今回は、第三部の敵役の顔見世も兼ねた騒動の決着がつく話。
第二十四話 Q、トラブルは何時でも向こうから来るものだと思いませんか?
地上に戻るとそこは戦場になっていた。
【卑劣ニキ】と同様の警察の特殊部隊の格好と顔を隠した人たちが島中に湧いたと思われる屍鬼や幽鬼を退治して回っている。これらの人員はガイア連合のメンバーであり、顔を隠して後で警察の特殊部隊の治安出動ということで内々に処理をするつもりらしいと説明を受ける。
一般人はと言うと、テロリストがこのホテルに来たという建前で全員最上階のディナーショーをしていた大会場に待機してもらっているらしい。
周りを見渡すとロビーの入口側の一角にバリケードを作った待機所があり、そこに槍を手に入れてそこの警護をしているクーフーリンと救護所と思われる場所で動き回っている花蓮を見つけたのでバリケードの側まで近寄っていく。
「おーい、花蓮。大丈夫か? この状況は何だか教えてくれ」
「お兄様、臭いのでそれ以上近づかないで下さい。
それと、そこの女性は誰です? 葵さんが大変な時期に何をしているのですか!」
「彼女は大丈夫だから。山梨から送られて来たシキガミだよ。
君からも説明して、……何でやけにキレイなの?」
「綺麗なのは、破魔属性の魔法は浄化でもありますのでちょっとしたコツです。
私は、このたび神主さまの意向によりマスターの意向に従うように派遣されて参りましたジャンn……むぐ」
「彼女の名前は、シキガミの【ジャネット】だから。ジャネット、君もこれからはそう名乗って」
慌てて彼女の口をふさぐ。こんな場所でジャンヌ・ダルクとか名乗られたら余計なトラブルになりそうである。彼女が頷いたので手をどけるが、花蓮は一層訝しげに見ている。
あと周囲には彼女の姿を知っている者もいるみたいだが、『おっぱい聖女』や『あのおっぱいで聖女は~』とかつぶやくのは止めて欲しい。
変なワードを聞いて、腕を組んで睨みつける花蓮。見返すジャネット。
「今ほど、マスターより命名頂きましたジャネットです。お見知りおきを。
マスターの妹様ですね。情報の共有をしたいのですが?」
「今こっちは見ての通り、私は救護所で回復役として待機中。
島中に屍鬼が湧いたから総当たりで駆除しているところよ。
後は、ここで外からとそこの異界から湧いてこないか監視中ね」
「こちらは、地下一階で大型の屍鬼と遭遇し駆除。
マスターと合流しましたので一時的に戻ってきました。
この後、再度地下に行きこれを起こした人物を排除します」
「花蓮、母さんたちは?」
「さっきの個室に扉にテーブルを立てかけて籠城しているから、関本さんもいるし大丈夫みたい。
指揮している人がうかつに動き回られるよりはいいって」
そこに、他のメンバーと話していた卑劣ニキが戻ってくる。
相変わらず、覆面をしたままなので表情が分からない。
「状況が変わった。
突入は、マスオニキとシキガミの二人で行ってもらう。
俺も行くが、調査しなければいけないことが起きたので途中で別行動に移る」
「二人だけだと不安が残るな。花蓮たちは連れていけないか?
前衛と破魔と治療もできる後衛だけど」
「駄目だ。この場に10レベル越えのリカーム持ちは彼女だけだ。
呪殺持ちが考えられる死霊が確認されているので動かせない。
そこのシキガミは、モデルに合わせて前衛でのタンクと治療役のスキル構成だから問題ない。
あと、代わりにこれをシキガミに持たせろ」
そう言うと、バッグから取り出した大型ゴーグルとコードで繋がれた精密機器のガントレットをジャネットに装着させた。以前から、うちにも有ったアナライズシステムに似ている。
それを懐かしそうな目をしながら話し出す。
「そいつは、【ハンドヘルドPC】だ。
中にアプリとして、アナライズ、エネミーサーチ、ハニー・ビー、百太郎、タイムガールが入っている。
サポート役の奴に持たせた方がいいだろう。
そのアイテムの報告は聞いているので、これと回復アイテムがあれば大丈夫だろう。
行くぞ」
「お兄様!?」
「花蓮はそこにいてくれ。行ってくる」
渡された回復アイテム入りのウェストポーチを付け、ジャネットと卑劣ニキと階段を降りてゆく。そして、最初の曲がり角で「俺はこちらに行く」と声がして振り返るともうそこには彼の姿はなかった。
先ほどまで腐肉の塊のせいで通れなかった下への階段を降りる。
周りを注意しながら、隣を歩く武器らしい鉄の棒を持ったジャネットに懸念している事を聞いてみると、にっこりと笑って彼女は答えた。
「あの男も居ないようだから聞くけど、あの聖女と関わりがあるようだけどその辺はどうなんだ?
