ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々   作:樽薫る

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第28話【大晦日だよクロネさんスペシャル!】

 

 とうとう12月31日。大晦日。

 

 さすがにレースも無く、どこもトレーニングはお休みだ。かく言うアンタレスももちろんお休みで、私は全てのアラームを消し去り、めでたく三度寝の末に午前10時に起床。すこぶる機嫌良く朝風呂、じゃなくて昼風呂を済まして、髪を乾かしてから部屋着のままテレビをつける。

 大晦日ともあって特番まみれだ。見るものが無いならとりあえずゴジラを流しておけという母の言葉が胸に響く……だからといって流すわけでもないが。

 

「ん~どうしよっかなぁ」

 

 現状、やることがない。けれど大晦日になにもしないってのももったいない気がしないでもない。かといって大晦日に誘うような友達もいないし、仕方が無い。

 ―――根暗陰キャ喪女には辛いとこね、これ……う゛っ、自分で言っておいて死にそう!

 

「はぁ~そうだった。最近タマちゃんとかと一緒にいて忘れてたけどこれが私だわぁ」

 

 トレセンから出て大学行って働いてとかしてたけど、こんな感じだった。とりあえずゲームでもして忘れようとコントローラーを取った瞬間、インターホンが鳴る。

 

「あれ、通販とかしてたっけ」

 

 その記憶はないけど、記憶にないものが届くのも少なくは無いので私は立ち上がるなり、部屋の中にあるインターホンカメラで来客を確認すれば、そこには意外な人物で、私は即座に外との通話ボタンを押す。

 

「か、カフェ?」

『あ、く、クロネさんのお宅、ですよね。マンハッタンカフェです』

「ちょ、ちょっと待ってて!」

 

 私はボタンを押して通話をきると、急いで玄関まで向かいドアの鍵を解錠するとすぐに開ける。やはりそこにはカフェで、なんだか妙な雰囲気。この感じ、たぶん“お友だち”の方がなにか……?

 ―――まぁオールドタイプにはわからん感覚だよ。フハハ!

 キャラがぶれた気がするので、とりあえず冷静さ取り戻す。カフェは私服姿で、どこか落ち着いているけどお洒落で、私もできればそういう方針でいきたかったなと思うけど、既に遅いので今度、良いコーデ教えてもらおうと深く頷く。

 

「……」

「か、カフェ?」

「あっ、く、クロネさん。おはようございます」

「うん、おはよう。そういえばどうやって私の家わかったの?」

「その、お友だちが連れて来てくれて……」

 

 私の家までわかんの!?

 

「あなた、サイキッカーかも……このニュータイプがよぉ」

「にゅーたいぷ?」

「あ、はいなんでもないです」

 

 これがジェネギャ。いやジェネギャですらない気がする。ジェネレーションギャップってよりGジェネレーション。

 

「な、なにはともあれどうぞどうぞ」

「お邪魔します」

「なにもない家ですが!」

 

 とりあえず招き入れるんだけれど、ここで気付く。

 

 ―――私、部屋着のままやんけぇ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 お友だちの先導の元、なぜか私はクロネさんの家にやってきた。表札は無く少し不安でしたが、お友だちがそういう方面で間違えるとも思えなかったので、インターホンを押す。すぐにクロネさんの声が聞こえてドアが開かれましたが、そこで一度思考が止まる。

 クロネさんはおそらく部屋着。キャミソールとホットパンツって冬場にそれは風邪引きますよ? なんて思考が出るよりも先に、私の思考は別のことでたくさんだった。

 あまりに無防備すぎる。知ってはいましたがあまりに自分のことをわかっていない……何人のウマ娘に狙われているか、というよりノーマルなウマ娘だってそれを見たらおかしくなってしまいかねない。

 

「私で、良かった……」

「へ、なにが?」

「いえ、なんでも」

 

 廊下を通って、リビングに入るとだいぶ暖かい。あの格好でも大丈夫なはずだと、私はコートを脱ぐ。そうするとすぐに、クロネさんが気付いて手を差し出してきてくれるので、コートを預けるとそれを衣装掛けに掛けてくれた。なんだかそれを見ていると、夫婦を連想して……。

 ―――私は、なにを?

