ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々   作:樽薫る

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第4章【――――――】
第23話【不穏ですがクロネさん?】


 

 11月も末、チーム名アンタレスもすっかり慣れてきた。他のチームみたくメンバー募集とかはしてないから、あまり浸透はしてないだろうけど、私達はこんな感じでいいのだ。そもそも私自身、開けたコミュニティというのが苦手だし、人見知りだし……。

 

 まぁなにはともあれ、ネームレス杯まであと一月。

 ほぼ同時期のホープフルステークスは見送り、私とタマちゃんで散々話し合った結果だ。タマちゃんはクラシック、来年の2月末から3月頭あたりが勝負どころ。

 

 そして私は、トレーニングコースのゴール付近で立ってストップウォッチを片手に、待つ。

 

「ハッ!」

 

 全力疾走でゴールを駆け抜けるブライアンと同時に、ストップウォッチのボタンを押す。遅れてライス、さらに遅れてブルボンがゴールを駆け抜ける。

 荒く呼吸をするブライアンとライス、それよりさらに辛そうなブルボン。急いで水の入ったペットボトル三つを持って三人の元へと駆け寄る。

 

「記録更新だね。お疲れさま」

「ん、助かる……」

「ありがと、お姉さま」

 

 礼を言う二人に笑いかけてから、ブルボンへと近づき渡す。

 

「ブルボン、平気?」

「こ、コンディションレッド……」

「だよね、飲んで」

「あ、ありがとうご、ございます、ますたー」

 

 弱弱しく言うブルボンに、キャップを外したペットボトルを渡す。すぐさま受け取ったブルボンが水を一気に3/4ほど飲んで深く息をついた。

 無理した長距離運用、最近はスタミナついてきたとはいえキツいよね。

 チラリとブライアンとライスの方に視線を向ければ、何かを話しているようでこちらは見ていない。

 なら、と私はブルボンの耳元に口を寄せる。

 

「ふぁ~……」

 

 しまった欠伸が、もう一度ブルボンの耳元に口を近づけた。

 

「今夜、ちょっとだけ一緒に、ね?」

「ッ!?」

 

 バッ、と勢いよく離れるブルボン。

 あれ、そんなに嫌でした?

 

「ご、ごめん……?」

「いえ、少し、驚いただけです……体温、上昇」

「へ?」

 

 耳に息かかっちゃったかな? ちょっとだけブルボンの顔が赤い気がする。

 まぁ嫌なわけではないだろうし、今更だし……私は両手を合わせて謝罪の意を示すと共に“付き合ってもらう”ことに感謝。

 

「とりあえず、そういうことで」

「……はい、お願いします」

 

 いつも通りのブルボン、いかんせん尻尾がぶんぶん揺れてたけど……私はライスとブライアンの元へと行く。

 

「二人はさして問題ないようだったけど、大丈夫?」

「ああ、ブルボンもかなり良い感じだ……本番、これで乗り切れれば上々だが……」

「まだ、デビューしてない娘たちが出るって話しだから、どんな化け物がいるかもわからないけどね」

 

 まぁ“怪物候補”は数人、予想ついてるんだけども、走る速度だけで言えば一線級の燻るウマ娘たち。

 

「ほ、本番大丈夫かなぁ、ライスのせいで誰か不幸になっちゃったら……」

「大丈夫だって、ライスがいて不幸だったことない。むしろハッピー」

「お姉さま……」

 

 怯えるようなライス。その頭にポンと手を置いてそっと撫でると、その耳がふにゃっと垂れてライスは心地よさそうな表情を浮かべた。

 えへへ、と笑みを浮かべるライスを見て頬が綻ぶ。

 ―――かわいいなぁライスは……うちの妹が可愛いんですけど!

 なんて思いながら手を離すと、ブライアンと目が合う。

 

「どしたの?」

「……私は?」

「え、撫でてほしいの?」

 

 そんな甘えんぼな性格だったっけ?

 

「ん、ちょっとやってみてくれ」

「え、あ、はい」

 

 そんな真顔で言われて戸惑いながらも、私はブライアンに近寄る。ご丁寧に頭を下げるブライアンに、別に私の方が身長高いのに、と思いながらもそっと手を乗せた。

 目を瞑るブライアンの頭をゆっくり撫でているとなんだか、妙な感覚を覚える。

 

「……いや、ブライアンさ、なんで私の背中に腕回してんの?」

「気にするな」

「いやするけど」

 

 てかもう密着してない? 撫でにくい、ってか! 私の胸に埋もれるのやめてくださる!?

