ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々 作:樽薫る
11月も二週目に入った頃。
トレーナー室で私はふと思い出したことがある。
近くにある書類が挟まったファイルを取り出すと、その中から一枚を取り出す。
間違いない。期限は―――今日。
「……チーム名忘れてた」
危ない危ない。ネームレス杯にネームレスで挑んでどうするよ。
「そうだなぁ~」
過去のチーム名を思い出すけれど、あれは御大層がすぎる。
私的には慎ましやかにいきたいけれど、それはそれで不平不満がでそうなところだ……かわいげとかいるかな? いや、いらないか。
書類を前に、腕を組んで頭をひねる。
「ん~なんかあったかなぁ」
周囲を見渡して良いアイデアを探すのだけれど、せいぜいタマちゃんたちが持ってきた邪魔にならないトレーニング器具がいくつか、デカいので懸垂とかに使える鉄棒。やってみたけど意外とできる。
……ふふふ、私は動ける陰キャだ!
いや言ってて悲しくなってくるね。
「鉄棒、アイアンポール……ないか~」
どうしようかなぁ、タマちゃんたちに考えてもらおうかなぁ、いやでも期限は今日だし早めに出したいよねぇ。でもあの娘たちのチームだしあの娘たちが考えた方が……あ。そっかそっか、そうしよう。
とりあえず候補として一個だけ、提案しとこうかなぁ。
◆◇◆◇◆◇
あれから……ウチがクロネと一晩過ごした日から一週間。
ほぼ全裸で抱き着いてたクロネによる精神ダメージだとか、二日酔いのクロネの介抱だとかはどうでもええ、問題は帰ってきてからまずブライアンたちに詰められたのが問題や。
ウチのチームメンバーやからライスとブルボンもセットなのはわかる。タキオンも最早そういうもんやし……しかしなぁ、なんでエアグルーヴがおったんや。いやまぁプールの時とかおったけど、まぁ蓋開ければクロネにやられてたってオチやけども……。
最近はタキオンがまたいつ薬盛るかわからんとはいえ、マンハッタンカフェがブレーキかけてくれとるから安心や。
「さてと、トレーナー室集合やったっけ」
さっき来たメッセージ曰く、今日はミーティング件チーム名決定会議らしい。
まぁなんでもええとは思うんやけどなぁ、ダサくなきゃ。
「タマ、クロネのところか?」
廊下を歩いてたらオグリに話しかけられた。後ろにはクリークとメジロアルダンもおる。
「それ以外ないやろ、寂しがるしな」
「さすがタマ、ど……同衾? して絆が深まったんだな」
「なんでそんなこと言うた!?」
誰の差し金や! てかクリークは成長喜ぶ親みたいな目ぇすんな! アルダンを見てみぃ顔真っ赤やんけ!
「二度と言うなや!?」
「タマ、したんだろ?」
「してへんわ! 一緒に寝ただ……って言わすなや!?」
「す、少し落ち着いた方がいい」
「落ち着いてられるかこれが!?」
くそぉ! めっちゃ注目浴びてるやんけ!
「おぼえてろやぁ! って三下みたいになってもぉた!」
―――なんでこうなんねん!
駆け足でトレーナー室へ、視線を浴びたかない!
そもそもオグリに『同衾』なんて言葉仕込んだのはどこの誰や、田舎娘と思ってバカにしとるんやろ! ぶぅっとばすぞぉ!
なにはともあれ一刻も早く落ち着ける場所に、ウチのホームに!
「邪魔すんで~」
勢いよく、ノックもせずに扉を開ければ、クロネとタキオンとカフェ。
まだブライアンとライスとブルボンは来てないらしいな……。
「お帰りタマちゃん」
「なんや最近アレやらんの」
隣同士で座っとるタキオンとカフェの向かいのソファにカバンを置いて座る。
「もうちょっと新しいネタ考えとこうかなって、私の笑いのレベルが低いと思われる」
「なんで無駄にプライドあんねん」
「いやぁ、タマちゃんにつまらないウマ娘と思われたくないし」
おもしろすぎるから問題なんやけどな、一周まわって笑えんレベルの時もあるし……おもに目の前のタキオン。
「トレーナーくーん、新しいくす、じゃなくてお茶が」
「まず貴女からどうぞ」
「がふぁっ!?」
思い切り飲まされて……うわ、両手の人差し指が光っとる。
「レーザーポインタみたいになってる……それ私に飲ます気だった!?」
「ひどいじゃないかカフェ~、トレーナー君のなのにぃ」
「どういう理屈ですか……」
「ダメだよタキオン~もうちょっとちゃんとしたヤツもってきてよぉ、肩こり解消とか」
肩こり……乳か!