 

「よし、えっと暖かいコーヒー淹れようか?」

「あ、いえ、おかまいなく」

「えっと、それじゃあ……と、とりあえず着替えてこようかなっ」

 

 少しばかり赤い顔でそういうクロネさん。やはり部屋着のまま私を入れたのは予定外だったようで、可愛らしく笑う。

 

「あ、このソファ座ってて、テレビ見るなりしてて良いからっ」

「はい、ありがとうございます」

 

 クロネさんが指差すソファのほうへと歩いて、ソファに座ろうとしたその瞬間、突如―――クロネさんが私の方に“押され”た。誰かなんて考えるまでもない、にしてもお友達がどうしてそんなことをしたのかがわからない。なにはともあれ、クロネさんは私にぶつかる。

 

「ふぇあっ!?」

「きゃっ」

 

 クロネさんは私の方へと倒れこむことになるけれど、後ろはソファだしぶつけても痛いこともないでしょう。なんて思っていたのですが、クロネさんは私を掴んで倒れこむ僅かな間に体勢を入れ替える。おそらく、私に気を遣ったのだと思う。なにはともあれそのまま二人でソファに倒れこむ形になったのですが……。

 

「んぶっ……」

 

 私らしからぬ声を出してしまうのは、倒れた拍子にクロネさんの胸に顔が埋まったせい。

 ―――胸に溺れる!!?

 

「ぐっ!」

 

 両手をソファについて体を起こす。いえ、ソファに手をついたつもり……。右手はソファに、左手は、クロネさんの―――胸。些か必至が過ぎたようです。溺れた者は藁をも掴むと言いますが、まさか胸を掴むことになるとは思わなかった。顔が徐々に熱くなっていく。

 

「か、ふぇ……だい、じょうぶ?」

 

 私の下にいるクロネさん。ソファの上に置いてあったなにかに頭を打ったのか……前髪の隙間から見えるのは涙目。倒れた勢いでキャミソールは胸下ほどまでずり上がっていて、視線を少し上げれば谷間、さらに傷一つない白い首、さらに視線を上げれば濡った唇、そして八重歯。バクバクと心臓がうるさい。私の漆黒の髪が、クロネさんの白い肌を塗りつぶすように垂れる。

 

「クロネ、さん……」

「かふぇ……なんか、眼、こわぃよ? どっか痛い?」

 

 私をかばってわざわざ上になるようにしたのはわかるけれど、そのせいで私は歯止めが利かなくなりそうだ。

 視線を降ろせば、程よく肉のついたウエスト、普段はストッキングで隠れている脚も今は隠すものなどなにもない白く綺麗な肌。

 

「貴女は、また、こうやって……無防備、に」

「ど、どゆ、こと?」

 

 胸を掴んでいた左手の力を緩めると、そっと、撫でるように腹に向けて降ろしていく。

 

「んっ、く、くすぐったぃよ」

 

 ―――くすぐったい? 本当に? それだけ?

 

「……クロネさん、私の眼を、見て下さい」

「んっ……ど、どうしたのっ、カフェっ」

 

 ―――うそ。本当は?

 

「ひぁっ、ちょ、ちょっと、撫で、ないでっ」

 

 私の左手は腹を這う。その度にクロネさんがピクリと反応すれば、私の鼓動はさらに早くなり、まるで熱に浮かされたように気分は高揚していく。頭の中がやけにクリア。右手をソファの上から離すと、私はクロネさんの頬に触れ半開きになった口に親指を挿し込み、その八重歯に触れる。

 私が、私が、クロネさんを―――守護らねば、では?

 

「っ!!」

 

 バッと、私は覆いかぶさっていた上体を起こした。

 

「はっ、はっ……」

 

 呼吸が荒い。もちろん私の、クロネさんも涙眼で私を見ていて、呼吸は荒いけれどそれ以上に私のほうが荒々しくその鼓動はやけに早い。両手はクロネさんから既に離れているも、私の両隣にある足に手が触れる。

 

「んっ」

「す、すみませんっ」

 

 私もそれに驚いてすぐに飛び退くと、視線を左右に泳がせる。そのクロネさんを直視できなかったのは罪悪感からか、それとも“自己防衛”のためか……。

 なにはともあれ、今この状況を打開するための提案を探し、ふとカレンダーを見た。

 

「そ、外に、行きませんか?」

「ふぇ? う、うん……いいよ?」

 

 上体を起こしたクロネさんがそう答えるなり、私はコートを取ると廊下へと通ずるドアに手をかける。

 

「で、では着替えを済ましたら行きましょう。お願いします」

「え、あ、うん」

 

 廊下に出てドアを閉めると共に、私は壁に寄りかかってずるずると廊下に座りこむ。自分の両手を見て、なにをしてしまったのかとも思うけれど、あの人はあの人でそれほど気にした様子は無かった……。

 ―――それはそれで、なんだか腑に落ちないのですけど。

 私はそっとドアに耳を当てる。衣擦れの音に再び心音が早まる。

 

「ちょっと、ど、どきどきしちゃった……」

「っ!」

 

 聞いた私が悪いのですが、そういうところです。

 落ち着く必要があるためドアから離れて深く深呼吸。これからは外に出るので私も自制心が効くでしょうし先ほどのこようなことになることもないとは思う。

 私が守護らねばいけないのに、私が獣になってどうするかと、両頬に手を当てて立ち上がる。まさかお友だちがあんなことしてくるとは予想もしていなかった。

 

 ―――それにしても、なぜあんなことを?

