ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々   作:樽薫る

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第19話【エラーが顕著なブルボンさん!】

 シルバーウィーク最終日、正午前。

 

 私、ミホノブルボンはマスターの付き添いでトレセン学園から出て河川敷を走っています。

 ジャージを着て走る私の後ろを自転車で追走するのは、同じくジャージのマスター。

 走ればいいとは思うのですが、マスターにも事情があることを今の私は知っています。

 

「……しかし」

「え、ブルボンなにか言った?」

 

 自然に口から言葉が出ていたようです。マスターにいらぬ心配をかけてしまっては私としても不本意。

 自転車を少し早めにこいで、隣につけるマスターが、心配そうに私を見ています。

 風によって、マスターの前髪が揺れて、時たまその瞳が見える。

 

「いえ、なにもありません」

「そっか、なにかあったら声かけてね」

「了解しました」

 

 目標、クラシック三冠。

 他のトレーナーの方々は無理だと言いました。脚質が合っていないと……。

 それでもマスターは、私を『導く』と言ってくれました。

 

「……」

 

 最近は“私用”の特訓もしてくれています。スピード、ペース配分、長距離用のスタミナ管理等、大雑把な性格に見えますがことトレーニングとなると、マスターはかなり細部まで考え込んでメニューを作っているようで、さすが経験者ということを感じさせられます。

 それに私はまだ……当時はおろか、現在のマスターすら“スピードでは”超えることができていません。

 ですが勝つ負けるというより、不思議なことに私は―――マスターとただ走りたい。そう思っています。

 

「……マスター」

「ん、なに?」

 

 今度はしっかりと、言葉に……。

 

「今日も、走ってくれますか?」

「……うん、いいよ」

 

 そう返答するマスターは、どこか嬉しそうで、どこか寂しそうにも見えます。

 走るのが好きなのは知っています。でなければ“アレ”は嘘でしょう。

 たった1000メートルでも十分わかることです。

 

「マスターは、速い」

「どーせ1000メートルしか付き合えないし、重賞も獲ってないし……ジュニア級の時は頑張ってたけど」

 

 それだけ……とマスターは言います。いつも自らを過小評価していますが、なぜでしょう?

 

「不完全で不格好な、そんな領域の走りだよ……」

「ですが私はマスターを追い越せません」

 

 向かいからやってくるトレセンの生徒とすれ違うために、マスターは下がりました。

 

「おはようございます!」

「おはようございます」

 

 すれ違いざまに挨拶をされたので私も返します。マスターも後ろで小声で返したようですが……。

 時間にズレが生じているようです。少しばかり加速しましょう。

 それを察してか、マスターも自転車を漕ぐ速度を上げました。

 

「……私は」

「ん?」

「1000メートル以内に、マスターを追い越します。それをサブミッションとします」

 

 そう言うと、マスターは少し驚いたような表情を浮かべた。

 

「サブミッション……関節技のこと?」

「エラー、マスターの思考が読めません」

「いや冗談だよ?」

 

 本当でしょうか、マスターは天然なところがあると統計があります。

 

「ほんと冗談だからね!?」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ブルボンの持久力のトレーニングを終えて、二人で学園へと戻った。

 軽くシャワーを浴びたブルボンがトレーナー室へと戻ってくると、私はソファに座るブルボンへと飲み物を渡した。

 二人だけのトレーナー室、今日の私はブルボンにつきっきりの予定だ。

 

「ありがとうございます。マスター」

 

 最初のころと比べると、ずいぶん態度も表情も柔らかくなった気がする。

 タマちゃんともブライアンともタキオンとも仲良くしている。特にライスとは仲が良いみたい。

 ちゃんとウチのチームで仲良くやってるようでお姉さんは満足だよ。

 

「ふぅ……この後は」

「お昼だよ~その前になんかする?」

「……充電を」

「へ?」

 

 ……へ?

 

「冗談です」

「わかりにくい!」

 

 ボケにしたって弱い! くっ、ちょっと赤くなってるかわいいな!

 

「すみません、まだ慣れが……ゴールドシップさんに享受を」

「変なもの啓蒙しないでいいから!」

 

 私はブルボンの隣に座る。

 と・り・あ・え・ず! だよ!

