ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々 作:樽薫る
第34話【母性と性とクロネさん!】
あれから一月が経って、三月。
私はクロノネクサス。元競争バであり、現チームアンタレスのトレーナー。色々とあったけれど、なんやかんやで上手くやっています。
問題も解消して、あとはタマちゃんの回復を待ってからの仕事が盛り沢山だ。
となれば、今できることはブライアンたちのトレーニングなのだけれど、最近は根詰めすぎたのでお休みだ。結果、その恩恵で今日は私もお休み。ということで、さっさと帰る気でカバン片手に廊下を歩いていると、見知った顔を見つけた。
目が合ったので私はそのウマ娘の下へと歩を進める。
「……あれ、オグリ」
「ん、クロネ」
珍しく一人だ。ベルノちゃんもいないし、アルダンちゃんたちもいないよう。
「どしたのオグリ」
「ん、少しばかり……ほーむしっく? らしい」
「へ? どしたの、なにかあった?」
ホームシック……トレセン学園においては、珍しいってほどでもないけれど、確かにいつもよりテンションが低い気がする。耳も尻尾も元気がなさそうに垂れ下がっている。
少しばかり悩んでから、オグリの手を取って歩く。まだ時刻は4時過ぎだ。
「今日、トレーニングは?」
「お休みだ。自主トレーニングを」
「そんなんでやったら怪我するよ。休みならさ、ちょっと付き合ってもらって、良い?」
「……ん」
頷いたオグリを安心させるため、手を握る力を少しばかり強くして歩く。
少し歩いて、曲がり角を曲がって階段を上って、さらに歩いて……辿り着くのは私のトレーナー室。いつも通りのそこに戻ってきてしまったけれど、今回は致し方ない。
鍵を開けて入ると、オグリから手を離して座らせる。
コーヒーを二つ用意して、オグリの前に出すと私はその隣に腰を下ろす。
「それで、ホームシック、だっけ?」
「ん、言われたんだが……元気が出ないだけというか」
「ん~」
そういうパターンでホームシックのパターンは多い。
覚えがある。決して私がホームシックだったとかでなくて、周りにそういう娘がいた。その人数で言えば一人や二人じゃなかった……だからこそ対処法は知っているのだ。
私はそっとオグリの頭を撫でる。
「……どう?」
「どう、とは……気持ち良いが」
「結構いたんだけど、私これでも相談とか結構受けてたんだよ」
そう、だからこそ対処法がわかる。頭を撫でたりしてあげると、安心するらしい……ヒシちゃんが言ってた。
「……ん、少し、恥ずかしいな」
珍しく顔を赤らめて下を向くオグリに、フッと笑みが零れる。あまり感情を爆発させるタイプではないけれど、感情表現自体は豊かなオグリは、比較的わかりやすいほうだ。嫌そうな表情ではないことはすぐにわかった。
私はそのまま“あの頃”のように対処するため、そっとオグリの頭に手を伸ばして、引き寄せる。
「ん?」
「だ、大丈夫だから……っ」
前はそういうもんだと思ってたけど、さすがに久しぶりだと恥ずかしい。私はそのままオグリの頭を胸に抱きつつ、後頭部を撫でる。
「く、ろね?」
「あぅっ、む、昔ね……ホームシックの娘にはこうやってあげると、落ち着いたっていうか……こ、これでも結構、効果あったみたいで何人もしてくれって娘、いたんだよ?」
「それは、その……うん、わかる」
わかるって、安心するってこと?
たぶんそうだろうと、私はオグリの頭を撫でる。耳がピクピクと動いて、視界の端に映る尻尾が少し動き出し、オグリの手は私の背中に回ってきた。
いや、学生同士の頃は全然平気だったのに凄い恥ずかしい……。
「あぅっ……」
「ん、やわらかくて良い。眠くなってくるな……」
「そ、そっか、それはその、よ、良かった……?」
なんか凄い恥ずかしくなってきた。
―――オグリかわいいしやらかいし……ってだからっ、私ったらどうした!
