厄介な味方になるか、厄介な敵になるかはこれからで。
第十二話 Q、名ばかり役職だからと交渉事から逃げられると思っていませんか?
「と、言うわけで、こちらが星晶神社で契約してきた仲魔の文香さんだよ。
主に、自分の秘書と音無さんの補佐と代行をしてもらうのでよろしく。
それじゃあ、音無さん、貴女が早く楽になれるように早急に教育してあげて下さいね」
「……あの、来たばかりなんですが?」
「ええ、もちろん任せてくださいよ。
求人をする暇もないくらい、人手の、足らない、貴重な事務員を孕ませた支部長の紹介ですからね。
PCのオフィスソフトから書式の決まりまで、一月で覚えてもらいます」
「……え?」
「ああ、音無さん。彼女は本と甘いものが大好きみたいでね。
彼女にもお小遣いを出すので、近くのお店とか教えてあげて下さい。
あと、趣味の布教してもいいから、コレクションを貸してあげて下さいね」
「よっしゃ!趣味仲間、増やせる!」
「……え?え?」
「「「シフトに余裕ができるぞ!やったぁー!」」」
以上が、神戸に戻ってきての文香さんと現場のやり取りである。
この後、ネットの小説投稿サイトの存在と本のネット注文の事を教えると、ほぼ一週間で一通りのことを憶えてしまったのは、頭がいいのか趣味への執着かはよく分からない。
ただ、彼女の私物用の棚に大量の書物がすぐに増えていたのは、この環境に慣れていっているのだから良い事だと思う。
あと、葵や雫(敬称を付けるなと言われた)と何か話し込んでいたが、黙っていて内容は教えてくれなかった。
さて、問題の神戸メシア教会である。
山梨セクターにも連絡はしてあるが、会談の指定の期日までにいろいろと調べておこう。
まず、この神戸という土地柄の一神教の特性を語っておかなくてはいけない。
神戸は、幕末に外国人居留地があったおかげで一神教の教会も設立が1874年と歴史が古く、大阪と帝都に次いで約二千を越える多数の教会が兵庫県内にあり、教会巡りをするだけでも神戸観光が成り立つほどである。
これに加えて、戦後にアメリカの後ろ盾があるメシア教会が徐々に派閥を増やし、今の代表である穏健派の茂部(もぶ)神父と実務を取り仕切るシスター・ギャビーの代でほぼ全ての兵庫県内の教会はメシア教のものになったそうだ。
この変化は、【幸子】という穏健派の女性が日本支部の代表になった後から始まったというのだからその女性代表とあのシスターは何らかの関係があるのだろう。
神戸教会の代表の茂部神父は、エクソシストとしては一流だが影が薄く代表としては凡庸な人物らしいとしか解らなかった。
次に、シスター・ギャビー自身についてである。
ガイア連合のデータベースで調べてゆくと、いろいろと分かった。
容姿はピンクブロンドの長い髪で青い目のダイナマイトボディの白人女性であり、自分が日本に来る少し前にアメリカから亡命してきて色々あって今の地位に就いたらしい。
資料にもわざわざ『このおっぱいでシスターは無理でしょ』と書かれているように、遠方からの望遠らしい写真を見ても二〇代の半ばの魅力的な女性にしか見えない。
温和で面倒見がよく悩みを持った信徒に抜群の助言をするのが得意のようで、地元の新聞の投稿欄に美談としていくつかあった程である。
ただ、メシア教は海外の過激派のような直接的な危険はなくても、穏健派も善意でこちらに侵食してくるので油断がならないのは変わらないだろう。
だからといって、殴り掛かるのは現代社会ではご法度という奴だろう。
自分たちガイア連合は、頭ヒーホーではあっても頭ヒャッハーではないのだから。
そして、神戸に帰ってきてから明後日の会談の当日が来た。
万一に備え、花蓮や葵に雫といった面々はセクターの方に籠もってもらい、自分を指名していたため、書類一式を持って事務服の文香さんと黒のスーツとサングラスを付けたクーフーリンと共に指定の場所に向かった。
場所は、かつての月城家の本屋敷がありこの周辺では一番の霊地だった教会である。
そこは最近建て替えたらしくかなり真新しい建物になっていて、年若いシスターに案内され奥の部屋に入って行くと、目的の部屋らしい扉の前に一人の神父らしい男が立っている。シスターが来客を告げると、その神父は中の人物に声をかけ扉を開けた。
すれ違いざまに見ると、顔は印象に残らないタイプなのにかなり鍛え込んでいる様子が分かる。
そして、中に入ると応接間らしく奥のソファに全身に白色の祭儀服に身を包んだシスター・ギャビーが座っていた。
うん、そんな豊満な胸でシスター服は無理があると思う。
現に、護衛らしきさっきの神父もあえて見ないように視線の先を固定しているし。
さて、交渉に入るとしよう。
こちらを見て話しかけてこようとしたので、懐から名刺入れを取り出し一枚取って、ビジネスマナーに則り軽く頭を下げ差し出す。
名刺には、表の役職と名前、電話番号とFAX番号が書いてある。
「本日はお招きいただきありがとうございます。
わたくし、ガイアグループのガイア人材派遣神戸支社の月城と申します。
本日はどんなご用向なのかお聞かせ願えればと思います。
では、こちらに失礼させてよろしいでしょうか?」
「……は? あ、はい。いえ、どうぞ?」
「失礼させていただきます」
そう言って、文香さんと並んで座る。クーフーリンは腕を組んで後ろに立つ。
どうやら、困惑しているようで機先は制したようである。
ちなみに今の自分の格好は、伊達メガネと七三分け、女性陣の選んだ紳士服屋で奮発して買った少し高めのスーツと新調した革靴にしている。
霊能組織の代表として来るのだろうと思っていたようだが、あくまでビジネスライクにとことん外してやるつもりである。
「それでは、お話の方をお伺いさせていただきます。
そちら様は弊社にどのような人材をお求めなのでしょうか?
