ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々 作:樽薫る
1月1日、昼。
年明け特有のバラエティ番組を見ながら、私はカマボコをかじる。
新年早々に出勤してるトレーナーもいるらしいけれど、私はない。トレーニングもお休みだし、メニューとかも既に作成済みだ。今年に至っては本当にやることがない、ということで私はお家で大人しく引きこもり生活を楽しませてもらうとしよう。そうしよう。
深々と頷いて、私はスマホに手を伸ばせば、丁度メッセージアプリの通知が届く。
「んぁ、シチーちゃんからだ。てか新年早々仕事って、大変だなぁ」
さすが100年に1人の美少女ウマ娘。マネージャーもいるとか凄いなぁ、ホント別世界のウマ娘みたいだ。まぁそれも日々の努力もあるからだっていうのは、見ていればわかる。
―――立派だよねぇ仕事のために色々と、私は働かずに過ごしたい。夢は専業主婦……!
そんな甘い考えに溺れながら私は何度か首を縦に振る。
「昨日はカフェと出かけたし、外出て歩いたからたぶんカロリーとかプラマイゼロだね」
今日は日がな一日ごろごろすると外出ずの誓いをもって、とりあえずソファで昼寝でもしようと頷く。まずは食器を片付けようとした。その瞬間……ケータイが音を鳴らす。
「へ?」
―――理子ちゃ、樫本先輩、なんで?
◆◇◆◇◆◇
アタシ、ゴールドシチーは正月から仕事でスタジオにやってきている。
このあとはインタビューなんかもあるらしく、見慣れたモデルの同期や後輩、先輩だけでなく見慣れないウマ娘もいた。
それでもすっかり小慣れたモデルの仕事、自分の撮影が終わるなり背景紙のある場所から離れて、アタシは椅子に座ってテーブルにスマホを置きながらカロリーメイトをくえわえる。
「ん、クロネ先輩から返信きてる……」
新年の挨拶を送ってから続いてるクロネ先輩とのメッセージのやりとり、その返信を送ってからアタシはなんとなくスマホに入っているアルバムを開く。いらない写真は消去してしまおうとしていると、沢山の写真の中、去年のクリスマスの画像が出てきて、ふと開く。
「ふふっ」
クロネ先輩とタマモ先輩の二人が映った写真、スライドすればアタシも一緒に撮ったものが表示される。ちょっぴり寂しい感じもするけど、やっぱりアタシと一緒のときよりタマモ先輩と二人のときの方がクロネ先輩、良い笑顔をしている。相変わらず眼はうっすらしか見えないけれど。
そうしてると、
「クロネさんね」
「うん、もーちょっとアタシ相手にも心開いて良いと思うんだけどね」
「やっぱり担当ウマ娘と同じぐらいってのは無理よね。私なんてため口で良いって言ってるのにまだ敬語をやめてくれなくて」
―――え、なんで平然と連絡取ってるの、てかなに顔赤らめてんの? え、どゆこと?
「クロネ?」
「え、ああ……どうも」
突然、声をかけてきたウマ娘が二人、片方はモデルの先輩でもう一方は女優業までやっているようなウマ娘。話す機会があるとも思ってなかったから少しばかり動揺しながらも、アタシは頷く。
「クロネって……」
「お二人も、確か母校はトレセンでしたよね。今トレーナーやってるウマ娘なんですけど」
そう話し出すと、二人のウマ娘は顔を見合わせてから恐る恐ると言った様子でアタシのスマホを覗き込む。別にやましいものがあるわけでもないので嫌ではないから良いけれど……。
画面を見たとたん、二人は固まり、少ししてから離れる。
「クロネ先輩、そっか……トレーナーやってるんだ」
「知り合い全員、クロネと連絡途絶えたって言ってたから心配したけど、良かったぁ」
―――え、どういうこと?
「し、知り合いなんですか!?」
「えっと、私の先輩で」
「私の同級生」
まさかの場所で、まさかの繋がり。でもこれって……良いの?
いやそれでも、アタシの口は自然と開く。
「……クロネ先輩について、聞かせて、もらっても?」
二人のウマ娘は、どこか物悲し気な表情を浮かべながらも頷いた。
◆◇◆◇◆◇
理子ちゃん、じゃなくて樫本先輩に呼ばれて私は神社へとやってきた。外出ずの誓いとはなんだったのか……。
昨日のカフェとのお出かけと似たような服装で、道を行く。
案の定、人が多く酔いそうだなと思いながら合流地点へと歩いていくと、見知った顔を離れたところで見つけ、人々の隙間を縫って行く―――ほど細くもないので、大人しく人の流れに逆らったり早く行ったりすることもできず、数十メートルを何分もかけて移動し樫本先輩の下へと辿り着く。
「お、お待たせっ」
「いえ、それほどは……」
「理子ちゃ、じゃなくて樫本先輩は」
また間違てしまい少しばかり焦るけれど、別に樫本先輩が怒っている様子もない。理事長室で注意されたから気にしてたんだけど。
別にそれほどこだわりはない? いやでも厳格な理子ちゃんが気にしないわけもなさそう。ってまた理子ちゃんって言っちゃった。
「別にプライベートですから、気にしませんよ」
「そ、そっか、それじゃあ……り、理子ちゃん」
「……はい」
そう返事をしてふわりと微笑を浮かべる理子ちゃんに、私ははにかんでしまう。
「えへへっ」
「……神前式と教会式どちらが良いですか?」
「へ?」
どゆこと?
