ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々   作:樽薫る

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第32話【過去も未来もいつもの二人!】

 

 ―――クロノネクサス。

 

 ウチがシチーからもらった情報はあいつの名前と、その同級生たちからの印象。仕事中やったからそこまで詳しいことは教えられなかったらしい。こうなれば、本人に聞けばええやろと思ってたんやけど……。

 

 その翌日―――クロネは、体調不良で仕事を休んだ。

 

 放課後、トレーナー室でマルゼンスキー伝手でそれを知って、クロネから預かったらしいトレーニングメニューも渡された。

 ―――よりにもよってこのタイミングってことは、なんかあったか?

 そんなことを思いながら見渡せば全員、それなりに思い当たる表情をしとって少し気になる。だからこそウチは、勝負に出た。

 

「クロノネク―――」

「タマモちゃんタンマ!」

 

 マルゼンスキーがウチの言葉を阻み、さらにカフェ、タキオン、ライス、ブルボンが反応した。唯一ブライアンだけが小首をかしげてるけど、遅かれ早かれだろう。他の四人が知ってたのも意外やけど、なんで知ってるか考えるよりも前に、マルゼンスキーや。

 そっちを見て、ウチは軽くソファに座るように促す。

 

「はぁ~もぉ、どこで知るのよみんな……」

「質問です。みんな、とは?」

「チヨちゃんよ、あの娘はアタシのデビュー直後のレースとかも沢山見てくれてるらしいから、しょうがないけど……」

 

 そう言いながら、マルゼンスキーはソファに座るでもなくカフェが置いたコーヒーメーカーを使ってコーヒーを汲むとそれを持ってソファに座る。

 

「というより、タマモちゃんはなんで知ってるの?」

「シチーから、モデル仲間にクロネの同期がおったとか」

「あ~……なるほどねぇ。まいっちんぐだわ」

 

 相変わらずわからん言葉を使う奴。でもまぁ困ってるというか参っているというか、複雑そうな表情を浮かべてるってことは、なにかしら思うことがあるんやろう……だけどウチもここで止まるなら、そもそも最初から勝負なんかに出ぇへん。

 故に、静かに息をつく。

 

「マルゼンスキー、クロネについて教えてもらおうやないか……ここの面子は知る権利がある」

「……そうね。アタシも隠しきれるとは思ってなかったのよ? ただクロネが嫌がるかなってだけで」

 

 そう言うと、背を伸ばすマルゼンスキー。一瞬全員が身構えるのはクロネの場合を思い出しとるからやろう……ボタン飛ばす女なんて早々お目にはかかれん。

 

「別に面白い話でもないわよ。あくまでアタシ視点の話になるし、ちょっと恥ずかしいことも言うかもだからあまりクロネに教えないでよね?」

 

 少しばかり困った表情を浮かべるマルゼンスキーに、頷くライスたち。

 

「はい、それでも……マスターについて、詳しく」

「う、うんっ、昨日お姉さまと女の人が話してて、それから二人でどっかいっちゃったし……」

「だねぇ、私たちに聞こえたのは記者の人が“クロノネクサス”って名前出したとこまでだったし」

「ということです。ブライアンさん」

「なるほどわからん。話を続けてくれ、追って理解してく」

 

 いや、おおよそは理解したんやろう。ブライアンは深く頷き、その口に枝をくわえた。

 

 微笑を浮かべたマルゼンスキーは頷いて、コーヒーを一口飲むとなにか懐かしむような表情で口を開いていく。

 

「クロネをはじめてみたときのこと、今でも鮮明に覚えてる」

 

 頬杖をついて、どこか遠くを向くマルゼンスキー。

 

「凄く速くて、凄く楽しそうに走る娘がいるなって……」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 あれは、トレセン学園に入学してしばらくが経った日のことだった。デビュー前だったけれど、アタシは模擬レースでも常勝無敗。トレーナーも必要ないぐらいのこと言われてて、アタシもアタシで走るのが楽しいだけだった。

 ただ走る。それだけで満足で、それにしか興味がないはずで……。

 

