ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々 作:樽薫る
―――あれから数日後。
まぁ時たま暴走する約二名をいなしながら、かれこれ綺麗な身体を保ってますけど! だからどうした!
落ち着こうか、今日はこれから選抜レースなわけだけど……あんまり天気良くない。
雨は降ってないし問題ない。降っていたら降っていたでそれも悪くはないんだけどね……。
校舎を歩きながら、ふと窓から空を見上げる。
灰色の雲に覆われた空は今にも降りそうで、降れば湿気で困ったことになりそう、髪が。
思わずため息が漏れる。
「傘、持って来ればよかったなぁ……」
「職員室に、貸し出しの傘があるはずでは?」
「ふぇ?」
声がした方を見る。
意外な人物がいて、私は少しばかりテンパる……知らないわけがない。
「シンボリルドルフ……さん」
「はじめまして、こうして話をするのは初めてだね。クロ―――」
「く、クロネで良いっ! ……です」
ついつい大声を出してしまい、恥ずかしいやらなにやらだけども……俯いてなんとか返す。
「そうか、ではクロネくん……」
「あ、ひゃい」
「フッ、これで君とも縁ができたな」
そんなんもうドンブラザーズじゃん。
「……数少ないウマ娘でトレーナーである君は、なにを目標としてこの学園にいる?」
なんか試されてます!? 理事長とかより威厳があるんですが!? ごめん理事長!
「わ、私は、そのっ……も、目標なんてっ」
「目標がないと?」
その言葉に、頷く。事実目標なんてない。私自身の目標なんてものがあるはずがない。
「た、担当するウマ娘ちゃんの目標が、わ、私の目標……で、良いかなって」
「……そうか」
正解ですか!? アウトですかセーフですか!?
シンボリルドルフさん、なんか言ってもらえないと、私は掛かってしまいますが!?
「私も偉そうなことを言える立場ではない、ただその……」
「ふぇあ? な、なんでしょぉか……」
「いや、なんでもない」
ド緊張していてどうにも上手く話せないが、シンボリルドルフさんは納得してくれたようで頷く。
「話せてよかったよ。君と……精励恪勤、お互い頑張ろう」
「こ、こちゅらこそっ―――!!?」
痛ったぁぁぁぁっ!!? 舌噛んだぁぁぁぁっ!!?
シンボリルドルフはそんな私に気づかず、か気づいても見なかったことにして去っていく。
そんな後ろ姿に背を向けて、私はなによりも舌の心配をしなくてはならない!
選抜レース終わるまでには治ってよ~?
◆◇◆◇◆◇
彼女、クロネから背を向けて私は曲がり角を曲がる。
そこにいたのは私の右腕と言っても過言ではないウマ娘―――生徒会副会長エアグルーヴ。
フッと笑みを浮かべてから、私がそのまま歩くと彼女は横を着いてくる。
「例のトレセンOGのトレーナーですか?」
「そうだ。少しばかり気になってね……」
「それほど良い成績を残したという記録はないですね。重賞なども……」
だからこそ心配だったんだが、杞憂だったようだな……。
「しかし、まぁ……」
「どうしたんです?」
「聞いてはいたが、胸を見てしまった……」
思ったよりすさまじい吸引力だ。大きいだけではない。そういう話ではない……。
「なんというか、全部合わせて……彼女だな」
「どういうことですか、無駄肉が多かったように見えましたが」
そういうわけではないのだが、私が浮ついているだけか?
エアグルーヴならばこうはならなかったのだろうな。しっかりとしているし。
「それにしても……」
「会長、まだなにか?」
「胸を見てしまうとは、おおむね無念だな……!」
◆◇◆◇◆◇
選抜レース。懐かしいことこの上なしって感じだなぁ。
ウマ娘にとって、トゥインクル・シリーズへの第一歩。
年4回あると言ってもやはり最初の一回で決まるのと決まらないのとでは天と地ほどの差があるのも事実で……。
私も結構緊張してたなぁ。この頃は良かった! ぶっちぎりの一位でしたよ……昔はよかったなぁ。
ともかく、私の舌の痛みは治まった!
