キーアイテムの登場に合わせて、色々と回し始めます。
今回、最大級のネタ枠を登場させるので世界観を壊さないようにしないと。
第十六話 Q、まだ自分がただの運のない凡人だと思いこんでいませんか?
神戸市内の田中さんの会社がある雑居ビルに着く。相変わらず、この辺は路地が多くゴミゴミとしている。
いつも来ていたように入口横にバイクを止め、例のケースを入れたバッグを背負って階段を登っていく。
念のために着てきた普通の服に見える霊装防具が汗ににじむ。
中は静かで相変わらず人の気配が全然いない様子である。
四階の事務室に着き、ノックする。中には田中さんだけ居たようで、返事があり入る。
いつもの机に座って書類を見ていた田中さんが、来客用のソファに座るように勧めてくる。
一礼して座り、話を始める。
「やあ、間藤じゃなくて、月城くん久しぶりだね。
先月に、そちらの関連の運送会社の『ユーアーイーツ』に荷物の配送の仲介を頼んだ時以来だね。
それにしても改めて思うんだが、ここを辞めて結婚した上にベンチャー企業の支社長になるなんて、本当に自己啓発セミナーってすごいんだねぇ。
それで、今日はどうしたんだい?」
「今日は赤城さんに聞きたいことがあって来たんですけど、今はどこにいますか?」
「ああ、オーナーに何かかなり無理を言ったらしく、先日から長期出張でアメリカに行っているよ。
最近、宗教界からポリティカルなんとかでコミック出版社への風当たりが強くなってね。
批判が入りそうなバッ○マンやウォッ○メン、パ○ッシャーや○ポーンなんかの作品を、大至急、手に入れられるだけ廃刊にされる前に回収してこいと言われたらしくてね。
日本側の受け取りはここだから分かるが、現地のエージェントも総動員で動いているらしいよ。
彼が何かまたしたのかい? 今度は、少女の彫像を送りつけたとか?」
「流石に、こちらも結婚して近々子どもも生まれますので彫像はないですよ。
別の意味でしでかしましたが。
それと、【人類娯楽史研究所】ってご存知ですか?」
「おや、ここのオーナーが経営している財団法人のことだよ。
話したことがあったかな?」
「いえ、赤城さんに貰ったものにその名前が書いてあったんで知っているかなと思ったんです。
よければ、そこに案内してもらえますか?」
「今からかね? 先方に電話するので少し待ってもらえないかな?」
そういうと田中さんは、事務所の古いFAX機能付きの電話で連絡している。
程なくして都合がついたらしく、案内してくれる事になった。
自分はバイクで、田中さんは荷物を積み込んだ小型トラックで移動していくが、道はどんどん市街地を外れ高尾山の方に入っていく。
元は登山道だったのだろう。公園やお寺を通り過ぎて、車一台がギリギリ通れる広さの道を登って行く。遠くの方にケーブルカーとロープウェイが見えたので、そちらから行くほうが楽そうである。
朝方、部屋に閉じ籠もり朝食にも出てこなかった花蓮が少し気になったが、かなり回りくねった道を時間を掛けて登り、山腹にあるきれいな鉄筋コンクリート製の観光ホテルのような建物に着き、小さめの駐車場にお互いに停めて背伸びをしたり腰を左右に動かして一休みをする。
「大変だったんじゃないかい、月城くん?
もともとここは山上の廃業した観光ホテルを20年前ほどに買い取って社屋にしたらしく、交通の便が悪いんだ。
ケーブルカーの『虹の駅』って所からの方が行くだけなら手軽なんだがねぇ。
さて、ここがオーナーのいる【人類娯楽史研究所】だよ」
「いえ、大丈夫ですよ。
かなり古そうな建物ですけど、綺麗ですね?」
「昔、台風の被害で営業停止になったところを、オーナーが大枚はたいて買い取って補強工事で一部建て替えたので頑丈らしいよ。
わたしは10年くらい前に赤城くんに会って雇ってもらってから、時々は来ているよ。
さあ、入り口はこっちだ」
入口の横にプラスチックのプレートで『(財)人類娯楽史研究所』とあるのを見つつ、荷物を抱えた田中さんと中にはいって行くと、えらく恰幅のいい警備員の横を通り少女漫画の単行本に熱中している赤髪のきれいな受付嬢の所まで来る。
こちらが近くに来たのに気づいたのか慌てて隠しているが、複数冊の単行本が隠れているのが見えている。
「あ、あら、田中さん。来るのが早いですね。
に、荷物でしたらいつものようにうちの者に渡してくださいな」
「めったに人は来ませんけど、森さんは相変わらずですね。
それと彼が連絡したオーナーに会いたいという月城くんですよ」
「どうも、田中さんにはお世話になっている月城カズマです。
よろしくお願いします」
自己紹介すると、森さんは気の毒な人を見る目でこっちを見るのが気になる。
自分は案内で奥に行くが、田中さんは荷物をやって来た作業員の人に渡すとこれから戻るという。
「それじゃあ、カズマくん。
わたしはここで失礼するよ。荷物の受け取りが会社宛で誰かいないと駄目なんだ。
オーナーは気さくな人だから、大丈夫だよ」