「なるほど、疲労回復か……」
「む、胸を小さくする薬とかでも」
「そんな薬をなんてとんでもない!?」
「珍しく必死に止めてくる!?」
そんなにかタキオン、薬作るのを止めるレベルで好きかあの乳が……まぁめっちゃ柔らか……。
「ってウチはなに考えとんねん!?」
「うわっ、タマちゃんどうしたの?」
「掛かってるねぇ~冷静さを取り戻せると良いんだけど」
「自分のこと言ってます?」
ぐあ゛ぁ゛~なんやぁ、これがお前のやりかたかぁ~! 汚い手ぇ使いおって、これで何人のウマ娘を狂わせてきたんやっ!
深く深く、それまた深い深呼吸。心臓を何度か叩いて、思い出すのは故郷の
「なんかすごい難しい顔してる」
「今の内になにか薬を」
「また自分で飲むことになりますよ」
「えー」
ふぅ、落ち着いてきたな。ホンマ危ないやっちゃで。
いつの間にかタキオンは椅子に座ってるクロネの後ろから抱きついとって、カフェはその隣におる……クロネはもうちょい抵抗とかせんでええんか?
謎の薬で両足が光ったり、手の平光ったり、尻尾が伸びたり耳が伸びたりとか色々あったのに……いやまぁそれほど深刻な被害があるわけでもないんやけども。
「タキオン~ダメだよ? 私以外にそんなことしちゃ」
「もちろんじゃないか、信頼するトレーナー君にしかしないよぉ~」
「え~しょうがないなぁ~」
にこにこしとるクロネに、楽しそうなタキオン。カフェは呆れとんのか?
「
なんかカフェも変な方向に行ってへんか?
しかしまぁ、そのうちタキオンとカフェはチームメンバーじゃないから関係ないけど、ブライアンとかライスと遠征行って泊まりとかあるかもしれへんらしいけど……大丈夫か?
ウチは耐えれたけど、ブライアンとかライスに耐えられるんか? いや、ライスなら大丈夫やろ、肉食タイプとちゃうしな! ブルボンはまず問題ない。
「問題はブライアンやなぁ」
「なにがだ?」
「どわぁっ!? いつの間に来てたんや!?」
「今だが」
そう言いながらカバンをウチの隣に置く、ライスとブルボンも一緒に来たらしい。二人もカバンを置いた。
こんだけいると全員座るって大変やなぁ。ついでにここ最近はエアグルーヴもいたりするし、生徒会副会長二人もこっちいてええんか? それってもはやこのトレーナー室生徒会室別室みたいにならんか?
「で、私がなんだって?」
「クロネのことになるとアホになるからなって話しや、理性も蒸発するし」
「ぜんぶ理性的にしているが?」
「余計タチ悪いやんけ!?」
いやまぁブライアンもかなりクロネ過激派ではあるんやけど、クロネもクロネや! あの感じブライアンにやったらどうなってもおかしないで……なんであいつ今まで無事やったんやマジで。
ともかく、なにはともあれウチとしてはコイツは無事でいてもらわかんと困るわけや……ウチのトゥインクルシリーズのためにもな!?
タキオンがカフェに首根っこ掴まれてクロネから離される。
「っし、全員揃ったかな……揃ったよね?」
「おう、ええと思う」
「だよね。最近誰がメンバーなのかわかんなくなってきちゃって」
「確かに」
頷くブライアン、お前も最初の頃わからんかったけどな。未だにタキオンがチーム入ってないのも意味わからんけど。
四角いテーブルを囲むように、三辺にソファが置いてある。
ウチの隣にブライアン、向かいにはカフェとタキオン、もうテーブルを背にするようなソファにライスとブルボンと座っとると、クロネが立ち上がってソファが置いてない方に立つ。
この部屋暖房効いてるせいか、クロネはシャツの上はジャケットやなくてカーディガンのみ。
「大人しくしておいてくださいね」
「まったくカフェは私がいるからってなにもチームの会議に参加しなくても」
「いえ、貴女がいなくても来ますよ」
「え~そんなにトレーナーくんのことが」
「私、このチームなので」
「!!?」
うわ、タキオンが珍しく凍りついとる。めっちゃおもろい。
「え、えー!? いつから!? トレーナー君といつからそんな関係に!?」
「誤解生まれるわっ!」
ただでさえ最近誤解すごいんやから!