 複数のクラス合同の模擬レース、かっ飛ばして走りきったアタシは軽く息を切らしながら止まって水を飲む。

 ふと、周囲がざわついているのに気づいてそちらを向けば、みんなこぞって“そちら”を向く―――そして、視線を釘付けにされた。

 

「……あはっ」

 

 思わず、喉から笑い声が出る。自分でも知らない喉から出た笑い。

 

 後ろのウマ娘たちを突き放すその走り。その表情には疾走することに対する歓喜と狂気が浮かんでいる。

 楽しそうに、八重歯をむき出しにし口を歪め、その瞳をギラギラと輝かせ、“やけに低い姿勢”で、黒い長髪を靡かせ疾走するその姿は―――黒き閃光。

 

 脚質は逃げ? 違う。あれは先行か差しだ。証拠に―――スパートでさらに加速。

 圧倒的な一着でのゴール。でも、たぶんアタシの方が速い。

 

 ―――ああ、でも“たぶん”じゃ嫌。アタシのほうが速い。それを証明したい。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 膝に手をついて呼吸する彼女を視界に入れつつ、アタシは近くの同じクラスの娘に聞いた。

 

「ちょい聞きたいんだけど」

「あ、マルゼンスキーさん、どしたの?」

「あの娘、どのクラス?」

 

 そう聞くけれど、目の前の娘は首をかしげて不思議そうな表情で私を見る。

 

「マルゼンスキーさん、同じクラスでしょ?」

「え、あ~……メンゴメンゴ!」

「でも、目立たないタイプだったよね。クラスの端っこの席でゲームやったり本読んでたり……」

 

 だった……なのね。

 

「走り見るまでは、だったけど」

 

 なるほど、と顎に手を当てて頷いたアタシは、たった一人でベンチに向かっていったウマ娘へと近づいていく。タオルで汗を拭いているその娘、先程見た瞳は前髪に隠れていて見えないし、猫背だし、アタシに気づいた瞬間、周囲を挙動不審気味に見渡している。

 ―――あ~、そういうタイプね~オタッキーな感じ?

 

「はろはろ~♪」

「ふぇあっ!? わわわ、私ですか!?」

「私、マルゼンスキー」

「し、知って、ましゅっ……そ、そのっ、い、いま一円も持ってないですけりょっ!?」

 

 ―――これカツアゲだと思われてる!?

 立ち上がって距離を取ろうする。勇気があるんだか臆病なんだかな、目の前のウマ娘。

 思わずアタシも強めにツッコミを入れてしまう。

 

「い、いやいやなんでそーなるのよ!」

「ひゃいっ!?」

 

 怯えさせてしまった。と少しばかり自責の念を感じてからふと、アタシみたいなゲロマブなギャルつかまえてなんで怯えてるのかと、不満にも思う。だけれどやはり、その様子を見ているとアタシが悪いのかもしれないという感覚も芽生えて、もうわけがわからない。

 

「……そのね、ん~なんていえばいいのかしら」

 

 本人を前にして、アタシは想像以上の強敵にどうしようかとも思った。しかし一度走り出したからには早々止まるわけにもいかない。否、止まらない。車は急には止まらない。停止距離があるんだからと、アタシは意を決して言葉を紡ぐ。

 

「名前を、教えて?」

「……く、クロノネクサス」

 

 ―――クロノネクサス。

 

 何度か噛み締めるように呟き、頷いた。

 

「家族からは、クロネって、呼ばれてます」

「クロネちゃんね。アタシもそう呼んでいい?」

「は、はいっ」

 

 そういうタイプなのか、ずっと敬語。

 

「アタシね。貴女と走りたいのよ」

「へっ!?」

「そう思った。こんな気持ちは、はじめて……」

 

 戸惑う少女を前に、アタシはそっと笑みを浮かべた。自然と、笑っていた。

 

「貴女に、アタシの特別になって欲しいって思う」

「へ?」

「だから、よろしくね。クロネちゃん……」

 

 違うかな、特別になるって言うなら。

 

