ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々 作:樽薫る
―――選抜レース当日。
私は最も前で、ゴール付近に立ってレースの開始を待つ。
こうなればできることはもう……応援するぐらいだ。
私が『楽しんで』と言った手前、緊張する。
信じていないわけではない。だが、それでも緊張はする。
「ふぅ……」
「手でも握っておいてやろうか?」
「どわっ、ぶぶぶ、ブライアン」
いつも唐突に出てくるね!
「だ、大丈夫だからっ……」
「まぁ私もタマモの邪魔をするつもりはないしな、見守っておくとしよう」
「た、タマモちゃんと友達になったの?」
「いいや……同志、だな」
フッ、と笑うブライアンだけど、なんか違う気がする……。タマモちゃんの返事ちゃんと聞いたうえでの同志か怪しいなぁ。
「そろそろか」
「あ、うんっ」
頷いて、両手でメニューが挟まれたファイルを抱く。
手に自然と力がこもり、ファイルが僅かに歪む。
「あざといポーズを……」
「ん、なんて?」
「いや、なんでもない……お前本当に、自覚ないのか?」
「なにが?」
馬鹿にしたような顔をしてくれやがりますブライアン。
なにはともあれタマモちゃんのレースだ。私が担当してあげれる最後のレース……。
深く息をついて、その時を待つ。
『各ウマ娘ゲートに入りました』
「間に合ったわね」
「マルゼンスキー……?」
「クロネの仮契約の子でしょ、みとかないとね」
なぜに? まぁこれが最初で最後のトレーナー業かもしれんしね!?
「なんて顔してるの、しっかり見ときなさい」
「わかってるよ」
約束した。契約した。私が見ると、勝たせてみせると……。
「……始まる」
―――ゲートが、開いたッ!
『今、スタートが切られましたっ!』
それと同時に、耳と尻尾が一瞬、ピンと跳ねる。
私が走るわけでもないのにこの緊張、トレーナーってこんな感じなんだ……!
脚質的に溜めるべき場所、タマモちゃんはしっかりと脚を溜めている。
本番さながら、あの娘たちの緊張はすごいんだろう。
タマモちゃんにまだ動きはない。そう……まだだ。
前までとは明らかに違う走り。
『最終コーナーに差し掛かるも以前縦に伸びた展開っ! 後ろの娘たちはここから間に合うのか!?』
「タマモちゃん……」
トレーナーとして、できることはやった。
だからあとは……お願い!
―――タマモクロスが、雄叫びと共に強く大地を踏みしめる。
「うおぉぉぉぉっ!!」
「タマモちゃん……!」
「あら……」
「これは……」
隣のマルゼンスキーとブライアンが感嘆の声を上げた。
『タマモクロス上がってきた! 後ろからタマモクロスっ! タマモクロスが一気に抜け出したぁッ!!』
楽しそうな表情、それを私は知っている……。
―――真剣に、楽しそうに、走りきる。
『先頭はタマモクロス! タマモクロスです!』
―――そう、これが。
『凄まじい追い上げで、見事勝利を掴みましたぁぁぁっ!!』
「っしゃぁっ! これがウチ! “白い稲妻”タマモクロスや!!」
青天の下、白い稲妻は右手を上げて笑う。
楽しそうに、嬉しそうに……。
「以前よりも随分と余裕のある走りね。ポテンシャルを見誤ったかしら」
「終盤のあの豪脚、小柄でパワー不足かと思っていたが、あなどれんな……」
ふぅー! タマモちゃん大勝利!
タマモちゃんが私のところに、楽しそうで嬉しそうに駆けてくる。
「やったでやったでやったで~ッ!! 見とったか、ウチの走り!!」
「うん……っ! すごかったよ、白い稲妻……!」
「これもアンタのおかげや! ホンマに……ホンマに、ありがとうなっ!」
私は、首を横に振る。
「タマモちゃんが、頑張ったんだよ」
「へへっ……」
「私は応援しただけだから……」
「でも、そのおかげでウチは白い稲妻になれたんや」
笑みを浮かべるタマモちゃん。
他のトレーナーたちはタマモちゃんに話しかけようとしてるみたいだ……。
「これからも、応援してるね……」
「ッ……」
「頑張ってって、ずっと思って―――っと!?」
横から、マルゼンスキーに肘でつつかれる。
わざわざ首をかしげると、ジトっとした目でにらまれた。
―――わかってるけど……。
「いけず、唐変木、ほんっとあなた……」
「これはないな」
ブライアンまで! いやいや、だって怖いって言いますか、うぅ……よ、よしやるぞ!。
「……た、タマモちゃん―――」
「ウチな!」
「へ?」
「ウチ、選抜レース終わって、仮契約も……これでまたフリーになったわけなんやけど」
―――私が、臆病なだけか。今だけは素直になっても大丈夫かもしれない。
「どうしてもな、ウチのことスカウトしてほしい人が―――」
「私頑張るよ!」
「―――おんねん、ってコラァ!? 最後まで話させろや!?」
「でも嬉しいよ。すごいっ」
「すっ、素直か!? こっちが恥ずかしくなるわっ!」
そう言って、少し赤い顔でそっぽを向くタマモちゃん。
だけどすぐに、タマモちゃんは笑みを浮かべてこっちを向く。
