ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々 作:樽薫る
タマモクロスちゃんと翌日の約束をし、私は帰ったらトレーニングスケジュール作りだ。
できないなぁ、ゲーム……。
まぁいっか、とりあえずやることは決まったし、あとは……。
「うわぁ、めっちゃ降ってる」
怪しかった雲行き、しかしまぁここまでちゃんと雨降るとは……。
一時的にタマモクロスちゃんを受け持つことをたづなさんに説明して、なんてしてたら時間も経っちゃってこのザマだよぉ。
寮だったら近いし問題なかったのにな……。
ま、傘借りてけば良いしいっか! 職員室~。
ということでたぶんほとんど人のいない職員室に入る。
傘傘、って……。
「おや、クロネ君」
「……し、シンボリルドルフさん」
「ルドルフで結構だよ」
フッと品格良さげな笑みで言う皇帝さん。
「えっと、ルドルフさんは……なんで?」
「君に会いに来た、といえばどうする?」
ひぇっ! 冴えない私に学園の王子様が迫ってくる系!? しかし私にはそっちのケはない!
「じょじょじょ、冗談はおよしになってくださいましっ」
「ははっ、済まない。少し書類の確認をね。もう帰るところさ……」
私、一応年上でトレーナーなんだけどなぁ。威厳もくそもないなぁ。
そうしていると、ガラッと職員室の扉が開いてもう一人―――ウマ娘が入ってくる。
なんかこう、無頼というか……はぇ~かっこいい感じ。
「おい会長、エアグルーヴが……ん?」
「ブライアンか……」
ブライアン……?
「クロネ君、彼女は―――」
「ナリタブライアンだ……ウマ娘でトレーナー、最近になってきた奴か」
「ああ、クロネ君だ」
「ん」
無愛想ながらも返事をして、ナリタブライアンさんが軽く頷いて―――私を見る。
「え、な、なんで……しょうか?」
「いや、スーツなのにインテリジェンス的なものを一ミリも感じない」
「!!?」
そんなことある!? どゆこと!?
「スーツが備える知性という要素を、浮き彫りになったボディーラインが見事に殺し、卑猥としか表現できない何かになってしまっているな」
「お、おいブライアン」
「リポーターみたいなこと言う!? てかそんなことある!?」
「目の前にな」
私を指さしながら言いやがりますわこやつ。
「うぅ、まさかそんな……!」
「いや、すまん言われ慣れてるものとつい」
「慣れてねぇわ! てかそんなこと言ってくれるほど仲良い娘もいなかったけど! ハハハ!」
「壊れたか?」
「壊したの間違いだよ!?」
ナリタブライアンはフッと笑いながら踵を返しやがりました。
「……また会おう」
「ぶっちぎりで嫌だよ!」
私の言も虚しく、ナリタブライアンは尻尾をフリフリ揺らしながら出て行った。
勢いよく、ルドルフさんの方を向く。
「どゆこと!?」
「……すまないクロネ君」
まさか私が初対面相手にここまでやらされるとは! ナリタブライアン、二度と忘れん!
ルドルフさんが奥に行ってから、戻ってくる……傘片手に。
「傘だったな……ラスト一本、あるようだ」
「あ、す、すみません。気を遣わせちゃったようで……」
「いや、気にすることはない。ブライアンが失礼を」
「と、ところで……る、ルドルフさんは思ってませんよね?」
目を……逸らした。
「あ、あぁ……」
「絶対思ってるじゃん!?」
「唯一抜きんでて並ぶもの無し……だな」
「嬉しくねぇわ!」
「フフッ」
―――なに笑ろとんねん!
◆◇◆◇◆◇
職員室の外、ナリタブライアンは静かに息をつく。
壁に寄りかかって脳裏によぎる女を思い出した。
周りにいなかったタイプである。見た目も中身も……。
「……」
少しばかり考えてから、天井を見上げた。
「……悪くない」
なにやら背筋にゾクゾクとしたものを感じ、尻尾が揺れる。
その顔はどこか、楽しそうに見えた。
◆◇◆◇◆◇
ルドルフさん、いやルドルフと別れて、私はようやく帰る。
校舎を出ようとすると……。
雨宿りしてるウマ娘ちゃん?
傘も持っていない小さなウマ娘が、そこから跳び出そうとしているように見えて……。
「えっと、大丈夫?」
「ひゃっ」
割と、話しかけやすいのは私と同じ感じがするからかな。
なんていうか、陰の感じ?
「あ、ああごめんね……私、トレーナーなんだけど」
「あっ、知ってます……」
「ほっ、そっか」
幽霊に間違われなくて良かったよ……ぐぅっ! トラウマが!
なんとか心を落ち着かせて、軽く笑いかけて警戒心を解く。
これが大きかったり、威厳ありそうなウマ娘ならもれなく落ち着かないことだろうけど。
「えっと、私はクロ―――クロネ。貴女は?」
「ら、ライスシャワーです」
ほぉ、めでたい名前……てか可愛いな。
タマモクロスちゃんもそうだけど、デカ女としては羨ましい……。
「ライスシャワーちゃん、傘忘れたの?」
「は、はい……」
寮まで走ってもこの感じなら濡れるだろうし。布袋に本が入ってるし。
大事そうに抱いてるとこみると、たぶん……。
「これ、使って良いよ」
「え、でもく、クロネさん……」
「大丈夫、また職員室に取りに帰るから、ね?」
無条件で優しくしてしまうのは、なんだろう……重ねてる? いやいや!