 

「なにやってんのブライアン!?」

「あと五分だ!」

「寝言みたいなことを強く言う!?」

 

 継続して私に抱き着いた状態のブライアン。

 もう撫でる撫でないの話しじゃないよこれ!?

 

「……えっと、母性に飢えてたりする?」

「気にするな」

「気にはするでしょ!?」

 

 瞬間、背後に回ったライスがブライアンの手を弾く……弾く?

 それに合わせて横に来たブルボンがブライアンと私を引き離した。なぜか流れるようなコンビネーション。

 なんだけど、えっと……。

 

「ぐっ、なにをする」

「警告。マスターへの接触を……」

「あ、あの~……」

 

 そのね、ブルボン……引き離すのは良かったんだけど、手がね……わ、私の胸をね。鷲掴みにしてるわけなんだけれど……。

 

「重大なエラー、ただちに対策をアップデエッッッ」

「ブルボン!?」

 

 前のめりに倒れるブルボンを受け止める。

 先ほどのブライアンのように胸にブルボンの顔が埋まるが、まぁ息ができないほどじゃないし大丈夫かな?

 これは今夜併走は無理かなぁ~。

 

「私が揉んだ時と対応が違くないか?」

「不慮の事故だからねこれは! ていうか散々顔押し付けたでしょ、ホントおっぱい好きだね!?」

「いや好きなのはだな……」

「ってブルボン痙攣が!」

 

 ブルボンを立たせるが、顔が宇宙ネコ状態。

 

「お姉さま……」

「ごめんライス、変なことになって……不幸をまき散らすのは私だったようだよ」

「お姉さまといるだけで、ライスは幸せ、だよ?」

 

 うちの義妹がかわいすぎるんですが!

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ルドルフたちとネームレス杯での打ち合わせを軽くして、私はクロネのチーム……アンタレスを見にトレーニングコースの観客席に座る。軽く足を組んで、相も変わらず騒がしいチームを見つけるとそのまま眺めることにした。

 このトレセン学園でそうして楽しんでいるのを見るのも慣れてきたけれど、やっぱり時たまおセンチな気分になってしまうのも事実で、それは仕方のないことだと思うのよね。

 

「このままずっと楽しそうでいられれば良いんだけれど、ね」

 

 そうはいかない。それがレースで、ウマ娘だから……。

 勝った負けたの話しでなくて必ず壁というのはそこにあって、必ず無傷で超えるのを許してくれない。私は“なんの障害もなく突き進んだ”……そんなわけない。

 

「やんなっちゃうわね。私、もうちょっと簡単に色々楽しむタイプなのに」

 

 視線の先のクロネが楽しそうに……楽しそう?

 まぁ、賑やかにわちゃわちゃしているのを見てると、思わず笑いが漏れて……ここから見るだけで充分かなって思う。

 

「あら、どうしたんですか?」

「たづなちゃん……」

 

 駿川たづながいつもと同じ衣装で、変わらない笑顔を浮かべて隣に座ると、手に持ったカップコーヒーを渡してくるのでそれを受け取った。

 たまにバーで会ったりするけれど……今度はクロネでも連れて行って……いえあの娘、酒癖悪い気がするわ。

 

「見てるだけで良いんですか?」

「今更混ざるタイプでもないわよ」

 

 コーヒーを一口飲んで息をつけば、白い息が宙を舞う。

 

「冬ねぇ」

「冬を超えれば、春が来ますよ?」

弥生(三月)皐月(五月)……」

 

 想い出すのは、いつかの記憶―――ただ一人、ターフを駆け抜ける光景。

 

「珍しい顔してますね」

「悪趣味ね、レディーの過去は詮索しないものでしょ」

「知ってますからね、いえ……見てましたからね。詮索もなにもないでしょう」

「……無粋ねぇ」

「おせっかいも焼きたくなりますよ」

 

 そう言って苦笑するたづなちゃんを見てから、もう一度クロネの方を視界にいれる。

 ―――なんでブライアンにドラゴンスクリューしてるの?

 

「さ、私も行きます」

「そう……」

「クロネさんのドスケベボディを堪能しに」

「ちょっちタンマ」

 

 私はすかさずコブラツイストの体勢に移った。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 本日のトレーニングを終えて、私はライスたちと別れてトレーナー室に戻る。

 途中からたづなさんとマルゼンが入ってきてわちゃわちゃしたけど……て、てかたづなさんっ、あ、あんなこと……。

 トレーニングも、最終的にたづなさん追って三人が走ってたからよしとしようかな。

 ……え、たづなさんなんなん?