「んー」
いつまで経っても慣れないスーツで、レース場にきた。
周囲には他にもベテラントレーナーだったり、明らかなエリートトレーナーだったり……新米トレーナーさんたちのとこ行こっ。
ということで、混ざりに来たんだけど話しかけるなんて高度なマネはできないので、後方で大人しくしてようそうしよう!
このまま大人しく過ごして、選抜レースはしっかりと目星の娘を見つけてしっかりと色々考えて……!
考えつつ……帰ったら私、エルデンリングするんだ!
死亡フラグが見える……。
「あの」
「あ、はい」
会話前に「あ」をつけてしまう私に悲しき過去……!
なんかトレーナーさんに話かけられた! 私をスカウトか!?
「ああ、やっぱりクロ―――」
「クロネで結構ですので!」
だいぶ食い気味にいってしまった!
「しゅ、しゅいません」
動揺して噛み噛みだし!
「い、いえ……」
よく見れば他のトレーナーさんたちも見てる。恥ずかしい、死ねる!
ちくしょうこれが元トゥインクル・シリーズまで駆けたウマ娘の無残な姿だよぉ。
「そ、そうそう。クロネトレーナーが選抜レースを見に来るのが意外でして」
「へ、そうですか?」
「はい。OGともなればなにかしらの伝手があってもう決まっているものだと、それとも複数人?」
「あ、いえいえ、まだ全然決まってなくて……」
「へぇ~では我々と一緒ですね」
「そ、そうでも、ないですよ……」
かわいい子が良いなぁ、いや別に生徒に手を出すとかでなくってね! ていうかそっちのケは無いし!
「元競走バですし、むしろ向こうから声をかけてきたりとかもありそうですが」
「い、いやぁ~優秀なウマ娘だったら良かったんですけど……」
そう言って返すと、少しばかり疲れるので軽く会釈して場所を変えることにした。
とりあえず声かけられなさそうな場所に行こう。
どけ! 私は陰の者だぞ!
「ふぃ~」
少しばかり離れた結果、意外と前の方まで来てしまった。
でもレースは良く見えるし……。
「あれ……タマモクロスちゃん」
選抜レースの第一走……あの子の姿が見えた。
向こうはこちらに気づいていないようだし、それに……。
なんか、怖い顔してるし……。
たぶん―――掛かる。
―――レースが終わった結果。タマモクロスちゃんは入着すら逃してしまう。
脚質的に差し目的だったはず、にもかかわらず加速が速すぎた……ペース配分失敗かなぁ。
前のめりになりすぎなのは、良く見てきた私としても良くわかる。
あの小柄さだから、前の方に行けば、落ちてきた先行集団に囲まれても競り合いで抜けない……。
「クソッ……!」
タマモクロスちゃんが、肩で息をしながら自分の膝を叩いている。
私としても悔しさは良くわかる……。
「タマモクロス。疲れている所すまないが、少しいいかな?」
「えっ、なんや……?」
一人、中堅っぽい雰囲気のトレーナーさんがタマモクロスちゃんに話しかけにいった。
他のトレーナーたちも今回1位だったウマ娘たちにも声をかけに行っているのを視える。
しまった出遅れた。というか私……タマモクロスちゃんばっか見てた……。
顔見知りだからしょうがないけどなぁ、次からはいないだろうしちゃんと見よ……。
「―――ナメんなやッ!」
瞬間、声が響いた。
その怒りの声に、私も他のトレーナーもウマ娘もがそちらを見る。
「ウチは勝ちたいんや! 勝って勝って勝たんとあかんのやッ!」
あ~そういうことね……。
「“競えるはず”やと!? バカにすんなや! そんな半端な気持ちで勝負してへんわ!」
言い終えると、タマモクロスちゃんは走っていく。
周囲は、再びスカウト等を始めていき、トレーナーたちは次のレースに目を向ける。
話しをしていた中堅トレーナーさんは。
「……少々、手に余る気性だな」
少しばかりバツの悪そうな表情をしている。
まぁ、私には関係ないし気にしないきにしない……。
クソテンプレな行為をしてしまった……私としたことが。
まぁ私としたことがって言うほどのウマ娘でもねぇんっすけど!
