ノンケウマ娘を狂わせるウマ娘(トレーナー)の日々   作:樽薫る

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第8話【始めますメンバー募集!】

 ―――後悔先に立たず。

 

 私の大切な彼女の“事故”を聞いた瞬間の戸惑い。理解した時の震え。

 自分自身の身体、その一部が抉られたような感覚だったのを、覚えている。

 きっと忘れることは無い。

 

 だからこそ“自由とは不自由”を生み出すのだと論じた。

 そのつもりで、これから私は“変わる”つもりだった。

 

 しっかりと大人()が管理しなければならないと……。

 

「り、理子ちゃんトレーナーが、間違っていたとは、思わない……です」

 

 学園近くの丘、立っている私の、その“相談”を聞いて、座っている彼女は静かに息をついてからそう答えた。

 

 だが、間違っていたに決まっている。

 私が子供の情動を許可した故に、彼女はそうなった。

 悲劇だ。許されていいはずがない。彼女は未来あるウマ娘―――“だった”。

 

「えと、ちゃんと話しました? あの娘と……」

 

 できるわけがない。私が許されるはずが……。

 

「り、理子ちゃんトレーナーが、悪いの?」

 

 そうだ。そのとおりだ。

 だが彼女は、恐る恐ると言った様子ではあるが首を横に振った。

 

 ―――なぜ?

 

 未成熟な少女たちの自主性を見守るなんて大人の言い訳だ!

 徹底的な管理と理性だけで作った道が正しい!

 その上を歩けばいい。そうすれば何も恐れる必要はない!

 それが、それだけがウマ娘たちを守る唯一の方法だ!

 

「つ、辛いよね。理子ちゃんトレーナーの、気持ち……私にはわからないけど、だけど」

 

 彼女は、膝の上に置いた手を握りしめていた。

 

「全部が間違ってるわけじゃないけど、それでも……や、やっぱり……」

 

 なぜ貴女が否定するんですか、私を今まで応援してくれていた貴女が、全部を知っている貴女が?

 

「り、理子ちゃんトレーナーのこと、大好きだから……わ、私の話じゃなくて、みんな……」

 

 ―――だから、だからこそもっと完璧になってくれと言ってくれるんじゃ。

 

「い、今はダメかもしれないけど、でも、言わせて……」

 

 いったい、なにを?

 

(ウマ娘)たちは後回しで良いから……まず、自分自身を信じて、向き合ってほしい……」

 

 信じて、そうだ私は、このようなっ……!

 

「それまで、ま、待ってるし……び、微力ながら手伝い、ますからっ」

 

 彼女は彼女らしく、自信なさげに言う。

 頼りにされているのに、好かれているのに、それを理解していない故に……。

 でも、だからこそ……彼女が言うなら、今はとてもじゃないけれど、今は無理だけれど―――。

 

「わ、私でよければ、ですけど……!」

 

 貴女がそう言うなら、私は……。

 

 ―――待ってて、くれますか?

 

「はいっ!」

 

 そして“車椅子に座す”彼女は、普段は見えない瞳一杯に涙を浮かべて満面の笑みで答えてくれた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 理事長室を出る私、クロげふんクロネと樫本理子トレーナー。

 

 一礼して扉を閉めると、息をついて歩き出す。

 お互い向かう方向はトレーナー室なのでそれほど変わらない。

 少しばかり黙っていたが、意を決して私から話を振ることにする……。

 

「お、お久しぶりです。り、理子ちゃんトレーナー……あっ」

「ええ、ずいぶん久しぶりです」

 

 そう言って微笑を浮かべる理子ちゃんトレーナーだけど……。

 

「あ、えっと、り、理子ちゃ、じゃなくて……」

 

 どうやって呼ぼうかなぁ。

 

「……か、樫本トレーナー?」

「公の場ではそれで構いません」

「は、はい!」

 

 まぁお堅い理子ちゃんトレーナーは許してくれないよねぇ。

 よし、樫本トレーナー樫本トレーナー樫本トレーナー!