 

 トレーナー室でジャージからスーツに着替えると、バインダーから書類を取って今日のデータを確認。

 ついでにあと一ヶ月の練習内容の見直しと、体調管理を……。

 

「ん~」

 

 瞬間、ノックが響いた。

 

「うひっ!?」

 

 突然のことで驚きビクッと震えてしまう。もうすっかり陽も落ちてるしで、ビビらない方が不思議だし私は悪くない! いいね!?

 深呼吸をして、平静を装う。

 どうぞー、と言うと扉が開いて入ってくるのは―――見慣れた芦毛の少女。

 

「邪魔すんでー」

「タマちゃん……」

「なんや、着替えてた思うたらビビッてたとみた」

「んなわけないでしょ!?」

「絶対そうやん」

 

 くっそうタマちゃん、こんな生意気に育っちゃって……お姉さん悲しいぞ!

 私は机の前の椅子に座って、パソコンでトレーニングメニューのデータを開く。

 

「てか、どうしたの? これから仕事だよ。私も」

「今から仕事かい、忙しいやっちゃなぁ」

 

 そういうタマちゃんは私の横に立つ。

 

「晴れ舞台が近いからね。もちろんタマちゃんのぶんもやってるから安心して」

「別にそこは心配してへんけどな」

「そなの?」

 

 じゃあどうしたんだろ。

 

「いや、いちいち言わせんなや鈍いやっちゃなぁ」

「へ、なにが?」

 

 タマちゃんが私の頬に触れる。そっと、撫でるように。

 へっ!? ななな、なんですか!? どういう展開でしゅか!?

 

「ほれ」

 

 そっと、前髪がふれられた。たぶん私の目がタマちゃんから見えるように……。

 

「クマ、できとるし……」

「……にゃっ、にゃぁんだぁ、しょんなことですかっ!!?」

「なんで噛み噛みやねん。トレーナーが大事な時期に体調管理できてへんとか笑いものにもならへん」

「うっ……ちょっとだけ、ね?」

 

 明日にしても良いんだけど、今日のことは今日中にまとめたい。明日の昼間はタマちゃんはもちろんカフェとタキオンのことも……。

 なんて考えていると、タマちゃんはため息をついてソファの方に移動して座った。

 あれ、帰らなくていいの?

 

「門限前には終わらせぇよ」

 

 なるほどぉ、そうきたかぁ……おかんの如く心配させてるなぁ。

 

「うん、頑張るっ」

 

 両腕を上げて背を伸ばし、体勢を整えると頭に整理していることをデータに反映させていくために手を動かす。

 ふと視線を動かすと、タマちゃんが頭を抱えている。

 

「なにやっとんねんウチ、思い出したらめっちゃ恥ずいやんけっ」

 

 今更なんだ。てか私の方が恥ずかしかったよ!

 

 

 

 タマちゃんと寮前で別れて、私は学園の敷地内を出て歩く。

 作業は全然門限前に終われて思ったより余裕の時間で私は帰るのだけれど、それほど変わらないと思う。寝れてないのを察してくれてタマちゃんは、根詰め過ぎないようにしてくれたのはわかるけど、眠れない原因はそれじゃないし……。

 ついつい欠伸が漏れる。

 

「ふぁ~……って、だめだめ」

 

 ―――こんなんだから彼氏の一人もできないんだよね。

 私だけでなく他にも人が歩いているので、少しばかり恥ずかしくもなる。

 

「眠い……」

 

 これなら寝れるかもしれないけど、寝不足の原因は―――夢だ。未来に見る夢でなく、這いよる悪夢。

 だから、寝ても起きてしまう。やっぱりその時期が近付いているのと、トレセン学園にいるからの二つの要因だろうけれど、こんな弱かったか私、あんまりじゃないだろうか。吹っ切ったつもりの過去が這い出て、それで担当ウマ娘に心配かけて……。

 明日はブルボンと走るのに、こんな調子で大丈夫かな……。

 

「ん~良い安眠療法とかないかなぁ~」

 

 枕でも変えてみる? いや関係ないか、寝れはする。起きるだけで……。

 

「へい彼女、暇そーね」

「マルゼンスキー……なんでいんの?」

「あらいけずじゃない、って言っても乗るんでしょ?」

「言い回し古いよ」

 