校舎裏の方まで向かうと、タマモクロスちゃんの背中が見えた。
「ちくしょうっ、許せへん……ナメられたんも、ボケた走りしたウチもッ……!」
「……えっとぉ」
なんで話しかけちゃうかなぁ私もぉ。
「っ! ……アンタ、こないだの……」
そうゲロの人です……いやセーフだったよ!
「見てたんか……」
「う、うん」
正直に頷く。
「……ウマ娘のあんたから見て、どうやった?」
「加速するのが早かったのとペースが乱れてたよ」
どっちが良いんだろうとか考えるより先に、口が動いちゃったよ……悪い口め! この口が悪いんです!
「ハッ、わかっとるわ……そんぐらい」
自嘲するように言うタマモクロスちゃん、私はなにを言えるわけでもない。
「GⅠ勝ちまくって、日本一のウマ娘にならんとあかんのに、こんな走りッ!」
まぁ他にも言いたいことはあるけども、やめといたほうが良いかなぁ。
解決方法だって見つかるわけじゃないし……。
「で、アンタなんでウチのこと追ってきたん?」
「へ、あ、えっと……」
「まだ選抜レースあるやろ。見なくてええんか?」
ごもっともです。そもそも私もなんで追ってきたんだかわかんないし……。
「……えっと、の、飲み物飲む!!?」
「……はぁ?」
「ほら、前にみ、水買ってもらっちゃってるしさっ、レース直後で疲れてるでしょ?」
いやぁ、そうそう。私はタマモクロスちゃんに飲み物を返すために来たんだ。きっとそう。
さーせん嘘です。
空気を変えようと、右手で左腕を掴みながら、少しばかり緊張しながら……なんとかしようと、とりあえず提案してみる。
「……だ、ダメ?」
「エっロ」
「え、なんて?」
「って、ウチはなに言ってんねん! わ、わかったわかった、行くから」
なにかわからないけど、とりあえず行ってくれるらしい……いや私は私でこのあとどうするつもりよ。
てか選抜レース見れない! まずい! 私の処女の危険があぶない!
「ここでいっか。あ、どれにする?」
「えっと……」
近くの自販機に二人でやってくる。なにこれは。
小銭を入れてボタンを押すと、缶ジュースが出てきて、タマモクロスちゃんの手に渡す。
二人でベンチに座ったけども、ちょっと距離がある。
そりゃそうだ、たづなさんみたく詰められたら私は怖い。みんな怖い。
「すまんっ」
「へ?」
「わざわざ追いかけて声かけてくれたのに……ホンマ、すんません」
でも、それだけ本気っていうことだ……かつてはたぶん私も、どうだっただろう。自信なくなってきた。
「ううん、大丈夫。わかるよ怒ってたのは……」
「自分にやで? まぁ八つ当たりみたいになってホントすまん。でも“それなりに”しか見えん走りをしてもうた……こんなんやから……」
ウマ娘にとって『体格』というのは大事な要素の一つでもあるのは確かだ。故に、不利と言えば不利。
タマモクロスちゃんは話を続ける。
トゥインクル・シリーズでかなえたい夢がある。そのために勝って勝って勝ちまくる。
風と光を轟かせる。ために必要なこと……。
「えっと、アンタは当時の戦績はどないやったん?」
「ん、酷いもんだよ。選抜はぶっちぎりでメイクデビューも良かったけど……」
苦い記憶がよみがえり、顔に出てしまっていることだろう。
「トゥインクルシリーズじゃコテンパンにされたかなぁ、重賞、GⅢでさえも勝ててないし、鳴かず飛ばずで……チームメイトはバンバン先に行っちゃってさぁ」