 

「はい、ブルボン!」

「……これは?」

「お弁当」

 

 そう、お弁当でございます。お弁当箱は大きめでお送りしております。そりゃそうだウマ娘だもの。

 ちなみにタキオンに渡すのは明日なんだけど、今日は試作を作ってみたというわけです。

 なんでこんな気合い入れてるんだろうか……いやまぁでも、ブルボンなら正確な評価くれそうだしね。

 

「ってことで、どうかな」

「私に、ですか?」

「そうそう……あっ、予定入れてる!?」

 

 お昼約束してたりしたらそういえばダメだよね!?

 しまったまったく考えてなかった。一日一緒にいるからといって!

 

「あぅ、ご、ごめんね。急だったよね」

「いえ、驚いていますが……」

「が?」

「……幸福度の数値が上がっているのを感じます」

 

 え、喜んでくれてるってことでよろしいので?

 

「た、食べて、くれる……?」

「はい、是非」

「よかったぁ」

 

 友達いないから距離感間違えたかと思った。というかトレーナーと担当ウマ娘だけど……しかしまぁ、この関係をなんていうのが正しいかなんてわかんないよね。それ以上でも以下でもない。

 たまにトレーナーとウマ娘で付き合って結婚なんてこともあるけど、私は女だし……。

 まぁなにはともあれ、仲良くやれてると思う……私の現役時代のトレーナーとよりは。

 

 差し出したお弁当箱を、ブルボンは受け取る。ついでに割り箸を取り出すとそれも。

 そして、ブルボンがお弁当箱を開ける。

 

「……」

「どう?」

「懐かしいと、思います」

 

 ブルボンのリアクションは薄いながらも、我ながら色合いが良いお弁当箱ができたと思う……。

 ふふふ、どうすりゃいいかわからなくて結局お母さんにどういう感じで作るのが良いか、聞いたからね……今時の冷凍食品と私の手料理のハーモニーに浸るが良い! ああいやすみません、別になんでもない弁当ってことです。はい。

 にしてもブルボン、止まってますね。

 

「えっと、大丈夫?」

「はい……なぜだか、幼いころを思い出して……」

 

 そりゃそうだよね。母親譲りだし。

 

「いただきます」

「うんっ、召し上がれ……」

 

 そう言うと、ブルボンは割り箸を割ってお弁当の中の―――卵焼きから食べる。

 私でもたぶんもらったらそこから行くなぁ……。

 緊張してきた。ライスとはまた違った緊張感……!

 

「……おいしい」

「え、ほんと!? よかったぁ」

 

 ライスはおいしいと言ってくれたけど、ブルボンの口にもあったらしい。

 まぁ卵焼きを不味く作る方が難しいけど……。

 あとは適当な肉の炒め物と、ポテトサラダ、朝作るとなればねぇ。ていうか私、一体どういうペースでお弁当作れば良いんだろう……毎日ではないよね? でもタキオン、食事とか適当そうだしなぁ。仲良い子、カフェちゃんになんか聞いてみるかぁ。

 とりあえず、私も自分の分のお弁当箱を開ける。

 

「胸が、温かい……」

「へ?」

「マスター」

 

 その瞳が、じっと私を見つめる。妙な緊張感が私を貫く。

 

「は、はい……」

「なにか、特別なことを?」

「う、ううん普通に料理した、だけだけど……」

「とても、おいしい……です」

 

 え、なにそれめっちゃ嬉しいんですけど……ですけど、見すぎじゃない!?

 ブルボンは変わらずジッと私を見つめる。どうしようかと視線を左右に泳がせるけれど、どうしていいかわからない。人との付き合いが悪かったツケが回ってきたというかなんというか、いやちゃんと他人と付き合いがあってもこの対処法なくない!?

 どうすれば、良いんだろ。あ、そうだ。

 

「あ、あ~ん」

 

 卵焼きを取ってブルボンの前に出す。

 

「……はむ」

 

 可愛く、ブルボンが私の取った卵焼きを口に入れる。

 もぐもぐと、サイボーグの異名はどこへやら味わうブルボン。

 

「おいし?」

「はい……なぜか、先ほどよりも」

「かわいいこと言っちゃって~」

 

 天然なんだから~。

 ブルボンは箸を動かし始めて食事を始める。

 私も同じく食事を始めようとしたその時―――。

 

「おっはー! お疲れサマンサ♪」

 

 誰かなんて考えるまでもない気が……。

 チラリと視線を向けるとそこには、マルゼンスキー。

 ビニール袋片手にピースしながら入ってくる。

 