 まぁ乗るんだけど。

 すっかり乗り慣れた車、カウンタックのガルウイング式のドアが開かれるとその低いシートに乗り込む。

 

「あ、ガルウイングじゃないんだっけこれ」

「シザードアね、ガルウイングは横にぐーって上がるやつ」

 

 そう言いながら、シフトレバーをガチャガチャ動かしアクセルを踏み込む。

 加速しだした車の運転手に行先を言うと、そのままウインカーを出して曲がる。

 

「……ていうか、あのトレーニングの後帰って私が帰ってないってわかってて迎えに来たの?」

「そういうこと、別れる前にトレーナー室寄ってって言ってたでしょ。着替えるだけじゃないなーって」

「私のこと大好きかよー」

「あら、大好きだって昔から言ってるじゃない」

「そうでした」

 

 女子高生らしい素直なノリだなぁ。とか思ってたら欠伸が出るけれど、マルゼンスキーの前だから遠慮なく。

 

「ふぁ~」

「トレーニング中から眠そうだったわね。ちゃんと寝れてないの?」

「ん~、夢見が悪くってさぁ」

 

 そう言うと、マルゼンスキーは苦笑を浮かべた。

 

「お揃ね」

「そんなお揃いやだよ。てか寝不足で運転あぶないよ?」

「まぁなんとか寝れてるわよ。授業中とか」

「悪いなぁ」

「優等生に言われちゃ形無しだけど……あれ、本当に優等生だったかしら?」

 

 う゛っ、最初の頃はしっかり優等生だったよ。後半さぼったこともあるけど、それは……。

 

「って懐かしいこと思い出させないでよ」

「夢見が悪いって昔の夢でしょ、良いじゃない今更」

「そうだけど、さぁ」

 

 お互いのトラウマを知っている。あまり気持ちのいい話しじゃあないけど、言葉は少なくて済むのがありがたい。

 他愛ない話しをしていると、目的地である“スーパー”に辿りついて、駐車場に止まった車から二人で出る。

 

「昔から料理とかできるタイプだったわよねぇ」

「まぁある程度はお母さんに教わったから」

 

 家事が得意だったからなぁ、お母さん。仕事終わりでよくやってたと思う、今だからその大変さが身に染みる。

 スーパーに入ってカートを手にして押すと、マルゼンスキーがカゴをはめてそのまま二人で歩き出す。三日分ほどの朝晩とお弁当の食材、それからお酒と……。

 

「豆苗激安~買いじゃない? あ、ナタデココ買ってこうかしら」

「マルゼンスキーさ」

「ん?」

「今日、泊まってく?」

 

 そう聞くと、珍しく驚いた表情を見せる。

 

「……そ、そのさ、嫌なら」

「お泊りか、良いかもしれないわね」

 

 そう言って笑うと、カゴになぜかナタデココを入れた。

 

「安眠できるだろうしねぇ」

「へ、うちだと? なんで?」

「さてね。私、今日はぐっすり寝れる自信でてきちゃった」

「羨ましいなぁ~」

 

 ため息をつきながら歩きだすと、マルゼンスキーもその横を行く。

 

「貴女は私じゃ……」

「へ、なんて?」

「いいえ、なんでもないわ」

 

 どことなくだけど、マルゼンスキーの雰囲気が陰鬱とした感じがして、軽く顔を覗くけれどいつも通り。表情だけ変えたところで私が見抜けないわけもないんだけど、マルゼンスキーだったら。

 まぁ深く詮索するのも良くないんだろうと私は考えるのをやめる。ブライアンに食べさせるためにも弁当に入れる用の野菜やら、あとはお肉とかお魚とか買ってかなきゃだし……。

 

「明日休日だしトレーニング昼過ぎからだから、ちょっと多めに飲んじゃお……」

「悪酔いは勘弁してよ~?」

「大丈夫だって~」

 

 そうそう失敗しない、タマちゃんといたときが珍しい!

 マルゼンスキーと一緒なら大丈夫でしょ~!

 

 

 ―――お酒なんかに絶対に負けない! キリッ!

 

 




あとがき

こんな感じで新章スタート
まだ新章一話目だからギャグをキープしつつちょっと不穏な感じ出しつつ、まぁ色々とある感じっすね
マルゼンスキーとはしっとりした友情な感じです


いつも感想ここすき誤字報告とありがとうございます助かっております!

そんじゃまた次話も楽しみにしていただけたらと思いますー
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