ニッと笑うタマモちゃんが、口を開く―――。
◆◇◆◇◆◇
―――妙に気になるな。
「どうしました会長?」
エアグルーヴが話しかけてくる。
観客席の最上段で、私―――シンボリルドルフと、エアグルーヴで選抜レースを見ていた。
いや、選抜レースが終わって私の視線は一点に……。
「例のトレーナーですか?」
「クロネ君もそうだが」
「か、会長もですか?」
「……ブライアンとは種類が違うが」
その言葉に、エアグルーヴは安心したように息をつく。
「なら結構です。それにしてもブライアン、どうして」
「さぁ、恋はなんとやらだよ」
「同性ですよ? 別に良いとは思いますが、私にはわからない世界です」
「気になる男性でも?」
「そ、そういうことではありません!」
ただ……と言い淀むのを見て、思わず苦笑する。
「意外とエアグルーヴも好きになるかもしれないぞ?」
そう言う意味ではないが……。
「あ、ありえません! あのダラしない感じが特に!」
「フフッ、そうか」
私は今一度、視線をクロネ君たちの方に向ける。
現状、気になるのはタマモクロス。
彼女に妙な感覚を覚えているのを否定できない……胸騒ぎ、とも違う。
「新たな嵐の中心、か……?」
「……あのトレーナーですか?」
「いや、タマモクロスだ」
「あっちの小さなウマ娘が、ですか?」
「わからないが」
思い出すのは我が好敵手―――ミスターシービー。
「近くで、話してみては?」
「いや、良い。すぐに機会は訪れるよ。それに……」
「それに?」
―――ここだ!
「近くで話しても
◆◇◆◇◆◇
―――私は理事長室に、タマモちゃんの担当となるということを伝えにきた。
柔らかなソファに身体を預けて、一安心と息をつく。
担当トレーナーがほしいけど決まっていない、という娘に声をかけるって手も最終手段としてあるんだけど……。
やっぱりそこにこだわるのは私自身がそうだったからかもしれない。
「喝采! 見事タマモクロスを勝利に導いたな!」
「まぁまだ選抜ですけど、次はメイクデビューかぁ……」
「あの調子なら余裕そうではありますけどね?」
確かに、先ほどの感じならばタマモちゃんがメイクデビューで……よほどのことがない限り負けるとも思えない。
だけども油断ならないのも事実で……。
「もうしばらくは頑張らないとかぁ……」
「報告! クロネトレーナー、ずいぶん注目株みたいだぞ!」
「へ、そうなんですか?」
「ええ、タマモクロスを一週間ほどであのレベルまで育て上げましたから……それにどうするんですか」
「なにがです?」
「ナリタブライアンさんです」
あ~確かに、ヤベー奴だけど懐いてくれてるというかなんというか……。
「まぁ私で良いっていうなら……受け入れようかなって」
「婚約!? トレセン学園は婚活会場ではないぞ!」
「ちがっ! 違いますよ!?」
てか女の子同士だし!! あの子冗談がいかんせん下手ではあるけど!!
「生徒にそういうことしたら……」
「わかってますよぉ退職金なしの懲戒解雇ですよね」
「いえ、私と結婚してもらいます」
「どゆこと!!?」
「フフフッ」
―――なに笑とんねん!
終わった。色々と……。
ということで、理事長室を出て私は校舎を歩く。
目的地は特にないのでトレーナー室にでも行くかなぁ……。
なんて思って歩いていると、見慣れた顔。
「おう、クロネやないか!」
「ん、タマモちゃん」
私の担当ウマ娘ことタマモクロスちゃん!
「……と」
「おう、クロネは初めてやったな……コイツはスーパークリークや」
「こんにちは~、タマちゃんがお世話になってます」
「おいこら子供扱いすんなや!」
ビシッとツッコミが決まる。
「あ、ど、どうも……クロネです。クロネで良いです」
「人見知り発動しとるやないかい!」
それでも、本名はともかく愛称で良いことだけは伝えとく。
「たくウチのトレーナーなんやからもっと堂々としてほしいもんや」
「ご、ごめん……こればっかりはね」
「あらら、そうなんですねぇ。でも大丈夫ですよ、タマちゃんから聞いてますからぁ」
母性すげぇ!
「聞いてた通りの良いトレーナーさんそうで安心しましたぁ」
「だから保護者面すな!」
「あ、ありがとう、ございましゅ……」
「生徒相手に人見知りすな!」
そんなこと言われたってぇ……。
横髪を手でいじりながら、その大人びたウマ娘ことスーパークリークさんを見る。
「えと……」
「あらあらあら」
あれ、なんか……?
「おい! 確かにこいつは結構ガサツなタイプや! けどちゃうぞ! 見てみぃあのドスケベボディを!」
「ドスコイボディ!?」
「言ってへんわ!」
なぜに
「タマちゃん? ウマ娘を見た目で判断するのは良くないことですよ~?」
「子供に言い聞かす話し方やん!? てか良いこと言ってる風で言ってへんぞ!?」
「そういえばトレーナーさんは、担当はタマちゃんだけなんですか?」
「え、あ、はい」
そもそも、そんなにウマ娘たちを受け持てるかわからないし……。
ブライアンは、どうだろう。あるのかな?