「どしたの?」

「お昼一緒に食べようと思って、ブルボンちゃんもいたのね~」

「おはようございます」

「あら、お弁当……クロネの?」

「そうそう」

 

 マルゼンスキーが私のお弁当を見るのは、別に初めてじゃない。

 学生時代は自分で作ることもあったから……。

 

「卵焼きちょうだーい」

「も~はい」

 

 私が箸で卵焼きを掴んでマルゼンスキーに差し出すと、秒でそれを口に入れる。

 

「おいし?」

「うん、懐かしい」

「懐かしいって……おいしいの?」

「もちのロンよ」

 

 まぁなら良いけど、マルゼンスキーにこうしてあげるのも久しぶりな感じ。さすがにマルゼンスキー相手だと、私も少し思うところがある……。

 対面に座るマルゼンスキーがビニール袋からパンを出して食べだす。

 すると横から、二の腕あたりの服を引かれる。

 

「ん?」

「マスター……あーん」

「……へ!?」

 

 卵焼きを掴んだ箸が目の前に差し出される。

 いやブルボン、それ私が作ったヤツだし、とも思うけど……これを拒否るのもなぁ。

 

「あむっ」

 

 差し出されたそれを食べると、ブルボンは頷いて自分の食事を再開。

 ……どゆこと? ブルボンさん?

 

「えっと……」

「あら~」

「なに笑ってんのさ」

「なんでも……かわいいんだから」

 

 クスクス笑うマルゼンスキーを少し睨んで、私は食事を始める。

 うん、普通に美味しいと思う。

 これならタキオンにあげても問題ないはず。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ウチ、タマモクロスは食堂で大きくため息をつく。

 向かいに座っとるシチーは、驚いた顔でウチを見とる。

 テーブルの上には何も乗っとらん皿……。

 

「食ったったで……」

「タマモ先輩、そんな食べるキャラでしたっけ?」

「それでも普通ぐらいだけどねぇ~シチーくんぐらいしか食べてない」

 

 うっさいわタキオン、頑張った方やろ!

 

「クロネ先輩も言ってたけど、無理していきなり食べない方が良いって―――」

 

 ちょい待て聞き捨てならんことがあったぞ!

 タキオンも笑顔のまま固まっとるし……。

 

「シチー、いつからクロネのこと先輩なんて言うように」

「え、昨日の夕方ぐらいに軽く話して……OGだしそれで?」

「……大丈夫やな?」

「なにが?」

 

 あっけからんと言うシチーは、信用できる。

 ふぅ、また余計なボケが増えるとこやった……ボケとツッコミの比率おかしないか!? トレセン学園はNGKとちゃうねんぞ!?

 というよりボケが独特すぎんねん!

 

「でもシチー、危ない言うたやんけ」

「え、なにが? クロネ先輩別に普通……ではないけど、そんな危険じゃ」

「中毒性ある言うたやろ?」

「……え、冗談じゃなかったんですか?」

 

 んなわきゃないやろ! 冗談言うにしたってもうちょっとおもろいこと言うわ!

 

「タキオンみたいになんで」

「え、どゆこと?」

「えー! 酷いじゃないかタマモ君ー!」

 

 どこがや、最近おかしくなってきとるし……いやタキオンは元々おかしいけどな。文句垂れてくるけどウチは折れへんぞ!

 ……まぁクロネが悪いとこもあると思うんやけども。

 

「タマ、なんの話ししてるんだ?」

「オグリ!? ややこしなるわ!」

 

 見慣れた芦毛がウチの横に来る。ウチの言うことが一ミリも通じてへんのか首を傾げおった。

 

「……シチー、タマはなにを言ってるんだ?」

「それはその……タマモ先輩?」

「あ~クロネが悪いってことやクロネが」

「クロネか」

 

 なんか知らんけど、いつの間にか仲良うなっとったなぁクロネとオグリ。

 

「オグリ、なんかあったか?」

「ん、なにがだ?」

 

 見るだけで胸やけしそうな量のコロッケが乗ったおぼんを置いて、オグリはウチの方を向く。

 まぁ主語が抜けてたからウチが悪いか……。

 オグリに限ってクロネとなにかあるとも思わんけど。

 

「クロネと仲良くやってるみたいやから、きっかけとかあったんかなってなぁ」

「秘密だ」

 

 ―――なんやて?

