会釈する。
「ど、どうも……」
くそっ、人見知りなのがばれてしまうっ!
樫本トレーナーのウマ娘にそう思われるのはなんかやだ!
てか、目が合わないなぁリトルココンとビターグラッセ……助かるけど。
「その……く、クロネトレーナーの水着なんて久しぶり、ですね」
「へ?」
い、いやまぁ樫本先輩が見るの久しぶりだと思うけど……そ、そう言われると、なんか恥ずかしぃな……。
「あ、あはは、そりゃそうだよ。私も最後に水着を着たなんて、ここに、いた時だし……」
「お姉さま!」
「あ、ライス」
軽く駆けてやってくるライスが私の腕を取る。
「えっと、樫本先輩……」
「い、いえ構いません、リトルココン、ビターグラッセ、行きましょう」
「あ、はい! 行こうココン!」
「あ、うん……」
リトルココンちゃんが私の方を一瞬見て……あれ、睨まれた?
まぁともかく、樫本先輩と二人のウマ娘はそれだけで去っていく。
私そしても慣れない相手と喋るの苦手だから、別に良いんだけど……いや樫本先輩の担当だし話せるようにはしといたほうが良いよねぇ。
考えてると、腕が引かれる。
「んぁ、ごめんごめん……他のみんなも来たね」
トレーニング用の水着に着替えているタマちゃんたち。
うわぁ、天国に来たって顔してるし……。
「お姉さま、パーカー……」
「あ、うん……」
ヤバい、ライスの顔が真っ赤だ!
「たたた、タマちゃん! ライスが熱中症になっちゃう!」
「いやちゃうぞ」
こんな真っ赤なのに!?
「水着パーカーって、いいな……」
「いい……」
ブライアンとタキオンがなんか深々頷いているし……ブルボンは大丈夫?
「心音の安定性にエラー……」
「じゅ、重症……」
「ええから入るぞ、暑ぅてしゃーないわ」
そう言いながらタマちゃんがプールに入ると、次いでブライアンとタキオン、ライスもブルボンもプールに……。
うわぁ、涼しそ~。
一応トレーニングってテイを取ろうとも思ったんだけど、他の娘たち遊んでるし良いかぁ~。
「ちょっとだけ……」
プールサイドに腰を下ろしつつ、脚をプールの中に入れる。
「あぁ~この感じ懐かしぃ~」
両足だけをプールに入れてぱちゃぱちゃと上下させてなんとなく、あの頃を思い出す。
故障した後のリハビリにもよく使われてたよねぇ、プール。
そうしていると、ライスが近づいてくる。
「お、お姉さまは、はっ、入らないの……!?」
「いつになく圧強いなライス」
タマちゃんの言うとおりだ、どしたんだろ?
うーん、パーカーだしなぁていうか私、泳ぐの苦手なんだよねぇ、別に無理ではないけど……。
あの頃は、マルゼンスキーとかに手、引いてもらったりもしたなぁ。
「……じゃあ、ちょっとだけ」
「お姉さま!」
パァッと顔が明るくなるライス。
もぉ~かわいい義妹だなぁ!
私はパーカーのファスナーに手をかける。
「ぐっ、さっき以上の破壊力……!」
「まるで実験の結果を心待ちにする気分だよ……!」
ブライアンとタキオン楽しそうだなぁ……。
ライスの方を見ると、ジーッとこっちを見てる。早く泳ぎたいのかぁ。
まったくライスはしょうがないなぁ~!
「っと……」
パーカーのファスナーを下まで下ろす。
「エンッ!」
「タキオンが直嗅ぎしてはいけない薬品を直嗅ぎしたみたいになったぞ!」
「プールサイドで大人しくしとれ変態」
「ぐっ、私も普段から凝視していなければ即死だった……」
「ド変態が」
なんか楽しそうにしてるけど、まぁいいか……。
てかパーカーどうしようかなぁ。
「私が預かっておきますよ」
「どうもって、たづなさん……?」
なんで?