 うっ、言いづらい……あ、そうだ。

 

「か、樫本先輩ってい―――」

「それで」

「あ、はい」

 

 なんかめっちゃ食い気味だ理子ちゃ、じゃなくて樫本先輩。

 まさかトレセンで再開するとは思わなかったなぁ。

 学生時代ぶりかぁ……。

 

「えと、それにしてもURAから、なんでですか?」

「トレセンにURAの幹部を一人派遣する話はあったんです。色々な視察もありますが、ウマ娘と直に接して現場のことも理解しましょう、という方針で」

「ほぇ~相変わらずちゃんとしてるなぁ」

 

 そりゃそうか、現場のこと考えてくれるのはありがたいね。

 

「それで私も、久しぶりにトレーナーを経験したいなと」

「……そっかぁ」

 

 思わず頬が緩む、彼女の“過去”を知っているからこそ、だと思う。

 

「貴女がトレーナーをしていると聞いたときは、驚きました」

「う゛っ、言っとけばよかった、ですね」

「いえ、私の方からしばらく連絡は取れないと言いましたから」

 

 うん、言われた……寂しくて死ぬかと思った。

 

「しっかりと、私が変わるまではと思っていたらずるずると……」

 

 少しばかり頬を赤くして言う理子ちゃんトレ、樫本先輩。

 でもそっか、良かったぁ。

 

「これからは、ライバルですね」

「あ、そ、そっか……そ、そうなりますね」

「そんな一気に緊張しなくても良いでしょう」

 

 そう言いながら、理子ちゃんがおかしそうに笑う。

 

「あぅ、いやその……」

「本当に、変わりませんね」

「り、樫本先輩も……変わってないなぁって気がします」

「そう、ですか?」

「うん……全部が全部ってわけじゃない、けど」

 

 そりゃそうだ。人もウマ娘も変わるもの。

 樫本先輩なんて特にそうだと思う。

 方針に悩んで、苦悩して……それでURAに行って、戻ってきて……でも。

 

「私の好きな、樫本先輩だなぁって……あ、あはは……」

 

 素直にそう言って、照れ隠しに笑う。

 樫本先輩はそっぽを向いて、静かに息をついた……あれ、怒られるやつ?

 

「……そ、そうですか」

「……あ、あれ、そ、その」

「ちなみに言っておきますが、怒ってませんから」

 

 ―――怒ってるやつじゃない? それ?

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 クリークの奴、また人を子ども扱いしおって!

 

 ウチはトゥインクル・シリーズに挑むんやからお前より先輩やぞ!

 それに噂を聞いとると、イケメントレーナー探したりとかしとる奴らもおるらしい……。

 

 ―――トレセン学園はマッチングアプリとちゃうねんぞ!

 

「たくどいつもこいつも!」

 

 ようやく授業が終わって、クロネのトレーナー室の扉を軽くノックした。

 せやけど、返事がない。

 

「……?」

 

 この時間におらんわけないけど、おっ……開いとる。

 

「お邪魔パジャマ~」

 

 扉を開けて中に入ればクロネがパソコンの前に―――おらんやんけ!

 どこやあのおっぱいおばけ! おばけだけに消えてもうたか!? ドロンって!

 いや、おった……。

 

「……」

 

 ソファに横になって―――。

 

「寝とるやんけ」

「うぅ、ねとりは、脳が破壊されぇ……」

「なに言っとんねん」

「なりたぁ、とっぷ、ろーどぉ……」

 

 まるでわけがわからんぞ!

 

「んぅ……」

 

 ソファで寝転がってるクロネ……いや、これは凶悪が過ぎる。

 上むいて寝とるけど、いつもと違ってジャケットも着てへんからワイシャツだけやし……ネクタイもしてなきゃボタン結構空いとるし……。

 てかスカート大丈夫かそれ! だいぶ上がっとんぞ!?

 

「んぐぅ~」

「ああもう、涎垂らしおって……」

 

 ティッシュを何枚か取って、クロネの口元を拭く。

 そうすると、なんか違和感を感じてか口を閉じて大人しく寝よる。

 

「……てか」

 

 案外、整った顔してんなぁ。

 口閉じたら凛々しい気も、まぁ普段は抜けてるとこあるし表情コロコロ変えるタイプやし。

 それにブライアンに乳揉まれた時とか真っ赤に―――むらっとすんなぁ。

 

「……って、むらってなんや!? ウチはノーマルや!」

「ふぇあ?」

「お?」

 

 起きおった……珍しく目ぇ見えんなぁ……まつげなが……。

 なんかちょっとずつ顔、赤くなってきてへんか?

 

 ―――って!

 

「たたた、タマモちゃん!!?」

「スマン!!?」

 

 クロネの上にあったウチ自身の顔をどかしてちょっと後ろに下がる。

 バッと上体を起こしたクロネがハッとして、真っ赤な顔ですぐにシャツのボタンをつけ始めるけど……。

 ボタン掛け違えとんぞ!? って言ったろうとした瞬間、掛け違えたボタンがグッと横に引っ張られて―――パンッ、と音がした。

 瞬間、ウチに“ボタン”が迫る……ホンマ、デカいな。

 

「目がぁぁ!?」

「タマモちゃぁん!?」

 

 ―――しかしまぁ、桜色か。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ついつい、トレーナー室で寝ちゃった。