 

「クロネにも秘密にしろと耳にイカができるぐらい言われた」

「タコじゃなくて?」

 

 いやいやそこやなくて!

 

「なにがあった!?」

「……秘密だ」

「えー! オグリ君、教えておくれよー!」

「耳にダイオウイカだ」

「意味わからんわ!」

 

 タコがイカでダイオウイカ、これ以上は原型がなくなんで!

 

「マッコウクジラにはすこぶる弱い」

「そんな話ししてへんわ!」

 

 一体、一体なにやってくれたんやクロネぇ!

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ふぁ……しゅっ……!」

 

 ふぃ~誰か噂してるなぁ!

 

「マスター、いまのは?」

「うっ、くしゃみです」

 

 変だと思ってるんでしょ……そうでしょうね!

 マルゼンスキーの方を見るとクスクス笑っている。昔からこうだって知ってる癖に、まぁマルゼンスキーの前では久しぶりだけどさ。

 くっそぉ、バカにして!

 ティッシュを取って鼻をかむ。

 

「ん~、眠たくなってきた」

「寝ちゃえば? このあとのブルボンちゃんのトレーニングは?」

「夜までは休息です」

「ふぅん、走るんだ……」

 

 うっ……。

 

「うん……えっと」

「そう……どうブルボンちゃん、クロネは?」

「どう、とは?」

「かっ飛ばしてる?」

 

 今の私の走りを知らないから、そう言うんだろうと思う。ある程度は予測してるんだろうけど……。

 

「はい、マスターに前を走らせないことが私のサブミッションです」

「へぇ~……ずいぶんイケイケみたいじゃない?」

「あの頃と、マルゼンスキーの影だった頃よりも遅いよ」

 

 マルゼンスキーの影を踏むことしかできなかったあの頃……。

 

「ていうかまだ、“ああ”なるの?」

「へ、ああって?」

「あ~そうよね。自分じゃ自分はわからないわよねぇ~」

 

 ちょっと何言ってるかわからないですね。

 

「……おそらく、マルゼンスキーさんの言っている通りになります」

「やっぱり~?」

「なになに、なんなの!?」

「え~……ねぇ?」

「はい」

 

 ―――なんか腑に落ちないんですけど……!

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 父と私の夢、あの日見たレース。目指すべきは三冠、そのために―――超えるべきは……。

 

 夜、全力の疾走。

 ためも必要がないほどの距離。息も入れずに走って最高速度をキープし続ける。

 しかし、それでも……。

 

「ッ……」

 

 自分を“影”と言っていましたが……そもそも“彼女の影”は誰も踏み込めなかった領域。

 

「ッッ!!」

 

 さらなる加速、近づくのは彼女の背中……いえ、彼女は既に止まっています。

 すでに1000メートル、立ち止まった彼女の隣を追い越し、私は走る。

 

 ―――走り続ける。

 

 

 

 2000メートルの地点から、指示通りに徐々に走りを緩めて止まります。

 そうしていると、彼女―――マスターが軽く駆けてきました。

 息を整え、マスターの方へと。

 

「おつかれ、とりあえず……」

 

 そう言ってバインダーに挟んだ資料に目を通すマスター。

 私と違って息を整えたのか息は途切れてませんが、その額には汗が流れています。

 ジャージのファスナーを胸元ほどまで下げて、暑そうに中の体操着の襟元をハタハタと伸ばして……。

 ……エラー。

 

「ラップタイムはかなり上がってるね。当然だけど併走トレーニングの方が効率よさそうだし速度も出るか……ブルボンは、ブルボン?」

「はい、マスター」

「顔妙に赤いけど、体調悪かったりする?」

 

 心配そうに私の顔を覗き込むマスター。

 しかし、この動悸は……。

 

「いえ、問題はないように思います」

 

 問題はありますが、報告の必要性は無いと……なぜか判断しました。

 

「そう……なにかあったらすぐ言ってね?」

「はい」

 

 自分でもわかるぐらい、最近の私は……変わった気がします。曖昧さというものを受け入れ、妥協する。マスターを見ていてそれでも良いかと思うことも増えました。

 タマモさんにそれを言えば『ほどほどにな』とも言われましたが……。

 

「えっとね……あっつい!」

 

 なにか言おうとして、マスターはさらにファスナーを胸の下ほどまで下げました。

 ッ……熱処理に致命的なエ、エラー。

 

「ふぅ、えっとね……ってブルボン?」

 

 再び、マスターが私の顔を覗き込み―――思わず半歩下がりますが、すぐに通常通りの直立をキープ。

 

「珍しい反応だ。てか大丈夫ほんと……水飲も?」

「私もそれを推奨します」

 

 マスターと共に、近くに置いた荷物の場所まで移動。

 地面に置いたバッグからマスターが腰を曲げて水を……。

 

「……」

「なんですかその尻は?」

 

 ッ!?