「ハッ、私はなにを」
「えっと、理子ちゃん?」
「い、いえなんでも……行きましょう」
「あ、うんっ!」
歩き出す理子ちゃんの隣を私も歩き出す。少しばかり疲れている様子が見えるけど、ここまでくるのにも結構な道のりだったのは想像に難くない。
―――あんま早く歩きすぎないようにしなきゃ……!
ゆったりと進む行列に並びながらも、やはりこの量の人々でごった返している状態だと気分が悪くなる。比喩表現とかではなく、シンプルな人酔い。少しばかりの吐き気、でもこんなところでゲロるようなことがあれば死ぬ。羞恥心で憤死する。
「フーッ、フーッ……」
しっかりと呼吸をして吐き気を覚まそうとするも逆効果、混ざり混ざった香水の匂いなどでむしろ悪化。僅かながら歩幅が狭まるのは自然なことで、仕方の無いことなのだけれど、そうしていると理子ちゃんの背中が遠ざかっていく。
―――ま、まずいっ!
このままでははぐれてしまうと、私は手を伸ばして理子ちゃんの手を握る。
「っ!?」
びくっと跳ねてから、理子ちゃんが振り返って私を見た。知らないわけじゃないからだろう、少しばかり歩幅を狭めてくれる。
「忘れてたわけではないんですが、言ってください」
「ご、ごめんね理子ちゃん……うっ~」
口を押さえて、隣の理子ちゃんによりかかると、理子ちゃんはつないでいた手を離して私の腰に手を回す。たぶん顔が青くなっているんだろう、理子ちゃんは心配そうに私を見る。
「やわらかぃ」
「へ、な、なんて?」
「いえなんでも……それより、すみません」
「う、ううんっ、せっかく誘ってくれたのに、こっちこそ、ごめんねっ?」
「いえ、しかしこの場で言うことでもないですが……少しは耐性、ついたようですね」
苦笑して言う理子ちゃんに私も苦笑で返す。前だったらこのタイミングで、いや最初に神社に入るタイミングでダウンしていたと思う。少し離れたところにもちつきをさせてくれる所なんかも見えるけれど、やる余裕があるとは思えない。
来年にはもうちょっとマシになってれば良いなぁ……レース場なら問題ないんだけどっ。
「出ようにも進むしかないようですね。もうすぐなので」
「うんっ」
返事をして、理子ちゃんのほうに少し寄りかかる。本来なら私のほうが身長は高いけれど、猫背効果もあって身長差はほぼ無い。
腰にそえられた手に力がこめられるのを感じると、理子ちゃんが私をなんとかしてくれようとしてるのを感じられた。申し訳ないなという気持ちよりも、やっぱりトレーナーなんだな、なんて懐かしい感覚に陥る。
「ん、ちょっと……落ち着いてきた」
「それは、よかった……」
「理子ちゃんの匂い、安心するっ」
敷かれた石畳を見ながらそう言うと、なんだか腰を掴む力がさらに強まった気がした。
「ふぅ、そう、ですか……か、階段ですよ」
「へっ……うん」
頷いて目の前の石段を数段上がると理子ちゃんの手が離れる。隣で鈴を鳴らす理子ちゃん、私は小銭を出して理子ちゃんに渡す。少し驚いた様子だったけれど、頷くと小銭を受け取って二人で同時に投げる。
二礼二拍手、二人でそれぞれ祈ることはおそらく自分の担当しているウマ娘の……。
―――タマちゃんが無事にクラシックを走りきれますように……!
ブライアンたちはまだデビュー前、とりあえず欲張らずにタマちゃんのことだけでもお願いする。隣の理子ちゃんはどうしてるだろうと、少しばかり薄目を開けてみると―――妙に血走った目をしていた。
「煩悩退散煩悩退散煩悩退散」
―――どゆこと?
でも一礼はぴったり二人同時にできて、そのままそこを離れるために横に流れていく。そうすれば屋台は出てるし、餅つきもしているだけれど、先ほどよりは人口は減っていた。
気分もすっかり落ち着いたので息をついて、背を伸ばす。めっちゃ胸見られた!!