「クロちゃん、とか?」

「へへっ、汚れ芸人みたいだねっ」

「え?」

「あっ、い、いやなんでもっ」

 

 慌てるクロノネメシス、クロちゃん。

 

「そういうことも、これから沢山教えてほしいから……よろしくね。クロちゃん」

 

 そう言うと、クロちゃんはコクリと小さく頷いて見せた。

 

「こ、こちらこそっ、ま、ま……」

 

 突如、少し強い風が吹き、クロちゃんの髪が靡く。それと同時にその綺麗な瞳とアタシの瞳、視線が交差し、アタシの特別たる少女を前に、思わず息を飲む。

 

「マルちゃん!」

 

 ぎこちないそんな笑顔と共に、アタシの中にも、新たな風が吹いた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「って感じかなぁ」

 

 私が、ソファに腰掛けながら長話を終えて一息つくと、“ルドルフ”が淹れてくれたコーヒーを一口飲む。

 ティーカップを置くなり額に張った冷却シートに触れて、ひんやりとした感覚がまだあることに頷くと、隣のソファに座るルドルフとエアグルーヴちゃんにシービーちゃんと順番に視線を送る。

 

 私ことクロネ、いやクロノネクサスは昨日の夜からしっかりと発熱。大事を取って今日は休んだけれど、タイミングがタイミングなせいでだいぶ心配をかけているらしい。とわざわざルドルフが伝えに来た。エアグルーヴちゃんたちを連れて……。

 必要ある? ていうか大事とって休んだのおわかりですか?

 

「元気でなによりさ、私も心配したからね」

「そ、そっか、ありがと……」

 

 私はいつもの部屋着とは違い、前でボタンを留めるタイプのパジャマ。

 

「いつも通りのかわいいクロネを見れてアタシも安心だなぁ」

 

 シービーちゃんが歯の浮くような台詞を平然と言う。私は少しばかり恥ずかしくなり両手でティーカップを持ってコーヒーを再び……。

 

「熱っ!」

「たわけ、猫舌なのだから気をつけて飲め」

「ふぁぃ……」

 

 よく知ってたな私が猫舌だって。

 

「てかなんでこんな昔話……別に、もういいけど」

 

 今更、隠してもどうにかなるもんでもない。そもそもこれを語ることになった理由は、昨日乙名史さんと話をしているのをシービーちゃんが聞いたからで、今日休みだったからそれについて心配してルドルフとシービーちゃんで来たというわけだ。蓋を開ければシンプルに体調不良だったんだけどね。

 エアグルーヴちゃんも色々調べていたようではあるけど、私には辿り着けなかったようで……そりゃそうだ。でも話したのは、たぶん乙名史さんに話をされたときに色々と思うことがあったからだと、自分でも心境の変化があったんだとは思う。

 

「それで、クロネはマルゼンとはじめて会ったときどう思ったの? まるで他人事みたいな話し方で自分の感情が一切乗ってなかったけど?」

「へっ、あ、ああ~、まぁ……」

「たわけ、どうせ女好きの貴様のことだからやらしいことを」

「どこ情報よそれ!?」

 

 私は全然ノンケですが!?

 

「じゃあ、どうだったんだい。たぶんマルゼンスキーにとってはよほど運命的な出会いだったんだろうしね」

「ルドルフ、どんな根拠があって……」

「わかるよ。マルゼンと君を見てれば」

 

 ため息をついて、観念した私は窓の外へと視線を向ける。夕焼けの空、その赤に私は彼女を幻視する。

 

「凄く速くて、凄く楽しそうに走る娘がいるなって……」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 私、クロノネクサスがマルゼンスキーと出会ってから三ヶ月ほど経ったのだけれど、なんとなく変わった気はする。朝も昼も一緒にいてくれたし、おかげで話しかけてくれる娘も増えて、私としては緊張やらの連続だったけど、嫌いではない日々だ。

 寮からの通学途中でも、挨拶されることが増えたし……。

 

「おはようクロちゃん」

「あ、うんっ……おはよう、マルちゃん」

 