 

 

 

 落ち着こうと四苦八苦していると、突然ドアが開く。

 

「おまたせ~」

「い、え……」

 

 はみかみながら現れたクロネさんは、白いタートルネックのセーターと、黒い膝下ほどまでの丈のロングスカート。下にはストッキングを履いているようで、上着には白いファーが付いた灰色のロングコートを羽織っている。中々にこちらの精神に訴えかけてくるものがあった。お友だちがなぜか背中を軽く叩いてきます。

 ―――わ、わかってますから。

 

「カフェ?」

 

 私の顔を覗いてくるその姿に、頭がクラッとした。無自覚だとしたら危険がすぎる。いや、十中八九無自覚。タキオンさん曰く、クロネさんはファッション等にはほぼ無知。正確には自分のファッションセンスにあまりに自信がない故、だそう。つまりは誰かと買い物に行った際にこういう服を選んでもらい買ったとうことですか、やりますねその相手。

 

「行こっか」

「あ、はい」

 

 頷いたは良いのですが、背中を再び軽く叩かれるような感覚。

 ―――わかってますから……。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 深呼吸する私の隣を通って、クロネさんが玄関へと向かう。私も少し深めに呼吸しながら、それに着いていく形で玄関まで行き靴を履く。クロネさんはどうやらブーツのようです。玄関のドアを開けるクロネさんに追従してアパートの廊下に出ると、肩にかけたバッグからキーケースをを取り出し施錠する。

 静かに息をついて、私は覚悟を決めた。でなければいつまでも背中を叩かれる。

 

「さ、行こっか、行き先決めてないけどカフェは」

「クロネさん」

「ん?」

「……私服、初めて見ました」

 

 そう言うと、クロネさんがハッとして自分の姿を見る。

 

「へ、変!?」

「いえ……とても、似合っています。かわいい、ですよ」

 

 できうる限り、極力自然に言う努力はした。それができているかどうかはともかく、クロネさんは一瞬驚いてから、少しばかり頬を赤らめへらっと破顔する。前髪の隙間から見える瞳は左右に泳いでいて、動揺しているようだ。

 少しばかりの間を置いた後に、私のほうを向くと、笑顔を浮かべる。

 

「え、えへへっ、ありがと……」

 

 

 ―――ああ、守護(まも)らねば。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 私は緩む頬を抑え切れないまま、カフェと共に歩道を歩く。

 

 カフェに服をほめられた。私が見繕ったわけでもないけれどやっぱり『似合ってる・かわいい』と言ってもらえると嬉しい。コーデを教えてくれた妹には感謝したいところだ。素直に感謝、素謝だね。

 それにしてもさっきのはなんだったんだろう。“お友だち”関係でなにかあったのんだろうとは思うんだけど、いつもと眼が違う感じしたし、怖いっていうよりは……。

 ―――ど、ドキドキした。ハッ! いけない、私はトレーナー! こんなん懲戒免職になってしまう! 前はライスにもドキッとしちゃったし、相手は女の子なのに!

 

「私はノンケ。たまにドキっとしたところで、別に不思議じゃないっ……」

「どうしました?」

「あ、いやなんでも!?」

 

 道路側を歩いているカフェが私を見てそう言うけれど、私は首と手を左右に振ってそう応えた。

 

「ね、年末に予定ができるのって久しぶり……」

「そう、なんですか? てっきりデートなんかしてるものかと」

「う゛っ、わ、私がそんなことあるわけないじゃないですかぁ」

 

 つらい……。

 

「あ、なるほど、牽制しあうパターンですね」

「へ、どゆこと?」

「いえ、なんでも……」

「えー」

 

 なんだかカフェはなにか納得したらしいけれど、『この人本当に出不精ですね。そんなだからドスコイボディなんですよ』とか思われたら死ねる。まぁカフェはそんなこと思う娘じゃないけれど……。

 

「で、でも今年は、良かったかなっ」

「ん、どうしてですか?」

「えへへ、か、カフェがデート、してくれてるしっ」

 

 多少舞い上がっているせいか、私はそんなことを口にしてカフェに笑顔を向けたのだけれど、カフェはほんのりと紅潮した頬のまま、目を細めて私のことを睨む。

 

「あれ?」

「ホント、そういうとこですよ……?」

 

 

 ―――へ?

 

 




あとがき

大晦日ドラえもんスペシャル的な話

カフェが珍しく暴走しかけましたが、無事に自制
次は1月1日、新年といえば友人枠イベント
そろそろクロネについての話とかも

ウマ娘の小説読んでるとよくオリウマ娘のプロフィールみたいなのあるけどちょっとおもしろそうなのでやってみたい、と思うあたくしでした

それではまた次回もお楽しみいただければー
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