「ん、んぅ……」
「ちょ、ちょっと強く、抱きすぎじゃない、かなっ」
背中に回された腕の力が強くなり、私の胸にオグリがギュッと頭を押し付ける。流石に恥ずかしいものがあるのだけれど、頭と背中を撫でているのは、この娘のコンディションをこのままにしておけないっていうのがあった。
私の“過去”を見たことがある数少ない娘だし、秘密を守ってくれていたし、デビューを控えている大事な時期だ。
「も、もうちょっとやさしく……ね?」
「ん、わかった……」
力が少しばかり緩んだことを確認して、クロネは引き続きオグリを撫でる。
そうしていると、どんどんオグリの力が強くなっていき、ソファの上に私は寝るようになってしまい、オグリはその上から覆いかぶさって抱きつくような形になった。
―――さすがにヤバイ気がする!
「ちょ、オグリ!?」
顔が熱くなってくる感じがして、私はオグリを剥がそうとするけれど、オグリは甘えたような声を出し、私の胸に顔を埋めつつ視線を向けてきた。
「……んむ、クロネ」
「どっ、どしたの……?」
「ん、生がいいな」
―――はい?
「……ちょっと脱いでくれ」
「ちょっ、だだだ、駄目に決まってるでしょ!?」
「この温もり……お母さん……」
「ちょぉ!?」
瞬間、ガチャっと扉が開いた。
―――だからノックしろって!
「ノックしたのだが、どう、し……」
やってきたのは我らが皇帝様。
「る、ルドルフ……み、見ないでいただけたら、と、思い、ましゅ……」
「お、オグリキャップ……」
「ん、ルドルフ……?」
ソファの上、抱きつかれている私。ご丁寧にオグリの背中と頭に手を回してるけど……。
そしてオグリは私に抱きついて胸に顔を押し当てていて、ルドルフは扉を開けたまま固まっている。
どうするよこれ……。
「……!」
オグリが立ち上がると、同時に跳ねるようにして私の上から退く。そのまま即座に駆け出しルドルフの脇を駆け抜け、オグリは廊下を去っていく。
なにも言わずに、なんならカバンを置いて去っていったオグリの顔は、それはそれは真っ赤だった。
私が何かを言う暇もなく、去っていったオグリ。そして残されたのはソファに倒れている真っ赤な顔の私と、唖然としたまま固まっているルドルフの二人。
―――どうしてこうなった!
◆◇◆◇◆◇
ウチ、タマモクロスはクリーク、イナリと歩いてた。
今日は練習もないし、二人も別になんもないようでこのまま寮に帰ってから、どっか出かけようかなんて言うてて、オグリはなんか自主トレするとか言うてたけど……。
手を繋ごうと手を差し出してくるクリークの手を払い退けて、けらけら笑うイナリにツッコミを入れて、なんてしとったら後ろから駆ける音が―――迫ってくる。
「ん? ってオグリ!」
「ッ!」
凄まじい勢いで走ってきたオグリがウチの前で止まった。
クリークもイナリも驚いた様子でオグリを見ているが、真っ赤な顔のオグリは肩で呼吸をしとるし、目には動揺が見て取れる。
「オグリちゃんっ」
「ど、どしたんでぇ!?」
息を切らしながらウチを見るオグリ。
「た、タマ……」
「な、なんや!?」
「……わ、私にはお母さんがいる。優しいお母さんだ」
―――どうした急に……ほれ見てみぃ、クリークの目がなんかおかしな感じになっとるやんけ!
「し、しかしだ……」
「なんや」
嫌な予感がする。
「……クロネは、私の母になってくれるかもしれない」
―――ハァ!?
「ママじゃない……クロネさんは……オグリちゃんのママじゃないんです」
「そ、そうでぃ! どうしたオグリ!?」
「あ、暖かいんだ、温もりがっ!」
―――どういう展開や! どういう展開なんやぁ!!?
「私がママです!」
「黙らんかいクリーク!」
―――クロネぇぇぇっ! 今度はなにやりおったぁぁぁっ!!?