「ブライアンはやめとけ、お前のためや」
「へ、心読んだ?」
「視なくてもわかる。知り合い少ないし懐いてくれてるしとか思ったやろ」
知り合い少ないまでは思ってない……事実だけど。
「でも、それはそれで学ぶことが多いと言いますよ~?」
「なんやクリークもコイツがええんか?」
「いえいえ、それはともかく……と言いますか」
「か、考えてみます……」
タマモちゃんのために、他の娘たちのためになるなら良いかもしれない。
「あ、そういえばタマちゃん、オグリちゃんが待ってますよ」
「そやった! すまんクロネ、また明日からよろしく頼むわ!」
「うん、また明日ね」
「これからお願いします~」
「あ、はい」
駆けだすタマモちゃんと、軽く手を振って歩いていくスーパークリークちゃん。
それを見送って二人が曲がり角を曲がり見えなくなると、私は静かに息をついた。
スーパークリーク……なんか妙な感覚。
いや、バブみがどうとかな話じゃなくてね……?
なんて思ってると―――。
「あのっ」
「ひゃわっ!?」
突然の声に驚きながらそちらを見れば……。
「ら、ライスシャワーちゃん」
「こ、こんにちはっ」
あの雨の日に出会った少女ライスシャワー。
黒髪……青毛のウマ娘。
「あの、この間……ありがとうございましたっ」
「大丈夫だよ、頭上げて?」
「は、はいっ」
「……良い子だね」
頭を上げたライスシャワーちゃんの頭を、ふと撫でてしまう。
私としたことがこんなムーヴかますとはライスシャワーちゃん、恐ろしい子……!
「あ、そういえばあの本大丈夫だった?」
「え……あ、はい!」
嬉しそうに笑顔で頷く。
「良かったぁ、大事そうだったから」
「うんっ……あ」
「良いよタメ口で」
すごい、私ったらコミュニティー強者!
「……うんっ、すごい大事な本なんだ」
「そっか、私も大事な本あったからわかるよ~雨でぬれたけど」
「そうなの?」
「まぁ今となってはだけど、そういえばライスシャワーちゃん」
「あ、ら、ライスでいいよ!」
ライスはかわいいなぁ~!
っし、この流れで呼び捨てでいっちゃうか!
「えっと、ライスは……デビューとかしてるの?」
「ううん、えっとね。まだ……選抜もまだだし」
そっかぁ、スカウトしちゃいたいなぁ。私の心の癒しになってくれそうだしぃ~。
「それに、走りも……」
「それじゃあさ……ライスがレースするときは呼んでよ。私、見たいな」
「ほ、ほんと……!?」
頷くと、ライスはパァッと表情を明るくする。
「……そ、それじゃあ、ライス頑張るねっ」
かわいいかよ……。
◆◇◆◇◆◇
―――会長、あれさえなければ完璧なのだが。
私、エアグルーヴは会長に職員室に書類を取りに行くことを頼まれたわけだが……。
気になる現場を見て、現在その現場を覗いていた。
「……クロネ」
そう、クロネ。ウマ娘でありトレーナー。
ブライアンが最近、一緒にいる者。
「あれは、ライスシャワー?」
なぜ……ハッ、タマモクロス、ライスシャワー。
見た目が幼いウマ娘ばかり、怪しい。
「これは、私が監視するしかない……!」
―――後にエアグルーヴは語る。
ええ、あの時は私もどうかしてました……え、疑いは晴れたのかって?
もちろん、あのたわけには幼女趣味はありませんでした。
しかし失敗したことが一つあるとすれば……。
―――私はなぜあの時、アイツの手綱をしっかり握っておかなかったのか。
◆◇◆◇◆◇
ライスと共に歩いていると、突然背中に―――うおっ、なに!!?
「ひゃ、どうしたの?」
「い、いや……悪寒っていうか」
「か、風邪引いちゃった?」
違う感じがするなぁ。
学生時代にたまに感じていたそれに似てる……気がする?
「いや、気のせいかなぁ?」
「気を付けてね、お姉さま」
「うん、温かくして寝よ……って、お姉さま?」
ライスの方を見ると、少しばかり恥ずかしそうにしているし、上目遣い……だと?
「だ、ダメ?」
「いいよ!」
こんなんかわいいじゃん……。
◆◇◆◇◆◇
選抜レースを終えた後。
ニッと笑うタマモちゃんが、口を開く―――。
「改めて……これからもよろしゅうな―――トレーナー!」
私も笑顔を浮かべて差し出された手を、握った。
―――こうして私は、トレーナーになった。
あとがき
ようやっとプロローグ終了感
百合ハーレムはもうちょい後かもー
ちょっとずつそれっぽくはなるかもだけれど!
クロネの過去とかポテンシャルも今後徐々にー
感想誤字報告ここすき励みになるっすありがとうございますー
次回もお楽しみいただければー