 軽く隣に駆けて来るマルちゃんが、不満そうな表情を浮かべつつ私と腕を組んで歩く。周囲から悲鳴のような声が僅かに聞こえるのは、人気者のマルゼンスキーが私みたいなのと腕を組んでるっていうことに対する不満かなにか……。

 

「待っててくれればいいのにぃ~」

「い、いやいや、どうせ徒歩数分の校舎だしぃ」

「そういう問題じゃないのー」

 

 不満そうにツンとそっぽを向くマルちゃんに、困りながらどうしようと思っていると―――突如、背中に僅かな重み、ソレと共に胸が軽くなる。

 

「朝からクロちゃんマルちゃんやってる場合じゃねぇぞ!」

 

 聞きなれた声、それより私は、顔が熱くなっていくのを理解する。マルちゃんも腕を放したようで、後ろを振り向いていた。

 そしてなぜか周囲から上がる感嘆の声。

 

「プレスト! クロネのおっぱい揉むんじゃないよ!」

「おいヒシ! 持ち上げただけだろ! まだ揉んでねぇ!」

 

 マルゼン繋がりで仲良くなった二人のウマ娘の声。

 私は自分の体を抱くようにして振り返って、私の胸を持ち上げたウマ娘を睨むけれど、たぶん顔が真っ赤だし目も見づらいだろうからカッコはつかないだろう。

 私の胸を持ち上げたほうのウマ娘が、もう一人のウマ娘に首根っこ掴まれて離されている。

 

「こ、このアホウがっ! わ、私の乳なんか揉んでなにが楽しいのさっ!?」

「お前の乳意外で満足できねぇぜ」

「ほんとおっぱい星人ねぇ、プレストちゃん」

 

 すると、なんだか首根っこ掴んでいたほうのウマ娘の表情が、固まる。掴まれているほうのウマ娘は―――ほうほう、となぜか感嘆の声を上げた。

 その視線を追うように、私は下に視線を向けると、掴まれているほうのウマ娘の脚が、私のスカートを軽く持ち上げていて……。

 

「……あ、これやべぇな、ごめんクロネやりすぎ……おいおいなんで脚を掴んで」

「そぉりゃぁっ!」

 

 その脚を掴んだまま、私は回転。ソレと同時に掴まれていたほうのウマ娘の体も空中で回転する。

 首根っこ掴んでいたほうのウマ娘はしたたかにその直前で回避。

 

「あれは!?」

「ドラゴンスクリュー!」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ということもあったわねぇ」

「昔からそんなんなんか!?」

 

 マルゼンが懐かしむように話すけど、ウチとしてはツッコミどころの塊や。そういえばブライアンの奴もプロレス技ぶちこまれてた時期があったなぁとは思う。

 軽く横に視線を向けてみれば、ブライアンが苦々しい表情をしとる。

 

「……私こそがオンリーワンでなかったか」

「どんなポジジョン目指しとんねん!」

「そのっ、お姉さま……昔から、そうだったんだ」

「そうなのよ。色々と大変だったんだから

 

 そう言って苦笑するマルゼンやけど、その表情はどこか嬉しそうにも見えた。

 

「で、結局マルゼンはクロネと走らんかったんか?」

「ううん、模擬レースやらなんやらで何十回と走ったわよ……ただそれ以外、公式のレースで走ったことは二回だけ、しかも走りきれたのはただの一回」

「二回、ですか……」

 

 別段珍しいことやない、ただの二回だけ競ったウマ娘。それでもマルゼンにとっては思い入れが違うんやろう。

 

「あの一回は絶対に忘れない。もちろん、アタシが勝った……でも、やっぱりあの娘はギラギラしたあの瞳でアタシを見て『絶対に負けない。次は絶対に勝つ』って、凄い熱のこもった言葉で言ってくれた」

 

 今のクロネからは想像できん熱い感じやな。いや、いざと言うときは熱い……つまり、その胸の奥で燻ってるんやろう。

 

「でもその次は無かった。クラシック……皐月賞トライアルこと弥生賞、それが終わりの始まりってわけ」

「クロネが、走りきれんかったってことか?」

「そういうこと、アタシの後ろにいてくれたあの娘が、ただ一度だけ消えたレース」

 