◆◇◆◇◆◇
固まる二人、
私は深呼吸をして、上体を起こして座ると、コーヒーを一口飲んで、再び深く息をつく。
覚悟を決めてルドルフのほうを見て、頷いた。
「ご用件は?」
「今のを無かったことにしようと……!?」
「無理、かな?」
「無理じゃないかな」
―――だよね。
私は立ち上がって、オグリが残していったコーヒーを一気飲み。
すぐに新しいコーヒーを淹れて、テーブルに置いた。
「茶でも飲んで、話でも、どう?」
「……どうして、オグリキャップなんだ?」
これは勘違いしてるなと、察しの良い私は即座に理解。
「ち、違くて! は、話を聞いて欲しい!」
「……わかった。一応は聞こう」
「一応じゃなく聞いて欲しいなぁ」
―――なんでちょっと不満気なのさ……。
ルドルフはなぜか私の隣に座って話しの続きを促す。
仕方が無いので、ありのまま起こったことを話すことにした私は、一つ一つ順を追って話しを始めていく。オグリがホームシックらしいこと、私の現役時代も良くあったということ、友達にそれをなんとかしてあげる方法を教えられてそれをやったこと、結果は出てたこと、そしてオグリにした。
なんて簡潔的でかつわかりやすい説明、ということでルドルフは納得したはず。
―――なんで悩んでる感じなんですかねぇ。
「……駄目?」
「いや、納得した。クロネくんはそういうタイプだ」
「ほ、褒められてる?」
「こう、友達なら無条件で信用してしまうのはこう、よくないんじゃないか?」
友達少ないんだから信じるよ!
「……そ、そんなにいいのか」
「へ、なにが?」
「……その、クロネくん」
「ん?」
「少し、私も……」
―――なるほど! でも、ルドルフにやる!? さすがに恥ずかしい気がするっ。
しかしこれも無実を証明するため、私がここで躊躇したり断るほうがオグリを狙ってた感が出てしまう。ということで私はそっと横を、ルドルフのほうを向いて手を広げる。
この行為自体、昔はそれほど気にせずやってたんだから私って昔はもうちょっとコミュニケーション能力あったんだなぁと思う。
顔が赤くなっている自覚はあるけれど、仕方ないのでルドルフと目が合うと、頷く。
「ど、どうぞ……」
「っ……し、失礼して」
そっと両手を伸ばしたルドルフは腕を私の脇下に手を回して、そっと身体を私のほうへと近づけ預けてくる。緊張しているようで、少しばかり赤い顔。ゴクリと喉を鳴らし、ルドルフは私の胸に顔を埋めた。
少しばかりの圧迫感を感じる私だけれど、慣れたものでゆっくりとルドルフの頭に手を回して撫でる。オグリにやったように……しかし。
―――るっ、ルドルフは違わないっ!? なんかこう、違うわこれっ!
「ん、これは……確かに……」
―――なにがっ!? うわっ、めっちゃ恥ずかしくなってきた!
「ふむ……」
「えっと、る、ルドルフ……」
「このまま、もう少し……」
「えっと、あ、うんっ」
片手でそっとルドルフの頭を撫でる。サラサラと流れるような髪、時折耳がピクッと動くのが可愛らしい。尻尾がゆっくりと振られているのが視界の端に映る。もう片手で、その背中をそっと撫でていくと、尻尾の動きすらも止まっていく。
ルドルフの息遣いが、なんだか深いものになっていくのがわかる。
「……ちょ、蒸れてるから嗅ぐの駄目だよっ!?」
「少しだけっ、少しだけだっ!」
「キャラ違くない!?」
グッと私を抱く腕に力をこめるルドルフ、そのままオグリとの時のように私がソファに横になる形になり、ルドルフは覆いかぶさった形に……。
―――あれ!? またっ、よろしくないよ!? 嗅ぐなルドルフ!!