 しかも、タマモちゃんにダラしないかっこう見られちゃったし、うぅ……。

 ボタン飛ばしちゃうし、目に当たっちゃうし―――大事なくて良かった。

 

「あ、てかもうこんな時間だ」

 

 残りのボタンだけを締めて、ジャケットを羽織る。

 スカートもしっかり整えて髪……はいいや、適当に手櫛で。

 私の座ってるソファの向かいのソファに座るタマモちゃん。

 

「あ、えへへっ、ごめんね……と、とりあえずメイクデビューまでのメニューちょっと変えて作ってみた!」

「んぁ、ああ、サンキューな見せてもらうわ」

 

 パソコンの前に置いといた書類をまとめてタマモちゃんに渡す。

 

「結構びっしりやな」

「そりゃね、タマモちゃんをしっかり仕上げないと……“運悪くバ群に飲まれて”って言い訳は聞かないし、そうなっても大丈夫なようにしないとダメ、だからね」

「なんや、一気に凛々しいこと言うやんけ」

「……」

 

 いや、そりゃアホ面晒して寝た後だから……。

 

「と、ともかく……タマモちゃんには先に話をしておかなきゃなことが一つ」

「なんや改まって、いやちょっと待て」

「ん?」

 

 タマモちゃんがソファから拾ったのは……毛髪。

 

「長い茶髪……?」

 

 あ、それは昨日マルゼンスキーがそこで寝転がってたから……って彼女か!?

 

「えと、えと! それは、昨日ね、とも、友達が来てて!」

 

 ちきしょぉ! 彼氏みたいな言い訳しちゃった!

 

「え、友達とかおんの?」

 

 ―――私の愛バが正直すぎるっ!

 

「別にな、ウチはウマ娘を連れてきたのが悪い言うてんちゃうねん。ごまかそうっつーその心意気の話をしとんねん!」

「えっと、昨日マルゼンスキーが送ってくれるっていうから、待っててもらって……」

「マルゼン?」

 

 なんでまたって顔してるけど、マルゼンスキーと知り合いとか言ってもしょうがないしなぁ。

 とりあえず、ことと次第を話すのがベストかなぁ。

 

「……昨日その、シリウスシンボリちゃんとちょっと」

「シリウスぅ!!?」

 

 立ち上がったタマモちゃん。

 

「大丈夫か!? 怪我はしてへんか!?」

「いやぁ、怪我は大丈夫かなぁ……」

 

 膜がちょっと危なかったかな! いやたぶんそうはならない気がするけど!

 ホント、なにが目的だったんだろう、ルドルフのこと言ってた気がしないでもないけど……。

 

「たくアイツ、ウチのトレーナーにまで手ぇだしおって」

「あの子、どんな子?」

「あ~アウトローっていうか、まぁすごい奴ではあるんやけど」

 

 不良ってことかな?

 

「へぇ~」

「……シリウス、変やなかった?」

「そもそも、普通のシリウスちゃんを知らないんだよねぇ」

「ちゃんって……てか、そらそうか」

 

 腕を組んで座るタマモちゃん。

 

「なにされた?」

「え、いや……それはっ」

 

 カァッと、顔が熱くなる感じがする。

 ま、まぁだってねぇ? あれはねぇ?

 

「……なんかされた反応やんけ!?」

「い、いやちょっとだけ、な、撫でられたっていうか……」

「どこや!?」

「と……トモ?」

「ッッッ!」

 

 え、絶句してる。

 

「シリウスの奴、ドスケベボディにやられてへんやろなぁ」

「またドスコイボディって!?」

「言ってへんわ!」

 

 瞬間、バンッと扉が開けられる。

 思わずビクッと跳ねる私とタマモちゃんの二人。

 

「……私の出番か?」

「ちゃうぞブライアン!」

 

 なんか始まりそうだけど、まぁ良いか。

 

「で、クロネが卑猥とかいう話か?」

「違うよ!」

「ちゃうわ!」

 

 首をかしげるブライアン、くっそぉ、私=エロみたいにしやがって!

 

「……なんだ、ワイシャツのボタン中途半端なとこ一つ外して、エロか、誘ってるのか」

「違うわ!」

「ちゃうわ!」

 

 私達のツッコミに、ブライアンは不服そうな表情でタマモちゃんの横に座る。

 

「……なんでやねん! 普通におるな!?」

「……?」

「いやなんでウチがおかしいみたいな顔してんねん!?」

 

 この二人、仲良いなぁ、相性いいのかな?