「まぁなにはともあれ、ね。使って?」
「あ、ありがとうございますっ」
受け取ると、頭を下げてライスシャワーは去っていく。
どこか嬉しそうな顔で、手を振ってから、傘を差して……。
私はというと、リュックサックを背負い、ネクタイをキュッと締める。
「久々に……走りますかぁ」
パンプスだけど、まぁ普通に走れば問題ないでしょう!
もう少しして、ライスシャワーちゃんが確実に帰ってからにしよ……。
◆◇◆◇◆◇
寮の部屋へと戻ってきたウチは、鞄を置いてベッドに座る。
ふと、目の前に葦毛が映った。
「なぁオグリ」
オグリキャップ、ウチのルームメイトで……ウチと一緒の地方から中央へとやってきたウマ娘。
「ん、どうした、タマ?」
「まだわからんけど、よーやっとスタート地点やな」
「選抜……勝った?」
ウチは首を横に振る。
「選抜なんか通過点やと思ってたんやけど、まずそこからやったわ」
「そうなのか」
「ああ、先を見すぎてても勝てんし、手前だけでもあかん……」
だからこそたぶん、パートナーが必要なんや!
「仮契約やけど、一時的にトレーナー引き受けてくれる人見つかってな」
「ほう、それは良かった。タマは、すぐ強めのツッコミを入れるから」
「自分だけにやろ! あとクリーク!」
思わずツッコミを入れてまう。
「あんな、オグリ」
「ん?」
「先、行ってるわ」
「……ああ」
フッ、と笑うオグリに、ウチも笑顔で返す。
なんか知らんけど、あのトレーナー、クロネならやってくれる気がする。
短い付き合いやけど、そんな気がするんや!
「ん、タマ」
「どした、外見ても雨降ってるだけやろ」
「牛のような胸をしたウマ娘がスーツ姿で駆けて行った……傘も差さずに」
「なにやっとんのアイツ!?」
◆◇◆◇◆◇
ライスシャワーちゃんに傘を貸してから走って帰ってきたわけだけども……意外と悪くない速度出た気がする。
家に帰って、びしょびしょのスーツを脱ぎ、そのままシャワーに直行。
バスタオル一枚巻いて出ると、ぼさぼさの髪をタオルで拭く。
「……さて、どうしようか」
あ~髪やら尻尾からぼたぼた水滴垂れるし……スーツもかけないとか。
ガサツさがこういうところで出てしまう。ちくせぅ。
「っと……」
スーツをかけ終える。クリーニングは休日に出そう。
タオルで髪をまとめて、もうちょっとちゃんと拭いたら着替えることにする。
いっそ裸族なら楽なんだろうなぁ……。
ドライヤーで髪を乾かし、寝間着にしているシャツとホットパンツに着替えてようやく落ち着く。
ワンルームの部屋、ベッドに腰を下ろして息をつく。
「晩御飯食べ……あ」
なにも買ってない気がする。
仕方ない、カップ麺で良いかぁ……こういうことしてると太るんだよなぁ。
「さっさと食べて、トレーニングメニューつくらなきゃね」
タマモクロスちゃんを勝たせる。
私のためでもあるし……それを抜きにしたって……。
思い出すのはあの時の必死の表情。
『ウチは勝ちたいんや! 勝って勝って勝たんとあかんのやッ!』
あの熱は、私の中から失われたものだ……“あの頃”にあったかもわからないけど。
でもきっと、あれが必要になるんだろう気はする……。
「よし、頑張るかぁ……!」
久しぶりにやる気出たし!
タマモクロスちゃんも頑張るし! ライスシャワーちゃんもかわいいし! ルドルフはなんか笑ってるし! ナリタブライアンは絶許だし!
とりあえず、電気ポットのスイッチを押すところから始めよう!
◆◇◆◇◆◇
次の日の放課後、ウチはトレーニングコースにきた。
昨日はなかなか寝付けんかったなぁ……。
まぁ色々と心配事も多いししゃあないんやけど、これじゃあかんよな。
授業中もうとうとしてまうし、昨日の今日やし今日は軽くトレーニングやって解散が関の山やろ。
お、もうおるやん……ってジャージ?