「つい二日前だよねー?」
「はい、一緒にコーヒーを飲んでいた時に、話もあってタキオンさんを止めるのにも良いと」
「えー!?」
「ネームレス杯には出れないけどね」
タキオン、おもろいな。めっちゃ動揺してるやん。
まぁクロネのやつ自分から勧誘なんてそうそうせんからな、ブライアン、ライス、ブルボンの場合は切羽詰まってたからやろうし……新人で一杯抱え込むのびびっとるとこあるし、そらそうか。
カフェは自分から入るって言ったことになるから、タキオンも自分で言うたらたぶん普通に入れてくれるやろクロネなら。
「そんなぁー」
「それにお弁当もいただきましたし」
「あ、おいしかった?」
「はい、今度は私がコーヒーを御馳走しますね……トレーナーさん」
普通や……普通や!
「なんかタマモさん、すごい嬉しそう?」
「確認、予測、ステータス『ハッピー』と思われます」
「ハッピー星人がなんだって?」
タコの話しなんて誰もしてへんわ!
「とりあえず、ミーティングしたいんだけど……今後の予定とか、それと」
「チーム名やっけ、なんでもええんやけど」
そう言うと、クロネが少しばかり不満そうに両手を組む。凶悪なことに胸が寄せて持ち上げられてライスとブライアンの目がくわっと見開かれた……どいつもこいつも!
タキオンは見惚れるような顔してて、ブルボンがボーっと見つめて、カフェは……無表情。安心した。
にしても柔らかいんよなぁ……ってウチはまたなにを!?
「え~じゃあ暗黒騎士ガイア」
「なんでええと思ったねん!?」
「ならみんなでしっかり考えよう!」
コイツどういう脅し文句や、まぁ今後チーム名何回も呼ばれること考えたらちゃんとしたのにしとこか……。
「竜騎士ガイア?」
「ガイアフォース?」
「ガイアスプリームヴァージョン?」
ライス、ブライアン、タキオン!
「ガイア縛りやめーや!」
「が……ですか」
「ブルボンも無理して出そうとせんでええわ!」
「え、ガイアのなにがそんなに刺さったの?」
「お前が始めたんやろ!」
遊び過ぎやろ!
「まぁ候補一個考えてるんだけどね」
「ガイアじゃなければ、アグル?」
「ポセイドンフォースってなかったか?」
「真面目な奴やろな!?」
「ちゃんとしたヤツだって、あ~でも11月だからとかいう単純な感じかも」
英語でノーベンバーとか言いだしかねんな……いや別に悪かないけど。
あかん、一個目の候補のせいで大概何でもよく聞こえるヤツや。
「えっと、それじゃ発表しまーす。って候補の一つだからね!?」
「わかっとるからはよ、時間そんなないやろ」
「ごもっともで、すみません」
「お、お姉さま大丈夫だよ。頑張って考えよっ!」
「ライスぅ~」
妹にデレデレしとる場合ちゃうぞ。
「あ、えっとそれじゃ候補なんだけど……」
◆◇◆◇◆◇
決まったチーム名を記した書類を提出すると、私は生徒会室を出る。その間際にシービーちゃんが手を振っていたので軽く振りかえして、エアグルーヴちゃんの方に一瞬視線を送ってから、扉をしめて息をついた。
こういう管理も生徒会がやってるんだから大変だよねぇ、ブライアンも生徒会室に戻ったりもしてるし……。
「なにはともあれ、トレーニングもうちょっと根つめるかなぁ……私ももうちょっとやれればなぁ」
今日もブルボンとちょっと走るかなぁ、200メートルぐらい追加してみる?