「でもウチは、そんなとこまでも行ってない……ッ!」
こう、慰める立場ってのも慣れたもんだよ。チームメイトも結構悩んでたしねぇ。
そもそもなんで私に相談とかしてきたんっすかね!? おっと、そう言う雰囲気じゃないよね。はい。
「でも、タマモクロスちゃんは……勝てるよ。少なからず選抜レースは私の見る限りじゃ」
「ッ……同情のつもりならやめてや」
ちょっと怒ってるけど、こ、ここで止めるのもね……。
「ウチのレース見たやろ、しょっぱい走りして、入着できんで……口はデカくて」
「あはは、デカさなら負けてないけど」
「背のことちゃうわっ!」
「でも、大丈夫……想いが強いっていうのは、才能だよ。日本一になるためにはたぶん、一番必要な」
「……なんやアンタ、変なやっちゃな」
少しばかり雰囲気が柔らかになった。タマモクロスちゃんの笑顔も、どこか優しい。
私の中の諸葛孔明が『今です!』って言ってる気がする!
ここで『私頑張るよ! だから頑張ってね!』って言って元気にしてあげられそう!
よっし、たまには良いことするよ私も!
「そこまで言うなら、ウチを勝たしてみてや」
「私頑張るよ!」
「早ないか!?」
……あれ?
「ウチ一人でどん詰まりやから、新しいなにかが必要やと思うてアンタにお願いしてみたんやけど」
どこか照れくさそうに、頬を掻いてるタマモクロスちゃん。
「まぁあんたにも目星のウマ娘ができるかもしれんし、仮契約っちゅうことでな……」
なにか間違えた気がするんですが、気のせい?
おおお、落ち着け! 落ちつついいてて、なんとか! 軌道修正じゃ!
「ウチの面倒、次のレースまで、見てもらえ―――」
「頑張る!」
「―――って早いって言うとるやろ!」
ビシッとツッコミを入れられる……。いやもう、なんかすみません。
「会話にはテンポってもんがあるやろ! キャッチボールする気ないんか!?」
なんていうか、キャッチボールしようと思ったら球が二つありました。チクショー!
「でも……ありがとうな!」
ニコっと笑顔を浮かべるタマモクロスちゃんを見たら……ええ、言えませんとも、間違いですなんて言えないに決まってますよ。
それに私だって、この娘を全然気にかけてないかって言ったらウソになりますしおすし。
だから……。
「それじゃ、仮契約ってことで、よろしくな!」
「うん、こちらこそ……よろしくね」
そう言って手を差し出すと、タマは笑顔を浮かべてその手を取ってくれる。
小さいなぁ……でも、勝てない道理はないはず。デカくて勝てるなら私はもうちょっとは勝ってるはずだ。
「っし、これからビシバシ頼むで!」
「……うん、私も本気でやるから」
これでタマモクロスちゃんが頑張ってくれれば、私の評価も上がって担当が決まるかもだし!
「ところでなんやけど……」
「んぇ?」
「なに食うたらそんなデカくなるん?」
「あ、え~普通に過ごしてたけどなぁ、でも172って結構高い」
「そっちやなくて乳」
そっちかよ!
あとがき
更新が速いのは今だけ。大逃げしてるだけ
スピードSSでスタミナEな感じ
ちょっと真面目なお話……ネタは挟むけど
まぁ地盤がしっかりしないと安心してネタ会話とかできないというかなんというか
メンバー集めつつ、とりあえず
大まかなプロットはできてるけど細かいとこはできてないのよねー
故にキャラはアンケートとか入れてもええかもしれない……やったことないけど
それでは次回もお楽しみいただければよきですー