「あ、タマモクロスちゃん……」
「おっす。早いなぁ! やる気満々でなによりや! ウチもやけど!」
「えへへ、私も久しぶりに色々考えてたらおもしろくなっちゃって」
そう言って笑うクロネのジャージ、そのチャックは……胸の下あたりで上に締まってへんかった。
「……」
「な、なにかな、気にしないで良いからさ」
「エロだな」
「どぉわ! ななな、ナリタブライアン!?」
「ブライアンで良い」
突然、クロネの後ろに出てきたブライアンに、クロネは飛び退いてウチの横に来る。
「……タマモか」
「あ~ブライアンか」
「クロネ、お前タマモの担当なのか?」
「い、いや違うけど……」
そう言うと、ブライアンは『ふぅん』と相槌を打って僅かに笑った。
珍しい表情やなとは思う。そもそもそこまで付き合いがあるわけでもないけど……。
新時代の怪物候補がこうも……。
「まぁ良い。まだその時じゃないしな……」
「なに言っとんの?」
「なんでもないさ、おいクロネ」
「ななな、なに?」
クロネに近づいたブライアンは、ジッとクロネの顔を見とる。
「……ん」
もにゅっと、音が聞こえた気がする。
無言、無音……ウチも、クロネもや……。
そりゃそうや、突然ブライアンが……クロネの乳を揉みおった。
「……すごいな、私や姉貴も大きいが、これはすごい。こう、すごい」
関心したように言う語彙が死んどるブライアン。
クロネは口をあんぐり開けてとまっとる。
「メカクレ豊満ガサツ系、属性が大渋滞してると言っていたデジタルの言葉もうなずけるが……まだ言葉が足りない気すらするな」
「お前そういうタイプやったっけ!?」
「むしろ失礼かと思ってな、揉まねば」
「ちゃうやろ!? どこに置いてきた大事なもの!?」
「……おかしい。私はどうしたんだ」
「こっちのセリフや!」
ブライアンはクロネのやつに背を向けて、再び笑みを浮かべる。
「私のトゥインクルシリーズが楽しみだな……」
「すくなからずこいつ担当してくれる気がせんけどな、もう」
とか言ってたら、クロネが突然ブライアンの背中に抱き着きおった。しかも前に腕を回して。
「まさか落ちたか!?」
「ポジティブの神でもついてんのか!?」
「―――ッ!」
ブライアンの身体が持ち上げられて、そのままクロネはブリッジをするようにブライアンの身体を―――ターフの上に叩きつけおった。
「なんやとぉぉ!!?」
「芸術ッ! 見事なジャーマンスープレックスだ!」
「理事長!?」
「ワン! ツー! スリー!」
突然出てきた理事長とたづなさん。たづなさんがスリーカウントしたところでブライアンの身体を離してクロネが立つ。
ちなみにブライアンの奴、しっかり気を失ってるっぽいけど……。
立ち上がったクロネが、ハッとしてブライアンの方を向く。
「ごごご、ごめんねっ、学生の時の癖で!」
「どんな学生時代や! トレセン学園魔境やったんか!?」
っていうか理事長たち消えおった!? なぜに!?
「えっと、ブライアン放っておいていいよね?」
「ええと思う」
ということで倒れたブライアンを放っておいて、トレーニングや。
こんなん続けてたらスタミナと根性はつきそうやけどそれ以外はからっきしやろし。
さっそくウォーミングアップを始めようとしてたら、クロネが近づいてくる。
「タマモクロスちゃん……これ」
「へ、これ……」
「トレーニングメニュー。一応組んだよ、次の選抜まで……模擬レースとかも含めて」
そのノートを受け取って、パラパラと中を軽く確認してみた。
「凄い量やんけビッシリやし、細かい……まさか昨日?」
「まぁ、現役時代の知識使って……軽くまとめただけだけど、もっといじるとこあるから、やりながら手直ししてくから、ね」
「……仮やのに、そんなに」
「私達の関係は仮でも、タマモクロスちゃんの勝ちたいっていうのは……本気でしょ?」
昨日よりも、一昨日よりも物腰柔らかに、そう言ってくれるクロネ。
ウチのためなんかに、対して互いも知らんのに……。
「ありがとな」
「へ、なんて?」
こすられすぎたネタやんなや!
「……まぁ、せやけど気合入ったわ。ウチの本気を応援してくれるあんたがいるんやから」
ぐっと、自然と拳に力が入る。
「さて、始めよか! ビシバシ頼むでッ!」
「うん、頑張ろうね!」
両手よせんなや! クリークか! 乳が! 乳がすごいことになっとる!
「ってうちもなんつー思考になってもうたんやぁ!」
「ひぇっ、だ、大丈夫?」
「大丈夫や! ブライアンよりは!」
「あ、それたぶん、まともじゃない発想……」
アイツ、すっかりヤベー奴扱いやなぁ。
「タマモクロスちゃん?」
「……タマかタマモでええよ」
仮とはいえ相棒なんやから。
「……うん、よろしくね。タマモちゃん!」
そう。このときから始まった。ここから始まるんや。
このときのウチにしっかりと、伝えたりたい。
―――ウチは今から色ボケにされる。
あとがき
スタミナはダメや、根性だけで更新してるよ
とりあえずまだプロローグというか、タマがデビューしないと日常回もできないので
ブライアンは犠牲になったのだ。ギャグキャラ化の犠牲に……
今回は二話に分割してみようかとも思ったけど文字数が少なくなりそうだから合体
日常とかはよ書きたいなぁ、そしたらいろんなキャラ出せるし
それにチームメイトとかも増えたりー
なにはともあれこれからですんで応援お願いしますー