「んむっ、この温もりっ……この暖かさを持った人間が地球さえ破壊するんだ。それを分かるんだよ……」
「突然の大佐っ!」
「ぐっ、抗えないっ……唯一抜きん出て、並ぶ者なしっ……」
「大事な言葉でしょぉがっ」
どうせ力では抗えないので抵抗するのはやめたのだけれど、少しばかり体勢が苦しいので身体を動かすけれど、ルドルフも身体を動かす。結果、私の足の間にルドルフが入って、私に抱きついてる形になる非常によろしくない体勢。さらに、背を逸らして動こうとした瞬間……。
バツッ、とくぐもった音が聞こえる。ソレと共に私の胸が少しばかり涼しくなった。
「やっ、ちょ、マジで、このタイミング……?」
「……な、なま」
「ちょっとその表現やめてもらいたいかなっ!?」
たぶん私は耳まで真っ赤なんだろう。
ルドルフの顔が当たってる部分がもれなく開いていて、私の肌とルドルフの肌が当たる感じがする。それ以上にその吐息がくすぐったく、ビクッとなってしまって恥ずかしい。ルドルフを撫でる手が時折、跳ねてしまう。
―――ていうかまだ続ける!?
「ちょ、ちょっとルドルフっ、もぉ、んっ」
「ルナ……んぅ」
「んぁっ、な、なんてっ?」
本当にくすぐったいから、そろそろ離れたいけれど……。
「ルナって、呼んで、ほしいんだ……」
胸に埋もれてたルドルフが、顔を半分だけ出してくる。その瞳はいつもの皇帝シンボリルドルフとは違うように見えるし、大人びているルドルフはその時ばかりは年相応の少女のようにも……。
きっと皇帝にも色々とあるのだろうと、私は深く息を吐く。くすぐったいのであまり喋って欲しくはないけど、甘えてくれているならそれは……。
――-嫌ではない、かな……?
「……る、ルナ?」
「んっ……」
ルドルフが再び私の胸に顔を押し当てて埋もれる。なんだか保護欲というかそういうものが、刺激される気がする……。
そっと、その頭を撫でながら、そっと丁寧に言葉にする。
「ルナ……」
「んぅ……」
なにか溜まってるのかもしれない。やはり重圧というものもあるんだろう。
「ルナは、その、いつも頑張ってるから、たまには……ゆっくり休んで、ね?」
「……ん」
コクリと頷くルナの頭を、そっと撫でる。
「……ルナ、その、ルナってなに?」
返事がない。ただのルドルフのようだ。
「んっ……あれ、ルドルフ?」
「すぅ……」
「……寝てる」
これは一体どうするのが正解なのだろうかと、悩みつつ周囲を見渡す。誰もいないし、誰かいても困るけれど、しかし助けが必要だ。このルドルフをたたき起こすのも非常に心苦しい。
せっかくなのでそっと寝かせておいてあげたいのだけれど……。
―――てかオグリ、大丈夫かなぁ?
そんなことを考えていると、廊下を歩く音が聞こえてくる。嫌な予感がビンビンする。
「到着! クロネトレーナー実は―――」
―――また理事長かい!
「……」
「り、理事長、コレには深いわけが……」
涙目の秋川やよい理事長が思い切り目を瞑る。
「再来! こいつらうまぴょいしたんだ!」
「うまぴょい言うな」
「ああ~!」
走り去っていく理事長。一体なんだったのか、というかまた噂になるパターンじゃないだろうか……マルゼンスキーの次はルナ、じゃなくてルドルフとか噂がたったら大惨事不可避だ。
どうしようかなぁ、なんて思っているとふと気づく。扉が開けっ放し。
「これは不味い……」
なんて思っていると、私の事情に詳しいかはわからないけど、助けてくれそうな娘がそこに現れた。
「あ、丁度いいところに、ちょっと事情があって、手伝ってもらえたら
「み゛!!?」
―――デジタルちゃんさん!!?
あとがき
ちょっとギアを一つ上げた回
クロネにはなにをしてもよい
こっからはギャグ回入れ放題、いや放題はウソかも
どんどんみんな掛かっていく……ブレーキがどこかに必要な気がする
では次回もお楽しみいただけたらですー