 

「ひゅえっ!? たたた、たづなさん!?」」

 

 駿川たづなさんが、いつの間にか居ました。

 腕を組んで眉をひそめるたづなさんを前に、マスターは少し身を引いていますが……当然かと。

 それにしても、先ほどの感情は一体……。

 

「どどどっ、どして?」

「誘われてるのかと思ってきました」

「どこにその要素が……」

 

 マスターが若干引いています。

 

「どうですか、私と夜明けのコーヒーでも」

「……朝まで生テレビ?」

「……クロネさんのえっち」

「なんで!? てか顔赤らめないでくださいます!?」

 

 楽しそうに見えます。

 

「マスター、トレーニングの再開を」

「へ、あ、うんごめんごめん! たづなさんもすみません」

「ああいえ……クロネさんは変わりませんねぇ~」

「なんで楽しそうなんですか」

 

 たづなさんは軽く手を振って去っていき、マスターは私の方を向く。

 

「ごめんね、せっかく夜に付き合ってもらってるのに」

「いえ、問題ありません」

 

 むしろマスターの方が、忙しいとは思うのですが……マスターと過ごしたいと思う方たちは少なくありません。

 マスターはマスターが思う以上に……。

 

「ラップタイムはだいぶ縮んだから、あとは長距離なら後半―――」

 

 一通りの説明を終えたマスターが、自分の足を見て地面につま先をつけると軽くストレッチを始めました。

 私がスタート地点に立つと、マスターも隣へ……。

 

「っし、今日はもう一本付き合うよ」

「っ、はい……!」

 

 珍しい。基本的にマスターは一日一回しか併走はしません。

 マスターは髪をポニーテールに結うと、腰を落としましたが……ふと、いつも通りのその構えに、妙な感覚を覚えました。やけに前傾姿勢なそのフォーム……。

 どこか、見覚えが……。

 

「ん、どしたの?」

「いえ、お願いします……!」

 

 マスター、私は……。

 

 

 

 息も絶え絶えに私は2500を駆け抜けました。

 先ほどよりも長い距離、しかし3000メートルを駆け抜け勝利するにはまだ至らないスピードとスタミナ。

 どうにか息を整えようと深く呼吸をして、少しずつ安定を保ちます。

 

「おつかれブルボン~」

 

 再び、軽くかけてきたマスターも、息を切らしています。

 両手にボトルを持っているので戻って、水を取ってきてからこちらに再びきたのでしょう。

 

「あつぅ~てか放っといたら冷えるから早めに切り上げないとね」

 

 再びはたはたとシャツの襟をつかんで涼もうと……再度エラー。

 それを受け取り、水を飲んでからマスターの方をむけば、マスターは上を向いて水を……。

 

「ぶほっ!」

「マスター!?」

 

 器官に入ったのかせき込みながら下を向きます。

 

「げほっ、ごほっ!」

「大丈夫ですか?」

 

 近づこうとしますが、平手を前に出して『大丈夫』とアピール。

 待っていると、マスターは息を整えて私の方を見ます。

 水が零れて口元はビショビショで、それはジャージの下の体操着も……。

 

「ふぁ、はぁ……だ、だいじょぉぶ」

 

 濡れて、透けて……。

 

「ブルボン?」

「深刻なエッッッ」

「ブルボン!!?」

 

 ―――解析完了、薄緑。

 

 

 




あとがき

こんなんなりました。ちょっとシリアス混ぜつつな感じで
ちょっと急いで書いたから誤字脱字とか多いかもで心配

色々伏線ばら撒きつつうまい具合にやってければいいなと
クロネ関係もちょっとずつ判明してく感じでー

固有発動の映像って撮影してたのね、どっかで使いたいネタ……

では次回もお楽しみいただければ幸いですー
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