シキガミと同様の契約しているというから大丈夫だと思うけど」
「確かに自分はあの聖女のようであれと生まれましたけど、ぶっちゃけ面倒です。
神様も自分の部下もろくに管理もできていないのに従えと言われてもねぇ。
それなら破魔や呪殺は効きませんし、剣や旗でなく鈍器でマスターの敵を殴るほうが私は簡単で好きです」
「お、おう。そうですか。
じゃあ、頑張って殴って下さい。
ただし、待つように言ったら待って下さいね」
「大丈夫です。私、脳まで筋肉じゃないのでその辺は心配しないで下さい」
そう言いつつ、敵がいましたーと鉄の棒でゾンビを殴り潰すのはいかがなものだろうか?
奥に行くに連れてゾンビの数も増えてきて、このままでは対応しきれないので変身することにする。
『ABSORB DEVIL』『FUSION GIRL』
氷結と睡眠主体のユキジョロウと多彩な攻撃はあるが移動が難しいマーメイド、回復主体のナジャとあるがここは衝撃主体のモーショボーで行く。
可愛いとか言って撫でてくるのを止めつつ、衝撃ブースタの乗った【ウィンドブレス】で群れにダメージを与え自分より頑丈で腕力もあるジャネットが潰して回るやり方で奥へと進んでいった。
それにしても、この携帯PCは便利である。
敵の接近はすぐに分かるため奇襲はされないし、名前とレベルと耐性が判明して連携が取れやすくなるし、周辺の地図も分かるといいことづく目である。
そして各階の階段前にいる肉塊を施餓鬼米で消し、そのまま進むこと地下五階。
ハニー・ビーによるとすぐそこにボス部屋らしい大きな部屋があると、地図画面に写っている。お互いにMP回復用の不味い飲み物を飲み干すと、自分の似姿のドッペルゲンガーに姿を戻し両開きの大きい扉を蹴破って入っていった。
そこは元は地下倉庫のようであったようだが、どこかで見たような魔法陣がありその中央には清掃員の姿をした中東人の男性がこれもまたどこかで見た覚えのある黒い本を持って立っていた。
自分たちが入ってくるとその男は、赤く光る目でこちらを見ながら楽しそうに笑いかけてくる。
「おやおや、また君かい?
その腕の女性に姿が変わる機械、前にもボクの遊びの邪魔をしてくれたよねぇ。
せっかく、この辺でもう一人のボクや宰相閣下が遊んでいるみたいだから、イベントを用意したっていうのにせっかちだねぇ。
君も、あのまま一つ目の奴の巨大なアレに、犯し殺されていればよかったのに」
「うるせぇ、黙って捕まって白状しろっ!」
そのセリフに自分の何処かがキレて、飛びかかるも透明な壁に邪魔をされる。
壁を殴る自分を慌てたジャネットが止めるのを見つつ、男はニヤニヤと笑みを深くする。
「いいよ、いい。そういう反応でないと達せないよ。
かなりそそる容姿の聖女様も連れて来たようだし、イイなぁ。
まあ、もうこの男にも飽きたし、さぁ、ヤろうか!」
眼の前で魔法陣が光り、黒い本と男が黒い泥のようなものに融合し三つに分かれて実体化する。黒い服と黒い鎌を持つ白い肌の男が両脇に立ち、中央に逆さまの大きいコウモリが現れ襲いかかってきた。
【ヒートウェイブ】、【ベノンザッパー】。
コウモリの黒い翼と白肌の男の黒い鎌が連携して自分たち二人に斬り掛かる。
防御して耐えるジャネットに、攻撃を反射する自分。
思わぬ痛打を受け下がる二体を見た最後の白肌の男が、とどめを刺すべくジャネットに魔法を放つ。
呪殺の呪文、【ムドオン】。
しかし、効いた様子もなくジャネットが叫ぶ。
「アナライズ。【凶鳥カマソッソ】と【悪霊マカーブル】が2体!