「良いですから、どうぞどうぞ」
「え、あ、どうも……」
良くわからないけども、まぁ助かるので軽く会釈してパーカーを脱いでたづなさんに預ける。
うわぁ、なんか久しぶりな感じするなぁ……って樫本先輩と目ぇ合っちゃった。
……手ぇ振ってみよ。
「っ……!」
あれ、目逸らされちゃった……まぁトレーニング中だししょうがないか。
手で軽く水を掬い取って、体にかけてみる。
冷たいプールの水が、首元から体を流れ落ちる感覚……。
「ふぅ、よし……」
入るか!
◆◇◆◇◆◇
私、ナリタブライアンはエアコンに感謝している。そう思わざるを得ない。
クロネは相変わらず……いや、いつにも増してすさまじい威力だ。なんだあの胸が張ったパーカーは! しかもなんだあの脱ぎ方、ファスナーが下ろされると共に……ぐっ!
どたぷんだった。効果音はそれ以外にはありえない。異論は認める。
タキオンはダウン、ライスはもはや他人の声など聞こえない状態……。
「タマモ……私も限界かもしれん」
「……」
「……タマモ?」
「えっ!? ななな、なんやっ!?」
さすがにタマモもダメか、ブルボンは……。
「深刻なエラーが発生しました」
ダメだな。
「っ……冷たぁ~」
プールに浸かるクロネ。
プールサイドに片手をかけて、冷たさに少し震えているがずいぶん気持ちよさそうにしている。
ふぅ、これで多少は場がまともになるだろう。たぶんだが……いや、もっと見れるならそれはそれで良い……。
しかし、頭が冷えてきたな。
タマモは洗脳を振り払うが如くなにかブツブツと口にしている。
「ウチはノーマルや、アイツはトレーナー、胸がどうしたウチにもあるやろ」
「いや、ないだろ」
「うっさいわボケ!」
ガラ悪いな。
「ふふふ、ブルボン~冷却進んでる~?」
「外部の冷却は順調ですが、内部が……熱い」
「えっ、大丈夫!?」
暑いじゃなくて熱いだな。ブルボンそれにしてもどうした。
ここ二ヶ月ほど、クロネに対してもだいぶ態度が柔らかいというか、なんというか……そういう感じじゃないはずだ。ないと言ってくれ。
駿川たづなは未だにプールサイドでニコニコ立っている。仕事しろ。
「私、泳ぐの苦手なんだよねぇ……三年通ってようやくまともに一人で泳げるようになったんだよ」
「意外やな、浮くもんやと思ったけど」
「浮くんだけど、それでバランス崩すっていうか」
「あ~そらそうやな」
「おっぱい見ながら言わないでよ」
私が見ていたらこう、もっとなにか言われるというのに、なぜだ……。
「ライスは泳げる?」
「う、浮いてるよお姉さま!」
「かわいいかよ~」
楽しそうなクロネがライスに抱き着く。
お前も十二分にかわいい。それとエロい!
「ブライアン、顔はそのままやけど思考はわかるぞ」
「ド変態が」
「お前が言うなや!?」
くっ、ライスめ抱き着かれて顔を真っ赤にして……私は一度もないぞ!
「おねっ、お姉さまっ……ら、ライス、だめっ、お、溺れる! 欲に!」
「今ウマいこと言った!」
「言うとる場合かブライアン! おいクロネ、ライス離さんかぃ!」
「ええ~」
ライスが離れて、プールを仕切るコースロープに手をかける。
「プロレスで極められた時みたいだな」
「関節技をされた時は有効です」
「ブルボン、帰ってきたか」
「のんきか! あ、いやのんきでええんかこの場合……んん?」
タマモも暑さのせいかバグってきたな。
「私の妹が~」
まぁクロネ、お前のためだがな……ライスが暴走など目も当てられん。
いや、さすがにライスに押さえこまれたりはしないか、しないはずだな?
「え、どしたのブライアン?」
「いや、なんでもない……」
うなじ、いいな。
「あっ、ポニーテール新鮮?」
そう言いながらプールに浸かったままくるっと回って見せる。
フッ、周りの目がなかったら噛みついているところだったな……!
「ぶ、ブライアン、目が怖いよ?」
「……かわいいぞ」
「うっ、あ、えっと……あ、ありがとっ」
なんだ赤い顔して、可愛いか! かわいいなのか!