「ん~」
それで壊れたらいろんな方向に迷惑かけるし、走ってるってバレるのもなぁ。
そういう感じも含めて、小刻みに走る距離を増やしていったりとか、帰った後のストレッチとかをしてると現役時代、リハビリの時とかを思い出してついつい懐かしさに浸っちゃう。よくな……くはないけど引き摺ってる感じでなぁ。
なんて思いながら歩いていれば、後ろから尻を叩かれる。
「はひゃっ!?」
「あははっ、なんて声出してるのよぉ」
「なにすんのさぁ……」
犯人はマルゼンスキー。別に痛くされたわけじゃないけど普通にビビる。
「聞いたわよ~チーム名、ようやく決まったそうじゃない」
「まぁね、私は悩みに悩んだよ」
「え~良いと思うけどね。らしくはないけど」
そんな言葉に、笑ってしまうのはやっぱり自分でもそう思ったからなんだけど……答えは出た。
「私のチームじゃ、ないからね」
「……そうね」
わかってくれたようで、優しげに微笑を浮かべるマルゼンスキー。
そう、私のチームでない。私だけのチームでない。主役はあの娘たちなんだから……。
故にあげた候補、あの娘たちが輝けるチームであるために……。
「あ、そういえばマルゼンスキーってさ」
「ん?」
ふと私の雰囲気が変わったのを察したのか、マルゼンスキーも緩んだ雰囲気で私の方を向く。
廊下を歩きながら、時たま通り過ぎる生徒に手を振るマルゼンスキーを横目に、思ったことをそのまま口にする。
「魔法騎士って書かれてたらなんて読む?」
「マジックナイト」
「古い人間だなぁ」
「え、なになに!? 名作よ!?」
「いやそうなんだけど……」
ていうかそれ、私らも世代じゃあないけどね。
マルゼンスキーと別れると、既に誰もいなかったトレーナー室でジャージに着替え、私はトレーニングコースへと出る。
ブルボンとライスとブライアンに並んでカフェが走ってるようで、タキオンとタマちゃんの二人は記録をしている。近づくと二人が私に気づいた。
「お待たせ~」
「ん、おかえりさん、どやった?」
「チーム名通ったよ。意外だったけど……まぁ第二第三候補出さずに済んだ」
ろくでもねぇ名前だったので良かったぁ~。
「なら良かったわ」
「それじゃ記録代わるから、タマちゃん走っておいで」
「ん、りょーかいや!」
データやらが入力された書類の挟まったバインダーをタマちゃんから受け取ると、タマちゃんは軽く跳ねてストレッチを開始する。肩を動かしたり、脚を伸ばしたりしてから、コースに出た。
私の隣で、私とはまた違ったデータを取っているタキオン。
「ん~トレーナー君、そういえば」
「お、新しい薬? ちゃんとしたやつなら付き合うよ」
「……私が言うのもなんだが、中々狂ってるよね」
でもそれはタキオンの目的が私にとって大事なことだからだ。
それにしても“なん”だなぁ。
「でもちゃんとしたヤツしか飲まないとは言ってるよ?」
「それでも、だよ」
苦笑しながらもどこか寂しそうに見えるタキオンの頭を、私は無意識に撫でる。すぐになにか言われるかとも思ったけど、大人しく……というより固まっているタキオン。
髪の毛綺麗だなーなんて思いながら続けていると、耳が突然ピンと上に伸び、その直後タキオンは突然に私の手を振り払った。受け入れたのかと思ったけど、どうやら違うらしい。
私の方を見るタキオンの耳が、ふにゃっと垂れ下がる。
「っ!? な、なにするんだい!?」
「え、いやその、なんとなく……?」
「なんとなくでそういうの出すのやめてくれたまえよ!?」
え~そういうのってなにさぁ。
「なにはともあれ、タキオン」
「な、なんだいトレーナーくん」
「タキオンにも、輝いてほしいんだよね。だから、そのためなら……大概なんだってするよ。私」
本心のつもりだ。彼女の“脚”がどうであれ、私の今の気持ちは決して壊れない本物。
「だから存分に実験していいよ……でも、責任はとってもらうからね?」
「っ……き、君、やっぱ狂ってるね」
へ、どゆこと?
「ひどいなぁ~」
「いや正確には、狂わせる方か……」
「人を劇薬みたいに言う」
「あながち間違いでもないんじゃないかな」
え~。
「私はただ、輝いてほしいだけだよ。せっかく集まって始めたチームなんだから」
「……私は」
「タキオンも、仲間でしょ?」
そう聞けば、タキオンは顔を逸らした。
尻尾を揺らしながら、わずかに赤らんだ顔で私を見るタキオン。
―――いや、かわいいな。
「断れる雰囲気じゃ、ないね」
「ここで断られたらトラウマになるよ」
こんなにネガティブハートの持ち主なんですよ?
視線をタキオンから、走るタマちゃんたちの方へと向ける。併せて走るチームの友達? いや、友達以上、仲間でライバルかな。
それが良いのかはわからない。私の青春は酷く歪だったから……だけどあの娘たちの表情を見てる限り、きっと間違いじゃぁない。
「さ、頑張ろうかな私も!」
「突然どうしたんだい?」
首を傾げるタキオンに、私は珍しく屈託のない笑いができたと思う
両手に握りこぶしを作って、ぐっと腕を引く。
「対して力になれるかはわからないけどさ、私もやるよ。みんなに……輝いてほしいからさ」
そう、一際輝く一等星―――チーム名は、アンタレス。
あとがき
さらっとカフェ参戦、まとも枠
本編三章終了、次回は怒涛の四章!
ちょっとシリアスパート多そう……ギャグ押しにしといてシリアスは騙すみたいで申し訳ないと言う感情がわたくしにも存在しますわパクパクですわ
まぁ閑話を挟んでシリアス一色をぶっ壊すかもしれんけども
それでは次回も楽しみいただければと思いますー