「案内ありがとうございました、田中さん」
そういうと足早に田中さんは帰っていった。
見送って森さんの方を見ると、しげしげとこちらを見ている。
気になったので聞いてみる。
「何かありましたか?」
「いえね。あなたも田中さんみたいに、オーナーの趣味と目的に巻き込まれた人かと思ってねぇ。
わたしは上司がオーナーの知り合いで出向しているからしょうがないのだけど、あの人は生まれが特殊だったからねぇ。
あなたもそうなのかしら?」
「特殊と言えばそうかもしれませんね。
そういえば、少女漫画がお好きなんですか?」
「そ~よ~。『花と○め』も『り○ん』も『マー○レット』もくまなく読んでいるわぁ。
だから、オーナーの目論見も上手く行って欲しいのよ。
あ、案内するわね。あと、読みふけっていたのはオーナーには言わないで」
「ひとつ聞きたいのですけど、いいですか?」
「なに?」
次の行動に移れるように、回りを把握しながら聞く。が、あっけらかんと彼女は答えた。
「あなた方も悪魔の関係者ですか?」
「そうよ。悪魔そのものよ。
あなたたちの組織もクソ天使たちを敵対視しているようだし、もともとここに拠点を構えているのだってオーナーの趣味と目論見のためだし。
さ、オーナーやみんなが待っているし、答え合わせは揃ってからね」
「敵対はしないと? 人間になにかするつもりですか?」
「逆よ、逆。敵対なんかしたら、漫画が読めなくなるじゃない。
そのために、ここも特別な感じにしてみんなここにいるんだし。
もう、行くわよ」
そう言って歩いて行く彼女。
もし彼女の言う通りなら、ここは異界のはずなのにそんな感じは全然しない。
歩くこと少し、階段を登りきり最上階の奥の部屋に通された。
そこは応接室らしく豪奢な内装で、3人の男性がいた。
一人は、恰幅のいい白衣を着た男性。もう一人は、白い作業服を来た老人。
そして、最後は威厳のある顔にオールバックの髪型で整えた顎髭、特徴的な模様の革のベストとスーツを恰幅のある体躯で包んでいる。
あれ、あの服装と革のベストの模様、見覚えがある。
思い出す。漫画で見た主人公とトランプの賭け事で負けた男の服装じゃないか?
あのシーンは好きなので、よく今世でも読んでいた。
自分が気づいたことが分かったのだろう。
ニコニコと語りだした。
「やあ、よく来てくれたね。赤城くんが見つけてきた協力者よ。
紹介しよう。
そこにいる白衣の男が、技術関係を丸投げしている円場(つぶらば)博士こと【マルバス】。
そっちの老人が、ネット環境保全のため乗騎のワニを電霊化させた阿賀こと【アガレス】。
彼女が、女っ気が足りないので来てもらった森くんこと【ゴモリー】。
そして私が、ここのオーナーにして謎の投資家リチャード・フォロカルスこと、宝物庫の番人にして数多のサブカルチャーの財宝を集める【ルキフゲ・ロフォカレ】だとも!
あ、頬に模様はないが、この服装は特別にそっくりに仕立てたものでね。
なかなかいいものだろう?」
「あの、一つ聞いていいですか?」
「何かね? あ、奇妙な冒険なら3部がオススメだ」
背中のバッグに入れていたケースを取りだし、故障した【デビルズアブゾーバー】、そして、3枚の少女悪魔カードと【モラクス】のカードをテーブルに置く。
「このアイテムといい、今まで田中さんを通していろいろ買い付けている事といい、赤城さんが色々動き回っている事といい、あなた方は何がしたいのですか?」
全員が顔を見合わせて、答える。
「わしが再現した特撮アイテムで、それで天使どもをぶっ殺して欲しい」と、円場博士。
「乗騎を早く返してほしいので、仕事を早く終わらせたい」と、阿賀さん。
「まだ全部少女漫画を読み尽くしてないから、漫画家と出版社を守って」と、森さん。
「まだこの世界のサブカルチャーを蒐集しきっていないので、日本だけでも守ってくれんか?
新しいその【COMP】を改造した機械も渡すし、融資もするので君の上司に取り次いでくれると嬉しい」と、フォロカルス氏。
情報が多すぎて、頭を抱えて座り込む。
こういうことはもっと優秀な主人公ぽい奴に言って欲しい。
そう思っていると、後ろを金髪の女性が通り過ぎって行った。
「南極のアレが御破算になって暇なの。あなた達を見て楽しむことにするわ。
せいぜい、頑張って」
後ろを振り返っても誰もいない。今のは誰だ?
あとがきと設定解説
・【人類娯楽史研究所】のモデルになった建物の「旧摩耶観光ホテル跡」
1930年代のモダニズム建築で作られた「廃墟の女王」。
倒壊の危険があるため、現在は一部を除いて立入禁止。
2021年6月24日付官報にて告示され、登録有形文化財となった。
主人公は、色々振り回されてなんぼだと思う。
次回は、キーアイテムの裏側のお話とその後のお話。
リアルの都合で続きはしばらく掛かります。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。