詳しい内容の方をどうぞ」
「えーと、あなた方は最近、勢力を伸ばし始めた退魔組織の『ガイア連合』よね?
私と同じくらい強い貴方がここに来るのだから、私たちの他に異界を滅ぼせるのはあなた方くらいしかいないはずよね?
今まであった霊能組織の人とは違いすぎるんだけど大丈夫なのかしら」
「あいにくと他の組織の方は存じ上げないので、我々はこうだとしか申せません。
お話の内容は、異界の処理ですね。現地の情報をお教え願えませんか?
それによって、派遣する人員や時間を考慮し料金が発生いたしますので」
変なものを見る目で見た後、考え込みだしたおっぱいシスター。
今までの会話で、事前にある程度こちらを調べている事、この女性がこの前の戦いで強くなったレベル20の自分と同程度である事、ある程度機械や術無しでこちらの強さを観れる事、自然と魅惑的になる仕草をしながらこちらと会話している事などが分かった。
嫁が二人いて定期的に搾り取られていなく童貞のままだったら、このおっぱいシスターはやばかったかも知れない。
いくらスキルで【精神異常無効】があっても、スキルに寄らない魅惑には効果が薄いのだから。
自分が出てもいない汗を拭う仕草をした時、ますます変な物を見る目をして話し出すおっぱいシスター。ついでに、随伴の二人や神父もこちらを変な目で見ている。
「……気にしないことにします。
本当は別に話したいことがあったのだけど、お願いしたいのはつい先日、私たちが過去に封じていた異界が活動を再開したから代わりに処理をして欲しいのです。
場所は、神戸にも程近い場所にある観光遺跡の『鬼ノ城跡』。
祠と再現した門と石垣しか無いはずなのに、一昨日、ハイキングがてら点検に行ったシスターたちが行方不明になっているのと、それを捜索に行った天使を連れたエクソシストたちも帰ってきていないから相当に手強くなっているはずです。
そこで、救助と出来れば異界の処理もお願いしたいのです」
「人数と連れて行った天使の強さはどのようなものでしょうか?」
「シスターが3人とエクソシストは4人で、【アークエンジェル】を連れていたわ」
もし全員が覚醒者なら、普通の地方現地組織ならかなりの被害である。
確か、その城跡って7世紀頃に建てられた桃太郎こと吉備津彦命による鬼の温羅退治の伝承の縁の地だったはず。
そしてつい最近、関係のありそうな【鬼ヶ島】を潰していたよなぁ、自分たち。
救助もそうだが、山頂の山城跡とはいえ市街地に近すぎる。
すぐに動かないと駄目だろう。
「ご依頼の件、わかりました。
お引き受けさせていただきます。
これから戻り次第、人員を策定し行動に移らせていただきますので、こちらの契約内容と契約書を確認の上、サインをお願いします」
この契約条文と契約書は、地元の依頼先との報酬を巡るトラブル回避のために本部の連中が日下さんなどに急かされ急ピッチで作られたもので、もちろん呪的な効力も含まれている。
しばらく確認した上で、渡した契約書に神父が持ってきたペンでサインするシスター・ギャビー。
そして、サインした契約書を返し艶然と微笑む彼女。
「ぜひ、解決されることを願っています。
来たるべき【約束の時】を見極めるためにも。
神のご加護があらんことを」
「それでは失礼させていただきます。本日は、ありがとうございました」
最後の意味深なセリフと微笑みに背中に何か冷たいものを感じ、二人を急かして早々に教会から退出した。
何故か全員、早歩きでセクターに向かう。
二人とも、強張った表情である。
「……カズマさま、ひどいです。
初めての秘書の仕事が、あんな場所に行くことになるなんて。
……本当にひどいです」
「悪いが、俺も嬢ちゃんに同感だ。
あの神父もあのシスターも、素手の今の俺じゃすぐに殺されちまう。
少なくとも、あのシスターは天使の生まれ変わりかなんかだぜ。
肉体があるのに、天使の雰囲気が強すぎらぁ」
「自分も途中で『エロいシスター』とでも考えていないと怖かった。
できれば、交渉係は誰かやってくれないかなぁ」
「嫌です」
「俺もゴメンだ。本職は花蓮の嬢ちゃんのお守りだからな」
そういうと、書類カバンをこちらに渡し封魔管に引っ込む文香さん。
彼女には悪いことをしたと思う。
この件が片付いたら何かご機嫌を取ろう。
もう、神戸セクターが見えてくる。
もともと、あの教会も歩いて行ける距離にあるのも問題なんだよなぁ。
たぶん、自分と花蓮が出るのは確実だからちゃんと準備して出るようにしよう。
「そういえば、やけに受け答えがはっきりするようになったな。クーフーリン」
「嬢ちゃんが溜め込んでたマッカを、この間、山梨に行った時に全部つぎ込んでくれたからな。
まあ、この借りは槍働きで返させてもらうさ」
「じゃあ、妹と何かあったら責任は取れよ」
「冗談でも止めてくれ、旦那」
真顔で言うクーフーリンに、笑いながら言い返し建物に入る。
さあ、命がけの大仕事の時間である。
あとがきと設定解説
・神戸の教会
これはほぼリアルに即しています。
歴史の古い教会巡りは、神戸の観光の華の一つだと思います。
・【アークエンジェル】
レベルは8で、ハマと物理技を使うので弱いわけではありません。
この天使は、穏健派に味方するくらい聞き分けが良い方でした。
次回は、遺跡内での戦闘。
やっと、引っ張っていたキーアイテムの登場です。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。