 マルゼンが浮かべる苦々しい表情は、先程のもんとは違う。

 

「マスターは、自分を影と言っていました」

「……そうね。そう言われてた“紅い閃光(マルゼンスキー)の影”だとか、でも呼ばれ始めたときはあの娘もノリノリだったのよ? なんだったか決め台詞まで作っちゃって」

 

 クスリと笑って、マルゼンスキーはコーヒーを一口飲む。

 

「でも……あの時ばかりは、三女神様を恨んだもんだけどね」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 自宅で、私はすっかり冷めたコーヒーを飲む。少しばかりの肌寒さを感じ、外を見れば既に夕方というより夜に寄ってきて、空は青ざめている。

 身震いすると、ルドルフがそっと立ち上がった。それを追ってエアグルーヴちゃんとシービーちゃんも立ち上がってカバンをそれぞれ持った。

 

「病み上がりにすまなかったね」

「ううん……その、ありがとね」

 

 心配してくれたこともそうだけど、聞いてもらって少し心境の変化が生まれる。

 

「タマちゃんたちにも、話すよ」

「そうしてあげると良い。彼女たちもトレーナーである君に打ち明けられるというのはきっと……なにか、成長に繋がる」

 

 シービーちゃんも軽く手を振ってルドルフと共に玄関に向かう。エアグルーヴちゃんが最後尾なのだけれど、私のほうを向くと軽く息をついた。

 

「……また来る」

「へ、あ、うん……どうぞ」

 

 そう応えると、エアグルーヴちゃんがなぜか嬉しそうな顔で腕を組んで頷く。この娘、おっぱい大きいな。

 ―――ってさぁ! 私他人のおっぱい見るような女だったっけ!?

 

 ノンケの私としたことがと、色々と複雑な感情に押し潰されそうだ。

 

「ぐぅ~やっぱり体調が悪いんだ。きっとそのせいだ!」

「た、たわけそういうことは早く言え!」

「あ、いやごめん大丈夫なんだけど大丈夫じゃないというか」

 

 そう言うと、ルドルフが首をかしげる。

 

「……泊まっていこうか?」

「いやいや大丈夫! うん!」

 

 私はおかしいので怖い。色々と怖い。

 乱心したことで余計な心配をかけてしまったようで、三人ともどこか後ろ髪引かれるような表情で私を見ていて、罪悪感を感じる。私は精一杯の元気アピールをしようと、胸を張った。

 その瞬間、バツンと音を立ててボタンが飛んだ。

 

 ―――やっちゃった。

 

 跳ねたボタンがルドルフの真横を通り過ぎた。私は即座にグッと胸元を抑える。

 

「……ごめん」

「その、腕とか丈とかは余裕あるのに、胸だけパツパツって……凄いね。こう、凄いね」

 

 シービーちゃんのフォロー、だと思う。それに私は羞恥心から顔が真っ赤になるのを感じた。

 

「た、たわっ……」

「……どう、ルドルフ」

「日常坐臥、安心感すらある」

「いつもやってるわけじゃないかんね!?」

 

 思わず胸を押さえていた両手を離して抗議する。

 

「気をつけて! 乳房が零れ出そう!」

「た、たわわっ!?」

「っ!? く、くぅっ……」

 

 エアグルーヴちゃんがなんか言ってた気もするけど、そちらに思考を割くリソースもない。とりあえず前が開きそうなパジャマを押さえておく。

 そうしていると、風邪が遷ったんじゃないかっていうぐらい顔が赤いルドルフと目があった。

 

「その、風邪、悪化しないよう、安静にクロネくん」

「あ、はい」

 

 

 ―――なんかほんと、すみませんでした。

 

 

 




あとがき

マルゼンとクロネの過去回想を入れて、次もちょっと入る予感
まぁあとはちょいちょい話に出すぐらいにしかならない予定

クロネにはいつも通りのオチにって感じで
次の回が終わればいつものノリに戻れるし頑張るゾイ

それでは次回もお楽しみいただければー
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