「なんとかリトルココンとビターグラッセの分もお祈りできました」
「それ以外にも、なんかお願いしてなかった?」
「あ、いえそれはまぁ、その……危機管理といいますか」
さすが理子ちゃん、危機管理なんてちゃんとした大人だ!
「落ち着いてきたけど……どうしよっか」
餅つきなんて理子ちゃんのか弱い細腕がキヌを持ち上げられると思えないし……まぁそもそも私ってああいうのに参加するタイプじゃないんだよね。元気なの苦手っていうか、まぁ多少元気な人がいてくれたほうが場の空気とかは良くなるけど。見てるだけで良いから……タマちゃんとか誘えばよかったかな。
「あ、クロネ先輩!」
「ふぁあ!? あ、葵ちゃん!?」
驚きながらもそちらを見れば、そこには桐生院葵。優秀なトレーナーを幾人も輩出している名門、桐生院家の若きトレーナー。
―――私はね、多少の元気な人と言ったんだ。ありゃパーフェクトじゃないか……。
◆◇◆◇◆◇
トレセン学園のクロネのトレーナー室。
記念すべき新年一日目やっていうのに、なぜかそこに集まってるチームアンタレスの面子。まぁなにもやることないしこうなるわな、トレーニングも今日は休み言われてるしクロネのメニューの関係もあるし、さすがに適当やるわけにもいかん。自主トレ用のメニューももらってはおるんやけど、さすがに正月にやるとは奴さんも思ってないとは思う。
まぁそれにもかかわらず来た理由っちゅうんが……。
「お姉さま、こないのかなぁ?」
「恐らく来るねぇ」
たぶんなにもやることないやろけど、暇やからっちゅうて日がな一日ごろごろって、正月にするわけないやろし……ないよな?
なんて思ってると、ドアがノックも無しに開かれたけど、いつも通り。むしろこのトレーナー室をノックする者をウチは見たことが無い。
「あけましておめでとー」
ウチらのトレーナーこと、このトレーナー室の主であるクロネがきた。
どこか上機嫌やけど、飲んでないやろな? いや、飲んでたらもっと酷いはずやからそれはないか、それより気になるのは私服ってとこやけど、別に規則違反やないはずやし、別にええんやろう。
いや良くない、露出度は一切ない服の癖にいっちょまえにその凶悪な身体の凹凸だけが主張。縦セーターとかもう狙ってるとしか思えへん、この服をクロネに与えた奴は相当キテる。
「その……今年も、頑張ろうねっ」
両手をぐっと寄せて言うクロネ。おかげさまでその凶悪な凶器が寄せて上げられとる。このままじゃ掛かり気味のウマ娘たちの心はこのでけぇオッパイに殺された。
もれなくクロネ耐性がなければ並のウマ娘ならば、確実に心奪われかねない。そこでウチは気づいた。この服装で校内を歩いてここまできたんやなと、とりあえず落ち着く必要がありそうなので、ウチは空いている席ことカフェの隣を指差す。
「お茶でも飲んで、話でもしようや」
「タマッキオ」
「誰がアバッキオや」
座ったクロネはやはりどこか上機嫌。
「どないしたん?」
「おもちがおいしかった」
「なに言うてんのや」
「おもち」
ブライアンがクロネの胸を凝視しながら言うた。
アホや、アホがおる。
「昨日と、それほど変わらない服装なんですね」
「あ、うん。バリエーションないからね。今度誰かに頼んで買い物付き合ってもらお」
おいカフェ、昨日って言うたか? クロネのほうを向くのはええけど反対側のタキオンが凄い顔してんぞ。
「お姉さま、わ、私と一緒に、行こ?」
「ありがとねライス、お願いするよ」
他人というか周囲の心中を知ることもなく、簡単に“獣”に同行しようとする据え膳。
「マスター、私もトレーニングをその……二人で、もっと」
「うん、夢のためだもんね、なんでもするよ!」
「承認、なんでもする……」
ポンコツサイボーグ……。
場合によってはここにヒシアマゾンとエアグルーヴあたりが加わる。いやもっとおるな。
「ほんま、飽きんわ」
「へ、どしたのタマちゃん」
去年出会ったときはこんなことなるとは思いもしなかった。オグリとクリーク、それからイナリで初詣に行ったときは今年もこんな感じかと思うたけど……こうしてみると去年とは全然違う。新しい年が始まったんだと嫌でも実感する。
極めて近く、限りなく遠い。でもウチの頬は自然と綻ぶ。
「今年もよろしゅうな」
「……うん、こちらこそっ」
らしくもなくクロネは―――太陽みたいな笑顔を浮かべた。
あとがき
閑話でも良かったのだけれど普通に投下
そろそろ本格的に色々動かしたいけれど
やることが……やることが多い……!
もうちょっとしたら序盤のようなギャグ回も入れてける、はず
それではまた次回もお楽しみいただければですー