物理耐性・電撃弱点と呪殺無効・破魔弱点です。
数を減らしましょう。【天罰】!」
「分かった。『FUSION GIRL』ユキジョロウ、【マハブフーラ】!」
敵全体を襲う破魔属性の光の柱と増幅の乗った氷雪の嵐、攻撃の反射で深手を負っていたマカーブルが一体消え、残りの二つも体力を削られたようである。
カマソッソが羽根を刃のようにしてもう守りはないぞと言わんばかりに自分に【残影】を放つ。ついで、マカーブルも【ベノンザッパー】を放って来る。
毒も受け、深手を負う。それを見たジャネットが魔法を使う。
「マスター、今直します。【メディラマ】!」
「ありがとう。もう一度、【マハブフーラ】」
傷も癒え、もう一度全体氷結魔法を放つ。
崩れ落ちるマカーブルが、最後にこちらに【ムドオン】を放つ。
その途端、姿が元に戻りデビルアブゾーバーから灰色になったカードが排出される。
その様子を見て、哄笑するカマソッソ。
その隙を見逃さずに、武器で殴り掛かるジャネット。
怒りを抑えて自分も別のカードを入れ、攻撃を加える。
「これでも喰らいなさい!」
「『FUSION GIRL』ナジャ、【ガルダイン】」
ジャネットの一撃と魔法により切り裂かれ、笑い続けるカマソッソが崩れていく。
そこに、スキルの発動を感じると緑の光に包まれカードになったカマソッソを見つけ、拾う。
ひと息をつくと、目の前と足元が揺れるので毒を受けていたのを思い出す。
慌てて【ポズムディ】を自分にかけ、座り込んでしまった。
マッカなどを拾っていたジャネットが近づいて来たので笑いかけると、通路の奥から卑劣ニキが歩いてくる。
そして、そのままバッグから大根を取り出しへし折ると、周りの風景が変わり異界も消えた地上への階段下に着いていた。
マスクを外し鋭い眼差しの壮年の男性の顔を晒すと、興味深そうにこちらを見てくる。
「ほう、報告とプロマイドは見たがこれはまた愛らしい姿に変わるものだな、マスオニキ。
その手の愛好家なら、好まれそうだな」
「余計なお世話だよ。今までどこに……むぐぅ」
「ああ、マスター。可愛らしい姿に! 本当に可愛らしい」
「…離して、目の前が…できな…ぐふ」
余計なことを言われたので言い返そうとした所、ジャネットに抱きつかれそのまま彼女の腕の中で気絶するという漫画のオチのような事をしてしまったのだった。
そして、気がつくと明け方になっており元の姿で医務室らしき所で目が覚めた。
服装も患者用の簡易服で、横にジャネットが待機していた。
視線を向けると、こちらが目を覚ましたのを気づいたのか話しかけてくる。
「気が付きましたか、マスター。
どうやら、戦闘後の気の緩みとMPの使いすぎで気を失っていたようです。
【静寂の祈り】も掛けたので異常はもうないはずです。
何からお聞きになりたいですか?」
「そうなのか? じゃあ、まず……」
ジャネットからあの後のことをいろいろと教えてもらった。
ここはガイア連合がチャーターした船の医務室で、神戸に向かっていること。
あの男は中東からの亡命異能者でこちらに来てからは真面目に働いていたのに、何故あの凶行に走ったのかは動機や方法が不明なこと。
ディナーショーをしていた女優が日本のメシア教団体の会員だったのが原因でテロに走り騒動を起こしたあと死亡したと警察から発表があったこと。
卑劣ニキは今回の報告のため、もうここを発ったこと。
母と関本さんは一足先に戻り、二人の交際が始まったこと。
そうして話していると、神戸港に着いたようだ。
いつの間にか用意してあった綺麗になっていたスーツに着替えると、ジャネットと一緒に部屋を出る。
ふと見ると、マナーモードのままだった携帯の着信やメールが十数件あり急いで確認するとこう書いてあった。
「葵お姉ちゃんが産気づいたから急いで戻って来て!」、と。
あとがきと設定解説
・【卑劣ニキ】
山梨から来ていた転生者。某忍者漫画の有名なキャラにそっくり。
秘密が多く、口調もかなりぞんざい。
データは非公開。
・【悪霊マカーブル】
レベルは18。耐性は、破魔弱点、呪殺無効。
スキルは、ムドオン、ベノンザッパー。
・【凶鳥カマソッソ】
レベルは31。耐性は、物理耐性、銃反射、電撃弱点。
スキルは、ヒートウェイブ、残影、生命の泉。
・【英傑ジャンヌ・ダルク】
研究所からの技術を見た開発部がヴィクトルやDr.スリルを巻き込んで勢いで技術の粋をブチ込んでやった結果、偶然に生まれた造魔英傑。
データ取り後、メシア教関係で引き取り手がいなかったので鶴の一声で主人公に渡された。
耐性は、火炎弱点、氷結耐性、電撃耐性(装備)、破魔無効、呪殺無効。
スキルは、天罰、メディラマ、静寂の祈り、サマリカーム、回復ハイブースタ、火炎反射。
・大根
山梨で栽培の試作が始まっていた【カエレルダイコン】。
次回は、生まれた子供とその後の話。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。