 てか話したいこと……まぁ良いか、明日にはみんなに公表するって言ってたし、タマモちゃんには話して良いって言ってたからブライアンも……。

 こほん、と咳払いをする。

 

「そのねタマモちゃんはトゥインクル・シリーズに申請も出してメイクデビューのレースも決まったから、あまり関係ないと言えばない……いや、やっぱあるかぁ」

「なんや歯切れ悪い物言いやな」

「……私に、関係あるかな」

 

 うん、そう。私に関係があるから、タマモちゃんにも関係がある。

 

「……卑猥な話か?」

「なんでそういう方向いくねん!?」

「クロネ繋がりだとな」

「私がエロの代名詞みたいな言い方やめてくださる!!?」

 

 ちくせう! 人をセックスシンボルみたいに言うんじゃぁないよ!

 

「と、ともかく話再開するからねっ」

「頼む」

「ブライアン、自分に言うてんねんぞ」

 

 咳払いをして、しっかりと息をつく。

 

「新レースの企画があって……」

「お、ええやんけ」

 

 そういうタマモちゃんだけど、違うんだよなぁ。

 

「それが、トレセン学園内のイベントみたいな感じで」

「賞がもらえるわけじゃないってことか」

 

 ブライアンがふむ、と頷く。

 

「なんや、なんもなしかいな……ならウチはパスや。トゥインクル・シリーズで忙しいし」

「いや、そもそも参加資格が」

「は?」

 

 わけがわからないとは思う、故にタマモちゃんが首をかしげた。

 

「その……デビュー前の子たち、三人一組で出場ってことなんだよね」

「デビュー前ってことは、選抜に近いんか?」

「まぁそれも含めてってことだろうね」

 

 ただし、本格化する前のウマ娘を走らせるっていうのはそれなりにリスクも伴うけど。

 理子ちゃ、樫本先輩はどう思ってるんだろ……。

 なにはともあれ、そういうことで。

 

「参加すんのか?」

「クロネに三人も集められるとは思えんが」

「ブライアンの言うとおりやぞ」

 

 酷いね私の愛バ―――ていうかね!

 

「ブライアン、きてよ……」

「エロい」

「なにが!?」

「もうちょっと胸をよせてから上目使いで頼む」

「どゆこと!?」

「ブライアン色ボケてる場合ちゃうぞ」

 

 色ボケなのこれ? てか私のそれのどこに需要あんのさ、笑いものにするつもりだな!

 

「クロネのチームならばもちろん私が入るが……タマモで忙しいのだと思ってた」

「それもそうなんだけど、私ともう一人のトレーナーで盛り上げてくれって言われて」

「理事長が言うたんか?」

「理事長とたづなさん」

 

 タマモちゃんが、腕を組んで唸る。

 

「見る目ないなぁ」

「これでも貴重なウマ娘トレーナーだよ!?」

「でもメンバー集まらんやん」

「私以外に誰が入る?」

「うっ、そこなんだよねぇ……」

 

 一応調べたところ、ブライアンは芝中長距離がベストみたいだけど……。

 つまり芝中長距離に適性が高いデビュー前ウマ娘を探さなきゃならない。

 

「難しいこと言うなぁ」

「やっぱ見る目ないやん」

「うっ……」

「集まったならええとは思うけどなぁ、ウチもつきっきりでやってもらうことまだないし」

 

 いやそうは言いましてもだよ。

 クリークちゃんはもうすぐトゥインクル・シリーズにデビューらしいし、マルゼンスキーは余裕でデビューしてるし……ていうか普通にマルゼンスキーなんて出したら荒れる。

 となれば、だよ……。

 

「うーん」

「まぁゆっくり考えればええんちゃうか」

「そだね、まだ時間はあるし……タマモちゃんの方に集中するよ」

 

 ていうか、新任トレーナーにこれ厳しくない?

 

「とりあえずメイクデビューに備えて、トレーニングやな」

「そうか、私も行くとしようか」

「ブライアンも?」

「新レース、出るかもしれないんだろ? 今のうちからやっておく」

 

 ブライアン!

 

「……えへへ、ありがとぉ」

「ん、いくぞ……」

 

 ぶっきらぼうに答えて頬を掻くと、ブライアンは部屋を出る。

 

「あざといやっちゃなぁ」

「ほんとだねぇ」

「クロネ、自分のことやぞ」

「えっ」

 

 ―――どこが!!?

 

 

 




あとがき

ちょっと序盤シリアスだった!
ただシリアスがスタミナ切れ、育てなきゃ(使命感)

タマはノンケ、みんな知ってるね
オリジナル新レース開催決定、これで関わるキャラが増えるっすー

感想ここすき誤字報告、またまたありがとうございますー

お気に入りもどんどん増えて……結構人を選ぶ感じの作品だと思って書いてるんで、こんな読んでもらえるのは素直に嬉しいっす
これからもよろしくお願いしますー

次回もお楽しみくださいませー
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