「トレーナーくん、すさまじい威力じゃないかぁ……」
「タキオン……」
生きていたのか……。
ライスと同じく、タキオンもコースロープを掴んで浮いた。
今日が大事なトレーニングの日なら終わっていたな……恐ろしきは我がトレーナーか……ん、あそこの影にいるのはエアグルーヴ?
なにか見ているのか……クロネか? いや、まさかな。
「少し、頭を冷やすか」
プールを出て、近くに腰を据える。
そうしていると、隣にブルボンとタキオンも座った……そうだな、私達にはまだ慣れが足りない。
特にタキオンはわりと最近なので、アレは大変心臓に悪いだろう……いや待てコイツ。
「ん、タキオンお前……まさかクロネの」
「え~!? なにがだい!?」
「ダメだな」
完全にダメだった。
ライスとタマモの二人と楽しそうにしているクロネを見る。
ほぼ首から上しか……ぐっ、たまに浮いてくるなっ!
「多数の特異点から生まれるロシュ限界は、万物悉く原子の塵へと化す……シュヴァルツシルト半径に陥れば、光であっても逃れる事はできない……」
「思考の冷却、コンディションイエロー……」
やはり、私はまともなんじゃないか?
タマモは私をおかしいと言うがそんなはずは……。
「あれ、ブライアンたち、休憩~?」
テンションがいつもより高いな、ふっ……かわいい。
そして駿川たづな、ずっとそこにいるが仕事はいいのか。
「ん~私もちょっと出ようかな~」
そんな風に言うクロネが、プールサイドに手をかけた。
「っと!」
ザバァッ、と音を立ててプールから上がるクロネ。
その凄まじさと言えば、最終コーナーから大差で勝利するような……く、例えが上手くいかん!
なにはともあれ、衝撃的だった……。
「エンッ!」
「深刻なえ、え、、エッッッ」
タキオン、ブルボン。私もすぐに逝く……。
「へっ!? どどど、どしたの!?」
最後に私の視界にチラッとエアグルーヴが映った気がした。
◆◇◆◇◆◇
ブライアンたちがなんか知らないけど、重症だとタマちゃんが言ってた。
まぁ5分もすればすぐに戻ってきて一緒にプールで遊んだけど……今度はちゃんとしたプールに連れてってあげよう、そうしよう。
そろそろ、取ってた時間も終わりだし全員でプールに出る。
私が一番にプールを上がった。たづなさんずっと私のパーカー持ってたな……。
「尻もすごいな」
「太腿もだねえ」
はいはい、ドスコイボディですがなにか!?
「……」
「睨むなかわいい」
「かわっ!? ぶぶぶ、ブライアン! トレーナーをからかわないっ!」
まったくコイツ!
てか、うぅ~やっぱダイエット、いや別に不規則な生活送ってるわけじゃ……いや送ってるけど。
上がってから、自分のお腹を触ってみるけど、出てないよね……?
「いや太ってへんから安心せぇ、健康的やろ」
「健康的って……え、どっち?」
「今更クロネ相手に遠慮せんわ」
……確かに。
ってことは太ってないのでは!?
じゃあせっかくだし、今日ラーメン食べに行こ~!
マルゼンスキーでも誘ってみようかなぁ。
「太るで」
「えっ!?」
「ラーメンの顔しとった」
え~!
「むぅ……あっ!」
やばい。これはヤバい。
「どうしたんだいトレーナーくぅん?」
「マスター、トラブルですか?」
「お姉さま?」
「クロネトレーナー?」
相当焦ってる……と、思う。てか、顔に出てるのかみんなが私を見る。
おおお、落ち着け! 落ち着けないけど!
「みんな、落ち着いて聞いてほしい……」
「な、なんや?」
―――下着忘れた!
あとがき
毎日更新してたから二日してないだけで久々感
まるで文章書いてなかったから大丈夫か心配
とりあえず水着回……たぶん一年に一回はあるやつ
次回もまったり回で行く予定っす
毎度、感想ここすき誤字報告ありがとうございますー
モチベーションにもつながって助かります!
それでは次回もお楽しみいただければー